最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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 ルビ振りが鬼大変だった回


元魔族ペア vs 葬送の複製体

 

 

 

 フリーレン。

 80年前、あの魔王を打ち倒した、勇者ヒンメルの仲間である人類の魔法使い。

 

 彼女のことを端的に纏めるのならば、その言葉で完結するのだけれど……。

 実際のところ、魔法使いフリーレンは、謎に満ちている。

 

 魔族たちによる多面的な情報収集を以てしても、勇者パーティに所属する前のフリーレンのことは、殆ど探れなかった。

 かつての私の知り合いは、「ここまで情報を隠蔽できるなんて、面白いわ。自分に近付いた魔族を全員殺しているのかもしれない」なんて言っていたけれど、実際それくらいしなければここまで情報を隠すことはできないと思う。

 ……とはいえ、魔族だった頃の私は、そんなことは到底できるわけがないと思っていたのだけれど。

 

 

 

 とにかく、フリーレンについての情報は、魔王死後の魔族の間でも、殆ど伝わっていなかった。

 

 曰く、人類にしては多くの魔力を持ち、魔族のそれに匹敵することもある。

 曰く、人を殺す魔法(ゾルトラーク)を好んで使うが、同時に人類の中でこの魔法の無力化(かいせき)を推し進めている。

 曰く、魔族に強い敵対感情を抱く生粋の殺戮者であり、情に訴えかけたり命乞いをしても意味がない。

 

 伝わってくるのは、その程度。

 

 勇者ヒンメルのパーティに所属する以前に比べればかなり表に出てはいるけれど、それでもあまり積極的に表舞台に立つ気はないらしい……と。

 その程度の情報しか、彼女の行動から読み取ることはできなかった。

 

 今考えると、彼女は多分、故意に情報を隠していたのだと思う。

 自分がどのような魔法を使うか、どの程度戦えるか、どう魔族を殺すのか。

 そういった情報を相手に握らせないことは、時に大きなアドバンテージになるから。

 

 実際、いざ対面するまで……というかおじさまにオラッ催眠を喰らって人間堕ちするまで、私はフリーレンと戦えば勝てると思っていた。思い込んでいた。

 魔族が魔法使いの実力を測る基準は、その体から漏れ出る魔力量のみ。

 だから、フリーレンのことなんて、全くと言っていい程に警戒していなかったのよね。

 

 

 

 けれど、実際に戦ってみて、確信する。

 

 フリーレンは……強い!

 

 

 

「リーニエ、防御5枚!」

「わかってるっ!!」

 

 リーニエが杖を地面に突き立て、五重に重ねた防御魔法を展開。

 直後に、私たちに向けられたフリーレン複製体の杖から、眩い魔法が迸った。

 

 速射性に優れる『裁きの光を放つ魔法(カタストラーヴィア)』の乱打で目を眩ませ、その隙間を縫うように走る、比較的防御魔法に強い『破壊の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)』の追撃。

 リーニエの防御魔法がそれを食い止めている間に、私は追尾式の『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』を敢えて彼女から離した方向に放ちながら、『斬撃を飛ばす魔法(シュナイデン)』で迷宮(ダンジョン)の壁と床を斬り、ブロック状に抜き取ったそれらを『物を動かす魔法』で一斉射出する。

 

 ……これは、この半年で学んだことだけれど。

 人類の防御魔法は、かつて『人を殺す魔法』であった『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』の防御に特化しているため、単純な物理攻撃にはかなり弱い。

 そのため、私は『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』を基本の攻撃手段としつつ、それを防いだ防御魔法を『物を動かす魔法』によって射出した物体で貫く、という手段を取ったのだけれど……。

 

 飛ばしたダンジョンの瓦礫は、複製体に辿り着く前に『地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)』で焼き尽くされて形を失い、17本の『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』も片端から防御魔法で防がれてしまう。

 

 ……いえ、違う。

 あれはただの防御魔法じゃない。

 私の『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』が、反射されてリーニエの防御魔法に……っ!

