最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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精神魔法使い vs 愛の伝道師おじさん

 

 

 

 アウラが初っ端からめちゃくちゃにした第一次試験。

 私たち第17パーティがまず取った行動は、観察だった。

 

 というのも、私たちって隕鉄鳥(シュティレ)について、あんまり詳しく知らないんだよね。

 私は150年くらいの生涯の殆どを魔力と魔法の探求に費やしてて、魔物でもない小鳥については正直殆ど知識がない。

 今回の試験でのパーティメンバーに関しても、エーデルはまだ年若く知識も精神魔法に特化してるし、ドゥンストは年の功って言うべきか知識は豊富っぽいけど、それでも隕鉄鳥(シュティレ)に関しては机上の知識しかないとのことだ。

 

 一級魔法使い選抜試験の選抜条件になるくらいだ。隕鉄鳥(シュティレ)がただの小鳥であるはずもない。

 無策に探し回って捕まえられるような鳥なら、魔法使いの試験として成立しない。それで選抜できるのは、運と体力のある野生児だけだ。

 多分、隕鉄鳥(シュティレ)にはなにかしら厄介な特徴があって、私たちはそれを上手く攻略して的確に捕まえることが求められているんだろう。

 

 ……っていうのが、エーデルの読みだった。

 言われてみると、確かにそうかもしれない。エーデル、若いのに頭いいね。

 

 そんなわけで、私たちはまず、隕鉄鳥(シュティレ)を見つけて観察することにしたわけだ。

 

 

 

 乱れ飛ぶアウラの魔法でかなり警戒心が高まってるようだったけど、隕鉄鳥(シュティレ)自体は2時間くらい探し回ったら発見できた。

 

 見た目は、ごく普通の小鳥だ。

 魔物じゃなくて、魔力も殆ど持っていない。

 アウラが見逃したことからも分かる通り、人に対する脅威度は限りなく低いと言っていい。

 

 ただ、最大の問題は……この小鳥の、とんでもない飛翔速度。

 魔力も使わずどうやってるのかはわからないけど、この鳥、音速すらも越えて飛ぶ。

 かつて見た最強の戦士(戦士アイゼン)程ではないけど、恐ろしい程の移動速度だ。

 無策に捕まえるのはなかなかに骨だね。

 

 その上、直接的な武力を持たないからだろう、隕鉄鳥(シュティレ)はすごく臆病だ。

 異常な程魔力に敏感で、ほんの僅かに漏れ出しただけの魔力も嗅ぎ付けて警戒に入る。

 そして魔法を使おうとしたり、あるいは近づこうとしたりすれば、音速で飛び立って逃げ出すわけだ。

 

 そして極めつけにこの小鳥、多分竜種と同じタイプの、魔力を弾く体質をしてる。

 『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』程度の威力の魔法ならほぼ無力化できるくらい、守りが堅固だ。

 

 ただ、物理に対しては、魔法程に極度には強くはないと思われる。

 だって物理にも魔法にも強いなら、臆病になる必要も逃げる必要もない。

 極端なことを言えば、狩る側にすら回れるはずだ。

 

 それができないってことは多分、あくまでも対魔力防御に特化した組成なんだろう。

 音速で物理攻撃から逃げながら、追尾性を持つことの多い魔法には体質的な防御で対処する、という生態なんだと思う。

 

 以上が、観察の結果3人で導き出した結論だ。

 

 

 

「厄介だね」

 

 私の第一印象は、それだった。

 過剰なまでの臆病さ、魔法に特化した防御性能、そして音速を越える飛翔速度。

 魔法使いにとっては非常に厄介な相手だ。まさしく、選抜試験の題目に相応しいと言えるだろう。

 

「そうじゃのう。あの音速の飛翔を何とかせぬ限り、捕まえるのは困難じゃ」

「いや、その思考プロセスはあんまり良くないんじゃないかな。隕鉄鳥(シュティレ)は魔力に敏感だ、魔力や魔法で干渉して飛翔を止めるのは不可能に近いと思う」

「ふむ、それもそうか」

 

 ……まぁ、それもアウラならできちゃうだろうけど。

 

