魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
『強い!ゼッケン895番、またも1撃KO!スーパーノービスからエリートへランクを上げたぁ!』
「ありがとうございました」
俺は目の前で気絶している相手選手に向かって頭を下げる。今回の相手は
それで撃たれた拳を握って肩関節ごとサブミッションで破壊しつつ、プロミネンスロアをカートリッジ無しで放って勝利、って感じだ。凄いな、サブミッションで壊したのもクラッシュエミュレートで再現できるのかよ。本気でぶっ壊しちまったと思って加減忘れるところだった。
やっぱり俺より喜んでるヴィヴィオに断ってから今日の試合はすべて終わったのでサクサクっと着替えて帰ることにする。女子の方はともかく、男子の方には俺以上に注目を浴びているルーキーはいないみたいだし、女子の方はどうせ世界戦優勝した後でしか戦わない。娯楽目的で見ることはあれど、対策目的にはまだ早すぎる。というかジークが参加するなら普通にアイツがまた制覇しそうだな。
公式戦負けなし、ジークリンデ・エレミアが持つ驚異的な記録だ。あいつはDSAAに参加した時から負けたことがない。うん、目標は高いほどいいというし、今んところはあいつと世界戦のエキシビションで戦うのが目標かな。それにはまず、都市本選を勝ち抜いて世界戦の代表にならないといかん。流石にそこまで行きゃあラフィとユニゾンして本気で向かっても大丈夫な奴らばっかだろ。くそー、純粋なベルカ式は非殺傷っつー概念がないからな、殺傷設定にして攻撃したと思われて失格なんて笑えない。
とりあえず今はラフィがフラムとシュロスにちゃんとした非殺傷設定を積むように弄ってる途中だからそれが完了したら試運転がてら誰か……それこそなのはさんあたりに模擬戦のお願いを……ダメだ、あの人忙しいわ。同様にフェイトさんも忙しいだろうし俺より年下なエリオとキャロですら働いている。あれ?今年で俺卒業だけど進路どうしよう?金は別に困ってないんだけど……何せ、資産だけはあるからな。ご先祖様ありがとう。
約束通りヴィヴィオと何回かスパーリングをした後にそろそろいい時間になったなとノーヴェさんが言うものだからヴィヴィオはずいっと俺に近づいてこの後予定があるかを尋ねてきた。
「先輩!お付き合いありがとうございましたっ!あの、この後私無限書庫に行くんですけど……ご一緒にどうですかっ!」
「悪い、気になる選手が出てるっぽいから見に行くわ。付き合ってやりたいけど俺は無限書庫の入館パス持ってないからなぁ……読書、好きなのか?」
「そうですか……はい!高町ヴィヴィオ!本好きが高じて無限書庫の司書資格を取りました!」
「お前……凄いなあ。古代ベルカの文献でよければ家で保管してるの見せてやるよ。面白いかどうかは分からんが、当時の王様の手記の写しとかもあるぞ」
いやマジで凄いな。シュトゥラを辞したアロイジウスはオリヴィエ陛下を看取ってからは流浪の騎士として様々な国家に仕えた。初代から5代目あたりのベルカ最末期の時代だな、そこからはもう平和だしベルカは滅ぶしで主君はなくなり、技と魔法を伝えるのに終始してたわけだ。だから家には、王様から下賜された様々なものが眠ってる。骨董品の山だ。
そんでヴィヴィオがとったという無限書庫の司書資格、無限書庫はありとあらゆる世界の文献が収められてる魔窟の通称で、探せばどんな情報もあるらしい。ただ、未整理な部分と内部がダンジョンみたいになってるらしくて情報を探すのに時間がかかるとか。今そこの代表やってる人が整理を進めているらしいんだけどな。そんな場所の司書の資格をこの年で取得するのは凄いとしか言いようがない。
ほんとですか!?やったー!と喜んでくれるヴィヴィオの新たな才能を垣間見た俺はこれで埋め合わせになるかな?と当時の王様の家臣のせいでわしの胃が痛いという内容をひたすら綴った手記を思い浮かべて、もっとまともなものを貸してやろうと思うのだった。
「やってんなあ……」
ヴィヴィオとノーヴェさんと別れたところで俺は女子部門のエリアに繰り出した。会場をきょろきょろと見まわして目的の人物を見つける。真っ黒のフードを深くかぶった不審者スタイル。大きなポップコーンの箱を抱えて試合を観戦しているその姿……視線の先にあるのは一方的な試合を展開しているハルバード型のデバイスを持った金髪の少女、同年代っぽいな。イヤしかし、バカみたいな魔力してるな、しかも電気変換資質持ちか。
俺は同じ重装型の騎士甲冑を纏っている彼女が雷撃を纏わせた斧槍を相手に振り下ろして防御の上からダウンを奪うのを感心しながら、近くのスタンドでホットドッグを4本買い、目的の不審者スタイルの人物……ジークの隣に腰を下ろした。試合に夢中で俺に気づいてなかったジークは俺がどっかりと腰を下ろしたことで猫のように座ったまま飛びあがった。何それどうやってるの?