 

「だっ……駄目! 割れる!」

「『舞い上がる風を起こす魔法(ダーウィンウィット)』!!」

 

 リーニエを抱きかかえて、風の力で上空へと退避。

 その瞬間にリーニエの展開した防御魔法は粉々に割れ、私たちがいた場所に起こしたつむじ風が魔法によって吹き飛ばされて、すさまじい勢いの土埃が部屋に広がった。

 

 

 

 私はリーニエと共に魔力を隠蔽し、彼女からの攻撃をやり過ごすことに専念しながら考える。

 

 こうして戦って感じたのは、やっぱりフリーレンは、すごく慎重な性格だということ。

 

 戦いが始まった直後は、彼女は出力の高い魔法を放ってこなかった。

 様子を見るように、多重の『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』をぶつけてきただけ。

 当然ながら、私もリーニエもそれぞれ、飛んで来た部分に防御魔法を展開してそれを防いだのだけれど……。

 

 それを見た複製体は、更に『一般攻撃魔法(ゾルトラーク)』の本数を増やしつつ、『石を弾丸に変える魔法(ドラガーテ)』も織り交ぜてきた。

 そしてそれも防いでみせると、今度は制圧力の高い『地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)』も混ざった。

 

 そこからは来る攻撃を防ぎ、相手が更に攻撃を苛烈にしてきて、の繰り返し。

 まるでこちらの限界を試すように何度も試して……いいえ。

 「まるで」ではなく、「正しく」こちらの限界を試しているんでしょうね。

 

 私たちの攻撃の受容限界を試し、切り札を無理やりにでも引き出させて……相手の手札を全て見てから、圧し潰す。

 それがあの複製体の……フリーレンの、不明な相手と正面切った時のバトルスタイルなんでしょう。

 

 先程のようにこちらも反撃を織り交ぜているけれど、それが有効打になった試しはない。

 リーニエの多種多様な近距離攻撃にはそもそも付き合うことなく、遠方から大量の魔法を放ってそれを防がせ、距離を保ち。

 私の魔法による遠距離攻撃は、尽くを的確に対処して防御してくる。

 

 複製体の対応から見て、まだまだあちらは魔力にも魔法にも余裕を感じる。

 このまま真っ当な戦法を続けていけば……ここ最近魔法を開拓している上、500年相当の魔力を持つ私はともかく、『過去を繋げる魔法(フェアビンデン)』での近接戦闘に特化しているリーニエは、その魔力総量の問題もあって、戦いに付いて来れなくなる。

 そうなれば、数的有利が活かせなくなって……私たちは、遠からず負けてしまうでしょう。

 

 やっぱり、真正面からフリーレンにぶつかるのは、余りにもリスキーね。

 少なくとも、無被害で勝てるような容易い勝負にはならない。

 

 

 

 作戦を切り替えるなら……。

 相手の攻撃を凌ぐのがやや難しくなってきて、リーニエが疲労を見せる前の、今。

 

 今しかない。

 

 

 

「リーニエ、やるわ」

「ッ、了解!」

 

 私の宣言に、リーニエは深く語らずとも頷いてくれた。

 

 なら……後は、彼女を信じるだけ。

 

 

 

 私は地上に降り立ちながら、両手に持っていた杖を空間収納魔法へと直し、再び魔力を練る。

 

 手慣れた流れ、手慣れた動き。

 500年間探求し続けた「魔法使い・アウラ」の魔法は、何不自由なくその前提を満たした。

 

 即ち、この左手に、全き平等の天秤を。

 その上に、今は白き私の魂を。

 

 そう、この魔法の名は……。

 

「『服従させる魔法(アゼリューゼ)』」

 

 

 

 私がその魔法を使った瞬間。

 フリーレン複製体は、こちらの力量を試すような攻撃を止め、魔法の使用を停止してこちらの様子を窺ってくる。

 

 このダンジョンに入る前、私はフリーレンに、自らの魔法の特性を話しておいた。

 『服従させる魔法(アゼリューゼ)』。

 これは、相手の魂そのものに訴えかける、絶対の精神干渉魔法。

 有効射程は私自身の視界による認識範囲であり、既存のあらゆる魔法防御を貫通する。

 その効果は、相手の魂と自分の魂を抜き出し、互いの魔力の量を比べ、多い方が少ない方を服従させ、絶対命令権を得るというもの。

 

 水鏡の悪魔(シュピーゲル)の作る複製体は、ダンジョンに入った瞬間の侵入者を非常に精密に複製する。

 その複製の範囲には、技量や戦法だけではなく、記憶も含まれるのよね。

 故に、複製体にはこのダンジョン入場時点までの記憶を利用されてしまうのだけれど……。

 