 魔力の漏出具合にもよるけど、隕鉄鳥(シュティレ)の警戒は最大で30メートル強っぽい。

 対して、アウラの魔法には射程なんてないし、視界に入りさえすれば防御も回避も不能になる。

 つまるところ、アウラが隕鉄鳥(シュティレ)を見つけた時点で、隕鉄鳥(シュティレ)はアウラの魔法の餌食になることが確定するんだ。

 

 更に言えば、魔力を殆ど持っていない隕鉄鳥(シュティレ)は、アウラの『服従させる魔法(アゼリューゼ)』に対してあまりにも脆弱だ。

 結果の算出中に逃げようとしても、その魔力量の差が故に殆ど時間もかからないだろうし、たとえその場から逃げ出したとしても、一度天秤に乗った以上服従の結果からは逃げられない。

 

 そして一度服従させれば、飛ぶのを止めさせることも、自分から籠に入らせることも、あるいは誰にも捕まらないよう命懸けで逃げさせることも自由自在だ。

 改めて、アウラの魔法ってとんでもないよね。

 

 

 

 ……けどまぁ、私たちにはそんなことはできないわけで、無い袖は振れない。

 現実的なプランを考えなきゃね。

 

「大前提として、選択肢は大きく分けて2つじゃな。

 まず第一に、隕鉄鳥(シュティレ)が飛び立つ前になんとか捕まえる。

 第二に、飛び立った後、音速で飛翔する隕鉄鳥(シュティレ)を捕まえる。

 どちらの方が現実的かのう」

「……こう言っては何ですが、どちらも現実的ではありませんね」

 

 黙って聞いていたドゥンストが、思わずと言った感じで口を挟んだ。

 

隕鉄鳥(シュティレ)の警戒心を掻い潜って魔法を用いて捕らえるのは、おおよそ不可能でしょう。

 魔力をほんの少しでも漏らしていれば警戒され、魔法発動の兆候があれば即座に逃げられるのです。それを避けようと思えば、魔力を完璧に制御し漏出する魔力をゼロにしなければならない。

 しかしその体を動かしながら漏れ出る魔力を抑えられる生物は地上には存在しません。そして身動き1つせず隕鉄鳥(シュティレ)が寄って来るまで待ち続けるのはあまりにも現実的ではありません」

 

 ここに関しては概ね同意見なので、頷く。

 強いて言えば、エーデルの精神魔法を上手く使えれば……と思ったんだけど、どうやら精神性が人間のものとかけ離れてるせいで、隕鉄鳥(シュティレ)に対しては瞬間的に簡単な命令を聞かせるくらいが限度らしいし。

 

 せめて、何かしらの方法で隕鉄鳥(シュティレ)の行動範囲を大きく制限でもしない限り、警戒網を抜けて捕まえるのは難しいだろう。

 

「ですが一方で、飛び立った後に捕まえると言うのも現実的とは思えません。

 どの方向に飛び立つか予測もできず、初速すらも音速に近しい小さな的に、追尾効果のない魔法を命中させるのは困難でしょう。

 更にあの魔法に強いらしい体質。並大抵の魔法では気絶させるどころか傷1つ付けることもできない」

 

 観察の一環として、最後にドゥンストが放った『業火を放つ魔法』は、全然当たる気がしなかった。

 私の撃ったそこそこ魔力を込めた『追尾する弾丸を放つ魔法』は、当たったはずなのにそれすら不鮮明なくらい効いていなかった。

 

 少なくとも単純な破壊という側面では、隕鉄鳥(シュティレ)を魔法によって傷つけることはできそうにない。

 

 

 

「ではどうする? 魔法が有効にならないなら、馬鹿みたいに走り回って捕まえるか? あるいは誰か鳥の罠について知っておるか?」

 

 エーデルが肩をすくめた。

 勿論、罠なんて知ってるわけもないので、首を振る。

 というかたとえ知ってたとしても、あの隕鉄鳥(シュティレ)を捕まえられる罠を、何の道具も準備もない状態から用意できるとは思えないし。

 

