最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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 前々回のあらすじ:フリーレン「アウラ倒してよ」 おじさん「えぇ……」

 お散歩回です。


最強催眠種付けおじさん&魔族殺し

 

 

 

 やぁみんな、なんだか久しぶりな気がする催眠種付けおじさんだ。

 

 我輩は現在、魔族絶対殺すウーマンこと銀髪ツインテロリエルフのフリーレン氏の信頼を勝ち得るため、断頭台のアウラの討伐に向かっているところ。

 

 この街を攻め落さんとするアウラは、大魔導士フランメの防護結界が解除された瞬間に攻め込めるよう、傀儡にした兵をここグラナト伯爵領を取り囲むように配置しているらしい。

 当然ながらアウラの周りは兵の密度が最も高く、そこだけでも何百何千という戦力を配置している、とのこと。

 

 以上、フリーレン氏の魔力探知による情報でした。

 いやー、便利そうだね魔力探知。リーニエ君も使ってたし、この世界だと結構必須テクなのでは?

 

 ともかく、敵の総大将の場所がわかっていれば、後はそこを落とすだけだ。

 そんなわけで、我輩とフリーレン氏はそこに向かってテクテクと歩みを進めているわけだが……。

 

「…………」

 

 我輩の心配は、そことはまた別のところにあった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 つい先程、フリーレン氏から出された我輩とリーニエ氏を信じるための最後の条件……。

 「大魔族アウラの無力化、あるいは討伐」。

 

 これ自体は、不可能なことではない。

 いや、つい先程までは、おおよそ不可能であったのだが……。

 今は、フリーレン氏という魔族スレイヤーに協力してもらえる。1つ状況が変わって、決して不可能ではなくなったわけだ。

 

 我輩がアウラにオラッ催眠できなかった要因はただ1つで、アウラを取り巻く傀儡の兵士たちだ。

 我輩の催眠の射程範囲は、つまるところ我輩の認識範囲。

 ここに届くまでに、意思なき傀儡兵に阻まれれば、直接的な武力を持たない我輩は成すすべがない。催眠種付けおじさんは剣で斬られれば一発で死ぬくらいにはひ弱なのだ。

 

 で、フリーレン氏にそう伝えたところ、彼女は何でもなさそうに「じゃあ私がアウラのところまで連れて行くよ」なんて言ってきた。

 聞くに、彼女は『魔法を解除する魔法』を使えるらしく、傀儡兵にかけられたアウラの『服従させる魔法(アゼリューゼ)』を強制的に解除し、無力化することができるらしい。

 なんだそれ、めちゃくちゃ強い魔法じゃない? 流石はエルフの老(?)兵、魔法戦においては一日どころか一年くらいの長があるようだ。

 

 それならいっそ、フリーレン氏がソロでアウラ討伐すればよくない? と思わなくもなかったが……。

 「いや、燃費が悪いんだよ、これ」とのこと。

 アウラ側の物量はそれこそ一個大隊以上であり、これにかけられた魔法を片端から解除して行くと、アウラの『服従させる魔法(アゼリューゼ)』に対抗する余力がなくなるのだとか。

 

 ……ということはつまり、魔力が万全の状態ならば、フリーレン氏には『服従させる魔法(アゼリューゼ)』に対して何らかの対策法がある、と思っていいのだろうな。

 どんな対策だろう。リーニエ君曰くフリーレン氏の魔力はアウラよりもだいぶ劣るらしいし、単純に魔力量で勝てるわけではないだろう。

 『魔法の効果を一時的に無効化する魔法』とか持ってたりするんだろうか?

 あるいは、魔法が効果を出すまでに『魔法を解除する魔法』を差し込めばパリィできるとか?