 その特性さえ知っていれば、逆に罠にハメることもできる。

 

 

 

 私の『服従させる魔法(アゼリューゼ)』を有効に発動させるためには、最低限互いの魂が必要。

 そして水鏡の悪魔(シュピーゲル)の作る複製体はあくまで「物」であるため、魂がない。

 しかし、今私の視野の中に入っている敵は、フリーレン複製体のみ。

 つまるところ、この戦場において、『服従させる魔法(アゼリューゼ)』は一切の意味をもたらさない。

 

 ……と、フリーレン複製体は考えてしまう。

 

 フリーレンは、相手のことを決して過小評価しない。

 500年魔法の研鑽を積んで来た私が、均衡した戦場で、わざわざ無意味な魔法を使う。

 そこには何か意味があるのではないかと、そう思ってしまうのでしょう。

 

 故に警戒し、少なくとも一瞬、攻撃の手を止めてしまう。

 

 

 

 そして、その一瞬が……リーニエにとって最大の好機になる。

 

 

 

 私に釘付けになったフリーレンを後目に、複製体を挟んで私の真逆に降り立ったリーニエが2つの魔法を連ねる。

 

 1つは民間魔法。接触面から色とりどりの花を咲かせる、『花畑を出す魔法』。

 そしてもう1つが……。

 

「『過去を繋げる魔法(フェアビンデン)』」

 

 つい先ほどの複製体との戦いで見た、魔法使いシャルフの魔法、『花弁を鋼鉄に変える魔法(ジュべラード)』。

 

 これは、私の使う『物を動かす魔法』から発展した魔法の1つ。

 極端なまでに対象を絞ることで消費魔力の燃費を改善すると同時、花弁の硬度を上げつつ自由に動かせる状態にすることで、攻防一体の自由度の高い魔法としたもの。

 

 勿論、この魔法を専門とするシャルフ程、上手く使えるわけではないけれど……。

 リーニエの「模倣」は、その目で見た魔法をそのまま使うことができる。

 

 彼女の足元に生えた色とりどりの花々が鋼の鈍色に染まり、鋭く研ぎ澄まされ……フリーレン複製体の方に向けて、一斉に射出された。

 

 その狙いは酷く大雑把なもので、フリーレン複製体に当たる軌道を描いたのは、全体の2割程度。

 それに対し、フリーレンはリーニエに視線を向けることすらなく、自分に迫る攻撃に対して防御魔法を二重展開した。

 

 いくら人類の防御魔法が物理的に脆いとはいえ、より多くの魔力を込め、より洗練されたものであれば、2枚も重ねればこの程度防ぎきれる。

 フリーレンに向かった鋭く尖った鋼鉄は防御魔法によって跳ね返り、そこら中にパラパラと散らばった。

 

 リーニエの模倣『花弁を鋼鉄に変える魔法(ジュべラード)』による攻撃は、失敗したと言っていいでしょう。

 

 

 

 ……しかし。

 フリーレン複製体は、表情こそ動かないにしろ、一瞬だけ動きを止めた。

 

 何故なら……彼女が攻撃を凌ぎきった後、リーニエの姿が、どこかへと消えていたからだ。

 

 

 

 最奥手前のフロアで共有した、フリーレンの、唯一の隙。

 それは、彼女が何らかの魔法を使う際、魔力探知が途切れるという悪癖。

 

 それ故に、私に視線を向けていたフリーレンは、攻撃直後に完全に魔力を断って潜伏したリーニエが、どこに隠れたのかわからない。

 その上、彼女の視界を妨害するため、敢えて『花弁を鋼鉄に変える魔法(ジュべラード)』を乱雑に飛ばすことで、地面に突き刺さった鋼鉄の壁という大量の遮蔽物も作ったんだ。

 総当たりで攻撃しても、そうそう当たることはないはず。

 

 

 

 ……それに、彼女はそんなことをしないだろう。

 

 私の予想通り、フリーレン複製体は、リーニエの存在を無視して私に杖を向けて来た。

 

 

 

 これも、予想通りね。

 

 最奥に辿り着くまでに、私たちは何度か複製体に襲われたのだけれど……。

 その全てで、複製体は(アウラ)に向かってだけ、不意打ちをしかけてきた。

 

