第二次試験にまで残った受験者、総勢21人。
彼ら彼女らと情報共有を済ませ、私たちは2つのパーティを構成した。
1つはフリーレンとフェルンを中心とした、試験官ゼンゼも同行するパーティ。
そしてもう1つが、私とリーニエが支えるパーティ。
それぞれ10人規模の、なかなか見られないような魔法使いだけの大規模パーティだ。
あまりにもメンバーが増えすぎれば、声や合図、警戒の目や相互監視が行き届かなくなり、どうしても被害が増えてしまうのだとか。
……何故ここが伝聞系かというと、魔族のダンジョンアタックは基本的にソロだったから。
魔族の魔法は、人類にとっての大抵の困難を可能へと変えてしまう。
高度に発展し消費魔力を極度に落とした飛行魔法で感圧式のトラップを無視することもでき、やろうとすれば迷宮の魔力の流れにアクセスしてその構造を探ることもできる。
戦闘面においても、人類のものより遥かに優れた魔法を使うこともできるし、もし負傷したとしても四肢の欠損程度までなら比較的簡単に治療できるんだもの。
本来パーティを組むのは、メンバーのそれぞれ特化した専門性を活かすため。
しかし、魔族の優れた魔法技術は、人類にとっての専門的な分野を、できて当然の普遍的な分野に落としてしまう。
故に、魔族たちは普段、パーティなど組まない。組む必要性がないのよね。
……勿論、魔族特有の極度に高い自己中心性が故、という側面も大きいのだけれど。
と、話を戻して。
私たちは2つのパーティに分かれ、零落の王墓を攻略することにしたのよね。
ただ、ここで難しいのが人間関係だった。
先日の第一次試験では、今ここに集まっているメンバーの間でも戦闘……もっと言ってしまえば、殺し合いが発生していた。
勿論それは、あくまで
それでも、やはり戦闘が発生すれば、相手への悪印象は避けられないわけで。
なんとなく第一次試験の時のパーティで寄り合っていた情報共有中も、複数の元パーティの間で、軽い敵意の応酬が発生していた。
大規模なパーティの間で疑心暗鬼が広がるのは、決して良いことじゃない。
最低限お互いを捨て石にしようとしないだけの、そして可能ならば互いに助け合えるだけの関係を築かなければ、零落の王墓の攻略は不可能になってしまう。
だから、それぞれ敵意を持っていないらしい者を同一のパーティに編成し、敵意バチバチの者たちは別のパーティに振り分けて……。
1時間程、あれやこれやと話し合った結果、なんとか構築が終了。
私たちのパーティは、まず私ことアウラとリーニエ。
第一次試験でリーニエとパーティを組んでくれた、第17パーティのエーデルとドゥンスト。
フリーレンのパーティと戦闘した第13パーティ、デンケンとリヒター、ラオフェン。
同じくフェルンのパーティと戦闘した第8パーティ、ヴィアベル、シャルフ、エーレ。
そして、自らフリーレン側の大規模パーティに配属を望んだトーンとは分かれて、第1パーティの内から、メトーデとレンゲもこちらに配置。
計12人、フリーレンパーティの10人編成に比べて、やや多めのメンバーとなった。
今回のパーティが決定した後、私たちのパーティが最初に取った行動は……。
せっかくパーティ内の不和を取り除くために分かれたのに、内部でまた合流しては意味がない。
まずはフリーレンたちのパーティが
「さて……」
改めて、今回のパーティメンバーの方に振り返る。
やっぱり基本的には皆、第一次試験の小規模パーティで寄り合っているわね。
それも当然と言えば当然でしょう。
第一次試験で、私たちは1日以上の間同一のパーティで戦いを共にしたんだもの。
余程個人主義でなければ、少なからず連帯感が培われているはず。
……まぁ、そんなことを言っている私は、パーティメンバー2人にフリーレンの方のパーティに配属を望まれてしまったのだけれど。正直ちょっと悲しい。
とにかく、第一次試験でのパーティの結び付きは強い。
今の大規模パーティだって、その元パーティがいくつも合流した混成パーティといった様子。
