最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

7 / 25
 (1)……? 理解できぬ。つまり、何を意味する?





最強催眠種付けおじさん&『繋げる』少女&『服従させる』少女(1)

 

 

 

 その後の話をしようと思う。

 大魔族アウラをこの世から消し去り、人間であるアウラ君を生み出した後の話を。

 

 

 

 まずはやはり、アウラ君自身について語ろうかな。

 

 彼女は、抱きかかえる我輩の胸の中で、うおーんうおーんと泣いていた。

 それはもう、ビックリするくらいに泣きじゃくっていた。

 

 けれど、我輩はそれを、情けないとはとても思えない。

 

 アウラ君はつい先程、我輩が魔族アウラの人格を元に書き出した新たなる自我。

 つまるところ、精神的には生まれてからたった数分。子供どころか赤子同然なのだ。

 

 そんな幼い子に、今、500年分の罪が降りかかっている。

 人を騙し、殺し、喰らい、弄んでいたという、魔族であった頃の悪行。

 それらは成熟した人間ですら、到底受け止めきれるものではない。

 抑えきれない想いが涙となって溢れるのも、当然の話と言えただろう。

 

 彼女を生んだ者として、我輩はそれを受け止め続けた。

 

「好きなだけ泣きなさい。そうして涙が枯れたら前を向こう。我輩と一緒にね」

「うぅ……うん……ありがとう、おじさまぁ……!」

 

 その可愛らしい容貌をぐちゃぐちゃに崩し、彼女は一人、我輩の胸で震え続ける。

 

 やはり、彼女を生んだ責任は、しっかり取らねばなるまいな。

 彼女のこれから先の一生は、痛々しく仄暗いものになるだろう。いくら我輩が「君は魔族アウラとは別人だ」と言っても、彼女自身がその認識を許すまい。

 

 ならば、我輩がすべきことは1つ。

 彼女の一時の清涼剤となり、光を頼り身を休められる灯台となり、多少なりとも支えられるよう、傍にいてオラッ催眠! ガス抜き! 催眠解除! しなければ。

 

 ……なんか我輩、この世界に来てから、催眠種付けおじさんと言うよりは催眠カウンセラーおじさんになってない?

 嫌だよ我輩、自分のアイデンティティなくなるの。

 ことが落ち着いたらキチンとしっぽりして、我輩らしさを取り戻さねば。

 

 

 

 そうしてわんわんと泣いていたアウラ君は、30分程が経過すると泣き疲れて眠ってしまった。

 先程までに感情を出し切ったおかげか、すぅすぅと寝息を立てる彼女の表情は少なからず安らいでようで、その手は未だ我輩の背中をきゅっと掴んだまま。

 我輩は力尽きた彼女の体を抱きしめ、時たま頭を撫でて過ごした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……さて、アウラ君はひとまずこれでいいとして、この状況をどう収めるべきかも考えねばならない。

 アウラ君をだっこしたまま、その場でフリーレン氏と情報共有や認識のすり合わせ、今後のことを話し合っている時……。

 

 まだ暗い夜闇の仲、我輩たちの元に、3人の人間が走り寄ってきた。

 それはフリーレン氏と我輩のよく知る人物で、思わず声に出してその名を呼んでしまう。

 

「フェルン、シュタルク」

「リーニエ君!」

 

 フェルンと呼ばれたのは、恐らく紫髪の色々と発育が良い魔法使いらしい少女。

 一方でシュタルクと呼ばれたのが、斧を背に提げた赤髪の戦士らしい強面の青年か。

 

 フリーレン氏の信頼する仲間に、興味がないわけではなかったが……。

 それ以上に我輩の目を奪ったのは、我輩の女。

 全身に細かな傷を作り、桜色のツインテが解けてセミロングになった、リーニエ君の姿だった。

 

