一級魔法使い選別試験、その第一試験はパーティによる選別が行われることになった。
なので、私は仕方なくアウラと別れ、自分のパーティのメンバーたちの元に向かう。
正直に言うと、新しい人と知り合って仲良くしないといけないのは、ちょっとめんどくさいなぁと思う。
私はアウラ程強く贖罪だとか償いだとかを考えてはいない。
いや、私なりに考えてはいるんだけど……アウラ程生真面目にはなれない、って言うのが正しいかな。
勿論、救える範囲の人は救いたいし、出来る範囲のことはする。
これまで立ち寄った村や町でだって、通商の邪魔をしてる魔物を倒したり、力仕事が必要になった時には協力してきた。
でも……自分の自由な時間を全部丸々、それに充てるっていうのは……うーん。
色々悩んで、おじさんに「私ももっと真面目にやった方がいいのかな」って相談したりもしたんだけど、おじさんは「そこは人それぞれでいいんだよ。背負う罪も贖い方もね」って言ってくれた。
だから、今の私は、自分がしたいと思える範囲で人助けしていければいいなって思ってる。
自分に合わない無理をして息切れしても、それはそれで良くなさそうだし。
そんなわけで、日夜人を助けるために色んな研究をしたり話を聞いたりしてるアウラはすごいなー、なんて思いながら、おじさんといちゃいちゃする日々だ。
……で。
そういう意味で、今回の試験のパーティ戦って方式は、正直ちょっと面倒くさいって思っちゃう。
元から私って、おじさんやアウラを除けば、あんまり人と関わるのは好きじゃない。
誰かと一緒に何かをしてるより、1人で魔法の研究したり戦い方の模索したり、リンゴ食べてダラダラしたりする方が好きなんだ。
だから、アウラならともかく、知らない人と仲良くして即席パーティを組む、っていうのは……うん。
それに、そもそもこの試験、「より多くの人を助ける」っていう大目標のための「魔族マハトの討伐」っていう中目標のための「北部高原に立ち入る」って小目標のための手段なんだ。
仕方ないとはいえ、婉曲すぎてイマイチやる気が起きないんだよね。
……とはいえ、やらなきゃいけないことはやらなきゃいけない。
私がいなくてもアウラは試験に合格できるだろうけど……まぁ、私だって合格しておじさんに褒められたいし。
そのためなら、あんまり興味がないことでも頑張らなきゃいけないだろう。
* * *
さて、そんな私が所属することになったのは、第17パーティ。
左腕に通した腕輪に魔力を通すと、会場内には他に2つの反応がある。
私が片方に向かって歩き出すと、もう1つの反応もそっちに向かって歩き出した。
残った1つの反応は、悠然と私たちを待ち構える。
そうしてしばらく、魔力反応に向かって歩み寄った私が目にしたのは……。
「うむ、良く来たの。
まだ10歳前半程の年若く見える、けれど古めかしい言葉を使う、なんともミスマッチな魔法使いの少女と。
「私はドゥンストと言います」
言葉少なだけど口ひげは豊かな、老魔法使いの男性だった。
……この2人が、私のパーティメンバーか。
取り敢えず、波風立てないようにしないとな。
「えっと、リーニエ5級魔法使い。……よろしく、お願いします」
* * *
どこか偉ぶったようにも聞こえる話し方をするエーデルと、必要な時以外は積極的に口を開かないドゥンスト。
正直、この2人とまともなコミュニケーションを取れるか、最初は不安だったんだけど……。
「まずはそれぞれができることの確認といこうかの。無論、自身の魔法の詳細や弱点などは語らずとも良い。二次試験以降は敵対するかもしれぬ間柄じゃからの。
儂は主に精神魔法を専攻しておる。対人の精神操作であれば、そうそう横に並ぶ者はおらんじゃろう。
目を合わせ、声をかける。2つの条件を満たせば、多少の魔力の不足があれど精神干渉が可能じゃ。
ただし、当然ながら対人特化。魔物や魔族との戦いがあれば、基本は2人に任せることになるのぅ」
エーデルは、思っていた以上に……なんというか、しゃんとしていた。
今回の選抜試験はパーティ「戦」。
つまるところ、何らかの戦闘が行われることが示唆されてる。
だから、試験官であるゲナウ引率の元、試験会場に向かって歩く間に、それぞれのスペックを確認しておこうという意図だろう。
偉ぶって聞こえるのは口調だけで、その実誠実で真面目な人なのかもしれない。
……まぁ、どことなくめんどくさそうな雰囲気を出してるし、もしかしたら私の同類なのかもしれないけど。
「私は基礎的な魔法であれば使えます。極端に特化した魔法こそありませんが、パーティの魔法戦において不足した部分を補うことはできると思います。
エーデルさんが後方からの特殊支援を担うのならば、私は後衛からの魔法射撃を行うのが良いでしょうか」
一方ドゥンストは、どうやら無口ではあっても根が真面目らしく、どこかアウラと似た雰囲気を感じる。
