最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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 アニメおわっちゃった……さびしみ。


『服従させる』少女 vs 最強の大魔法使い

 

 

 

 大魔法使いゼーリエ。

 彼女を知らない魔族は、もうこの世界にはいないでしょう。

 

 勇者ヒンメルが老衰した後、代わりの抑止力になるように作られた魔法使いたちの大組織、大陸魔法協会。

 その創始者であり、組織最強の存在こそが、大魔法使いゼーリエだ。

 

 私は、彼女との戦闘経験を持ってはいない。

 というか、ハッキリ言ってしまえば、彼女と戦った魔族は1匹残らず死滅してるらしい。

 

 では、何故元魔族である私がゼーリエの実力を知っているかと言えば……。

 遠見の魔法を使える魔族が、その戦闘を遠隔から観測できたことがあるからだ。

 

 魔族時代に聞いた話が正しければ、その尽くが瞬殺で終わっているらしい。

 

 曰く、神代を思わせるような魔法使い。

 曰く、魔族の魔法がその身に届いたことは一度もない。

 曰く、あのマハトを結界の内に封じ込めたのも、彼女の仕業である可能性が高い。

 

 つまるところ、あの魔王やシュラハト、南の勇者と同じ。

 勝てる勝てないではなく、そもそも戦いにもならない次元の違う相手、ということ。

 

 

 

 で。

 そんな相手が、本拠地であるはずの聖都を離れ、何故かこの魔法都市オイサーストに来ている。

 更に、普段は一級魔法使いに任せる第三次試験は、今回だけ特別に自分との面接にするという。

 

 ……マズい。マズいわこれ!

 ゼーリエ、どう考えても私とリーニエの正体を疑ってるじゃない!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 まず、逃げようかと思った。

 

 私が殺されるだけなら、いい。

 いえ、良くはないのだけれど、これっぽっちも死にたくなんてないのだけれど、私はそれに値するだけの悪逆を重ねてきた。

 むしろそれで少しでも人類の、そしてゼーリエの溜飲が下がるのなら、人類のためになるのなら、そうすべきだろうとまで思うくらい。

 

 けれど、リーニエは私程に重い罪を重ねているわけではなく。

 おじさまに至っては善良な人類を害したことなんてなく、むしろこの世界の人類にとって救いの光足り得る人物。

 「私と付き合いがある」なんて理由で、2人に被害が及ぶことだけは看過できない。

 

 だから、2人を連れてこの魔法都市を脱出しようと思った。

 

 

 

 ……けれど、駄目だ。

 ゼーリエの拠点である聖都からここオイサーストまでは、徒歩で移動しようとすれば1年以上かかってもおかしくない距離が開いている。

 それなのに第三次試験の内容を、自分がオイサーストにいなくてはならないものに決定したんだ。

 ゼーリエは恐らく、長距離を瞬時に移動する何らかの魔法が使えるんだろう。

 である以上、もうオイサーストに到着していると考えるべきだ。

 

 そして彼女が既にオイサーストに到着していて、私たちを意識しているのならば、看破されないようこの都市を脱出することは不可能だろう。

 おじさまと一緒にいる時に広範囲攻撃でもされれば最悪だ。私とリーニエだけでおじさまを守り切れるかわからないし、おじさまに性癖に合わない催眠をさせるわけにもいかないし。

 

 

 

 敢えて希望的な解釈をすれば……。

 即座に直接攻撃してこないことから考えて、恐らくまだ私たちが魔族だというのは疑惑の段階、あるいは交渉の余地があると考えられている。

 

 というか、そこは当然なのよね。

 私たちにはおじさまのくれたオラッ催眠ネックレスがあるんだから。

 

 私たちの存在と魔族の2つを繋げて考えられなくなる、おじさまによる強力無比な催眠パワー。

 どうやって疑惑を持てたかはわからないけれど……。

 これがあれば、まず私たちが魔族だと断定できるわけがないんだから。

 

 となれば、いっそ逃避ではなく、普通に試験を受ける方が良いかもしれない。

 そこで正直にマハト討伐の意志を示して、人類の敵でないことを伝えつつ、北に向かう許可をもらう方が確実かも。

 

 そう思った私は、第三次試験、ゼーリエとの面接に正面から挑むことにした……。

 

 

 

 ……の、だけれど。

 

 

 

 

 

 

 

「不合格だ。魔族以外の何者でもないお前に合格を出すと思ったのか」

 

 

 

 

 

 

 バレてた。

 ……なんで?