 多くの傷を作りながらも懸命に走って来たリーニエ君だが、彼女は我輩の姿を認めるとぱあっと表情を明るくし、「おじさんっ!」と駆け寄って来た。

 取り敢えず立ち上がって、アウラ君を体の左側に回して右半分でリーニエ君を受け止めると、自然と背中に回された手に、きゅっと力がこもるのと……僅かな震えを感じる。

 

 どうやら、我輩が彼女を心配していたのと同じくらいに……。

 あるいはそれ以上に、彼女も我輩のことを心配してくれていたらしい。

 

「無事で良かった……! もしも『服従させる魔法(アゼリューゼ)』を受けてたら、どうしようって……!」

「心配してくれてありがとう。我輩は見ての通り、服従させられてもいないし、ピンピンしているよ。

 アウラ君も、問題なく人間にできた。今は泣き疲れて眠っちゃってるけどね」

 

 ほら、と幼気な顔で眠るアウラ君を見せると、リーニエ君はやっと安心できたのか、安堵の息を吐いた。

 けれど直後、アウラ君も無意識に我輩を抱きしめていることに気付き、ちょっとむっとして、我輩の体を抱きしめる力が強まる。

 

 はっはっは、美女美少女の嫉妬は可愛いね。

 いつもならリーニエ君をなでなでしたりよしよしして、その嫉妬を溶かし尽くしてあげるのだが……。

 

 今はその前に、確認すべきことが一件。

 

「……けど、リーニエ君の方は、だいぶ怪我を負ったみたいだね」

「うっ」

 

 硬直した彼女を引き剥がし、ちょっと体を離して、リーニエ君の様子を観察。

 

 全身に、細かい傷痕ができている。主に擦り傷切り傷と打撲痕だ。

 これだけ見れば、フェルン君やシュタルク君の助けが入って比較的軽度の戦闘で終わったのだろう、と思うところだが……。

 

 それら以上に、我輩、気になることがある。

 リーニエ君の顔と服だけは、すごく綺麗になってるってことだ。

 

 いや、正確には完全に綺麗になっているわけではない。

 頬には一本の小さな切り傷ができていて、髪もツインテが解けて服共々ちょっと乱れ気味。

 

 だが、他の部位に比べて傷が少なすぎるようにも見えた。

 急所である顔に傷が殆どないのも、髪がボサボサという程には乱れきっていないのも、激しい戦いがあったとするには異常だ。

 そして服も、多少破けた箇所はあれど、外観を損なうところまでは行っていない。

 

 この感じ、まるで「全然無理してないよ、あくまで細かい傷で済んだよ」と主張するためにちょっとだけ傷を残して重傷部分は治してしまったけど、特定部位に関しては「あ、でも顔とか服は、いいよね? おじさんに引かれるのだけは嫌だし……」と殆ど治してしまったように感じるんだよね。

 

 催眠種付けおじさん特有の心理分析、多分大きく外れてはいないだろう。

 

「リーニエ君。重傷を負ったね?」

「う、ううん。全然、平気だった」

「こっちを見なさい」

「今だけは嫌」

 

 我輩が目を見れば精神鑑定できるということを知っているリーニエ君は、必死に横を見て視線を逸らす。

 いや、目を見るのはそれが一番手っ取り早くて正確というだけで、所作や言動からだって十分すぎるくらいにその心は伝わって来るんだけどね。

 

「リーニエ君」

「……え、えっと、ちょっとだけ、その、ざっくり斬られただけで……自分になら回復魔法使えるから、全然平気だったっていうか……魔族の体は致命傷以外は全部かすり傷っていうか……」

 

 視線を逸らしたまま、懸命に言い繕うリーニエ君。

 

 我輩はため息1つ、「無理をしたことはともかく、それを隠そうとするのは駄目だよ」と叱ろうとしたのだけれど……。

 

 その時、横を向いた彼女の頭に、いつもは突き刺さって来るアレがないことに、今更ながらに気付いた。

 