 ドゥンストの方も、具体的な策があるわけじゃないんだろう、ちょっと俯く。

 ……彼は私たち第17パーティの中で唯一、すごく「普通」な魔法使いだ。

 エーデルみたいに隕鉄鳥(シュティレ)へも多少は有効(と思われる)魔法を専攻してるわけでもなく、私みたいに近接戦闘で隕鉄鳥(シュティレ)にダメージを与えうるわけじゃない。

 真面目そうな彼のことだ、そこを負い目に感じて、ちょっと凹んじゃってるのかもしれない。

 

 それを察してか、あるいは素なのか、エーデルは真面目な顔で頷いた。

 

「そうじゃろう? 面倒じゃが、どちらにしろ儂らは一級魔法使い選抜試験合格のため、隕鉄鳥(シュティレ)を捉えねばならん。今はより現実的な方向を探っていくとしよう」

 

 エーデルは纏め上手だなぁ、と感心。

 面倒じゃとか厄介じゃとか、割と後ろ向きなことを言いがちなエーデルだけど、行動の方向性はすごく前向きだ。

 実のところ、しなきゃいけないことはする、アウラに近いタイプなのかもしれない。

 

 

 

 目の前の現実に本気で悩んでるドゥンストも。

 どこまでも冷静に立ち向かうエーデルも。

 どっちも、本気でこの試験に臨んでる。

 

 ……うん。

 私も、その意気込みに応えなきゃな。

 

「ねぇ、1つ、思いついたんだけど、聞いてもらっていい?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 腰を落ち着けられる小さな洞穴を見つけて、私は2人に話し始める。

 この試験を突破する方法……の前に、まずは自分のことを。

 

「まず先に言っておく。私の魔法は『過去を繋げる魔法(フェアビンデン)』。相手の魔力の流れを見て、動きとか魔法を模倣する魔法だよ」

「……いや、平然と言っておるが、なんじゃそのとんでもない魔法は。あのアウラ5級魔法使いといい、お主らはどうなっておるんじゃ」

 

 エーデルは頭痛を堪えるように頭に手を当ててしまった。

 一方ドゥンストの方は、疑うように眉をひそめてる。

 私、見た目では10代後半くらいに見えるし、そんな歳の魔法使いが(人間基準では)超高度な魔法を使うっていうのがイマイチ想像できないのかもしれない。

 

 気持ちは分かるけど、ここで詰まられても困る。

 なので目の前で何度か武芸を披露してみたら、なんとか納得してくれたみたいだ。

 

 今回見せたのは、ここ80年で見てきた人間や魔族の英傑たちの動き。

 多少そちらに不案内でも、そして私の模倣がオリジナルから劣化したものであったとしてもなお、認めざるを得ないようなものだったからね。

 

 

 

 さて、納得してもらったところで、ここからが本題だ。

 

隕鉄鳥(シュティレ)はとんでもなく速いけど……それすらも捉えられそうな、なおかつ隕鉄鳥(シュティレ)に対しても有効になるだろう魔法を、私は見たことがある」

「精神魔法、ではあるまいな。では拘束魔法か? しかし、音速の相手に命中するだけの追尾性を持たせ、なおかつ衝撃で砕けないだけの拘束魔法となると、相当に高度な魔法になるが。

 ……まさか、魔族の魔法か? いやしかし、魔族の魔法を再現するのは厳しいじゃろうし……」

 

 エーデルは考え込んでしまったが、直接的に答えを聞いてくることはない。

 やっぱり研究とか考察とかが好きなんだろうな。魔法使いは基本みんなそうだけど、エーデルはその傾向が顕著な気がする。

 

「では、それを使えば……」

 

 微かな希望を見出したドゥンストを、手の平で制止。

 

「いや、そこに1つ問題がある。その魔法は再現するにしてもとんでもなく高度で、その上見たのがすごく昔だからちゃんとは覚えてないんだ」

 

 私がその魔法を最後に見たのは、80年以上前。

 アウラの下僕になって出向いた、七崩賢の集会だ。

 そのあまりに流麗な魔力の動きも、流石に今では記憶の片隅に僅かに残るばかり。

 