「よう、ジーク。応援か?」
「な、なんだカイ君かあ……驚いたぁ。うん、そやよ。あそこのリングで戦ってる子、ウチの幼馴染なんよ」
「へぇ~、強いな。斧槍の扱いも中々のもん……いや、家の斧槍術と似てんな。まー、ベルカは狭いしそういうこともあるか。それよりも、ジーク、ホットドッグ食うか?」
「いいのっ!?」
こいつ、食い気凄いな。それ見越して4本買ったんだけどさ。いい加減見てて暑苦しいのでホットドッグを手渡した後フードをバサッと後ろにやってやる。何するんとジークがジト目で俺を見るが、その不審者スタイルは逆に目立ってんだよ。堂々としてりゃバレてもそっとしておいてくれんだ普通は。ぷらぷらとアルミホイルに包まれたホットドッグを目の前にぶら下げるといつの間にか食べていた一切れのゴミを丸めて両手ではしっとホットドッグをキャッチする。犬かよ、チャンピオン。
「で、俺の試合どうだった?」
「相手が格下すぎてなんも言えないなあ。負けるわけないって感じがする。心配いらなかった」
「そらどうも。見てたんなら声かけてくれればいいのに」
「楽しそーにスパーしてる所に割って入るのはウチには無理!」
そう、俺がジークをわざわざ探しに来たのはスパーをしているときに俺の視界の端でこいつが見てることに気づいたからだ。ヴィヴィオも連れてきてもよかったかもしれないが、ジーク本人は聖王のことを覚えてなくても、ヴィヴィオがどう反応するか分からなかったので大事を取って別行動したわけ。
いつの間にか始まっていた次の試合もぼーっと見守る。やっぱ男子のと違って華やかだな、実用万歳!な男子部門の魔法と違ってある程度見た目に重きを置いている人も多い。なお、強い人物はそんなことはない。DSAAはあくまでも魅せるスポーツではあるのでどっちが間違いとかはないんだけど、単なる強さ比べをしているだけの男子よりもそりゃ人気が出るわなって感じ。
「ジーク、ここに居たのね。あら……?どちら様かしら。ジークに何の用?」
「ヴィクター!ちゃうよちゃうちゃう!ほら、この前話した、強い人!」
「あ、ああ……すいません。ジークったら気が小さいもので……てっきり知らない男性に絡まれてるものかと」
「いや、いいよ。カイト・エルンスト・アロイジウスだ。カイトでいい、誤解させて悪かったな」
「アロイジウス……!」
ヴィクターというらしいジークの幼馴染が試合を終えて戻ってきた。どうやら俺のことを悪質なチャンピオンのファンが無理やりジーク相手に絡んでいると勘違いしていたらしく、俺のことをキツイ眼差しで睨んではいたが、慌てて口の中一杯に頬張っていたホットドッグを飲み下したジークの取り成しによって誤解を解くことに成功した。
自己紹介するとアロイジウスの名に心当たりがあったらしく、まん丸に目を見開いた。うーん、斧槍術を見る限り古代ベルカ系のどっかの末裔じゃないかとは思っていたが、そもそも聖王教会に所属してないせいで記録が少ないアロイジウスの名を知っているあたり相当古い家系か、もしくは古代ベルカ通なのかもしれないな。
「し、失礼いたしました。ヴィクトーリア・ダールグリュンと申します。どうぞヴィクターと。かの有名な城塞の騎士の家系にお目通りできること、嬉しく思いますわ」
「ダールグリュン……!驚いた、血統が繋がっていたんだな、喜ばしい。よせよ、主君で言えばそっちなんだから」
「いえ、先祖がお世話になりましたもの。礼だけは尽くさせてくださいな」
「……ヴィクター、ウチにも分かるように説明してくれへん?」
「そうね、どこから話せばいいか……ダールグリュン王家は聖王戦争終結後の混乱期において、流れの騎士に支えられたことがあるのよ。それが……アロイジウス。シュトゥラの元筆頭騎士にしてゆりかごの門番だった偉大な騎士」