 魔族もそうだけれど、魔物もまた、相手の魔力で脅威度を測ることが多い。

 迷宮(ダンジョン)に寄生する水鏡の悪魔(シュピーゲル)もまた、例外ではないのでしょう。

 故に、漏出する魔力の制御を放棄し、500年分の魔力を放出する私と比べれば、150年分の魔力を更に制御しているリーニエは、大きな脅威には映らないのでしょう。

 

 そして、フリーレンの……この迷宮(ダンジョン)に入った時のフリーレンからしても、リーニエは決して脅威になり得る相手ではなかったはず。

 少なくとも今、意味ありげに無意味な魔法を使おうとする(アウラ)と比較すれば、先んじて討つべきだとは思わない。

 

 無論、警戒を解くわけではないでしょうけれど……。

 それでも、フェルンの魔力制御を模倣しているリーニエの存在を割り出す程には、魔法処理のリソースを傾けることができない。

 

 

 

 ……良し。

 なんとか、作戦は通った。

 

 後は……リーニエを信じて、私もすべきことをするだけ。

 

 天秤に魔力を込め、私は……。

 その上に、もう1つの魂を招く。

 

 

 

 ……迷宮(ダンジョン)に、魂はない。

 あくまでこれは、魔力が通い特別な動きをするだけの、巨大な自然構造物。

 その辺りにある山や盆地に意思がないように、迷宮(ダンジョン)も生物としての魂を持っているわけではない。

 

 迷宮(ダンジョン)のギミックであり一部でもある複製体にも、当然ながら魂はなく。

 私の『服従させる魔法(アゼリューゼ)』は複製体には通用しない。

 

 ここには、嘘はない。

 

 

 

 けれど……私は1つ、迷宮に潜る前の情報共有の際、フリーレンに嘘を吐いた。

 

 『私の魔法は、「視界の中にいる相手」を対象とする』、と。

 

 

 

 グラナト伯爵領、そしてこの前の第一次試験での私の行動で、フリーレンは多少なりとも私の中に芽生えた人間性を信じてくれているようだった。

 勿論、全幅の信頼を置いてくれたわけではないでしょうけれど……それでも、「アウラに頼るのも一興かな」と思ってくれるくらいには、信じてくれていた。

 

 だから、皆で協力しようと言い出した私が、わざわざ嘘を言うとは考え辛かったのでしょう。

 

 その後の記憶を持たないフリーレンの複製体は、私の魔法行使の意図を即座に悟ることができず。

 

 ……「情報を漏らさないため、そして隙を作るために、敢えて嘘を吐いた可能性がある」と。

 複製体が、そして水鏡の悪魔(シュピーゲル)が気付く時には、もう遅かった。

 

 

 

 魔法使いアウラの魔法、『服従させる魔法(アゼリューゼ)』の本当の有効射程は、「その感覚範囲」。

 

 即ち、魔力探知によって相手の存在を掴むことができれば、私はその相手の魂を抜き取ることができる。

 

 

 

 即ち。

 

 フリーレン複製体の魔法によって守られた大扉の向こうにいる、水鏡の悪魔(シュピーゲル)

 この迷宮(ダンジョン)の中において、私たち受験生を除けば唯一確かな魂を持つ魔物もまた、私の有効射程内にある。

 

 なにせ、複製体がかけた魔法は、あくまで『命懸けで宝物庫の扉を閉じる魔法』。

 その中身を守るものでも、一切魔力を通さないものでもないのだから。

 

 

 

 その体をすり抜けるようにして、水鏡の悪魔(シュピーゲル)の体から魂が抜き取られるのと。

 フリーレン複製体が、これまでとは段違いの魔力を練って、本格的に私を攻撃しようとするのと。

 『高速で移動する魔法(ジルヴエーア)』によってフリーレンの死角に回ったリーニエが斧を振り下ろしたのは、殆ど同時だった。

 

 

 







 ダンジョン→物だから魂がないよ
 複製体→恣意的に作られたとはいえダンジョンギミックの一つだから魂がないよ
 水鏡の悪魔→ダンジョンに寄生した魔物だから魂はあるよ

 『服従させる魔法』→魂抜き取っても効果発動までちょっと時間がかかるよ
 複製体→ヤバいから本気出して殺しに来るよ
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