 正直なところ、今の私は、あの魔法を再現できる気はしない。

 直前に見たリュグナーの血を操る魔法(バルテーリエ)ですらもあまりに劣化した結果になったんだ、こんなうろ覚えの状態じゃ、とてもじゃないけど再現はできない。

 

 けど、そんな問題を解決できるのが、エーデルの得意とする精神魔法だ。

 

「だからまず、エーデルに、私の中からその魔法の記憶を引っ張り出してほしい。

 何度も記憶を見ながら試行錯誤すれば、不完全だとしても再現は出来ると思うから」

「なるほど……うむ、現状他にやれることも思い当たらん。リーニエの策に乗るとしてみるか」

 

 ドゥンストも頷いてくれたし、取り敢えずの方針は決定したね。

 

 

 

 ……ただ、エーデルに頼るとなると、1つ、とても大きな懸念点がある。

 

 私は一度深呼吸をして、耳に付けられた桃色の耳飾りを……外す。

 そして、それを大事に懐にしまって、改めてエーデルに向き合った。

 

「エーデル。私の記憶を見る前に、1つ、言っておきたいことがある」

「なんじゃ」

「エーデルはきっと、私の記憶を見たら、すごく驚くと思う。

 でも、できれば警戒しないでほしい。私はみんなに敵意はないし、傷つけることは絶対にない」

 

 エーデルには、私が元魔族であることを、隠せない。

 

 私があの魔法を見たのは、魔族時代だ。

 エーデルにその記憶を探られれば、私が魔族だったことは不可避的に知られてしまう。

 

 おじさんの耳飾りがあれば、あるいはその上で認識の誤謬を起こすことも可能かもしれないけど……。

 そうなると、「魔族であると知っている」のに「リーニエのことを魔族であると認識できない」っていう矛盾に、エーデルの精神がどう影響するかわからない。

 

 エーデルの安全を取れば、耳飾りを付けた状態での精神魔法は避けるべきだろう。

 魔族だと思われて追い立てられるリスクを呑み込んでも、だ。

 

 まぁ最悪、それで私が試験から失格になったとしても、耳飾りを付けたままのアウラまでは元魔族だってバレないだろうから、問題なく試験を突破してくれるはずだし……。

 

 何より、それ以外に、2人にこの試験を通過させる方法は思いつかない。

 

 ……まったく、自分でもどうかと思うんだけどさ。

 まだ1日そこらの付き合いだっていうのに、私はもう、この2人のことが好きになってきてるんだ。

 自分が危険を冒してでも、この2人に第一次試験に合格してほしいって思っちゃうくらいには。

 

 だから、ちょっと怖いけど、やるしかない。

 

 

 

「……ふむ、思わせぶりな言葉じゃの。

 じゃが安心せよ、儂とて精神魔法の修練の中で人間の醜い部分は多く見てきた。今更多少の暗い過去を見ても驚きはせん」

 

 エーデルは自信満々にそう胸を張るけど……流石に驚かざるをえないと思うんだよね。

 こういうの、フラグ、って言うんだっけ? おじさんがそんなこと言ってた気がする。

 

「それでは、悪いが記憶を覗かせてもらう。抵抗してくれるなよ」

 

 エーデルの手が、ゆっくりと、私に向かって伸びる。

 

 知らず、息を呑む。

 

 この後、もしかしたら残酷な言葉を浴びせられるかもしれない。

 あるいは、攻撃的な魔法を向けけられるかもしれない。

 

 それでも私は、この2人に合格してほしい。

 それでも私は、この2人と一緒に、合格したい。

 

 だから私は、神に祈るような心地で、彼女の次なる言葉を待って……。

 

 

 

 

 

 

「なっ、なんじゃ理解らせってうお゛っ♡♡♡」

 

 

 

 

 

 

 エーデルがそう言って、泡を噴いて倒れてしまったのを見た。

 

 

 







 エーデルちゃん、いきなり濃厚なオラッ催眠の記憶見ちゃってかわいそう。
 果たして彼女の精神は理解らせに耐えきれるのか……!?
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