最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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最強催眠種付けおじさん一向 to 北部高原

 

 

 

 一級魔法使い選抜試験が、終わった。

 

 ……とは言っても、我輩はただお金を稼いだり、元魔族の子に性癖を説いたり、シュタルク君と一緒に瞑想しているばかりだったのだけれどね。

 

 第三次試験、大魔法使いゼーリエ氏との面接は、命の危険のない穏やかなものだと思われたが……。

 どうやらアウラ君たちが想定していた通り、困難を極めるものだったらしい。

 総勢21名の受験者の内、合格したのはなんと7人きり。割合的には3分の1だ。

 しかもその中にアウラ君やフリーレン氏はいないというのだから驚きだね。

 

 

 

「魔法使いとしての力量を測る試験、と聞いていたのだけれど……」

「……ええ、確かに、私の魔法使いとしての力を測られたわ。

 そして、正当な理由で私は不合格にされた。それだけよ」

 

 帰って来たアウラ君は、真面目な彼女のことだし、また落ち込んでいるんじゃないかと思っていたのだけれど……。

 思いの外、落ち着いていた。

 

 我輩に背を預け、髪を梳かれながら、彼女は穏やかに語った。

 

「私は人間になることで、人間への加虐性、共感がないが故の残酷さなど、いくつかのものを失った。

 けれど、逆に言えば人間への共感性と連帯感を得た、と言うこともできるもの。

 変化にはポジティブな面もあればネガティブな面もあって、私が『人間の魔法使いアウラ』になったことによる変化は、一級魔法使いという立場とは極めて相性が悪かった。

 だから、魔法使いアウラは一級魔法使いにはなれない。それだけのことよ」

 

 ……我輩に言うというよりは、自分に言い聞かせる、あるいは事実を確認するといった様子。

 

 やはり、多少なりの精神的動揺はある……のかもしれないな。

 

 アウラ君は真面目で、全くと言っていい程腐らない子だ。

 困難があれば真正面から超えることを目指し、不足があれば勉強と修練によってそれを補い、不安があれば事前の予習と練習によって自信を付ける。

 

 当然ながら、一級魔法使い選抜試験に向けてもそれは変わらず。

 彼女はここ半年弱、現代魔法戦や人類の間で流行している魔法などをずっと研究していた。

 それなのに、今回の試験には合格できなかったのだ。

 落ち込んでしまったとしても、おかしなことは何もない。

 

 

 

 ……もしかしたら、アウラ君は、あまり要領が良い方ではないのかもしれないなと思う。

 

 例えば、相手を見れば術理も解明せずその技をコピーしてしまうリーニエ君なんかは、アウラ君曰く「魔力を見たり感じることに関しては間違いなく天才的」らしい。

 フリーレン氏パーティのフェルン君もそうだ。天才のリーニエ君をして、本気で潜伏したフェルン君を見つけるのにはかなりの努力を要するらしいし、いわば「繊細な魔力の動きを感じ操る天才」だろうか。

 

 そんな彼女たちに対して、アウラ君にはこれといった特筆すべき飛び抜けた才能はないらしい。

 ただ、500年という永い月日の中で、自分なりに最強の魔法を探求し、魔力を増やし続けただけ。

 言うならば、魔法使いアウラの強さとは、圧倒的な時間に培われた物量の暴力なのだ。

 

 

 

 が、それは逆に言えば……。

 たとえ要領良く学べなくとも、ひたすらに真面目に腐らず努力を続けた結果が、今の彼女の強さを築いている、とも言えるわけで。

 

「アウラ君。我輩は、君が続けて来た努力は決して無駄ではなかったと思う。

 現にこの半年で、君は優に100を越える、死ぬはずだった人間を助けてきた。第一次試験でも第二次試験でも、君がいなければ確実に死傷者が出ただろう。

 たとえ一級魔法使いになれずとも、今回の試験に合格できずとも、君の努力は確かに『人を助けたい』という君の願いを叶え続けている」

 

 静かに、落とし込むように、染み込ませるように、我輩は言葉を綴った。

 

 催眠を介さないお説教は、あまり性癖には合致しないのだけれど……。

 時に、人にはそれが必要なこともある。

 

