最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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元魔族ペア vs 間男

 

 

 

 一級魔法使い試験、第二次試験は無事に終了した。

 零落の王墓の攻略は、記録されている限り、人類史上初めて完了した。

 入場した受験生21人から脱落者は出る事なく、1人残らず第三次試験……つまり最終試験へと駒を進めることとなった。

 

 私とリーニエが体を張った意味は、確かにあった……と思いたいところね。

 まぁ、単純に迷宮(ダンジョン)攻略の難易度だけ考えたら、戦法的センスに優れたリーニエに情報だけ伝えて、私は事前にリタイアした方が良かったかもしれないけれど……。

 

 

 

「はぁ……」

 

 魔法都市オイサーストに取った宿屋に帰る道中、私は重いため息を吐いた。

 

「アウラ、まだ凹んでるの?」

 

 尋ねてくれたのは、同行する私の仲間、リーニエ。

 彼女は普段からあまり表情を動かさないのだけれど、今は心配そうに眉を寄せてくれている。

 

 けれど、それすら気にすることができないくらいに、私の精神状態は落ち込んでしまっていた。

 

「仕方ないじゃない……。これでも魔法の練度には自信があったのに、今回は完全にお荷物だったのよ?

 役に立てないってこんなに辛いことなのね……はぁ……」

「ドゥンストの時もそうだったけど、そういうの私にはよくわかんない感覚だな。

 魔族だった頃は魔法に誇り持ってたと思うんだけど、おじさんに人間にしてもらった時から、その辺りすっぽり抜けちゃった」

 

 どうやらおじさまのオラッの結果には、個人差があるらしい。

 私は魔族であった時程驕り高ぶってはいないつもりだけれど、それでも少なからず魔法技術に関する自信が残っているように思う。

 対してリーニエは、時々「私はアウラみたいに特別じゃないから」と漏らすようになったことからも、かなり謙虚になったように見えるのよね。

 

 前に聞いたのだけれど、おじさまの『魔族を人にする催眠(ヒトニナーレ)』は精神を上書きするものではなく、元より持つ精神性の土台部分を人間のものに置換する、というものらしい。

 だからこそ、私たち自身の特徴……いわゆる個性というものが残っているのでしょう。

 

 ……そしてそういう意味で、私は1つの失敗に落ち込みがちで、なかなか切り替えられない性質らしい。

 零落の王墓を出た辺りから、自分の判断ミスと無力故にリーニエを失いかけたという事実と自責が重く重くのしかかって来た。

 

「……私なんていらなくない? もうおじさま1人でいいんじゃないかしら……」

「アウラ……。ほら、早く帰っておじさんに慰めてもらおう? オラッして自分の価値はあるって理解(わか)らせてもらおう?」

 

 そう言い合いながら、私たちはとぼとぼとおじさまのいるはずの宿に戻って……。

 

 

 

 

 

 

「つまるところ、理解(わか)らせというのは、極めて相手側に依存するジャンルなのだよ。

 正義を執行すべきヴィランがいるからこそヒーローが成り立つように、生意気なメスガキ*1がいるからこそ我輩たちの理解(わか)らせが成り立つ。

 故に、理解(わか)らせを志す者は、常にメスガキに敬意を払わねばならない。メメントメスガキだ」

「常にめすがきを想え……! なるほど、ぷれいの際は互いの協力が不可欠。故に常に相手を思いやらなければならない。

 つまるところ、この世界に生きる中でただ1人でできることなど何もなく、いつだって隣人がいることを忘れるな。

 そして、彼ら彼女らのおかげで自らも生きられることに感謝して生きよ、ということですね。

 それは即ち、相互互助を越えた関係。互いへの敬意と愛によって繋がり合った集団の形成!!」

「ああ、そうだね。大体そう。あるいは部分的にそう。

 プレイは人生と世界の縮図だ、小さなことからでも学ぶことは多い。

 かく言う我輩だってまだまだ催眠種付けおじさんとして道半ば、パートナーたちから多くのことを学ばせてもらっているよ」

「それだけのサイミンタネツケ力を持っておきながら、なお謙虚な想いを忘れないとは……!