 その辺りは魔法に詳しくない我輩にはわかりかねるところなのだが。

 

 とはいえ、そう語るフリーレン君の表情には余裕があった。

 推察するに、何らかの方法でアウラを打倒する方法はあれど、それが確実ではないのだろう。

 故に、我輩を使ってその穴を埋めようというわけだ。

 

 フリーレン氏にとって、我輩はある種のサブプランなのだろうね。

 もし本当にアウラを無力化できるだけの力を持ってたらラッキー程度の認識の、敗北率を少しでも引き下げるための方策、というわけだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 とにかく、対アウラは問題ない。

 フリーレン氏の協力があれば、我輩のオラッ『魔族を人にする催眠(ヒトニナーレ)』! で色々と終わりである。主に大魔族としての命とか尊厳とか。

 

 ……が。

 数十分前にリーニエ君と話した通り、この街の脅威はそれだけじゃない。

 

 我輩とフリーレン氏がアウラをオラッする時に邪魔が入ったり、その隙に領内で暴れ回られたりしないよう、グラナト伯爵邸のリュグナーにも対処せねばならないのだ。

 

 そして、我輩がここに配置できる戦力は、1人しかいなかった。

 

 

 

「大丈夫かなぁ、リーニエ君」

 

 そう、リーニエ君。

 我輩が送り出した、送り出してしまった、魔族リュグナーへの刺客。

 

 あれで良かったのだろうかと、何度目かの懊悩に、我輩は思わず腕を組んでため息を吐いた。

 

 リュグナーとリーニエ君では、リュグナーが強い。

 それはリーニエ君自身が言っていたことだ。

 

 まともに勝負すれば、リーニエ君は死んでしまうかもしれない。

 だからこそ、「どんな卑怯な手を取ってもいいし、危なくなったら迷わず逃げるんだよ」とは言い含めたけど……。

 あの子の瞳、どうも使命感とか憧れみたいな色に満ち溢れてたんだよな。

 状況によっては、最悪ということもあり得る。

 

 ……はぁ。

 「自分のために死んでくれ」なんて言葉を言うことになるなんて、本当に最低な気分だよ。

 やっぱりより良い催眠種付けライフを送るには、現代日本くらい治安が安定した場所が一番だよね。

 

 

 

 そんなこんなで、我輩にしては少し珍しく、ちょっと落ち込み気味に歩いていたのだが。

 

 そんな我輩に、フリーレン氏は振り返ることもなく言ってくる。

 

「大丈夫だよ。私の仲間も後から行くはずだから」

「……む? 初耳の情報だね」

「うん、今初めて言ったからね」

 

 フリーレン氏はコトリコトリと歩みを進めながら、感情も込めずに淡々と言葉を放つ。

 

「私には今、2人の仲間がいる。戦士と魔法使いだ。

 どっちも強いよ。……それこそ、魔族2人が相手でも勝てるくらいにね」

 

 

 

 ん……?

 あぁ、うん……成程ね。

 

 我輩がアウラを無力化することが、我輩たちを信じる最後の条件だ、と彼女は語ったが……。

 どうやら、あれは正確な表現ではなかったらしい。

 

 いや、正直、多少の違和感はあったんだ。

 フリーレン氏は先程までの対応からも察せる通り、こと魔族関係に関しては、非常に慎重な人物だ。

 

 石橋を叩いて渡るとまでは言わないが、自らの感情に左右されず、状況をよく観察し、より良い選択を取ろうとする、理知的な人間性を持っている。

 けれど同時、魔族への憎しみと殺意だけは魂の根底に焼き付き、決して容赦というものを知らない。

 

 それが、我輩のフリーレン氏についての見立てだった。

 

 だからこそ、疑問だったのだ。

 そんな彼女が、リーニエ君のことをこんなに簡単に信じるものか、と。

 

 

 

 しかし、恐らくは、その発想自体が間違っていたのだろう。

 

「なるほど、そもそも欠片も信じていなかった、というわけだね。

 君は我輩をアウラに当てたいのではなく、本当のところは、リーニエ君をリュグナーに当てたかった」

「……すごいね。今のでそこまで気づくんだ」

「長命種であるあなたにそう言われるとは、光栄だね」

 