 …………なんで!?!?!?!?

 

 い、いえ、今は考えるのは後にしないと!

 

 

 

 愕然とする私の前で、ゼーリエはこちらに目を向けることすらなく、花畑の前にしゃがみ込んで咲いた花々の様子を窺っていた。

 

 美しい金の長髪、エルフ特有の長く尖った耳、どこか古代を思わせる色の薄い服装。

 同じエルフであるフリーレンとはまた違う、独特な雰囲気を持つ、ゼーリエ。

 

 一見しただけならば、強そうには見えないのだけれど……。

 その明らかに殺し合いに慣れた血生臭い雰囲気と、体から漏れ出る膨大に過ぎる魔力が、彼女の恐ろしいまでの強さを証明している。

 

 今のゼーリエの体勢からでは、咄嗟に飛び下がることも身を反らすこともできない。

 一見すれば隙だらけに見えるけれど……その実、全く以て隙がない。

 思い付く限りどのような魔法をしかけても、それが通る気がしない。

 躱され、防がれ、あるいは跳ね返されてしまうだろうと思えてしまう。

 

 魔力の総量も2から3倍開いているし……。

 やはり、私では大魔法使いゼーリエには勝てないわね。

 

 

 

 とはいえそもそも、こちらから戦うつもりはないのだけれど。

 ゼーリエは大陸魔法協会を創設したことからもわかる通り、人類を守る者。

 今の私にとっては、どちらかと言えばむしろ協力し合いたい相手と言える存在だ。

 

 でも、もしも戦うことになれば、可能な限り生き残らなくちゃいけない。

 私にはまだ、やり残したことがある。償い切れていない、大きすぎる罪。それを負債のままこの世界に残していくわけにはいかない。

 それに……これは極めて個人的で、きっと私にそんなことを言う権利はないのだろうけれど……。

 お別れも言えていない、愛しい人がいるんだもの。

 

 ここで死ぬわけにはいかない。

 なんとか……なんとかしないと。

 

 

 

 逃げる?

 ……無理。逃げ切れる気がしない。私が一歩足を引くより早く首が飛ぶ。物理的に。

 

 『彼方に声を届ける魔法』でリーニエに助けてもらう?

 ……これも無理。

 こうして向き合ったゼーリエからは、あの「私とリーニエ2人がかりで行っても多分勝てない」と思わされたフリーレン複製体ですら赤子に思えるくらいに、ドス黒い「嫌な予感」がする。

 下手をすれば、というかほぼ間違いなく、抵抗すら許されずに2人とも殺されてしまう。そういうイメージが脳裏にこびりついて離れない。

 それだけは避けなくては。最悪私が死ぬとしても、リーニエだけは逃がさないと。

 

 いっそ『服従させる魔法(アゼリューゼ)』で逃げ終わるまで待ってもらう?

 ……論外!

 魔力量の差から絶対に成功しないし、魔法発動までの時間を稼ぐことなんて不可能の中の不可能! 

 今の私は攻撃行動を取る=死。絶対にこの選択肢だけは選んじゃ駄目!

 

 

 

 ……となれば、もう、私が取れる選択肢なんて1つしかない。

 というか、最初からこれ以外に取るべき選択肢なんてありはしなかったのだけれど。

 

 私にできるのは、とにかく精一杯、真正面から自身の罪に向き合うこと。

 

 今更、犯した罪の数々から逃げることなど、できはしないのだから。

 

 

 

「全く、妙なこともあるものだ。お前のような存在がまさか一級魔法使い選抜試験に挑み、こうして私の前に立つことがあろうとは。

 しかし、優れた隠形ではあるが私の目は誤魔化せん。まずはお前の目的を……ん?」

 

 

 

 今、私がすべきことは1つ。

 

 彼女の憎悪と憤怒に対して、正面から謝罪するしかない。

 それも、並大抵のものじゃない、私の知る限り最上級の謝罪をしなくては。

 

 おじさまから聞いた、最上級の謝罪方法。

 それはもはや、真っ当な人間としての活動を放棄し、自身の全ての尊厳を投げ捨て権利を譲渡し、相手に屈従するという意思の表明。

 おじさまは「我輩の趣味ではないのだけれどね」と言っていたから、今までやったことはないけれど……やり方自体は、おじさまが呟いていたものを知識として蓄えている。

 

 故に私は、羽織っていたローブを脱ぎ、畳んで地面に置いた。

 

 

 

「……おい?」

 

 

 

 ……ようやく人間になれて、それを素晴らしいことだけと気付けたのに、人である尊厳を投げ捨てる。

 それに抵抗がないと言えば、嘘になる。

 

 けれど……。

 私には本来、尊厳などあるべきではない。

 

 私が人間らしく生活できていたのは、ひとえにおじさまの優しさ、寛容さ故。

 これまでの罪が故に投げ出さねばならないのならば、それがどれだけ大事なものであろうとも、私は捧げなくてはならない。

 

 それが、魔法使いアウラなりの、生涯続けていく償い。

 それが、私の新しい生き方だ。

 

 故に私は、貫頭衣と長いスカートを脱ぎ、畳んで地面に置いた。

 

 

 

「おい、何をしている」

 

 

 

 ……一瞬、手が止まりそうになる。

 その姿を見せたいのはたった1人だけで、おじさま以外の誰にも、私のそんな姿は見せたくない。

 

 けれど、いいえ。

 これは自らの心で決めたこと。

 

 私は決して、人間としての心を裏切りはしない。

 

 たとえそれで……私がどれほど無様な目に遭おうとも!

 

 故に私は、その身を包む最後の布を脱ぎ、畳んで地面に置いた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 そうして、その場に膝を突き、腿を地に着けて、上体を前に倒す。

 私の視界に映るのは、床のタイルだけ。

 僅かな微風が、何一つ纏っていない私の体を撫でつけていく。

 

 今の私は、衣も纏わない、獣同然。

 でも、それでいい。

 そこまでへりくだり、自分が悪いのだと強く認めて、初めて私は謝罪を許されるんでしょう。

 

 たとえその謝罪を受け入れられないとしても、それが何の生産性も持たないとしても。

 それでも私は、この心のままに、謝らなければならない。

 

 だから……。

 

 私は床に頭を擦り付け、叫ぶ。

 

 

 

「おい、お前、何をしていると……」

「私はどうなってもいいからリーニエは、そしておじさまだけは許してください! お願いします、何でもしますから!」

「……………………何が、どうなっている?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 結論から言うと、私は服を着直させられた。

 「お前の裸を見て誰が喜ぶ?」とのこと。

 おじさまから聞いた話、こういうのは視覚的な悦楽よりも相手の無様さや落差を見て喜ぶらしい……と伝えてみたけれど、「私にそんな趣味はない」と言われてしまった。

 

 なので服を着た後、改めて着衣での土下座を試みたのだけれど、「それもやめろ!」とのこと。

 仕方がないので、正座で妥協することにした。

 

 そんな私に対して、ゼーリエは呆れたように片眉を上げ、立ち上がってこちらを見て来る。

 

「……お前、誇りはどこに置いてきた?」

「ちっぽけな誇りなんて催眠されて女魔族(メスガキ)理解(わか)らせされた時に消えたわ」

「は? ……催眠? お前、催眠魔法をかけられたのか」

「いえ、催眠魔法じゃなくて、おじさまの純愛系オラッをもらって人間堕ちしたのよ」

「…………狂っているのか?」

「正常……と言いたいところだけれど、確かに私の出生を考えれば精神異常と言ってもいいかもしれない。ただしそれは一時的なものではなくて、永続で不可逆のものだけれど」

「ほう?」

 

 私を見下ろして来るゼーリエは、興味深いものを見たように目を細めた。

 

「いいだろう、話せ。何故お前がここにいるのか、何故お前はこちらに敵意を向けないのか。

 そして……お前の正体が何なのかを」

 

 

 

 とにかく今は、私とリーニエが人類に仇為す存在でないと伝えなきゃいけない。

 そして仮にそれが信じられなくとも、おじさまだけは守らなきゃ。

 

 おじさまはこの世界の人類の希望。

 人類と魔族の決定的な断絶を解消し、この世界を平和にできる人だ。

 私やリーニエのせいでおじさまが死ぬ、なんてことはあってはならない。

 

 なりふり構っていられないと決断した私は、半年前のことや私たちの目的などを正直に伝えた。

 

 

 

「そんなわけで、グラナト伯爵領は突如として現世に降臨した英雄、催眠種付けおじさんであるおじさまによって救済され、悪逆なる魔族たちの内リーニエとアウラはオラッされ即(人間)堕ち、自らの罪を償いおじさまの愛を広げるための旅に出ることにしたのよ」