 

 

 アウラ君はこれまで、失敗という失敗をしてこなかった。

 強い相手からは逃げ、弱い相手を狩る。

 それが魔族アウラの魔法であり、彼女の必勝法だった。

 故に魔族時代も、強者と戦うことを避けることで、敗北という敗北をしていなかったのだという。

 

 人間になってからも、その強力な魔法と莫大な魔力によって、彼女は対魔族で負けなしだった。

 リーニエ君の攻撃を切り抜けた魔族の殆どは、彼女の魔法によって拘束されていたのだ。

 

 しかしそんな彼女も、一級魔法使い選抜試験においては失敗続きだ。

 第二次試験に続いて、第三次試験でも再び失敗を犯してしまった。

 

 ……まぁ正確には、別に彼女が失敗したわけではないのだろうけれどね。

 

 アウラ君の言う通り、相性が悪かったのだろう。

 彼女の善性は、我輩から見れば最大級の美点ではあるけれど、戦場に身を置く者としては確かに最大の欠点になり得る。

 

 故に、一級魔法使いとしては不適格。

 こればかりは、どうしようもない相性の問題だ。

 

 ……が。現実がどうかと、本人がどう捉えるかは別の問題で。

 これまで彼女は、ひたすら地道な努力を積み重ねることで、どんな障害も払いのけて来た。

 それなのに、第二次試験での失敗に続き、第三次試験の不合格。

 それらの事実が彼女の心に何をもたらすか想像できない程、我輩は鈍感系催眠種付けおじさんではない。

 

 

 

 ……けれど、同時。

 我輩は、女性の成長を全て察することができる程の敏感系催眠種付けおじさんでもなかったのだ。

 

 

 

 我輩の手にピクリと、アウラ君の震えが、髪を通して伝わってきた。

 

 けれど、直後……。

 「ふふっ」と微笑んで、彼女は口を開いた。

 

「気を遣ってくれてありがとう、おじさま。

 でも、大丈夫。私、今回で少しだけわかった気がするの」

「何をだい?」

「私の目指すべき場所。

 それは多分、一級魔法使いの地位……いえ、もっと言えば、大陸魔法協会にはないと思う」

 

 静かに……部屋に差し込む月光と同じ温度感で、アウラ君は自身の気付きを語った。

 

「私、リーニエとは違うわ。戦うことを楽しいとも、もっとやりたいとも思えない。

 今の戦闘魔法の研究だって、すべきだからしてるだけで……本当はもっと日常生活に役に立つような民間魔法を開発したいって、心のどこかでそう思ってしまってる」

「うん」

 

 彼女は……真面目で良い子なアウラ君は、本来は戦乱の中に生きるべき者ではないのだろう。

 ただそんな時代に、実力至上主義の魔族として生まれついた。故に、強くなるべくして強くなった。

 

 けれど、魔王が倒れ、人類と魔族の戦いが終わり、そして魔族でなくなった今……。

 アウラ君はようやく、戦いという軛から解放されつつある。

 

 

 

 ……けれど、だからと言って歩みを止める程、アウラ君は怠惰な子ではなく。

 

「私は、戦乱の中を生きる魔法使いにはもう戻れない。戻りたくもない。

 ただ平穏で、平和な……おじさまとリーニエとしてきた半年間の旅みたいに、穏やかな世界がずっと続けばいいと思う。

 そしてそれを、できることなら平和に生きることを望む全ての人に与えられるべきだとも」

 

 「だから」と。

 アウラ君は立ち上がり、我輩の方に向き直る。

 

 その目には、月の光のような、確かな決意が宿っていた。

 

 

 

「私は、魔族と戦う魔法使いじゃなく、平和な時代を作る魔法使いになるわ。

 これからも、おじさまと一緒に魔族たちをオラッ改心(わからせ)して即堕ち二コマさせて贖罪性癖植え付けて、新たな(こころ)を孕めオラッして、少しずつ世界を平和にしていく!」

 

 

 

 それはきっと、これまで「できる限り多くの人を助け、贖罪していく」という消極的な目的しか持たなかったアウラ君にとって……。

 