 

 

 フリーレン氏はやはり、疑い深い。

 リーニエ君が人間に変わったという我輩の言葉を、未だ信じてはいなかったのだ。

 

 一度信じた演技をしたのは、我輩を彼女から引き離し、リーニエ君の本性を明かすため。

 

 仮に、リーニエ君が未だ魔族で、我輩を騙すために演技をしていたとする。

 その仮定の上で、我輩からのお願いでリュグナーと戦わなければならなくなった時、彼女はどうするか。

 

 真っ当にリュグナーと戦えば、リーニエ君は高確率で死ぬ。

 対して、ここで人間になった演技を止め、魔族側に寝返り直せば、少なくとも直近の死は避けられる。

 

 であれば、魔族は後者を……裏切りを選ぶだろう。

 一時でも親しんだ人間への情など、彼らの心の片隅にさえ存在しないのだから。

 

 だからこそ、我輩から引き離し、リュグナーと交戦する状態に持ち込むのが、リーニエ君のこれ以上ない試金石になる。

 もし魔族側に寝返れば、やはり彼女は魔族だったと断定できるし……。

 死を前にしてなお魔族に立ち向かうのならば、彼女は人間なのかもしれないと思えるわけだ。

 

 そして、流石は長命種と言うべきだろうか。フリーレン氏は、もしもリーニエ君が魔族のままだったとしても問題ないよう、保険もかけてあった。

 それが彼女の仲間……魔族2人を同時に相手しても戦える、強力な仲間たちの存在。

 

 ある程度リーニエ君とリュグナーが交戦しただろうタイミングで、フリーレン氏の仲間が駆けつける。

 そこでリーニエ君がリュグナーと戦っておらず寝返っていれば、リュグナーごと殺し。

 逆に、リーニエ君がリュグナーと戦闘していれば、それを助けて救い出す、と。

 

 

 

 つまるところ、これはフリーレン氏によって仕組まれた、リーニエ君の試しの場なのだ。

 

 「死を前にして逃げ出さず、誰かのために、自身の役目を全うする」。

 

 これがフリーレン氏の立てた、我輩たちを……。

 いいや、「リーニエ君を信じるための条件」。

 

 

 

 まぁでも、そこに大きな問題はないだろう。

 人の心を誰よりも知る催眠種付けおじさんである我輩が断言する。

 

 リーニエ君は、ちゃんと「人間」だ。

 とびきり善性な、誰かのために戦える女の子なのだから。

 

 

 

 ……しかし、それはそれとして。

 

「でもなぁ。フリーレン氏の仲間が来るまで、リーニエ君が必ず持ちこたえられるという保証はないだろう? やはり不安には思ってしまうよ」

 

 彼女を生み出したという意味では我輩はリーニエ君の父親で、親というのはいつだって子を想うもの。

 故にこそ、こうして杞憂かもしれない心配を、もやもやと巡らせてしまうのだが……。

 

 対して、フリーレン氏は、事も無げに言った。

 

「それこそ、あの子が人間なら大丈夫だよ」

「何故に?」

「だってあの子、元は魔族だったんでしょ? それはつまり、魔族ってものを……魔族の弱点を、誰よりも知ってるってことだ。

 なんとかなるでしょ、多分」

「最後の一言で、一気に信頼度が落ちたねぇ……」

 

 なんとも頼りない言葉だ。なんら保証がない。

 やはり今から引き返してリーニエ君を……いや、それはフリーレン氏が認めないだろうが。

 それでも何かできることはないだろうか。彼女を1人にさせたままでは……。

 

 

 

 そう悩んでいた我輩の方に……。

 フリーレン氏は、初めて振り向いた。

 

「信じてあげないの?」

「え?」

「仲間……みたいなもの、なんでしょ? 背中、預けてあげなよ」

「…………」

 

 仲間。

 

 そうか、仲間か。

 

