最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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一級魔法使い選抜試験編
最強催眠種付けおじさん一行 in 平穏な日々


 

 

 

 やぁ諸君、久しぶり。

 我輩は催眠種付けおじさんだ。

 

 我輩が『魔族を人にする催眠(ヒトニナーレ)』で人類堕ちさせたリーニエ君とアウラ君と共に旅に出てから、おおよそ2か月が経った。

 ここではその間のことを、少しばかり語るとしよう。

 

 

 

 その心を人のものとされた元魔族たちは、それまでにとって来た人類種に対する悪行を悔い、その贖罪を行う傾向があるらしい。

 殊に、地の性格が極めて真面目なアウラ君はなおさらだ。一時期は毎夜悪夢を見るくらいに思い詰めていたようだった。

 

 500年の魔族としての生の中で、彼女は数えきれない人間を殺し、喰らってきた。

 これから何をどうしようとも、彼女のその罪悪感が消え去ることはないだろう。

 なにせ彼女は、そんな過去から目を背けられないくらい、真面目だからね。

 

 ……そして同時、真面目なアウラ君は、決して減らない負債であろうと、負債であるという理由だけで返していくタイプだ。

 せめてもの償いとして、彼女は終身魔族スレイヤーとなることを決意した。

 我輩とリーニエ君は、旅は道連れ世は情け、そんな彼女と共に旅をすることを決めたのだった。

 

 ここまでが前回までのあらすじである。

 覚えていてくれたかな?

 

 

 

 さて、アウラ君の最初のターゲットとなったのは、人類の天敵たる七崩賢の大魔族、黄金郷のマハト。

 この討伐を目標として、北に向かう我輩たちだったのだけれど……。

 

 情勢の安定していない世界には、旅客機もなければフェリーもない。

 旅に出るとなれば、我輩たち自身の力で向かう他ないわけだ。

 

 だが、歩いたり馬車を使ったりして旅をするのはすごく時間がかかる。

 そこが問題視された。主に、我輩以外の2人に。

 

 リーニエ君とアウラ君は、ちょっと意外なことに、結構時間にシビアな方だ。

 彼女たちは我輩の『魔族を人にする催眠(ヒトニナーレ)』によって精神・思考・自我を人間のものに書き換えられてはいるが、その体は未だ魔族のもの。寿命が千を越えるかもしれない程の長寿種族だ。

 であれば、多少なりとも時間にルーズになるのではないかと思ったのだが……。

 

「私たちはどうあれ、おじさんの時間は有限だもの。無駄にはできないでしょう?」

「それに、これまでのことを償うのに、時間はあるに越したことはないし」

 

 とのこと。

 真面目なアウラ君はともかく、リーニエ君までそんなことを考えているのは少し意外だね。

 だが、我輩のことや自分のことについてきちんと考えてくれているのは、すごく嬉しいことだ。

 ご褒美にリンゴのパイを振舞うと、それはもう凄まじい喜びようだった。中に入ったごろっとしたリンゴがお気に召したらしい。

 

 

 

 ……と、少し話が逸れたね。

 

 とにかく、2人は旅にかかる時間を問題視した。

 結果として何をしたかというと……。

 

 なんというか……ドラゴンをテイムすることになったんだよね。

 

 アウラ君独自の魔法、『服従させる魔法(アゼリューゼ)』は、すさまじい魔法だ。

 この魔法は物理的に干渉できないために防御できず、(少なくとも現時点においての)おおよそあらゆる魔法防御をも貫通し、速射性にも優れ易々と躱すこともできない。

 そして一度命中してしまえば、自分と相手の魂が保有する魔力量を比べ、多い方が少ない方を服従させるという結果が確定する。

 しかも、その効果は半永続。体の持ち主が死のうが、その死体に魂を縛り操ることが可能とのことだ。

 

 一応、絶対的公平とか効果発動までのラグ、消費する魔力量の多さといったリスクもあるそうだが、それにしたって強力極まる魔法である。

 発生する効果だけ見れば、催眠種付けおじさんである我輩の催眠以上だものね。ちょっととんでもないよこれは。

 