 初めて抱くことができた、未来への希望であり、夢だったのだと思う。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんな風に、自ら考え成長し、前を向いたアウラ君に対して……。

 第三次試験に合格し、見事一級魔法使いの資格を取得したリーニエ君は、どこかぼんやりしているというか、何かを考えているようだった。

 

 察するに……彼女の自意識の問題かな。

 

 

 

 台所で壁を背にして、しゃくしゃくとリンゴ(本日6つ目)を齧っている彼女に声をかける。

 アウラ君は魔道具店に出かけている。2人で話すには絶好のチャンスだろう。

 

「リーニエ君、大丈夫かい?」

「おじさん」

 

 リーニエ君は、相変わらずどうにも冴えない表情。

 自分の中に何かを抱え、しかしその解決策がわからず彷徨う放浪者の顔だ。

 

「第三次試験の結果に、思うところがあるのかな」

「……やっぱりおじさんには、隠し事できないね」

 

 そう言って少し無理に微笑を浮かべた後……。

 彼女は、視線を床に落とした。

 

「そう、だね。ちょっと色々、考えることがあって」

「聞かせてくれるかい?」

「……うん、私も、おじさんに聞いて欲しい」

 

 

 

 リーニエ君はまぶたを閉じて、訥々と話し始める。

 

「……私は、アウラが落ちた第三次試験に、合格した」

「そうだね、おめでとう」

「ありがとう。……でも、私、合格に納得できてないんだ」

 

 ゆっくりと開かれたまぶたの奥の群青の瞳は、いつもより陰って見えた。

 

「私が合格するくらいなら、私よりずっと強いアウラが合格すべきだと……そう思った。

 私は、アウラやおじさまとは違う。全然特別じゃない、普通の元魔族に過ぎない。それこそ、この前加わった元魔族の人と何も変わらないもん」

「……しかし、リーニエ君は微細な魔力の流れを感じ取れるという話だったよね? だからこそ、相手の魔力の流れも正確に見抜いてトレースできると……」

「ただの個性みたいなものだよ。ちょっと視力が良いとか、力が強いとか、そんなちっちゃくてどうでもいい差に過ぎない。

 そんなどうでもいい個性があるからって、私がアウラより強いわけでも特別なわけでもない。

 現に私は、七崩賢でも何でもなかったんだ。ただのアウラの部下の1人、大魔族でもないただの魔族でしかなかった」

 

 

 

 ……正直に言えば、彼女の自己認識は間違っていると思う。

 

 アウラ君が「天才だ」と語り、ゼーリエ氏が合格を認めた。

 それはつまり、彼女にはこれから先、明るい未来が待っていることを意味している。

 

 彼女君の実力は、確かに現時点においてはアウラ君に劣っているかもしれない。

 けれど……恐らくそれは、時間の問題だ。

 

 彼女の中から垣間見える、アウラ君は持つことのできなかった、戦闘技術の向上意欲。

 戦士であろうと魔法使いであろうと、相手が強ければ強い程に自分も強くなれる可能性を持つ魔法。

 そして何より、どのような欺瞞も見抜くことのできる、天才的と言っていいセンス。

 

 それらがある以上……数百年経てば、きっと彼女は今のアウラ君よりも強くなっているだろう。

 

 

 

 ……けれど、今この場でそれを言っても、意味はない。

 それはいつかの仮定の話で、今の話ではないし……。

 心を主体とする人間にとって、大事なのは事実がどうなのかではなく、その人がどう思っているかだ。

 

 だからこそ、我輩は彼女の言葉を訂正することはなく、そのままに応じた。

 

「アウラ君が不合格になったのは、戦いに向かない性格故だと聞いているけれど……」

「……それもそれで、問題」

 

 リーニエ君はリンゴを棚に置いてその場にしゃがみ込み、足に回した腕に顔を埋めた。

 

「私はアウラみたいに真面目になれない。人を助けることに全力になれない。

 ……それを、ゼーリエには見抜かれたみたいだった。

 お前は一級魔法使いに相応しい、戦うことしか考えてない……人でなしだって。

 実際、私は……ゼーリエを前にして、もっと強くなれるかもしれないって、その可能性しか頭になくて」

 