「……そうだね。ああ、そうすべきだ」

 

 今の我輩に、リーニエ君に関してできることはない。

 

 ならば、彼女を信じて、自分のすべきことをするのみ、だな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、それでは目の前のこと……。

 大魔族アウラの処理に集中しよう。

 

「アウラの『服従させる魔法(アゼリューゼ)』なんだけど、リーニエ君はおおよそ認識さえできれば射程距離のようなものはない、と言っていたんだよね。

 とすると、フリーレン氏はともかく、我輩が狙われた場合はマズいのではないかな?」

 

 この作戦の成否は、ひとえに我輩の『魔族を人にする催眠(ヒトニナーレ)』が成功するかどうかにかかっている。

 まぁフリーレン氏の落ち着きようからして、最悪我輩が死んだとしてもアウラはフリーレン氏が処理してくれるっぽいし、そこは心配していないのだけれど……。

 

 我輩にも、戻るべき場所、守るべき女がいるわけで。

 可能であるなら、サクッとアウラを処理して、五体満足で戻りたいんだよね。

 

 そのためには、アウラの『服従させる魔法(アゼリューゼ)』が我輩を傀儡にする前に、『魔族を人にする催眠(ヒトニナーレ)』をぶつけなくてはならないのだが……。

 相手のレンジが無限であるのなら、流石の我輩と言えど、確実に先手を取るのは難しいだろうと思えた。

 

 

 

 だが、尋ねた我輩に対し、フリーレン氏は答える。

 

「問題ないよ。確かに、アウラの魔法は強力無比だ。……けど、強力すぎるからね」

「その心は?」

 

 彼女は「そういえば、魔法のこと全然知らないんだっけ」と呟いた後、ピンと人差し指を立てた。

 すると瞬時、指先にポッと炎が灯った。

 おぉ、すごい。めちゃくちゃ魔法っぽい魔法だ。

 

「魔法は、簡単なものであれば、一瞬で使える。それこそ『小さな火を起こす魔法』くらいならね。

 でも……」

 

 彼女がそこまで言うと、指先の炎がうねって形を変え……1秒程かけて、鳥の形を作った。

 炎の鳥は、その揺らめく体を羽ばたかせて彼女の指から飛び立ち、数秒して陽炎のように消える。

 

「こんな風に複雑で、大きな結果を生む魔法であれば、どうしても行使に時間がかかったり、魔力を消耗したり、リスクが発生したりするんだ。

 どれだけ魔法の精度を上げようとも、この原則から逃れることはできない」

 

 半ば独り言なのだろう。

 フリーレン氏は自身の思考を纏めるように、我輩に言って聞かせる。

 

「その点で言えば、アウラの魔法は極めて強力だ。

 一度成功しさえすれば、半永続的に効果が続き、相手の意思を越えて強制的に行動を制限できる。

 七崩賢最強と言われたマハトの魔法でさえ、あくまでも相手を完全に停止させるだけ。それも破壊によって命を奪うことができないというリスクが発生している。

 対して生殺与奪の権利を握り、死後も相手を意のままに操るというアウラの魔法は、大魔族の魔法の中でもトップクラスに重い結果を求めるが故に、それに応じた重いリスクを負う」

 

 正直、彼女の言葉を全て理解できているわけではないが……。

 今大事なのは、アウラの使う魔法には、重いリスクが課される、という部分だろうな。

 

「アウラの負うリスクとは?」

「まず、絶対的な公平。『魔力の多い方が少ない方を服従させる』というルールは、アウラ自身にさえ歪めることができない」

「そこはリーニエ君にも聞いたね。自分より魔力の多い相手に対して放てば自滅するというわけだ」

「うん。ただ、アウラは彼我の戦力分析がなかなかに早くてね。少しでも自分が不利と思えば傀儡を盾に撤退するし、当然魔法も使わない」

 