 やはり魔族とは決定的に違う、いつでも学びを忘れない姿勢こそがタネツケオジサンたる所以!?」

「いやまぁ種付けおじさんの中にはアレな者もいるのだけれどね」

 

 ……おじさまが宿屋の部屋で、知らない男性と、楽しそうに話しているのを見た。

 

 

 

「……まッ、間男!?!?」

「我輩ノーマルだからね?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 私たちが借りた宿は、ベッドが3つ並ぶ少し広めの部屋。

 

 もう月が昇っているのならベッドは1つで良いけれど、それにはまだまだ早い時間。

 私とリーニエ、そしておじさまはそれぞれのベッドに座って、話を始めた。

 

「おかえり、アウラ君、リーニエ君。その様子を見るに、試験には無事合格できたようだが……。

 アウラ君、どうかしたのかい? 少なからず落ち込んでいるようだけれど」

 

 おじさまは催眠種付けおじさん。誰よりも人の精神性について理解を持っている。

 私の悩みを悟るなんて、赤子の手を捻るよりも簡単なことなのでしょう。

 

 ……けれど、今はそれを話す以上に聞きたいことがある。

 

 

 

「おじさま、それよりこちらの方は?」

 

 ベッドに腰かけた私たちと違い、椅子に座った男性。

 見た目は……30代というところかしら。北方諸国に多い比較的堀りの浅い、これといって大きな特徴もないどこにでもいそうな人に見える。

 

 私とリーニエは殆どいつもおじさまと一緒にいたのだけれど、この旅の中でこんな人と面識を持った記憶はない。

 まぁおじさまの存在を考えると、私たちの記憶なんてそこまで確かなものとも思えないけれど……。

 少なくともおじさまは、不用意に人の記憶を弄ったりする人ではないし。

 

 ということは、この男性は初対面の相手ということになるはず。

 

 そして、そんな男性と親しそうに部屋で話していた、と考えると……。

 

 

 

「もしかして……その、そういう?」

 

 ……勿論!

 勿論、私はおじさまのことは信じているのよ?

 

 ただ、やっぱりおじさまだって人間だもの。

 気が緩む時もあるし、緩めたい時もあるのだと思う。

 

 けれどだからって、私たちじゃなく、男性を……!

 いえ、違う。わかっている。わかっているわ。

 おじさまだっていつも言ってたじゃない、性癖の形は人それぞれ、それは否定すべきものではなく、ただ尊ぶべき個性なんだって。

 

 ……でも駄目! まだ私の蒙が啓けていない! そんなに急には新たな性癖を受け入れられない!!

 

 

 

「……うむ、アウラ君が何を想像しているかは大体察しが付いたがね。

 そんなに気を揉まなくても、君の予想は大外れだ」

 

 苦笑いでそう言ったおじさまは、続けて男性の方に「いいかい?」と確認を取り……。

 男性が頷くと、同時。

 

「え、魔族!?」

 

 男性は、魔族になった。

 その頭からはいつの間にか角が生えていて、平凡な人間のように見えた姿も魔族のものに変わっている。

 

 精神防壁が破られた形跡は、ない。

 つまりこれは……変身魔法? 魔族文化ではあまりメジャーな魔法ではないのだけれど。

 

 眉を寄せる私たちに対し、彼は少し恥ずかしそうに角を抑えながら言った。

 

「魔族はもう辞めたのですがね。今はあなた方……リーニエ殿やアウラ殿と同じく、その心を人間のものとした元魔族。催眠種付け後援会の一員となりました」

「人員増加の会報はまだ回って来ていないのだけれど……?」

「我輩知らなかったけれど会報とかあるんだね」

「『彼方に声を届ける魔法』を私に教えられる者がいませんでしたので。おじさん殿と話し合った上で、リーニエ殿やアウラ殿が試験より戻り次第教わるように、と仰せつかっています」

「何回聞いてもおじさん殿ってすごい呼称だなぁ」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 私は新規会員(仮)といくつか言葉を交わす。

 おじさまも時々口を挟んできていたけれど、申し訳ないけれど今は一旦流させてね。

 

 そこから察せたこととしては……。

 

「なるほど。いつものね」

「いつものだね」

 

 いつものだった。

 

 このオイサーストに来るまでにも何度もあったこと。

 魔族から襲撃され、オラッして人間堕ち! 愛理解(わか)らせ! まんじりともせず入会しろ! の流れである。

 

 

 

「でも、オイサーストには結界があるから魔族は入れないはずよね……?」

「実はフリーレン氏パーティのシュタルク君に誘われて、街の外に出て瞑想に付き合うことになってね」

「普通に不用意!! 大丈夫だったの!? 怪我は!?」

「心配せずとも平気だよ。シュタルク君が前衛に出てくれたからね」

「そこから先は、自分が説明いたしましょう」

 