 そんな自分に、ちょっと落ち込む、と。

 リーニエ君はそう話を結んだ。

 

 

 

 話を聞いていて、大体の事情が理解できてきたと思う。

 

 リーニエ君の、自己認識と自分のズレ。

 そして理想と現実のズレ。

 そして何より……未来への恐怖。

 

 これらが、彼女の心に影を落としている。

 

 であれば、我輩がすべきことは1つ。

 

 

 

 我輩は小さく身を縮こまらせる彼女を、抱き締める。

 

「おじさん……」

「いいんだよ、リーニエ君。君は何もおかしくないし、間違っていない。

 人間が戦うことを好きになっちゃいけないわけでもないし、アウラ君のように真面目になる必要性はない。君は特別なんだから」

「特別? 私は特別なんかじゃ……」

 

 否定しようとするリーニエ君を抱きしめたまま、頭を撫でる。

 

「違う、そういう意味じゃなくてね」

 

 ……確かに、現時点において、リーニエ君はこの世界に何か影響を与える存在じゃない。

 100年前にいたという魔王のように、力で魔族を従えていたわけでもなく。

 ゼーリエ氏のように、最強の魔法使いというわけでもなく。

 フリーレン氏のように、魔王を討って歴史を変えたパーティメンバーでもなく。

 アウラ君やマハトのように、七崩賢と呼ばれた強者だったわけでもない。

 

 現時点において彼女は、恐らくどこにでもいるような(・・・)普通の魔法使いでしかない。

 

 けれど。

 それはあくまで「ような」であって、本当にどこにでもいるわけではないのだ。

 

「それでも、君はこの世界にただ1人しかいない、特別な存在だよ。

 我輩が出会った最初の元魔族。我輩が人間にした最初の仲間であり友人。

 君はこの世界でただ1人の、かけがえのない少女だ」

「で、でもそれは、偶然居合わせただけでっ」

「それを言ったら、我輩がこの世界に来たのも、あの街にいたのも、全てが偶然だ。

 本当に運命に導かれる人間なんてそう多くはない。我輩も、アウラ君だって、ただ偶然巡り会えたんだ。

 逆に言えば、だからこそ素晴らしいとも言える。我輩たちは奇跡のような確率の下、運命的な出会いをしたとも言えるのだからね」

 

 

 

 我輩の本懐たる催眠種付けにおいて、最も大切なのはシチュエーションだ。

 時刻、場所、相手の精神性やテンションの上下、他者との関係性に我輩への感情。

 それらは全て一期一会。1つ1つはままあれど、全てが組み合わさってできるシチュエーションは、生涯で二度とは巡り会うことのできないかけがえのないもの。

 

 人というものも、ある意味においてはこれと同じなのだと思う。

 似たようなシチュエーションがあり、似たような人がいたとしても、それらは決して同一ではない。

 我輩たちがすべきは、それら1つ1つ、あるいは1人1人を慈しみ、大切にしていくことだ。

 

 

 

「君がたとえ多少面倒くさがりでも、隠れてリンゴを食べすぎる悪癖があっても、アウラ君やフリーレン氏程に高い実力がなかったとしても、実は命に関わらない戦闘は大好きで戦闘技術の向上を誰より楽しんでいたとしても。

 それは君の個性だ」

「個性……? でも、そういうのは人間としては……」

 

 不安げに見上げて来るリーニエ君に、我輩は微笑む。

 

「いいんだよ。それでいいんだ。

 一級魔法使い選抜試験でもそうだっただろう? 人間皆、良いところがあれば悪いところもある。

 アウラ君だって一見完璧に見えるが、地味に抜けてるところがあるし、妹分としていたリーニエ君には内緒にしていたようだが、あれでいて結構金遣いも荒いし甘えんぼだよ」

「アウラの、お金遣いが……? でも、旅の資金は……」

「帳尻を合わせるのが上手いんだよ、アウラ君は。一度だけどうしようもなくなって相談を受けたけれど」

 