 なるほど、リスクを補えるくらいには戦略眼があるわけだ。厄介だなぁ。

 ま、我輩の催眠は他者に簡単に気取られるものでもなし、不意打ちオラッすれば問題ないだろうが。

 

 やっぱり催眠種付けがナンバーワン、なんて思っていた我輩をよそに、フリーレン氏の言葉は続く。

 

「それにもう1つ。魔法の発動に、時間がかかるんだ。

 互いの魂を天秤に乗せるまでに数秒、更に天秤がきちんと結果を割り出すまでに数秒から数分。

 この間にアウラの魔法を妨害できれば、『服従させる魔法(アゼリューゼ)』はキャンセルできる」

「ほう、なるほど。その情報は大きい。……察するに、かつて勇者パーティでその妨害をしたことが?」

「ヒンメルがね」

 

 おぉ、流石は勇者氏。

 昨今の横暴だったり実は雑魚だったりする勇者と違い、本当に強かったのだろうな、この感じ。

 

 しかし、最小で数秒、最大で数分のタイムラグか。

 一度魔法が発動すれば必殺とはいえ、確かにそれは致命的な隙だ。

 まぁアウラとしては、傀儡たちを盾にしてその時間を稼ぐことで、穴を埋めているのだろうが……。

 我輩には、その盾は、あまり意味を成さない。

 

「それに、アウラは魔族だからね。多分、私たち相手に最初から本気では戦って来ないよ」

「あぁ……うん。なるほど、確かにね」

 

 捕食者故、強者故の油断、というヤツだ。

 魔族にとって、捕食者である自分たちは強者であり、非捕食者である人間は弱者。

 更に魔力の大小こそが全てである彼らは、往々にして魔力の低い人間を、正当に評価できない。

 

 つまるところ、ヤバいくらいに舐めプしてくるわけだ。

 こちらを認識するや否や本気で魔法をかけてくる……というのは、魔族視点だとこの上なく余裕や気品のない必死すぎる行動。

 確かに、それは考えづらいか。

 

 

 

 魔法の射程は認識範囲。

 発動までの数秒以上のタイムラグ。

 そして何より、決定的な慢心。

 

 ……うん。

 行けそうだね、これ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 数十分後。

 我輩とフリーレン氏は、ひっそりと城門を越えて、グラナト伯爵領を出た。

 

 なんとこのフリーレン氏、実は今朝方、まだ和睦の使徒だった魔族を攻撃しようとした結果、領主直々に牢に入れられてしまったらしい。

 しかもそこを魔族が襲撃してきて、撃退したまではいいが、その魔族が牢の番をしていた衛兵を殺害してしまったため、恐らくは衛兵殺しの嫌疑がかけられているとのこと。

 

 この街において、領主の権威は絶対だ。

 ぶっちゃけ領主が言えば、この街にいるどんな人間も簡単に死刑にできるくらいに。

 まぁ勿論、その行動が横暴であれば反乱の兆しが芽生えたりもするから、大義名分もなしに軽々しく私刑を下したりはできないのだが……。

 領主の手足である衛兵を殺すというのは、そのまま極刑に十分な大義名分となってしまう。

 

 つまるところフリーレン氏、こんな顔*1しておきながら、実は死刑囚だったのだ。

 そんな子と一緒に城門での検問を越えられるわけもなく、我輩は浮遊魔法を使うフリーレン氏に抱えられて、空から城壁を越えることになった。

 

「重い……」

「ごめんね、我輩、催眠種付けおじさんだから……」

 

 我輩たち催眠種付けおじさん、基本的に横に大きいんだよね。

 まぁ我輩は多少鍛えているからマシな方だとは思うんだけど、それでも成人男性としてはちょっと重い方かなぁ、悲しいことに……。

 

 

 

 さて、そうして街の外に出て、しばらく歩く内に……。

 

 いよいよ、見えてきた。

 断頭台のアウラ、その手勢たちが。

 