魔族だけではなく人間も、魔法使いはそれぞれ特化した魔法を持っていることが多いらしいんだけど、ドゥンストはそういったものを持っていないらしい。
良く言えば魔法百般、悪く言えば器用貧乏。
しかし、私たちのパーティにおいては、役に立ってくれることは間違いない。
なにせ、エーデルと同じく、私もなかなかに特殊な魔法使いだし。
「私は魔法を使っての前衛戦闘が可能。ドゥンスト……さんが後衛から魔法支援してくれるなら、そう簡単には負けないと思う」
私の『
単純な前衛戦闘なら、並みの相手には負けない自信がある。
この会場にいる魔法使いで言えば、そうだな……。
確定で無理なのはアウラとフリーレン、それから試験官っぽい老魔法使い。この3人とはまともに戦いにもならないと思う。なんかこう、明らかにヤバそうだし。
厳しそうなのがフェルンとゲナウ、それから残り2人の試験官に……あのちょっと危なそうな子か。もし1対1で戦うことになったら苦戦しそうだ。
油断できないのは、モノクルを付けた受験生の老魔法使いと、獣みたいな目をした男の魔法使い、それからあのお姉さんと若い子も。多分対等以上には戦えるけど、下手すると足を掬われるかもしれない、くらい。
逆に言えば、それ以外のメンバーに関しては、1対1なら負けないくらいの自信はある。
勿論、殺し合いとか戦いなんて、しないに越したことはないけどね。
「慣れないようでしたら、私のことはドゥンストで構いません」
「儂もエーデルと呼んでよい。一々言葉に詰まられるのも面倒じゃ。
……しかし、偶発的に組んだにしては、前衛後衛特殊支援と、比較的まともなパーティになったの」
「そうだね。これも運命……かな。改めてよろしく、エーデル、ドゥンスト」
「いや、ただの偶然だと思うが。まぁ、よろしく頼もう」
そんなことを話しながら、私たちは試験が行われるっていう区画へと歩みを進めた。
* * *
北側諸国、グローブ盆地。
山に囲まれた広範囲に凹んだ森林、その大体中央部にあたる地区が、今回の試験区域だったらしい。
外と内とは、あのグラナト伯爵領の防護結界を思わせる程に非常に強力な結界によって分かれていた。
とんでもなく精緻で精密で、それでいて超大規模な結界だ。
こっそりと『彼方に声を届ける魔法』でアウラに「アウラならこの結界解ける?」と訊いてみたら、「時間さえかければできるわ。しないけどね」だって。
こんなの解除できるなんて、アウラってやっぱり、何だかんだすごく長寿な魔法研究家なんだよね。その知識と技術は正直ちょっと羨ましい。
さて、私たち受験生が全員結界の中に入ったことを確認した後、試験官ゲナウは小さな檻のようなものをそれぞれのパーティに配布して、改めて口を開いた。
「第一次試験の具体的なルールを説明する。
この試験区域には
第一次試験の合格条件は2つ。
明日の日没までに
基本的に行動は自由だが、試験区域の外側に出た者がいた場合は、その所属パーティ全員をその場で失格処分とする」
なるほど?
私はそれを聞きながら、少し疑問に思う。
ゲナウは最初、この第一次試験を「パーティ戦」だと言った。
でも、ただ小鳥を捕まえるだけの試験が、果たして戦いになるんだろうか。
……いや、まぁ、今も空中を飛び回ってる鳥型の魔物との戦闘は発生するだろうけども。
私やアウラが手こずるような強力な魔物じゃないけど、狡猾な魔法と魔力の流れを感じる。
下手をすれば、実力の足りない魔法使いたちは、あの魔物に命を奪われかねない程に。
それは……ちょっと、放置するには残酷すぎるな。
「それでは第一次試験を開始する」
「あの……」
ゲナウの言葉に続いて、私はパーティメンバーたちに、先に飛び回ってる魔物を駆除していいか訊こうとして……。
しかし、それよりもなお早く。
「『
……開幕から、とんでもない魔法が乱れ飛んだ。
* * *
「とんでもないことになったのぅ……」
「とんでもないことになりましたね……」
「……ごめんね、私のアウラが」
ため息を吐くパーティメンバーに、私はもう謝ることしかできなかった。
ゲナウが今回の試験の開始を告げると共に、アウラは制御していた魔力を開放。
同時に、彼女固有の魔法である『
大半の魔法使いたちは何事かと振り向き、一部の魔法使いは防御魔法を展開しながら距離を取ろうとしたんだけど……。
アウラの魔法は、その場の人間の誰にも当たらず。
ただ、直後に空を飛んでいた魔物が一匹、バサリバサリと翼をはためかせてアウラの隣に降り立った。
「……うわぁ」
アウラの意図を汲んで、そのあまりの真面目っぷりに思わずため息を吐いた私の前で、アウラは更に『
一匹、また一匹と、アウラ、そしてアウラのパーティの周りを取り囲むように、魔物たちが集まっていく。
この状況への反応は、大まかに言って3通りに分けられた。