 魔法の研究にはそこそこ潤沢な資金がかかるらしく、アウラ君は街に立ち寄っては魔道具店に立ち入り、そこそこのお金を使っている。

 まぁその代金はアウラ君自身が工面しているので、超レアものらしい暗黒龍の角? とやらが見つかった一度を除いて、旅の資金には手を付けていない。

 その時には涙目で「ごめんなさい、どうしても見逃せなくて! どうしましょうおじさま!?」と相談してきたので、我輩も協力してなんとか穴埋めしたのだがね。

 

 

 

 驚いているリーニエ君を抱きしめながら、考える。

 

 結局のところ、リーニエ君が抱えていたものは、我輩たちと一緒にいられないのではないか、という不安なのだと思う。

 

 催眠を使える我輩や、戦術性を排除した必勝の魔法を使えるアウラ君に比べれば、リーニエ君は戦力的に極めて強力とは言えない。

 その上、我輩はともかくとして、アウラ君は極めて強い善性と人間性を獲得した。それこそ、リーニエ君が「自分はこれでいいのか」と思ってしまう程のものを。

 

 第三次試験は、それらの不安が噴き出すきっかけになったに過ぎない。

 問題の根は、彼女の中にある、「私は2人に相応しくないんじゃないか」「こんな実力じゃいつか見捨てられるんじゃないか」という不安。

 

 そして、催眠種付けおじさんである我輩は、不安を解消する方法を、ただ1つしか知らない。

 

 即ち、愛だ。

 

 

 

「君がどのような性格をしていても、我輩もアウラ君も、君を見捨ても拒みもしない。

 リーニエ君。君は我輩たちの、ただ1人の仲間だ。

 我輩は君のことを大切にしたい。『元魔族の誰か』でも『どこぞにいる魔法使い』でもなく、ただ1人の特別なリーニエという少女のことを、だ。

 だから……君さえ良ければこれからも我輩とずっと一緒にいて欲しい」

「おじさん……」

 

 リーニエ君は、力の抜けていた手を、我輩の背中に回し……。

 ぎゅっと、少し痛いくらいの力を入れた。

 

「……私も、おじさんと、一緒にいたい」

「だったら、大丈夫だ。きっと我輩たちは、ずっと一緒にいられるよ」

「うん……うん!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……と、そんなこともあり。

 

 彼女たちがメンタルを持ち直してからも、しばらく。

 我輩たち3人は、オイサーストで穏やかな時間を過ごした。

 

 ……いいや、一級魔法使いの特権授与のセレモニーに参加することなくフリーレン氏と話をしていたはずのアウラ君が、何故か一級魔法使いに襲われかけ、爆破魔法で逃げようとして誤爆した結果アフロになったりするといったハプニングもあったけれども。

 

 おおむね穏やかな時間を過ごし……一週間余りが経った頃。

 我輩たちは北に向かう準備を整え、オイサーストを発つことにした。

 

 

 

 街を出て歩くこと半日程度。

 森の中に隠していた飛竜君に乗り込みながら、旅用のローブに身を包むアウラ君は、今来た方向に視線を投げる。

 

 遥か彼方には、美しく整えられた魔法都市の姿。

 早くもそれを惜しむように、彼女は口を開く。

 

「色々あったけど……やっぱり、無駄な時間なんてないわね。

 他の人間との付き合い方も、現代の魔法使いとの戦い方も、これからの自分の在り方も、この街では色んなことが学べたわ。良い体験だった」

 

 アウラ君は、ここに来た時に比べ、いささか前向きになり余裕ができたように思う。

 常に自分の生まれて来た意味を探すように、がむしゃらに無理を続けることはなくなり……目標達成の努力に向けて自分なりにコツコツと歩んでくれるようになった。

 

 魔法の研究に関しても、戦闘以外の魔法の開発も始めたらしく、昨日は試作段階の『塩を砂糖に変える魔法』を披露してくれた。

 ……正直、あまり使える魔法とは思えないが、まぁアウラ君が楽しそうだからヨシ!