 更に言えば、魔族アウラは魔族としてもかなりの長寿である500歳──ちなみに、寿命の限界が500より下という意味ではなく、大半の魔族は人間と争って死ぬので、その長い寿命まで生きる個体が少ないという意味なんだとか──であり、その寿命の殆どを魔力の鍛錬に使っていた。

 この世界で、彼女に魔力の総量で勝てる存在は、それこそ数えられる程しかいないのだと言う。

 

 ……改めて、魔族アウラをあのまま放置してたらまずかったと痛感するね。

 まったく、舐めプしてる内に理解らせられて良かったよ。

 

 

 

 で、そんな魔法を持つアウラ君なんだけど、旅をする足として竜を使うことを提案してきた。

 

 竜。

 ドラゴンである。

 

 改めて、ファンタジーな世界に来てしまったなぁと痛感する。

 我輩は催眠種付けおじさんなので、殊更にそういったものに嗜好が向くことはないのだけれど……それでもやはり、ドラゴンと聞くと感じるものがあるね。

 

 さて、ドラゴンと言えば、世界観によって強弱がキッパリ分かれる印象があるのだが……。

 どうやらこの世界のドラゴンは、結構な強者寄りのポジションにいるらしい。

 

 特殊な鱗と身体構造によって魔力や魔法を通しにくく、更にその硬度も非常に高いので生半可な物理攻撃も効かない。

 更に、危険を察知すれば空を飛び上がり、一方的にブレスで一網打尽にしてくる。しっかりと自分の優位性を使おうとする賢さを持っているらしい。

 

 流石にアウラのような大魔族と比べるのは酷としても、魔族リーニエと同じくらいの、かなり厄介な人類の天敵の一種である、とのことだ。

 

 

 

 が、今回アウラ君が目を付けたのは、そういった戦闘能力ではなく……。

 交通手段としての馬力だった。

 

 なんでも竜は、モノによっては相当の量の荷物を持ち運ぶことができ、その飛行速度も、音速とまではいかずともかなりの速さになるらしい。

 3人での旅なら、各種荷物を考慮しても、ちょっとした飛竜を捕まえるだけでかなり快適かつ高速の旅ができるはずなんだとか。

 

 上空の空気の薄さや寒さに風、振り落とされるのではないかといった問題は、アウラ君が指先1つで解決できるらしい。

 すごいすごいとリーニエ君と2人で褒め倒すと、これくらいは大魔族なら誰でもできたわ、と赤くなって恥ずかしがっていた。

 でも今は人間だしこんなのできる人間滅多にいないからすごいねと褒め殺すと、いよいよ真っ赤になって俯いてしまった。

 褒められ慣れてなくて可愛いね♡ 幸せになれよ。

 

 

 

 そんなわけで我輩たちは、街から数日歩いたところにある山岳で、飛竜──前世の知識に当てはめると、めちゃくちゃデカいワイバーンという表現が最も近い魔物──を服従させた。

 

 この飛竜はもうアウラ君の命令に逆らうことはできず、ひたすらに荷物持ちとタクシーとして使い倒される未来が待っている。

 

 生物から強制的に意思を奪い道具とするのは、個人的にはあまり好きではないのだが……。

 

 まぁ、魔物や魔族は別にいいかな、と思うんだよね。

 

 魔物は動物とは違い、魔族に近しい性質をしている。

 人間を筆頭とする生物全般に対してとんでもなく強い敵愾心を持っており、食料にするでもなく戯れに人を殺したりするようだ。

 

 自然の生態として不自然な程の、「不倶戴天の悪意」。

 飼い慣らすこともできなければ心を通じ合わせることもできない。

 そうなれば自然、共生の形は支配と非支配、あるいは同化しかあり得ないからね。

 