まず、アウラの化け物っぷりを理解して、一目散に逃げるパーティ。
これは全体の6割くらいで、まぁ妥当な行動だと思うね。
とんでもない魔力を漏らしてたり、すさまじく高度で精密な魔法を使ったり、本来人間に従うはずのない魔物を簡単に従えたり。
今のアウラは、どう考えても相手をしちゃいけない化け物だ。
「パーティ全員が無事であること」が合格条件になっている一次試験において、アウラに勝負を挑むのはもはや自殺行為と言っていいんだもの。
次に、アウラの意図を掴みかねて、ジリジリと距離を取りながら様子を窺うパーティ。
全体の3割以上を占めるんだけど……正直、ちょっと悠長かな。
アウラの魔法には有効距離なんてないし、回避も防御もできない。
唯一の制限と言えばアウラ自身が相手を認識してることだから、本気で敵対される前に逃げないとマズいんだけどね……。
まぁ、アウラは誰とも敵対するつもりはなさそうだから、今回は大丈夫だろうけども。
最後に、戦々恐々としながら杖を構える約2名。アウラのパーティの残り2人だ。
どうやら彼らはそこまで強い魔法使いじゃないらしくて、どんどん増えていく周りの魔物に戦々恐々としながら、震える手で杖を構えてる。
……可哀そうに。トラウマになっちゃうかもな、この体験。
アウラ、人間になってからは、基本的には人の感情大事にできる子なんだけど……何かしなきゃいけないことがあったり、研究に夢中になってる時はちょっとアレなんだよね。
で、それらの内、私たちの第17パーティがどこにあたるかと言えば、最初のヤツ。
エーデルの「逃げるぞ!」っていう叫びと共に、私とドゥンストも全力全開で逃げ出した。
……いや、『
で、そんなことがあってから、約30分が経ったのが今。
改めて、私はみんなに状況を説明することになった。
「さて……リーニエ、どういうことか聞かせてもらおうかの。
あのアウラ5級魔法使いはお前の連れと聞いた。開幕からあんな神がかった規模の魔法を使って、何のつもりじゃ?」
多くの視線を遮れる手頃な天然の穴倉を見つけて、私は何故か、パーティメンバーの2人から杖を向けられている。
いやまぁ、彼女たちの意思は理解できるけれども。
「まず、最初に言っておきたいんだけど、アウラのアレには私もビックリしてる。
ぶっちゃけて言うと、最初は実力を隠しておこうって話だったんだよ。それでもいきなりアウラが行動を始めちゃったのは……」
そこまで言って、私はぴっと上を指差す。
「魔物か?」
「そう。私はあまり魔物に詳しくないけど、多分
死体を餌に探知魔法をかけて次の獲物を誘い込む、狡猾で魔法にも長けた魔物。……あ、魔力探知はかけないで。ちょっと精密にやらないと逆探知される」
私の魔力探知の結果が正しいのなら、この試験区域には30体弱の
これは多分、試験のお邪魔虫兼試金石としての役割を持ってるんだろう。
この試験の目的である
あるいは、偶発的にそれに遭遇して襲われる場合もあるだろう。
その場合、最低限それらを撃退するだけの戦闘能力を持っていなければ、死という形で試験からリタイアすることになる。
3人も集まっておきながらあの程度の魔物にやられるならば、一級魔法使いの資格などない、ってことだろうね。
……まぁ、そんな魔物を服従させる魔法使いがいるっていうのは、流石に試験官側も想定外かもしれないけども。
「……アウラ5級魔法使いが従えていた魔物たち、ですね」
「うん、そう。アウラはああ見えてかなり強い魔法使いだからね。魔物を従えたりもできる」
「いや、かなりというか……はっきり言って、人間業とは思えぬ異次元の魔法じゃったが……」
エーデルは微妙な顔をしてるけど、それはそれとして話を戻そう。
「
だからアウラは、この試験区域にいる
「無力化……全部じゃと!? あの規模の魔法を何発撃つつもりじゃ!?」
アウラ、魔力の総量がとんでもないからね……。
あの程度の魔物相手なら、30匹くらい服従させても、半分も使い切らないくらいだと思う。
ただ、その辺を突っつくと、私たちの秘密に繋がっちゃいかねない。
できれば回避したい話題だ。
まったく、アウラったら。こんなに魔法をバンバン撃って、正体がバレたらどうするつもりなんだか。
まぁ、おじさんからもらったこの耳飾りがあれば、まずバレることはないと思うけど……。
「アウラが化け物じみていることはさておいて、これからのことを考えよう。
……アウラの魔法乱発のせいで、今
ここからどうやってアイツらを捕まえるか……あるいは、他のパーティから奪うか、考えよう」
ガイゼル君に殺される受験生救済ルートはこちらです。
まぁ魔法使い同士の戦いで死ぬ可能性は残ってますけどね!
(追記)
誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!