「リーニエ君、角は……」

「あ、うん、落とした。私はもう人間だから……治さなくていいよね?」

「……ああ、勿論。生物的に必要がないのなら、生やす必要なんてないさ」

 

 角は魔族の象徴。その身が、その心が魔族であるという証だ。

 美しき人間の心を持つ彼女が、いつまでも生やしているべきではなかったのかもしれない。

 

 しかも「落とした」という言葉から察するに、リュグナーに折られたというわけでもなく、人間として魔族に挑むために、自らの手で斬り落としたのか。

 そうか、彼女はそこまで……。

 

 ……そうだな。

 そもそも、彼女に困難なお願いをしたのは我輩だ。

 そこで無茶をしてくれた彼女には、お礼を言いこそすれ、責めるべきではないか。

 

 何より、彼女がそこでどれだけ手傷を負ったかを我輩に知られたくないと言うのならば、敢えて少女の秘密の花園を覗くのは悪趣味というもので……。

 

 

 

「おいおい、嘘は良くないぜ。左腕は肘から先なくなってたし、右脚も千切れかけてた。胴体にだって大きい穴空いてたし、下顎なんて途中でぽとっと落ちちまってたじゃねーか。

 戦いでできた傷は恥じるものじゃねぇ。そんだけアンタが頑張ったってことなんだから、誇っていいんだぜ」

 

 

 

 横から口を挟んで来たシュタルク君が、サムズアップを作りながら、空気を凍らせた。

 

 ……いや、まぁ、言いたいことはわかるんだ。

 同じ戦士スタイルであるリーニエ君に、もっと自分の戦いを誇っていいんだと伝えたかったんだろうが……。

 シュタルク君、君さ、ちょっとばかりデリカシーというものがなくない?

 

「……って、あれ、なんで2人とも怒ってるの? ちょ、やめて! 痛い!」

 

 乙女のプライバシーを豪快に破り捨てたシュタルク君は、リーニエ君とフェルン君に無言でポコポコされていた。

 

 乙女の秘密は簡単に覗くべからず、決して明かすべからずだ。

 たとえ無意識であろうとその尊厳を踏みにじった者には、それ相応の罰が下るのである。

 

 

 

 ……でも、まぁ、なんだ。

 リーニエ君が我輩以外の人間たちとも仲良くなれたらしくて、本当に良かったよ。

 

 正直、ほっとしすぎて、涙が出かけたくらいだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 時に、どうやらこの世界の死体は、そのまま放置していると良くないらしい。

 いや、我輩が元いた世界でも、そのまま転がしておくと疫病とか衛生の問題があったのだが、こっちの世界ではそれ以上に逼迫した問題がある。

 

 具体的に言えば、魔物だ。

 

 新鮮な死体は、魔物にとって何よりの餌。

 放置していれば、それらは人類の敵たる害獣の糧となり、後には骨すら残らない。

 

 更に言えば、最悪の場合死体がアンデッドになる可能性もある。

 フリーレン氏も詳しくは言わなかったし我輩も訊くことはなかったのでメカニズムはわからないけど、死体はそのまま放っておくとアンデッド……つまり魔物となってしまうことすらあるらしい。

 

 死んだはずの親や兄弟姉妹がゾンビになって出てくるなんて、おおよそ最悪の展開だ。我輩の性癖にも反しまくる。

 なのでここら一帯、北部高原以南の北側諸国では、基本的に死体は教会での弔いの後、早急に土葬される手筈となっているのだとか。

 この辺は我輩の元いた世界と相違が少なくて助かるね。カルチャーショックは受けずに済みそうだ。

 

 

 

 ……が、今回はちょっとばかり、いつもの弔いや土葬では追い付かないかもしれない。

 なにせ今ここには、魔族アウラが服従させていた、数千という死体が山積みになっているわけで。

 