ただ、1つだけ幸運なのは、やはりあの第一次試験を突破した面々だからか、これといった問題児がいないことかしら。
今回大規模パーティで試験に挑むことにも、多少の隔意はあれど、きちんと呑み込んでくれる程度には大人な面々だ。本当にありがたい。
私は皆の方を向いて、改めて声をかけた。
「零落の王墓、少なくともその前半は、至極一般的な
気疲れしないよう、気楽に行きましょう」
* * *
正直なところ、アウラという魔法使いは、そこまで多くの
魔法研究に必要な資材の確保や、魔法の試験運用のために10か20そこらは潰したと思うけれど、まだ魔族だった時代というのもあって、基本は力技で踏破してきた。
真っ当な攻略をしたことなんて、皆無だったかもしれない。
けれど、それは逆に言えば、ゴリ押しでの攻略の経験は多かったということで。
「中心の床は踏むなよ。天井が落ちてくるぞ」
「まさかそこの人型の染みって……」
「えげつないな、骨も残らないのか」
「あぁ、大丈夫よ。この程度の罠なら私が壊せるし、最悪天井だって壊せるわ。なんなら踏んでみる?」
「えぇ……」
「迷宮の構成物が頑丈なのは、内部を通っている魔力による影響よ。その対魔力性を越える魔力量の攻撃か、あるいは魔力を断ち切る遮断系の攻撃なら、比較的簡単に壊せるのよ」
「……そもそも迷宮に通う魔力は膨大じゃ。そう簡単に越えることも断ち切ることもできんわ」
「ガーゴイルだ!」
「はい『
「もう倒しちゃった」
「すげぇなお前……2日連続で武の真髄を見た気がするぜ」
「いや、私なんて全然だよ。所詮まねっこだし、本当の武の真髄はずっとずっと高いところにあるしね」
「デンケン、1人閉じ込められた。壁の向こうだ」
「ちょっとどいてね。杖を突いて……よし、解析完了。せーの、オラッ!!」
「な、開いた……!?」
「
構造物内の魔力の流れを解析、逆算して操ってあげれば、ある程度結果をひっくり返したりもできるわ。
レンゲ、もう大丈夫よ、こっちへ」
「こっ、怖かった……」
「俺はアウラ五級魔法使いが怖い……」
……まぁ、大きな問題も起こらなかったわ。
自分ではとても誇る気にはなれないけれど、私はこれでも500年の時を生きた元大魔族。
ダンジョンの楽な攻略法なんて、とうの昔に習得している。
それに……零落の王墓の性格の悪さは、この序盤の攻略の容易さにもあるらしいのよね。
世界には「魔法が一切使えなくなる」とか「暗闇の中、灯りの類が無効化される」とか、厄介極まりない特性を持った
そんな中で、零落の王墓の前半では、特に何の障害も起こらない。
だからこそ、多くの人々がここを低難易度の
後半で、アレに取り殺されてしまう。
私たちの前に潜った、フリーレンを筆頭とするパーティのことを思い浮かべる。
多分、彼女たちは今頃、深部に足を踏み入れている頃だと思う。
つまるところ、この
皆、大丈夫かしら。
いえ、あちらにはフリーレンがいるし、心配する必要はないはずなのだけれど……。
この
そうして、侵入者たちの中でも最強の存在を、最奥の門番として配置するの。
今回の場合であれば、私かフリーレン……というか、ほぼ確実にフリーレンが最奥で受験生たちを待っているのだと思う。
だから、不意にフリーレンの複製体と遭遇し、殺し殺されの決戦になることはまずないはずよ。
そしてもう1つの問題である私の複製体の方も、その思考方針さえ複製されて利用される以上、まずフリーレンのパーティには手は出さない。
だって……あんまり、というか全く考えたくはないことだけれど……。
……仮に、私がここにいる者たちを皆殺しにしようとするなら、確実に殺せる機を待つもの。
魔法使いアウラにとって、この試験の参加者の内、脅威となるのはアウラとフリーレンの二者のみ。
私の複製体は、一級魔法使いゼンゼすら、刹那の内にその命を絶つこともできるでしょう。
故にこそ、手は出さない。