「……聞いてはいたけど、いざ見ると悪趣味極まるね」

「うん、同意」

 

 フリーレン氏と2人して、その光景に辟易する。

 

 我輩たちの視界には、それこそ地平線を埋め尽くさんとする程の、首無し騎士たちが並んでいる。

 勿論、これは最初からそう言う形をしたデュラハンという魔物……などというわけがなく。

 

 この全てが、それぞれに意思を持ち、人生を歩んでいた、人間だった者たちの成れの果てだ。

 

「アウラの魔法の効果は、魂の服従だ。

 たとえ首を斬り飛ばしても、その体に魂を縛り付け、それを傀儡のように弄ぶことができる」

 

 ……リーニエ君は、言っていた。

 アウラの魔法は完全なものではなく、強い意志を持つ者であれば、一時的に抵抗ができた、と。

 

 アウラにとってそれは小さく、しかし極めて目障りな欠陥だったのだろう。

 彼女は部下の首切り役人に、服従させた者の首を断たせ、その意志を消し去った。

 

 故に、彼女の異名は「断頭台」。

 これまでに数多の首を断ち、意志のない傀儡を従える大魔族。

 

 

 

「今、このような感情を覚えるべきではないとは思うのだが……正直に言って、不愉快だ」

「そうだね」

 

 人とは何か。

 これは確かな答えの存在しない、哲学のようなものだ。

 

 けれど、催眠種付けおじさんたる我輩は思う。

 その人の精神・人格・自我……つまるところ、心。

 これを以て、人は人足り得るのだと。

 

 例えば、『人に為り替わる』魔法を使える魔族がいたとする。

 ただ人の姿を模しているだけの魔族は、人なのか?

 そうではない。ソレは成り替わっているだけで、人間ではないだろう。

 

 逆に、魔族の魔法によって、犬の姿にされた人間がいたとする。

 必死に助けを求める犬の姿をしたそれは、人なのか?

 ああ、人だとも。そうして人間らしい感情を残している以上、それは間違いなく人だ。

 

 それぞれの心、人間性こそが、その人の証。

 だからこそ、それを勝手に弄る我々催眠種付けおじさんは、どうしたって罪を背負う存在であり、いつかは然るべき罰を受けることになるのだろう。

 本編終了後に雑にしょっ引かれたりちんちん切られたりするのとかはその典型だね。

 

 

 ……だが。

 だが、目の前の光景は、そんな我輩を以てしても許しがたいものだった。

 

 自分のために、たくさんの人間の心を殺す。

 そこは、否定しない。

 元の人格に手を加えるだけとはいえ、我輩も似たようなことをしているのだから。

 

 けれど……けれど、それを、自分の好きなように「使う」こと。

 自由意志を持たせることすらせず、自分の手足を延長したとでも言わんばかりに、勝手に使うこと。

 

 それを、我輩は許せない。

 

 何故なら……。

 

 

 

「人格排泄や乗っ取りは趣味じゃない。

 我輩の性癖(たんとう)は、あくまでイチャイチャ純愛なんだ」

 

 

 

「…………?」

 

 フリーレン氏は首を傾げているけど、別に理解してほしいとまでは思わない。

 性癖は人それぞれだし、それにどこまで命を懸けられるかも人それぞれだ。

 

 ただ、我輩は催眠種付けおじさんであり、性癖に全てを懸ける者。

 故にこそ目の前の、我輩の性癖と真逆と言っていい、残虐非道な行為を許せないのだ。

 

 しかも、それをしているのが、人間ではなく虫けら(まぞく)だという。

 愛と正義の催眠種付けおじさんとして、これを放っておくわけにはいかない。

 

「行こう、フリーレン氏。これ以上、1人でも被害を出すわけにはいかない」

「うん」

 

 我輩たちは改めて気合を入れ直し、この惨事を生んだ大魔族のいる場所へと足を進めた。

 

 

 

 

*1
三ω三







 次回、ついに決着が付くじゃない。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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