 魔族になった元魔族男性──なんともわかりにくい言い方ね、これは──が、後を請け負う。

 

「まず大前提として、私の魔法は『正体を偽装する魔法(ナハメン)』。魔族だった時分は基本的に人間に姿を偽り、十分に信頼を得てからの不意打ちを基本戦術としていました」

「悪辣な魔法ね。私が言えたことではないけれど」

「そして、私はそんな魔法を活かし、一般通過魔法都市監視魔族として40年程この都市を見張っていたのですが……」

「全く通過してないわね。むしろ長期滞在してるわ」

「昨日の朝、おじさん殿の仰った通り、シュタルク殿とおじさん殿が崖のところで瞑想を始めまして。

 今思うと最悪なことに、美味しそうな木の実でも摘み取るような気持ちで声をかけたのですが……」

「が?」

「シュタルク殿に血の匂いで即バレしておじさん殿にオラッされて即堕ち2コマでした」

 

 ……思った通り、ドラマも戦闘も何もないわね。

 

 私やリーニエにも、そんなものはなかった。

 気付いた時には既に手遅れ、一方的な催眠で脳クチュ人堕ちエンド。

 それがおじさまと対面した魔族の辿る唯一無二の運命なのよ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ともあれ、男の正体はわかった。

 要するに新たな同志、おじさまによって救われた元魔族がまた1人増えたということね。

 

「その後、自分はおじさん殿の考え方や生き方を教えていただくべく、こうしてその人生哲学をお聞かせいただいていたのです!」

「哲学と言える程大層なものでもないけれどね。催眠種付けおじさんとして、性癖については一家言あるつもりだから」

「それはわかった……けど。ええと」

 

 何と言っていいものか。

 私は視線をおじさまと床の間で何度も行ったり来たりさせる。

 

 正直なところ、今の私にはあまり、この男性を気にする余裕がない。

 魔力と体力の消耗やメンタルの沈み具合もあって、可及的速やかにおじさまに甘えたいのだ。

 

 あるいはリーニエであれば、この気持ちをそのまま伝えることもできるのかもしれないけれど……。

 私には、とてもそんなことはできない。

 

 だってそれは、おじさまの好意に甘えることだし、何より、あまりに恥ずかしいもの。

 

 

 

 どうしようかと考えていると、黙って話を聞いていたリーニエがベッドから立ち上がる。

 彼女は男性に近付くと、空間収納魔法で一冊の本を取り出した。

 

「これ、『彼方に声を届ける魔法』の魔導書。貸すから3日で覚えて返して」

「3日ですか……いえ、そうですね、わかりました。頑張ります」

 

 3日で魔法習得は、魔族からしてもそこそこ難しいんだけれど……。

 男性は、私の方に一瞬だけ視線をやって、頷いてくれた。

 

「……そうですね、それでは自分はここで。

 改めておじさん殿、本日はありがとうございました。おじさん殿にいただいた命、自分の性癖なりに正しく使ってみせます!」

 

 そう言って胸に手を当てておじぎし、彼は部屋を出て行く。

 

 ……まだ人になったばかりでしょうに、気を遣わせてしまったわね。

 先輩として恥ずかしい。

 

 

 

 部屋に残ったのは、おじさまとリーニエ、そして私の3人。

 

 そうしておじさまは、自分の座る横のスペースを、ぽんぽんと軽く叩いた。

 

「アウラ君、おいで」

「はい……」

 

 色んな恥ずかしさを胸の底に抑えながら、私はおじさまの隣に座って……。

 

 

 

 この後めちゃくちゃ慰めオラッ催眠! されたのでした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 翌朝、次なる第三次試験の試験内容の告知が届いた。

 

 届いた……のだけれど。

 

「……アウラ、逃げない?」

「逃げましょうか」

「?」

 

 その内容は。

 大陸魔法協会の総帥である、大魔法使いゼーリエによる面接だった。

 

 ……これ絶対疑われてるじゃない!?!?

 

 

 

 

*1
ここでは身体的ではなく精神的メスガキを指す。







 間男(おじさんを取る側)(勘違い)(むしろ引き際を弁えている)

 アニメが想定以上にサクサク進むから執筆が追い付かない……!


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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