 そういう意味では、我輩の催眠で心を人間のものにして協力してもらえば、と思わないでもなかったけれど……。

 リーニエ君やアウラ君の場合でも、生まれた直後は深い動揺と罪悪感があったんだ。

 人とは全く違う体、方向性の異なる思考体系の生物を人間にするのは、ちょっとばかりその子に申し訳が立たない。可能な限り避けたい展開だ。

 

 そんなわけで、グラナト伯爵領から徒歩で5日程の山岳をうろついていたはぐれ竜に対して……。

 自我はそのままに命令を聞かせることのできる、アウラ君の『服従させる魔法(アゼリューゼ)』が火を噴いた、というわけだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで我輩たちは、北の大地に向けて飛んだ。

 とは言っても、わき目もふらず直行したわけではないんだけれどね。

 

 我輩たちの……というか、リーニエ君とアウラ君の旅の大目標は、あくまでも人を助けること。

 大魔族マハトの討伐は、そのための当面の手段の1つに過ぎないのだ。

 

 だから我輩たちは、そこそこの上空を竜に乗って飛びながら、地上に人の村落や街を見つけると、ちょっと遠くに降りて竜を隠し、旅人としてそこに立ち寄った。

 そして食料や消耗品の補給をしながら、村人たちに困っていることがないかそれとなく聞いて、それとなく解決していく。

 この2か月は、そんな毎日だった。

 

 

 人々の困りごとを聞く中で、時には魔物、そして魔族との戦いになることもあったけれど……。

 

 前衛には、過去の英傑の力を借りて戦えるリーニエ君。

 後衛には、必中防御貫通対処不能のトンデモワンパン魔法持ちのアウラ君。

 そしてついでに、対悲しき孤独な悪役系知性体には最強の催眠種付けおじさん。

 

 当然ながら、そう簡単に負けることもなく。

 大体の相手は、リーニエ君の変幻自在な戦い方に対応できず。

 一部の敵が対応しきる頃には、アウラ君の天秤がその結果を算出し終わり。

 仮にそれを潜り抜けたとしても、我輩がオラッして終わりである。

 

 喜ばしいことにというか当然というか、結局我輩たちがピンチになるようなことはなかった。

 

 

 

 ところで、リーニエ君やアウラ君は、魔族であった頃は割と暴れ回っていたため、人類の文化圏では割と顔が知られてしまっているらしい。

 まぁ角のない彼女たちを見て、魔族と判断されるかは微妙なところなのだけれど……。

 安全を取って、顔を隠すために深くフードを被っての来訪だ。

 

 そういう事情もあって、最初は怪しまれたりもして、歓迎されないことも多かったのだが……。

 コツコツと悩みを解決していく内に、最終的にはなんだかんだ打ち解けて、なんなら宴会なんかを開いてもらえることすらもあった。

 

 リーニエ君やアウラ君は、どうやらそんな日々を楽しんでくれているようだ。

 特にその顔が綻ぶのは、住人たちに感謝を告げられている時。

 「ありがとうございます」「本当に助かりました」。そう言われている時に、彼女たちは少しだけ許されたような、力の抜けた表情をしていた。

 

 

 

 その場での困りごとを解決し終わった後は、少しだけその村や街で、平穏な時間を過ごす。

 リーニエ君が住人からもらった樽入りのリンゴ(我輩たちの5日分の食料になる予定だったもの)を全部平らげて、アウラ君からものすっごく怒られたり。

 真面目なアウラ君は、主婦の方にこの辺りの風土とか作物、料理について聞いて回っていたり。

 

 そんな風に、2人はそれぞれ、人間らしい生活をエンジョイしていた。

 

 うん。少しずつ今の生活に馴染んで行ってくれているようで、我輩は嬉しいよ。

 

 

 

 ……え?

 そういう時、我輩は何をしてるのかって?

 

 我輩は……まぁ、なんというか、事後処理かな。

 

 我輩魔族と戦闘する際、男女問わずオラッ『魔族を人にする魔法(ヒトニナーレ)』! することにしていた。

 殺してしまうのは魔族がかわいそう……なんて理由では勿論なく、単に彼らが人類の戦力になればもっと生存圏を広げられるだろう、という判断だ。

 

 生まれて来る元魔族の子には申し訳ないが、これはひとえに人類のためだ。

 現在この世界では、我輩の前世の世界と違い、人間が頂点捕食者の座に就けていない。

 我々の上には、魔族という捕食者が存在してしまっている。

 

 まぁ、別にこれ自体はおかしなことじゃない。

 世界が違えば生態が違うのは、当然の話だ。

 

 だが、我輩は催眠種付けおじさんだが、同時に人類でもあるんだ。

 人間種の、魔族との生存競争の一助となるのは、なんらおかしな行動ではあるまい。

 

 ……いやまぁ、本音を言えば、安心して催眠種付けする環境を作りたいだけだったのだけれど。

 

 

 

 が、そうしていく中で問題が発生した。

 

「私はあなたに救われました! どうか私の身を捧げさせてください……!」

「いや、我輩は君を生み出しただけだよ。決して救ったわけではない」

「いいえ、いいえ! あなたは確かに私に教えてくださったのです! これまでの間違いを、そしてその改め方を! あなたは私たち、元魔族の救い主なのです!」

「我輩はそんな大した存在じゃないよ。ただの催眠種付けおじさんだ」

「サイミンタネツケおじさん! なるほど、それが救い主……いいえ、神の御名なのですね!」

「全然違うが? 話聞いてる?」

 

 我輩が人間にした元魔族の子の中には、妄想力逞しいというか、ちょっと思想が過激な子もいた。

 

「あなたにいただいたこの命、あなたに捧げることこそが正しい使い道であると考えます。どうか角のついでに、私のことをもらってはいただけませんでしょうか」

「いや、そんなことはないよ。君はこれから自分の人生を生きるんだ。君の身も心も、預けるとすれば、最も信頼できると思える人にしなさい」

「つまりはもらっていただけるということでいいですか?」

「まずはお友達から始めようか」

 

 我輩に依存しすぎな子もいた。

 

「どうすれば……こんなことをやってしまって、どう償えば……!」

「大丈夫、君は今生まれたばかりなんだ。もしもそれにも納得できないのなら、小さな人助けを重ねていくんだ。

 確かに膨大で絶望的な程の罪ではあるが、それは決して無限ではない。できることをやって行こう」

「そう……確かに、その通り。少しずつ、1つずつ、やって行かないと……」

「焦る必要はないよ。そして、忘れてはいけない。今の君自身もまた、君が救うべき人間の1人だ。

 君自身がいつか幸せになるためにこそ、小さな努力を重ねていきなさい」

「はい……はい!」

 

 少しばかり抱え込み過ぎる子もいた。

 

 ……当然と言えば当然だけれど、元魔族の子たちは、精神的に不安定な子が多い。

 彼ら彼女らを生み出した我輩こそが、責任を持ってメンタルケアをせざるを得なかったわけだ。

 

 

 

 元魔族の子たちは皆、贖罪を望んだ。

 魔族は多かれ少なかれ、人間を食い殺してしまっている。

 故に、こんなにも強すぎる罪悪感には耐えられない、自分の犯してきた罪を少しでも償いたいと、誰もがそう望むわけだ。

 

 だから、自分なりの生活をしつつ、コツコツと人助けをするように説得したのだけれど……。

 そうなると自然、我輩と共に旅をしている2人は何なのか、という話になる。

 で、こうして旅をしながら人の困りごとを解消することが彼女たちなりの贖罪の道であると告げると、今度は「それならば私も一緒に!」となるわけだ。

 

 まぁ、彼ら彼女らにとって、我輩は父親のようなものだろう。

 離れたくないという気持ちは、わからないでもないが……。

 

 我輩とて人の身。父性愛にも異性愛にも上限というものがある。

 いや、愛自体には上限がなくとも、それを振りまける体は1つきり、という表現が正しいか。

 どうしたって、元魔族の子たち全員を愛せる程の余裕はない。

 

 その上、今アウラ君が服従させている飛竜は多くてもあと1人しか乗せられないらしいし、大人数で移動するとなれば無為に注目を集めてしまう。

 元魔族の子を片端から旅に同行させるのは、色々な問題が付き纏う。

 故に旅に帯同するのは、自分とリーニエだけにすべき……と。

 旅を始めた頃に、アウラ君にそう主張されたんだよね。

 

 まぁ、その目には合理性と同時、多少の下心も滲んではいたんだけど……。

 それくらいは、可愛らしい人間性と言っていいだろうね。

 

 

 

 多少の私欲が差し込まれていようと、アウラ君の意見は間違いなく正論だった。

 我輩としても、成り行きで最初に人にしてしまった2人はともかくとして、基本的に元魔族の子たちには自分なりの新たな生活を確立してほしいと思う。

 

 何故かと言うと、いつ我輩が死ぬかなんてわからないから。

 依存先を失った子供程、悲惨な末路へ走るものもないのだし。

 

 しかし、彼ら彼女らを人間として生んだのは我輩だ。

 リーニエ君やアウラ君も含めて、無責任に放り捨てるのは決してよろしくない。

 はてさてどうするべきか……。

 

 そう悩んでいると、流石は500年の年の功というべきか、アウラ君が案を出してくれた。

 

「それなら、元魔族の互助団体を作りましょう。おじさまが元魔族を増やせば増やすほど、みんなの生活は安定するし、何より孤独ではないという事実が皆の糧になるはずよ」

 

 驚くべきことに、アウラ君がこの提案をしたのは、彼女が人間になってから2週間足らず。

 魔族は社会性のない個人主義の集団らしいし、こうした人間らしい組織の編成も、短期間の人間文化の学習によるものだろう。

 この学習意欲と吸収速度、流石は魔族だった頃に七崩「賢」と呼ばれていただけあると思わされるね。

 

 いやはや、もしも魔族アウラが魔法の研究ではなく人間の研究に心血を注いでいたら、相当驚異的な魔族だっただろうなぁ。

 まぁ魔族の生態からして、そんな研究をする変わり者はそうそういないだろうけども。

 

 

 

 そんなわけで、我輩たちは元魔族たちによる互助団体を作った。

 とは言っても、そこまでご大層なものでもないけどね。

 会費なども発生しないし、活動内容はお互いに困ったことがあったら積極的に助け合うという緩い設定。

 とにかく、もしも追い詰められた時に誰かを頼れる、そして頼ってきた誰かを助けられるという状況の整備こそが大切なのだ。

 

 で、各地でオラッした元魔族君たちを、この集いにご招待。

 集いの名は「催眠種付け後援会」!

 各地にいる特殊な魔力波形(当然ながら我輩にはよくわからない)を出しているメンバーの前で合言葉である「信じよ、されば催眠されん」とか「死後種付けにあう」とか「催眠種付けおじさんと和解せよ」とか唱えると、同志として協力を得ることができるぞ!

 ……我輩が言うのもなんだけど、それでいいのかな君たち。後で後悔しない?

 

 更にアウラ君のアドバイスを元に、季節が巡る毎に1度情報交換のための集会を開くことにしたり、緊急時のホットラインとして『彼方に声を届ける魔法』を教えてもらって元魔族の中で共有したり、逆に元魔族の立場を危うくする存在への対処として簡単な規則と罰則を定めたり、魔族に会った場合の対処を決めたり、新たに魔族にした子たちにこういった事情を説明したり。

 

 我輩は我輩で、色々と忙しない毎日を送っていたのであった。

 

 ……おかしいな。我輩、楽しい催眠種付けライフを送るはずだったのに、なんだかすさまじく働いてる気がする。

 まぁ昼に頑張った分、夜にはリーニエ君やアウラ君に慰めてもらえるので、催眠種付けおじさんとしては問題ないのだけれども。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 以上が、この2か月の旅路の過程となる部分、その概要だ。

 

 勿論、実際にはこの中で色々とあった。

 

 アウラ君が考え込んで魔法の制御が緩んだ瞬間、リーニエ君が気流に巻き上げられて飛竜から落ちかけて、大慌てで引っ張り上げたり。

 アウラ君が読んでいた本を街の子供に汚されて、「まったく」とおでこをツンっと突いて初恋を奪っていったり。

 どこからか我輩の存在を聞きつけた魔族4人に待ち伏せされて乱戦になったり。

 

 まぁ、本当に色々あった。

 漫画にすれば恐らく2冊分くらいにはなるだろうくらいにはたくさんのイベントがあった。

 

 

 

 だが、それはともかく。

 グラナト伯爵領を出発してから、おおよそ2か月。

 

 我輩たちは無事、北部高原の入り口となる関所に辿り着いた。

 

 ここから目的地の黄金郷とやらを目指す予定だったのだが……。

 

 

 

「お前たち、冒険者か。北に行きたいのか? 気の毒だが、今は北部高原は立ち入り禁止だ。

 魔族どもが前にも増して暴れててな。入るには一級魔法使いの同伴が必要だぜ」

 

 

 

 ……ここで、思わぬ足止めを喰らってしまったのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「さて、これからどうすればいいと思う?」

 

 取り敢えず関所から出て、少し離れた森に駐車している飛竜に向けて歩きながら、2人と相談。

 

 北部高原の関所は、一級魔法使いの資格を持つ者が1人以上同伴しなければ通れないらしい。

 当然ながら我輩たちは、そんな資格を持ってはいない。

 

 我輩は催眠種付けおじさん、魔法使いの素養なんてあるわけもない。童貞なんてとうの昔に捨ててしまったし。

 リーニエ君とアウラ君の元魔族組も、人になってからはずっと旅続きだったし、そんなものを取る余裕はなかった。

 ……いやまぁ、彼女たちの場合、昔の話とはいえ敵対組織の総本山の1つであった大陸魔法協会を訪れるには、そこそこ抵抗感があったとは思うけれども。

 

 となると……。

 

 

 

「道は、可能不可能を考えず、大きく分けて4つね」

 

 我輩の思考を、アウラ君が代弁してくれた。

 

「1、北に向かうこと、及び大魔族マハト討伐を諦める。

 2、一級魔法使いに協力を求める。

 3、手配されることも覚悟の上で、竜に乗って結界魔法を破りながら関所を飛び越える。

 4、私たちの誰かが一級魔法使いの資格を取得する」

 

 一度そこで区切ってから、彼女は少しだけ強張った口調で続ける。

 

「……先に言っておくと、私は1を選びたくはないわ。

 マハトは大魔族の中でも危険な分野に入ると思うし、今の人類にマハトを倒せるかはわからない。

 同じ七崩賢として、私が倒すのが最も勝算が高いと思うの」

 

 だから、2人が諦めると言うのなら……と続けようとしたアウラ君を、リーニエ君が遮った。

 

「アウラ、だからそういうのは駄目。

 私もおじさんも、アウラを手伝いたいし一緒にいたいから旅をしてるんだよ。ね?」

「ああ。君の償いと、そして人類の安全。そのためなら一肌脱ぐとも。

 というわけで、選択肢1は駄目だね。どうにかして一緒に北を目指そう」

「ええ……ええ、ありがとう、2人とも」

 

 そんなわけで、まぁ元より我輩やリーニエ君の頭には存在しなかった選択肢ではあったものの、北行きを諦めるという選択肢は棄却。

 となると、残りは3択か。

 

 

 

 どうするかなぁと、それぞれの条件を脳内で並べていると、リーニエ君が口を開く。

 

「アウラはわかってると思うけど、3番も無理だよ。北部高原以北は魔族も人もレベルが違う。おじさんを守りながら2つの陣営からの逃亡劇っていうのは、現実的じゃない」

「そんなに……?」

「他の世界から来たおじさまは知らなくて当然だけれど、かつての人類と魔族の戦争の時、魔族側は北に、人類側は南に拠点を構えていたのよ。

 そして80年前に魔王は倒され、魔族側はその勢力圏を更に北に押し込められた。結果として今は、北には比率的により強い魔族が集中するようになって、それを押し留めるために人類側もより強い兵を北に送っている状態ね」

 

 なるほど、そういう経緯が。

 

 ん? いやしかし、それならなんで魔族アウラはグラナト伯爵領にいたんだろう。

 かつては魔王軍の七崩賢っていう、いわゆる四天王的なつよつよ魔族集団の一員だったはず。

 北側の陣地防衛に回るのが妥当である気もするが……。

 

 ……ああいや、そうか。

 魔族アウラが馬鹿真面目な性格だったとすれば、南の方まで勢力が伸びている時に侵略し損ねた都市に未だに執着していた、とかそういう可能性もあるか。

 それだけで人類の文化圏まで踏み入ってくるとか、ちょっとどうかと思うけれども。

 

 

 

「ちなみに、レベルが違うって言うけど、例えば兵士で言えば、どれくらい強いんだい?」

「私は多分、近衛隊長級だと普通に負ける」

「私も、もう人間相手に悪用する気はないけれど、もし使ったとしても『服従させる魔法(アゼリューゼ)』が発動するまでに腕を斬り落とされかねないわね」

「それは強すぎない?」

 

 リーニエ君やアウラ君の元の体の持ち主は、片や100年、片や500年、魔法と人殺しの研究と訓練をし続けて来た。

 その技術は彼女たちの望む望まないに関係なく、体と記憶を共有する彼女たちへと引き継がれている。

 

 そんな彼女たちをして、ここまで言わしめるとは……。

 どうなっているんだ、この世界の人間。

 やはりファンタジー世界では人間側も強くなるものなのかね。

 

「人間は魔族に比べると平均値は低いのだけれど、その分時々、よくわからない突然変異種みたいな存在が出て来るのよね……。ハイターなんかが良い例だったわ」

「ハイター、というのは?」

「80年前の勇者パーティの僧侶の名前ね」

「うん。あの人は酷かった……」

 

 リーニエ君とアウラ君は顔を合わせ、げっそりとした表情を浮かべる。

 アウラ君は七崩賢として勇者パーティと戦ったという話だったし、リーニエ君も勇者パーティの戦士の動きを見たことがあるという話だったね。

 

 ……この2人の元になった魔族、何気に勇者パーティと会敵してもなんとか生き延びている、結構稀有な例なのだ。

 だからこそ、そのハイター氏の異常性というものを知っているのだろうけれども。

 

「前に言ったかもしれないけれど、基本的に魔力の総量は鍛錬した時間に依存するの。だから私の魔力はリーニエの大体5倍にあたるわ」

「なるほど、察するにハイター氏の魔力量がおかしかったという話なのだね。どれくらい多かったんだい? 年齢の2倍くらい?」

「25かそこらで当時の私より多かったから……20倍くらい?」

「わぁ」

 

 すごい。

 いや、すごいというか、常識外れすぎる。

 

 そりゃあ強いはずの魔族たちも手こずるはずだよ。

 無からとんでもない強敵がポップしてくるのは、なんとも頭が痛いね。

 我輩、人類の味方でよかった。

 

 

 

 ……と、少し話が逸れてしまったか。

 そろそろ本題に戻ろう。

 

「では、残る選択肢は2つ。一級魔法使いに協力を求めるか、あるいは我輩たちの誰かが一級魔法使いの資格を取得するか、だね」

「協力を求めるのは……正直、怖いところがあるわね」

「アウラ……魔族アウラは、一般的には討伐されたことになってるみたいだけど、最近までかなり暴れてたから、強い魔法使いには私たちの正体がバレちゃうかも」

「確かに、そういう懸念もあるね」

 

 今の彼女たちは既に角をなくし、その強大な魔力も制御して抑えているらしいが……。

 相手が強力な魔法使いとなれば、共に北部高原を行く中で、何かの拍子に彼女たちの体が魔族のものであるとバレてしまうかもしれない。

 

 この選択を選ぶ場合、正体バレを防ぐため、アウラ君の強力な魔法は隠ぺいしなければならないので、竜のタクシーは使えない。

 しかしそうなると何か月、あるいは何年とかけた地道な移動となるわけで。

 その期間、怪我をした時に切り離した部位が塵になったり、魔力制御が揺らいでその莫大な魔力量が露見すれば、彼女たちの正体を隠しきれなくなるかもしれない。

 

 我輩たちの目的は大魔族マハトの討伐であって、決して人と争うこと、人の世を乱すことではない。

 となると、一級魔法使いの協力を求めるという選択肢は、リスクが高すぎるか。

 

 

 

 ……いやしかし、残った最後の選択肢は、ある意味それ以上にリスクの高いものではあるのだけれど。

 

「となると、残ったのは……我輩たちの誰かが、一級魔法使いの資格を取る、か」

 

 先程関所で親身な衛兵君に教えてもらったが、一級魔法使いの選抜試験は大陸魔法協会の主催で、行われるのは、3年に1度。

 幸運なことに、次の開催は4か月後らしい。

 

 開催されるのは、ここからはだいぶ南に行ったところにある聖都という場所と、それよりはだいぶ近所にあるオイサーストという場所の、2か所。

 

 受けるとすれば、オイサーストへと飛ぶことになるだろうが……。

 

 

 

「大丈夫かい? あの衛兵君曰く、一級魔法使い選抜試験は……魔法使いとの命を賭けた戦闘も頻繁に発生するらしいけれど」

 

 リーニエ君とアウラ君は、人を殺してきたことを強く強く悔いている。

 だからこそ、人と殺し合いに発展するかもしれないこの試験に抵抗感があるのではないかと思ったけれど……。

 

 我輩の想像を超えて、2人は覚悟を決めたように頷いた。

 

「北に行くためだもの、仕方がないわ。それに、殺し合いって言っても、私たちからは攻撃しなければいいだけなんだから」

「アウラ、逃げるのすごく上手いもんね。魔族だった頃も、南の勇者とかあの勇者パーティから逃げ切ってるし」

「褒め言葉として受け取っておくわ。……そう言うリーニエだって、フリーレンやあのフェルンって子が敵になった場合はともかく、普通の魔法使い相手なら、傷つけずに無力化するくらいはできるでしょう?」

「それくらいなら」

 

 ……いや、そうだよね。

 極まれにとんでもない人たちがいるってだけで、基本的には彼女たちってめちゃくちゃ強いんだよね。

 

 たとえ一級魔法使い選抜試験と言えど、この2人なら正体がバレることもなく、大きな傷を負うこともなく、簡単に突破できるに違いない。

 

 

 

 そう、この試験に、フリーレン氏やフェルン君のような圧倒的な実力者が参加しているようなこともない限りは──!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 と。

 そういった経緯で、我輩たちは北に向かう旅を一時中断。

 

 オイサーストの大陸魔法協会に向かい、ひとまずは一級魔法使い試験参加に最低限必要な五級魔法使いの資格を確保し、人助けと魔法の鍛錬とオラッ催眠! しながら、試験開催の日を待った。

 

 そうして、4か月後……。

 

 

 

「ふっ……フリー、レン……?」

「アウラ? ……思ったよりも早い再会だったね」

 

 大陸魔法協会支部の入り口前で、フリーレン氏たちと再会したのであった。

 

 

 







 ついにアニメが一級魔法使い選抜試験編に突入したということで投稿再開です。
 おじさん視点から離れてしまいますが、黄金郷編が来るまでの箸休め、番外編と思ってお楽しみいただければ。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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