いやいや、マジで驚いた。ダールグリュン王家は雷帝と称された古代ベルカの王の一人でゆりかごが落ち、オリヴィエ陛下を看取ったアロイジウスがオリヴィエ陛下の遺体と共に身を寄せた王家だった。オリヴィエ陛下は死後自分の死体をいいように扱われるのを嫌がって、連れ立ってもらうよう頼んでいたんだ。シュトゥラに戻すことも先祖は考えたらしいんだが、クラウス殿下に死んだ自分を見られたくないという願いと、聖王家が難癖をつけてシュトゥラを攻める可能性があったから、アロイジウスは逆賊としてゆりかごからオリヴィエ陛下を連れて逃げ出し、ダールグリュン王家の庇護を受けた。
ゆりかごのコアを失ったためにゆりかごは動かず、聖王家は当時シュトゥラに匹敵するほどの国家でもあったダールグリュンと戦争をすることは断念し、緩やかに古代ベルカは衰退していったってワケ。ちなみにオリヴィエ陛下の遺体が見つかってないのはアロイジウスによって荼毘に付され、シュトゥラの思い出の場所に灰としてばらまかれたからだ。よくよく考えれば普通に逆臣だなアロイジウスって。
「当時ご先祖はダールグリュンには大分世話になったみたいでな、5年だったか?そんくらい騎士として働いたあとにダールグリュンに迷惑かけないように出てったってわけさ」
「……義務教育で習った歴史と大分違うんよ」
「そら聖王教会が主張してる歴史を疑うようなやつは少ないって。あそこほどベルカの歴史に詳しい所もない。ただ、聖王オリヴィエ陛下に関しては、俺の家の方が上手だっただけ」
「当時アロイジウスが使っていた斧槍術は今でも受け継がれています。あの……差し支えなければこの後屋敷でお茶でも……」
「ああ、さっき見た。似てるな、と思ってたがダールグリュンに伝えたのが残ってたんだな。いいのか?よくわからん男を屋敷に招いたりして」
「アロイジウス家なら話は別です。是非とも」
ダールグリュンについては初代以降に緩やかに交流が続いていたのだが、ベルカ王家が往々にして滅んでいったのが今の世界だ。ベルカという世界そのものは忘れ去られ、虚数空間のかなたに姿を消した。当時の王たちは市井に下り、あるいは自らを改造して得た力を恐れ、封ずるために眠りにつくか、自らの命を絶った。古代ベルカは、最も人の命に価値がなかった時代でもある。体にデバイスを埋め込んだりなんかは日常茶飯事だし、死体を兵器に変える技術すらあった。倫理観もぶっ飛んでいたわけだ。
ヴィクターは俺に対して美しいカーテシーを披露し、是非ともと誘いをかけてくれる。俺も彼女に騎士の礼を返してから誘いに乗ることにした。エドガーというらしい執事の案内で金持ちならばというノリで現れた長い車体の車に失礼させてもらう。栄養が偏る、とジークは抱えていたポップコーンをヴィクターにとられてしまう。おかんか?母親じみているなお嬢様なのに。
紅茶でよろしいかしら、と問われて素直に香りがいい紅茶を頂く。ヴィクターはどうも、ベルカ古代史に興味があるらしくて資料を集めているとのこと。ふーん、ダールグリュン王家の手記あるけどそっち残ってんの?あ、ない?写本する?貸すよ?エレミアについては俺もちょっと詳しくはねえなあ。資料漁ればあるかもしれんが如何せん検索魔法も使えなくてね。頭が悪いもんで。
ちなみに屋敷についたら3回くらい模擬戦をする羽目になった。どうやらアロイジウスの斧槍術を確認したかったらしい。まあ俺もフラムが斧槍だからちゃんと修めてはいるんだけどさ……流石に今日だけで10連戦くらいしてるから疲れたんだよなあ……。
初代の設定が積み重なっていくぜ。なんというか、自分が書くとヴィヴィオとかジークみたいな純粋で素直なキャラはわんこに行き着くんだなって思ってしまった。公式ではうさぎなのに。
ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします