魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「はっはっはっはっ……」
ミッドは暑いな、と俺は市街地をジョギングしながらマルチタスクの思考の中の一つでそんな感想を抱く。暑いと言ってもこの世界、第一世界ミッドチルダは夏ではなく春だ。普通なら過ごしやすい天気で、暑いなどと世迷言を吐くようなことも早々ないと思う。じゃあなんでそんな世迷言を俺が吐いているかと言えば単純、俺が走っているからだ。
「だー、くっそ……いま何時だよ……調子に乗り過ぎた。まさか走ってたらベルカ自治区まで行っちまうだなんて。こういう時に限ってフラムもリッターもオーバーホールメンテだもんだから、時間も場所も分かったもんじゃねえ」
いつもは両手にあるはずの二つのデバイスの待機形態がないおかげで、俺は連絡することも、時間を見ることも忘れてただただ自分の体を鍛え上げる作業に没頭してしまって、してしまった結果がこの茜色の空なのだ。いつもだったら非人格型のデバイスとはいえ、タイマー程度のことはしてくれるからいい時間で終われるのだが、如何せんそれがないと妙に調子が狂う。
今頃自宅で二つのデバイスのオーバーホールを終えて夕食の準備をしている相棒が不機嫌にしてそうでちょっと背筋に嫌な悪寒が走ったがきっと大丈夫だ、そのはず。うん。決して俺が方向音痴を発揮したとかそういうわけではない。単純に時間がかかり過ぎただけなのだ。誰に言い訳してるんだ俺は。とにかく自宅までこのままのペースであと1時間くらい……遠いな!走り過ぎたわ。
いっそのこと、
「お、航空隊。こんなところを飛んでるだなんて何か事件……ってそれもわからんか。あとでいいや」
空を見上げると、茜色の空に統一された軍服のような恰好をした人たちがこれまた杖のような武器を持ち、編隊飛行で空を飛んでいるのが見えた。首都航空隊、あらゆる世界を管理することでお馴染、通称管理局のミッドチルダ地上本部に所属する部隊の一つだ。空を飛ぶ魔法の習得が前提なのでエリートだったと思う。
そんな対テロリスト専用、みたいな部隊が聖王教会という宗教組織のおひざ元に近いベルカ自治領の近くを飛んでいることに、俺はイヤなきな臭さを覚えて顔をしかめた。3年前のJS事件と呼ばれるミッドチルダが半壊した事件をきっかけに管理局の態勢が見直されたおかげでむしろ事件後の方が犯罪率が低下している。
それなのに、航空隊が空を飛んで何かを探している。それにきな臭さを覚えない魔法関係者はいない。特に今は魔導士、俺の場合は騎士になるのだけどその魔法の杖たるデバイスを所持していないわけで、それは何かあった場合非常にめんどくさいことになってしまうからだ。具体的には戦力低下的な意味で。
何せ俺はデバイス抜きだと飛行魔法も、射砲撃も、おまけに拘束魔法も使えない。使えるのは先祖伝来の身体強化魔法と騎士名の由来でもある防御魔法のみ。戦闘で負ける気はさらさらないが、不必要な戦闘は避けるべきだ、うんうん。ととりあえずどこの所属か見ようと強化魔法で目を強化して猛スピードで空域を離脱する航空隊の後ろ姿を眺め、やっぱり地上本部所属の部隊だとため息をついて視線を下に戻した。
(……けて……!だれか……だれかぁ……)
「……ん?」
頭の中に響く声、これは思念で言葉を伝える魔法、念話だ。しかし珍しい、イマドキデバイス一つで映像付きで通話ができるのにもかかわらず、念話、しかもターゲットを絞らないタイプの広域念話。まあそんなことはどうでもいい、いま助けてって言ったよな?明らかに幼い子供の声だ、しかも……泣きかけてる。
念話の発生源の傍受なんて器用なことはできないし、この念話の相手を知らないので念話で返して話をすることも難しい。こういう時、デバイスがあれば……!ないものねだりをしてもしょうがない。通信端末も持ってない俺にできることは、これに限る。
身体強化、全身に胸の中央にあるリンカーコアから魔力を供給して身体能力を悉く跳ね上げる。それは当然、運動能力だけではなく五感も含めて。当てもなく走り出した俺の目の前に車が横切った。何の変哲もない、黒の大型車。ただし、フルスモーク。強化された視力がスモークを貫通して一瞬中の様子が見えた。
車の中には男が6人、運転席、助手席に一人づつと後部、最後部座席に二人づつ、そして……!後部座席、男に挟まれるように座らされた、かなり小柄な女の子が見えた。目隠しをされて、口に布を咥えされた上でワイヤーロープで拘束されている。間違いない、あの子だ。一瞬でも姿が見えたなら十分だ、念話が繋がるから。
(聞こえるか?広域念話のままでいい、返事できるか?)
(ふぇ……あ……はい、できます。あの私今)
(確認だけど、車の中で目隠しされてる金髪の女の子、君?)
(はいっ!今私どこで何されてるのか分からなくて、どこに向かっているのかも……!あの管理局に!)
(ごめん、今デバイスも通信端末も持ってないんだ。後を追って助けるから、君は落ち着いて、この念話を切らないようにしてくれ)
当たってほしくない予想が当たった……!ああ、もう!なんでこんな時に!念話の子、こんな時になんだけどかなり優秀だ。俺の念話が入った瞬間にそのまま俺に一直線に広域ではなく絞って念話を飛ばして来た。目隠しで俺の姿は見えないはずなのに。つまりそれは、素で念話の逆探知をあっさり成し遂げたということだ。泣きたくなるほど優秀だ、適性が偏った俺からしたら羨ましいよ。
(とにかく追いかけるよ。離されそうになったら悪いんだけど最悪車を無理やり止めるから、出来る魔法を教えて欲しい)
(え、でもデバイス持ってないって……)
(これでもベルカの騎士だ。最低限の魔法はデバイスなしでも使える。君さえ奪取できれば勝ちなら、やりようはいくらでも)
(……でも)
(ま、任せとけって)
かなり不安そうな念話の先の声に強がりを返して、希望を期待してさっき航空隊が去っていった空を見る……まあ戻ってくるわけないよな。視界の端から車が消えないうちに、俺は身体強化の魔法を強めて駆けだした。幸い車は、俺を捕えてはいないらしい。その隙に街灯の上に飛び乗ってその上を移動するようにして車を追いかける。
「ッチ、走り込むんじゃなかった……!」
車は閑静な住宅街を抜けて、ベルカ自治領の外れにある自然と廃墟が混在した保護区に進んでいく。消費した体力への悪態をついた後に、マルチタスクで脳みそフル回転。明らかにおかしい所へ考えを深めつつ、街灯から木に足場を移動して追跡を続ける。
しかし、おかしい。こんなに堂々と逃げているにもかかわらず、さっきから管理局員どころか人っ子一人いない。確かにここら辺はベッドタウンではあれど、見回りはされている。JS事件の記憶はまだ新しいからな。だけど、それに出くわさないってことは、見回りの時間を把握したうえでの計画的な犯行なのだろう。
そうか、さっきの航空隊はこの子を探してたんだな?そうするとこんな場所に航空隊がいた辻褄が合うけど、そうすると別の問題が発生することになる。この子、何者なんだ?言っちゃ悪いんだけど戦力としては対テロリストみたいな感じの首都航空隊が、誘拐事件ごときに動くのは少々大袈裟だ。普通なら武装隊のはず。
うーん、わからん。分からんけど……それは助けた後で考えればいい。見た感じ、俺に気づけていないということは魔導士はいないはずだ。いたとしても低練度、デバイスなしの身体強化の魔力を感知し損ねているんだからそりゃそうだ。銃などの質量兵器で武装している可能性はあるけど、やってみねえとわからないよな。
(今から君を助ける。出来るだけ右側の窓によってくれ!いくぞ!)
(えっ!?へっ!?あっ、はいっ!)
少々困惑気味な返事が返ってきたけど、意識はさせられた!どうやらまだ念話以外の魔法は使えないらしいので、一発勝負だ。俺はグッと足に力を込めて、足場の木から弾丸のように飛んで車の右前の扉、つまり運転席に取り付いて、素手で窓を貫き、ハンドルを力任せに引きちぎる。
「なっ!?」
「次ぃ!」
そして、後ろのドアを片腕でドアごと外して投げ、続けざまにその傍に座っていた男を外に投げ出す。声にならない悲鳴を上げて後ろに消えていく男を無視して俺は車の中に体を突っ込み、目的の女の子をひっつかんで強く抱き留める。案の定、質量兵器で武装していた男たちは狭い車の中にいるにも関わらず躊躇なく誘拐対象を支えている俺に向かって発砲した。
「盾」
「っ!てめえ!魔導士か!」
「残念、騎士だよ。じゃあな」
俺の体の前にバリアによる防護フィールドが発生して銃弾を残らず防ぐ。プロテクションと呼ばれる一般防御魔法だ、俺はベルカの騎士なのでパンツァーって言うんだけどな。まあ俺のは一味違うくらいには硬いけど。そして、俺は身体強化を全開にして車から飛び出す。強化魔法こみの力で足場にされた車は車体を変形させた上で真横からトラックにでもぶつかられたような轟音を立てて横転する。ざまみろ。
足の裏に魔力を集中して着地の勢いを殺すが、車を出た時に力み過ぎて勢いがつきすぎたのか10mほど地面を削り取ってから俺は整備はされているものの古びたアスファルトの上に止まる。安全確認、後方に俺が投げ出した男がうずくまった状態で気絶している。前、横転した車が逆さまになって車輪を回している。かなり大きい音が出た、これで管理局が気づいてくれるといいんだけど。
「大丈夫か?悪いな乱暴にして」
「……っ!……うぅ……ううぅぅ~~~~」
「……あー、怖かったよな。頑張ったんだな、っし、目隠しとってっておわっ!?」
「てめぇぇぇガキィィィ!!そいつを返せ!」
助けられた、ということが分かったのだろう。女の子は俺の胸に顔を押し付けて嗚咽を漏らし始めた。流石の俺でもこれには不愛想ながらもへたくそな慰めをするしかない。それで女の子の目隠しを取ろうとしたときだった。車の最後部の座席から窓を銃で割って出てきた男が俺に向かってやったらめったらに発砲してきたのだ。もうどうでもよくなったのか、マシンガンらしき銃を両手に持って盛大に発砲音を響かせている。
チュイン、と一発目が俺の真横を通った段階で女の子を肩で庇いつつ前にシールドを発生させて弾丸を防ぐ。三角形のベルカ式の魔法陣でできたシールドがさっきの受け止めるタイプのプロテクションとは違い、弾丸を弾いて防御する。ガチッと音がして男の持つ銃が弾切れを教えてくれる。俺は女の子を庇ったまま前に出て男を殴り飛ば、すところで男の体に無数の光の縄が絡みついて、行動を封じた。
『管理局首都航空隊です。双方戦闘行為を中止し、こちらの指示に従ってください』
「……くそっ!!」
「……あー、助かった。あれ、俺これ犯罪者じゃない?」
決められた場所以外で正当防衛を除き、許可なく魔法を用いた戦闘をするべからず……管理局の法律の一つだ。どうにかする手段がなかったとはいえ、思いっきり違反した。まあ、いいや。最悪今通ってる学校から退学になるだろうが、そのときゃ嘱託魔導士の試験でも受けるとするか。まあ、それよりも……助けられてよかった。
シールドを消して空に浮いている首都航空隊のお姉さんに対し、女の子を支えてない方の手をあげて戦意なしをアピールする。それを確認した首都航空隊のお姉さんは俺に向けていた杖型デバイスを下ろして耳につけている通信機に手をやって仲間と交信をしている。俺はその隙に、女の子の目隠しと噛まされていた布を取ってやる。
……なるほどな。と俺はどうしてこの子一人のために首都航空隊が動いていたのかをようやく理解する。豊かな稲穂のような金色の髪、そして涙で濡れた翠と赤の虹彩異色……ご先祖様から継いだ記憶にある通りの容姿だ。彼女の名前は知らないが、その特徴を持つ偉人が一人、ご先祖さまの知り合いにいた。
聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト、聖王教会が祭るベルカ時代を終焉に導いた王にして、聖女とも呼ばれた女性だ。現代にいたるまでにその血統は完全に途絶えたっていう話を聞いているが、どうやら事実は歴史よりも相当複雑な様子だ、俺が知ることなんざ何もないけど、首都航空隊が動いている時点で血統は保証されてるようなもんだろ。
「……無事か?」
「えっと……その、はい……」
魔力で彼女を縛っていたワイヤーを焼き斬ると、ここでようやく感情が理性に追いついたらしい少女は、かぁ……と赤くなりつつも素直に返事を返してくれるのだった。
リリカルなのはVividを見て今さらハマりました。時系列的には原作1年前、サウンドステージXがあった年と同じですね。出来るだけ高頻度投稿をして行きたいと思いますのでよろしくお願いします。主人公のプロフィールなどについては順次作中で明かしています。
それでは次回もよろしくお願いします。よろしければ感想と評価を頂けると幸いです。