3人以上の集団を相手にして、他の者を殺している内にその存在を感知されてしまい、互角の勝負を始めるよりも……。
相手が孤立した時に、誰にも気付かれずに一瞬で殺した方が、確実で安全だもの。
だから私は……いいや、魔法使いアウラの複製体は、この暗い迷宮のどこかで待っている。
誰かが孤立する瞬間を。
フリーレンとアウラの命を確実に奪える、その時を。
そうして、その時が訪れれば……。
確実に、躊躇いも迷いもなく、その力を振るうでしょう。
誰かの命を、私の魔法を使って、絶つのでしょう。
「アウラ、大丈夫?」
横からかけられた声に目をやると、リーニエが気遣わし気にこちらを見て来ていた。
「……ごめんなさい、心配させたわね」
「自分の複製体のこと考えてた?」
「ええ……そう」
正直なところ、極めて不愉快で、耐えられない程に悍ましい。
自分の培ってきた力を誰かに利用され、それを仲間を殺すことに使われる。
そう考えるだけで、酷く胸の底がざわついて、吐きそうになる。
けれど……駄目。
「アウラ。気持ちはわかるけど、アウラはこの
「ええ、それも、わかってる」
『
魔族アウラが500年の月日をかけて探求し続けた……。
誰かの意思を無視してその力を利用し、よりにもよって同族を殺すことに使わせる、悪逆非道の魔法。
リーニエの言った通り、私はこの
だって、私も同じことをしてきたんだもの。
……魔族であった頃の私は、全くと言っていい程、共感性を持ち合わせていなかった。
その魔法が、そのやり方がどれだけ相手の尊厳を踏みにじるか、全く理解できていなかった。
それを知ったのは、それこそおじさまに催眠を受けて自分の意思を奪われ、全く抵抗できなくなったあの瞬間。
そうして人の心をもらって、ようやく、本当の意味でそれを理解し、懺悔することができた。
ある意味で、この迷宮の奥に潜むモノは、かつての私と同じなのでしょうね。
それがどれだけ残酷なことなのか理解せず、しようともせず、できるわけもなく、ただ効率的だからとその方法を取っているのでしょう。
だから私は、この零落の王墓を否定できないし……。
その卑怯とも言えるやり方だって、どこか憎めないでいる。
「……おじさんがいれば、この
少し重くなった空気を気遣ったリーニエが、話を変えてくれた。
私はそれに感謝しながらも……横に、首を振る。
「いえ、それは最悪の選択肢よ。ここにおじさまがいれば、全てが終わっていたかもしれない」
「なんで……あ、いや、そっか」
リーニエも、言いながら気付いたらしい。
そう、おじさまがこの
……恐らくは、おじさまの持つ桁違いの催眠能力すらも模倣した、複製体が。
そしておじさまは、使えるのよ。
視覚であれ聴覚であれ触覚であれ嗅覚であれ、あるいはおじさま自体を感覚しなくとも、ただその存在を知り、間接的に情報を得たというだけでも。
おじさまの存在を知った者を、強制的に催眠の支配下に置くという、最強の切り札。
魔族アウラすらをも無抵抗のままに打倒し切った、「被認識型無条件催眠」を。
おじさまは、やろうとすれば簡単に、この世界を自分のものにできる。
だって、そうやって催眠の影響下に置いた人を使って自分のことを喧伝させていけば、そう間もなく世界のすべての存在がおじさまのことを知ることになる。
人の意識を改ざんできるおじさまは、文字通りあらゆるものを好きなように使い、所有し、あるいは捨てることもできる立場となるでしょう。
おじさまがそれをしないのは、ただ、おじさま自身がそれを望まないから。
悲しき孤独な悪役に催眠で無理やり救いを与えてイチャイチャする純愛系種付けおじさんであるおじさまは、いたずらに人間の精神を弄ぶことを好まない。
要するに、性癖の不一致。
誰よりもそれを大切にするおじさまが、自ら禁忌に踏み込むわけもないのよね。
……けれど、この
より正確に言うならば、ある程度それをなぞった行動を取りはするけど、その上で最高効率だと思われる行動を優先する、と言うべきかしら。
もしもおじさまの複製体がこの
抵抗の1つもできず、もはや敵を認識することすらないまま、「自ら望んで自害」していたでしょう。
それこそ、フリーレンや私、試験官であるゼンゼも含めて、ね。
「……アウラ、ありがとう、おじさんの試験参加に反対してくれて」
「全くの偶然よ。……本当、この
* * *
そうして、私たちは順調に
ついに、それが終盤に突入する頃。
「来たわね」
……巧妙に魔力を隠した、自分たちの複製体に、対面した。
いいや、正確には私たち全ての複製体ではない。
12人の内、ラオフェンとヴィアベル、シャルフ、エーレ……そして、リーニエ。
ただ5人での、言うならば威力偵察とでも言うべき襲撃だ。
その5人の複製体との戦いは、ラオフェンが不意に私の懐に現れるという形で、一瞬の内に始まった。
同時、ヴィアベルとエーレの魔法が私に向かって飛んでくる。
……いくら先頭を歩いていたとはいえ、私の二歩後ろにはリーニエもいるし、その横にはヴィアベルも並んでいる。
それなのに、やっぱり私を狙ってくるのね。
やはり、この複製体たちの主……この
私が思考を纏めている間に、戦局は進む。
最も着弾が速いのは、ヴィアベルの魔法。
この術式……聞いていた通り、視界を媒介とした拘束魔法ね。
こちらは問題ない。この出力、このロジックの魔法ならば、私の魔力抵抗を貫けない。
次いで襲いかかるラオフェンの杖を、防御魔法を展開して止め、飛び下がってリーチの外に出る。
瞬時の急接近に、本来は魔法発動の媒介に使うはずの杖による近接攻撃。
魔法使いとしては型破りな戦い方に、初見なら戸惑っていたかもしれないけれど……。
最初の情報共有の際に、それぞれの魔法や戦い方については伝え合っている。
手の内さえわかれば、そしていつ来てもおかしくないと警戒を怠らなければ、それらを回避することは難しくない。
……こう言ってはなんだけど、複製体の魔法発動前の魔力制御も甘かったしね。
更に飛んできた大量の石の弾丸は……自分の体の範囲だけ防いでも、後ろにいるメンバーが危ないか。
通路全面を覆うように、厚い防御魔法を展開。
バチバチと音がして、弾丸はことごとく障壁に弾かれて落ちた。
ラオフェンも障壁の向こう側に置けたし……よし、魔法発動の時間は十分稼げたわね。
魔力を流し、手の中に天秤を現出させる。
そうして、その魔法の名を告げた。
「『
あのおじさまにすら手放しに賞賛される、魔法使いアウラの魔法。
私の罪の象徴であり……そして、濯ぎ切れぬ罪を償う最大の手段。
異世界から来たというおじさまですら、その魂にはごく微量の魔力を持っている。
それを知って、私は確信した。
相手が生きとし生ける者である限り、この天秤は必ずその効力を発揮する。
この裁決から逃れられる者は、この世界には……いいえ、異世界にさえも存在しないのでしょう。
……しかし。
「やっぱり、駄目か」
天秤に乗ったのは、私の魂だけ。
私が魔法を放ったはずの相手、未だ潜伏しているリーニエからは、全く反応がない。
それが意味するところは……。
この複製体は魔力こそ持ってはいるけれど、魂がない。
この世界に生きる生物ではなく、魂のない、虚ろな肉体なのだろう、ということ。
この事実は、2つの意味を有している。
1つ、私の最大の切り札である『
1つ、私の複製体もまた魂を持たないため、自分と相手の魂を必要とする『
つまるところ。
この試験においては、私も、私の複製体も、共に切り札を使えない。
真っ当に魔法戦で戦うしかない、ということだ。
「正直、まだまだ現代魔法戦には慣れていないのだけれど、やるしかないみたいね」
空間収納魔法を使い、自分の杖を引き出す。
大丈夫、私には仲間たちがいる。
一歩後ろで既に杖を取り出しているリーニエ、一様に杖を持ち、警戒を高めているパーティメンバーが。
「……よし。それじゃあみんな、突破しましょう」
Q.アウラ強すぎない?
A.忘れられがちだけど原作でも5本の指に入る激ヤバ魔法使いじゃない。