 

 人間、生きることは、楽しまねばならない。

 我輩が自らの性癖に従い最大限種付けおじさん生をエンジョイしているように、アウラ君にも平和な時代を作る魔法研究家としての人生を楽しんでほしいものだ。

 

 

 

 彼女に続いて飛竜君に乗り込んだリーニエ君も、右手をにぎにぎさせながら頷く。

 

「うん、いっぱい魔法を見られたから満足。特にラントとゼーリエを直に見られたのはすごく大きかった。ある程度再現にも慣れて来たし、多少は使えそう」

 

 リーニエ君の変化といえば、最近の彼女は我輩に対しても戦いを好んでいることを隠さなくなった。

 自分がアウラ君とは違うことに悩む様子もなくなって……掃除の当番をすっぽかしたりするお茶目さも生まれて来たようだ。

 とはいえ怠惰になったというわけではなく、それは我輩とアウラ君にいつもの感謝としてプレゼントを買いに行ったためだという、なんとも可愛らしい理由でのことだったけれどね。

 

 これまではぼんやりリンゴを齧っていた時間にも、斧や剣、槍に弓を魔力で作って練習するようになり、魔法使い兼戦士……魔法戦士のような戦い方を模索しているらしい。

 未だアウラ君との模擬戦では白星ゼロのようだが、アウラ君が「私もうかうかしていられないわね」と言っていたことから考えるに、実力はすくすく伸びているようだ。

 

 何より彼女自身、以前よりも更に笑うことが増えた気がする。

 基本的にクールな印象のあるリーニエ君の笑顔は、かなりの破壊力を持っている。

 これからも、彼女が自然と笑えるような機会を増やしていかなければならないね。

 

 ……それから、もう1つ変化を挙げるとすれば、彼女は夜になると以前以上に甘えてくるようになった。

 可愛いので毎度甘やかしてしまうのだけれど、あまりやりすぎるとアウラ君が苦い顔をするので考え物だ。

 いやはや、本当にお母さんみたいになってきたね、アウラ君。

 

 

 

「……うん」

 

 我輩は、催眠種付けおじさんだ。

 不意にこの世界にやってきて、彼女たち元魔族を生み出したおじさんだ。

 彼女たちは我輩の女であり、子であり、教え子でもある。

 

 だからこそ、彼女たちの心が癒され、より前に進むための活力を得られたことが、何より喜ばしかった。

 

「ただ北部高原に入る手段を得るだけのはずだったが……存外に良い時間だったみたいだね」

「ええ」

「うん」

 

 ああ……2人とも、良い笑顔だ。

 これを見られただけで、ここに来た意味があったというものだね。

 

 

 

「それでは……改めて、北部高原、黄金郷に向かおうか」

「ええ、それじゃ、行ってちょうだい!」

 

 アウラ君の命令で、飛竜君が飛翔し始める。

 

 バサリバサリと音を立て、砂埃をまき散らしながら飛び立つ飛竜君。

 

 その上で、我輩は「そういえば」と、訊き忘れていたことを思い出した。

 

「一級魔法使い選抜試験に合格した者は、特権で好きな魔法を貰えるということだったね。

 リーニエ君は何をもらったんだい?」

「リーニエのことだし、戦闘魔法じゃない? 精神魔法の類は模倣しにくいって言ってたし、そっち方面専用の模倣魔法とか?」

「いや、どうしても劣化しがちな模倣魔法じゃなく、オリジナルの一点特化の攻撃魔法じゃないかな?」

 

 我輩たちが好き勝手に建てた予想に対して、リーニエ君は「私そんなに戦闘狂と思われてる?」と頬を膨らませる。

 

「違うから。ただ、おじさんが最初にくれなかったのを貰っただけだから」

「我輩があげなかった……?」

 

 心当たりがなく、思わず小首を傾げた我輩に、一転、クスリと笑顔を浮かべ……。

 空間収納魔法で取り出したリンゴを、一口齧った。

 

 

 

「そう。ゼーリエからもらったのは、『リンゴを3倍美味しくする魔法』だよ」

 

 

 







 (三ω三)ショウキカオマエモ……



 ちょっと駆け足気味になりましたが、一級魔法使い選抜試験編終了。
 シリアスで終わらせるかギャグで終わらせるかはちょっと悩んだんですが、シリアス軸の番外編というわけでこんな感じで。

 これにて本作は一旦完結、次回は黄金郷編が映像化される頃にまたお会いしましょう。
 人間大好き激臭魔族を理解らせるぞ!



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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