 フリーレン氏は仲間であるフェルン君とシュタルク君に事情と今後のことを説明し、それぞれの頑張りを労って「えらいぞ」と頭を撫でた後、それはそれとして非情な命令を下した。

 

「シュタルク、街にひとっ走りして、教会の人たち呼んできて。できるだけたくさんね」

「ここまで結構遠かったし、また往復するのは結構疲れるんだけど……」

「戦士なら平気でしょ」

「はい……」

 

 しょぼんとしたシュタルク君は、観念して走り出した。

 

 あの子、さっきのぽこぽこタイムといい、いつもこういう扱いなんだろうか。

 なんというか……うん、ちょっと不憫だな。

 

 まぁでも、フェルン君の瞳の色を見るに、虐められていると言うよりも、尻に敷かれているのが実情らしい。

 なので我輩としては「頑張れ、シュタルク君!」と心の中で手を合わせるばかりだが。

 

 純愛の形は人それぞれ。

 男性上位も女性上位も、どちらが特別良いというわけではない、それぞれ良さのあるジャンルなのだ。

 

 ちなみに我輩はどちらも行けるけど、どちらかと言えば男性上位派だ。

 なにせ催眠種付けおじさんだから、何かとそちらに回ることが多くてね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、懸命に走る伝令兵シュタルク君が、夜闇の中に消えて見えなくなったころ。

 

「う、ぅ……」

 

 我輩の胸の仲で、アウラ君が目を覚ました。

 

「おはよう、アウラ君」

 

 寝起きで少し混乱しているらしい彼女に微笑みかけると、彼女はややあって焦点を我輩に合わせ……。

 少しだけ安心したように、微笑んだ。

 

「良かった……。夢じゃ、なかったのね」

「ああ。君は今も、これからも、人間だよ」

 

 言うと彼女は唇を結んで目を潤ませ、泣き顔を見せないようにか、その頭を擦り付けてくる。

 ……いたた。相変わらず、角があると痛いな。

 

「むぅ。おじさん、私も」

 

 更にはリーニエ君まで、我輩の余った右側スペースにぐりぐりしてくる。嫉妬のぐりぐりである。

 ……うん、こっちはもう痛くはないな。戦いで多少乱れているとはいえ、サラサラの髪質は服越しだと言うのに気持ち良く、これならいつでも受けたいと思える程だ。

 

 そして恐らくは、そこでようやくリーニエ君の存在に気付いたんだろう。

 アウラ君は我輩の脇腹から顔を上げ、リーニエ君の方を見て……少し、複雑な表情を浮かべた。

 

「……リーニエ」

「アウラ……様」

「様は、なしでいいわ。私たちはもう、魔力の多さで価値を測る魔族じゃない。……そうなんでしょう?」

「はい、じゃなくて……えっと、うん」

 

 元は魔族の主従であり、個人主義同士であり、利己的な関係の外には出ていなかった2人。

 だからこそ、今の2人の間に漂う空気は、どことなくぎこちないものだった。

 

 ただ、彼女たちの抱いている感情は、それぞれ少しだけ違う。

 リーニエ君は単純に、かつて上に立っていた相手に対して、どう接すればいいのかわからないっていう居心地の悪さ。

 一方でアウラ君の瞳にあるのは……酷く重い罪悪感と、後ろめたさか。

 

 

 

「……ごめんなさい、リーニエ。今まで最低な仕事を押し付けてきたわね」

「え?」

 

 唐突な謝罪に、リーニエ君はきょとんとした顔。

 対してアウラ君は俯き、唇を緩く結んで言う。

 

「首切り役人。あなたにはこれまで、私が支配した人間たちの……っ、首を、落とさせた。それ以外にも、私の命令で、たくさんの人を殺させた。

 今なら、その残酷さが、あなたにかけた重すぎた負担がわかる。

 だから、改めて謝らせて欲しいの。ごめんなさい、リーニエ」

 

 上に立ち、命令を下して、間接的には彼女がしていたとはいえ……。

 実際に手を下していたのは、多くが首切り役人の3人だ。

 

 リーニエ君に聞いた話によると、魔族アウラは極めて研究熱心で、500年の生涯のほとんどを魔力の鍛錬と魔法の研究に費やしていたらしい。

 そしてその時間を確保するため、配下とした魔族に、そこまで強力でない敵の除去や支配した人間の首を刎ねることを任せた。

 故にその名を「首切り役人」。魔族アウラの使っていた雑用兼暗殺部隊だ。

 

 そして、今のアウラ君は、そんな首切り役人を強いたリーニエ君に、罪悪感を覚えているのだろう。

 自分の手を下すことすらなく、誰かに汚れ仕事をさせたこと。

 人間を殺すことを、誰かに強いてしまったことを。

 

 

 

 けれど……。

 リーニエ君の考え方は、違うようだった。

 

 彼女は、アウラ君の言葉に目を見開いた後。

 

「……そっか、本当に、アウラも人間になれたんだね。良かった……」

 

 改めて認識できたそれに、深く安堵の息を吐いて……。

 それから、ゆっくりと、アウラを抱きしめる。

 

「大丈夫、恨んでないよ。それは私の選んじゃった道でもあったから。

 だから、アウラも一緒に……私とおじさんと一緒に、これから償っていこう」

「っ、ええ! あなたが許してくれるなら……この首の繋がる限り、一緒に」

 

 アウラの手も、リーニエ君の背中をひしと掴む。

 

 我輩の生んだ命という意味では、姉と妹の邂逅。

 あるいはちょっとした因縁からの脱却、仲直りとも言えるだろうか。

 

 ……体の年齢だとアウラ君の方がずっと年上なのに、人間的な年齢だと数時間差でリーニエ君の方がお姉ちゃんか。

 なんとも複雑な関係性だが……あるいは、これで上下関係が取り払われるのならば、それはそれで良かったのかもしれない。

 

 

 

 しかし、2人が抱き合うこの光景。

 

 う~~~ん……。

 尊い。尊いですね。これもまた1つの純愛。

 

 愛は1つの形にあらず。

 異性愛、同性愛、友愛親愛家族愛。その全てが愛なのだ。

 そして、それに濁りがなく真っ直ぐであることを、人は純愛と呼ぶのである。

 

 そして我輩は、純愛大好き催眠種付けおじさん。

 自分の女が仲良くなって、それも特有の愛を築くことは大歓迎である。

 

 まぁ後で「我輩も混ぜてよw」するけどね。百合に挟まるおじさん。いや、時系列からしてこの場合は催眠種付けに挟まる百合になるのか?

 

 まぁいい。

 とにかく今は、この美しい光景を、ゆっくりと楽しむとしよう。

 我輩はニコニコと、2人の関係性の修復、仲直りを眺めていたのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 で、その後。

 ちょっと恥ずかしそうにリーニエ君から離れたアウラ君が、リーニエ君の頭に角がないことに気付き、こちらに自分の頭を突き出して「おじさま、私の角も折って欲しいのだけれど」とだいぶアレなことを言ってきた。

 言葉だけ聞くと、なんというか、彼氏にリスカを強いる彼女みたいなメンヘラみを感じないこともない。

 

 ただ、それは魔族から脱却し、人間として生きるという覚悟の表明だ。

 故に、我輩は「わかった」と重々しく頷いたのだが……。

 

「ふんっ……」

 

 …………うん。

 

 まぁ、折れないよね。

 当たり前だけど、角って硬いものだし。

 

「おじさん、これ、使って」

「いやいや、使わないから」

 

 我輩がアウラ君の角を握って微動だにしない(できない)ところを見て、リーニエ君が明らかに禍々しい短剣を恭しく差し出して来たので、慌ててお断りする。

 

「おじさま、無理はしなくていいわ。リーニエに折ってもらってもいいのだし」

 

 アウラ君は、今から痛い思いをするというのに、むしろ我輩の方を心配してくる始末だ。

 

 いけないいけない、彼女たちの保護者として、しっかり催眠種付けおじさん(おとうさん)しなければ。

 

 

 

 まぶたを閉じて、思い出す。

 

 我輩は誰だ?

 催眠種付けおじさんだ。

 であれば、やれるはずだ。そうだろう?

 

 若干、我輩の性癖(ジャンル)からはズレてしまうが……。

 この世界には、確かにあるのだ。

 相手に自分の立場を理解させるための、折檻。

 

 理解らせ(わからせ)角折りという、性癖(ジャンル)が!!

 

 我が手に宿れ、催眠種付けおじさんパワーッ!!

 

 

 

「ふんッッッ!!!」

「あっ、がッ!?」

 

 バキリと、アウラ君の両角が折れる。

 角の断面から血と、アウラ君の喉から激烈な痛みによる悲鳴があふれ出る。

 咄嗟に、リーニエ君が暴れかけたアウラ君の体を抑えた。

 

「アウラ、落ち着いて! 大丈夫だから、治すの、角の断面だけを塞ぐように」

「う、ぅ……ありがとう、リーニエ、おじさま」

「いや。アウラ君、よく頑張った。偉いぞ」

「うん……っ」

 

 我輩の手の中にあったアウラ君の角の先端……彼女が魔族であるという最大の証拠は、我輩の手の中でボロボロと消え去る。

 

 ……ある意味で、これが「断頭台のアウラ」の、本当の終わりだったのかもしれない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 アウラ君の角の痛みは、10分程である程度落ち着いた。

 時々表情が歪むところを見るに、どうやらまだ痛みは感じているらしいが、それでも動ける程度にまでは引いてきたようだ。

 

 となれば、ひとまずここにいる全員が情報を共有し終わり、自由に動けるようになったわけだ。

 

 そうなった後、我々がしたのは……。

 当然ながら、死者の弔いだった。

 

 

 

 今回、この戦場で死んだ者はいない。

 魔族アウラは消え去ったが、物理的生命という意味では、今もアウラ君として生きている。

 

 けれど、これまでに魔族アウラが殺してきた幾千の命の残骸が、目の前に積み上がっているんだ。

 ならば死者を想うべきだと思うのは自然な流れで、我輩たちは誰とはなしにそれを始めていた。

 

 フリーレン氏、フェルン君、我輩、リーニエ君、そしてアウラ君。

 皆で並んで、積み重なった首なし死体の山の前で、手を合わせる。

 

 フリーレン氏とフェルン君は、ここまで魔族アウラの軍勢と戦ってきた、たくさんの英雄たちを弔う想いだっただろう。

 

 一方で我輩やリーニエ君、アウラ君は……。

 

「……許される、はずがないのだけれど」

 

 謝罪。

 許されることのない、許しを請う対象もいない、謝罪だ。

 

 彼女たちが魔族であった時に殺してしまった、何百、何千という人間たち。

 命を絶たれ、二度とこの世界には戻っては来れない、無辜の魂たちへの、尽きない謝罪だ。

 

「許されなくとも、謝ろう。我輩たちはこの罪を背負い続けなければならないんだ。永遠に」

「……えぇ、そうね。本当に、その通り」

 

 アウラ君とリーニエ君は我輩の横で、真摯に手を合わせ続けていた。

 我輩もまた、たくさんの犠牲者たちを想い、長い長い間、謝罪と祈りを捧げた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして、長く続いた悲しみの夜が明けて……。

 

 きっと彼女たちの救いになる、明日が訪れる。

 

 

 







 エピローグはもうちょっとだけ続くんじゃ。
 真面目だったり暗い話は大体終わったので、次回は全体的に明るい話になる予定。
 リーニエ君とアウラ君とのイチャラブを書かずに終われるものかよ──ッ!!



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。