「やはり狂っているな?」

「至って正常なつもりなのだけれど」

 

 失礼な。

 いえ、私が狂っていると言われるのは別に良いのだけれど、おじさまの力や心を狂気と呼ぶのは失礼だと思う。

 あんなに善良な、私たち元魔族に愛を教えてくれた人なのに。

 

 思わずちょっとむっとしてしまう私に対して、ゼーリエは無表情のまま口を開いた。

 

 

 

「……それで?」

「え? それでって……」

「それで、お前は誰だ(・・・・・)? 魔族共の話はひとまず聞いたが、お前の話は聞いていない」

 

 …………?

 今、私の話はしたのだけれど……。

 

 いえ、ちょっと待って。

 何か、こう、話が噛み合っていないような。

 

「ええと、ひとまず互いの認識を擦り合わせたいのだけれど、1つ質問をしてもいいかしら」

「言ってみろ」

「私が魔族である、ってことは知ってるのよね?」

「は?」

 

 ゼーリエは片眉を上げ、怪訝そうに声を上げた。

 

 

 

お前が魔族であるわけがないだろう(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 ……きっ……。

 

 き、効いてる!

 

 おじさまの催眠イヤリング、バッチリカッチリ効いてるじゃない!

 

 さっき裸になった時も催眠イヤリング外し忘れたから、私と魔族のことを繋げて考えられなくなってるままじゃない!!

 

「え、ええと、それなら何故……その、私を魔族以外の何者でもない、と?」

 

 思わず聞いた私に、ゼーリエは淡々と、まるで講義でもするかのような口調で答えた。

 

「お前に撃った『相手の正体を知る魔法(ワーハイト)』の結果は判読不能だった。察するに何らかの欺瞞魔法を使っているのだろう。

 だが、それはあくまで判読不能であって、算出不能ではない。魔法は正常に作用しているが、お前の直接的な正体を知ることができない状態になっているだけ。

 それなら、一発で答えを出すのではなく、消去法で他の選択肢を消して行けばいい。

 『相手の正体を知る魔法(ワーハイト)』の応用で、お前が私の知る限りのあらゆる生物でないか確認した。

 結果、お前は『魔族以外の何者でもない』、と結論付けた。『魔族であることはあり得ない』がな」

 

 

 

 すっ、すごい!

 流石おじさまの催眠! 当然のようにゼーリエの意識にも干渉してるわ! 絶対精神防壁かけてるはずなのに!

 

 けどそれはそれとして、催眠の穴を突いて無理やりこちらの正体を探って来るゼーリエが怖すぎる!

 

 彼女の認識の中で、私は、そして恐らくリーニエも、『魔族である可能性が高い』けれど『決して魔族ではない』存在。

 だからこそ、直接攻撃はしてこなかった。人類の脅威であると断定できないから。

 けれど同時、こうして試験に介入して直接話を聞こうとするくらいには疑われている。どれだけ違うと断定できても、その危険性を否定し切れないから。

 

 怖い。その慎重さ、その直感の鋭さが怖すぎる。

 変に情報を漏らせば、催眠の上からでも正体がバレて殺されかねない……!!

 

 助けておじさま! いえおじさまに助けは求められないけれど!!

 

 

 

「……ふぅ」

 

 ……駄目……落ち着かないと。

 

 こうして対面して、改めて痛感する。

 

 ゼーリエは、危険だ。

 

 私たちが敵であると認識されている間は、いつ彼女からの刺客が、彼女の魔の手が──いえ、どちらかと言えば「魔」は私たち側なのだけれど──伸びるかわからない。

 そんな日々が始まってしまえば、おじさまを守り切れる自身は欠片もない。いつ寝首を掻かれてもおかしくない。

 それは、絶対に避けないと。

 

 そのために私がすべきことは……全てを打ち明けること。

 きっと、あの日の、そしてつい先日の、リーニエと同じ。

 私自身の行動で、ほんの欠片程度でも、彼女の信頼を得なければ。

 

 

 

 だから、私は……。

 

「ゼーリエ。あなたに、私の正体を明かすわ」

 

 ゆっくりと、紫色の耳飾りを……外した。

 

 

 




 やや執筆ペースが追い付かない……!
 一応次回で第三次試験完結の予定です。多分。
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