魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡   作:防御特化っていいよね

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第16話 聖王教会

「んじゃー行ってくるわ。悪いんだけど留守頼むな」

 

「……やはり私も付いていくべきではないか、主カイト」

 

「ダメだ。いくらはやてさんの紹介でも、お前を見せてやるほど仲良くなった気もない。襲撃されてデータでも抜かれたら困る。ここの守護結界の中で待っててくれ」

 

 DSAAの地区予選が順調に進む中、俺は珍しく実家で朝を迎えて朝食を済ませていた。なぜかというと、今日ははやてさんの紹介、というかお願いで聖王教会のカリムという騎士に会う予定が入っているからだ。我がアロイジウス家は聖王教会に呼吸困難を起こす程重度のアレルギーを持っているのでアナフィラキシーショックを起こしそうにはなるが、会うと約束した手前ブッチするのも憚られるので俺が会いに行くことにしたわけだ。

 

 俺とラフィがまとまっていると仮に襲撃を受けてしまったら預かり物の聖遺物を取り出されてしまう可能性があるので別行動をするのだけど、ラフィだけ捕まっても困るので実家に敷いてある守護結界の中にいてもらうことにした。俺はまあ捕まっても人間なのでどうとでもなるが、ラフィはデバイス。物扱いするやつもいるからこっちの方が危ないわけだ。研究所送りにでもなったら困る。

 

 個人的に会う、と言っても護衛連れてくるかもしれないしな。はやてさんもどっちかというと聖王教会側だろう。そうなると万が一敵対した場合守護騎士たちなんかも相手しなきゃいかん。管理局の保護下であれどそれをどうとでも捻じ曲げる権力を聖王教会は持っている。使う使わないの問題じゃない、持っている事実があるだけで俺たちは警戒し続けないといけないのだから。

 

「それじゃ、行ってくる。日付超えて連絡なしに戻らない場合は死んだと思ってくれ。その場合は……」

 

「ああ、工房ごと虚数空間に落ちる。主カイトを追いかけよう。生きてたら拾い上げてくれ」

 

「了解」

 

 物騒な別れの挨拶だけ済まして俺は実家を後にする。目的地は八神家、今回はオフレコでの邂逅になるので聖王教会から離れた場所になったけど、やっぱり俺自身どうも聖王教会を信用できないんだ。初代の記憶は俺の記憶じゃないと分かっているんだけど、オリヴィエ陛下を犠牲にした聖王家が母体となっている聖王教会への不信感は拭えない。どんな人なんだろうなあ。

 

 

 

 

「ちょっと時間があるな……周り確認して逃走ルートを絞っておくか」

 

 我ながら聖王教会への信頼感ゼロで泣きたくなってくるな。分かってはいるんだ、はやてさんは向こうから繋いでほしいとやんわりと圧力を受けてはいるもののそのカリムという教会騎士については深い信頼を抱いていることは。そもそも聖王教会という宗教組織も別に悪いもんじゃない。結果的にとはいえ戦争を終わらせたオリヴィエ陛下を神格化し、信仰の対象にするというのはある意味では感謝の証でもある。

 

 オリヴィエ陛下本人はそれを全く望んでいないということを除けばだけどな。あの方は何もなければ、いや……やめておこう。もしもの話なんてするもんじゃない。初代は二人が想い合っていることを察してはいたが、状況が、立場が、運命がそれを許さなかった。すれ違いの最中でできることなんて限られてた。力不足の脳筋騎士とは笑える。

 

「あれ?ザフィーラさんだ。隣にいるのは……弟子か?」

 

「む?カイトか、どうした?今日は家で騎士カリムと会合をすると聞いていたが」

 

「……あー、時間がまだあるので万が一ドンパチになった時のために逃走ルートを」

 

「……そうか」

 

 俺の答えにザフィーラさんは苦笑と呆れと納得が入り混じった複雑な表情をする。守護獣であるザフィーラさんは普段は狼の姿で過ごしていることが多いらしいが、今は人型形態。どうも目の前で俺に気づかずミット打ちをしているヴィヴィオより何歳か年上っぽい少女を鍛えているらしい。

 

 ズバァン!と音がしてミットが盛大に揺れる。おー、いい脚力してるな。ヴィヴィオはまだスタイルを定めてないが、この子に向いているのは一撃必殺の強打型っぽいな。ふーん……格闘技に関してはまだ素人から抜け出せてないが、身体能力に限っていいえばかなりいいセン行くぞこれ。体内の魔力運用も雑だが身につければ化けるな、ヴィヴィオとは違った方向で才能の塊だわ。

 

 邪魔するのも悪いので俺はそそくさとザフィーラさんに別れを告げて八神家への道に戻る。とりあえず海岸線方面は逃走ルートとしては使えない。ザフィーラさんがいるからなあ、無理やり突破するのは無理だ、一番突破の目があるのはシャマルさんだが、旅の鏡で内臓を抜かれる可能性もある。守護騎士はどの人を相手取っても死線になりそうだ。あー、考えたくない。杞憂であってくれ。

 

「いらっしゃーい、カイト君!今日は……顔が死んでる!?」

 

「あー、すいません。多分今気分的には聖王戦争の末期で戦場に赴く気分に近いです。大体初代の感情が混じってるだけなんで気にしないでください」

 

「き、記憶継承者は難儀やな……ラフィは?」

 

「置いてきました。万が一があったら俺の死体だけでもラフィが保管するものは取り出せてしまいますし。ああ、俺が戻らなかったら彼女は虚数空間に落ちますので」

 

「死ぬ覚悟してきたゆうことか……溝は深いなぁ……もう来とるで、カリムと……護衛の騎士が一人やな」

 

 管理局の佐官という超エリートらしいでっかい家の玄関の呼び鈴を鳴らすと休日だからかかなりラフな格好のはやてさんが顔を出す。はやてさんの話題振りにそっけなくそうですか、と返して俺は靴を脱いで失礼する。俺が本気で死ぬ覚悟を持ってきたことが伝わってしまったのかはやてさんも若干表情を硬くしてこっちやで、と案内してくれた。マジで申し訳ないことしてるな俺……。

 

「カリム~、カイト君来てくれたで~」

 

 わざと明るい声を出して場を和ませようと努力してくれるはやてさんが扉を開けた先には、聖王教会のシスターの制服に身を包んだ女性が二人待っていた。ソファに座っている金髪の女性は柔らかい微笑を浮かべてはいるが一瞬表情を硬くした。そして暗めの桃色の髪をした女性は結構厳しめの視線を俺によこす。へーへー、不良騎士を見る目をしてくれてんな。事実だから何も言わんが。あっちにとっちゃ俺は大事な聖王様の聖遺物を頑なに渡さない一族だから一般のシスターたちはだいたいあんな目で俺らを見る。

 

「御足労頂き感謝します、騎士カイト。私はカリム・グラシア……聖王教会の修道騎士と時空管理局にて少将を務めています。本来なら私一人で来たかったのですが……」

 

「護衛のシャッハ・ヌエラです。申し訳ありません、騎士カリムに万が一があれば……と」

 

「カイト・エルンスト・アロイジウスです。まあ、知ってますよね」

 

「私は立会人やから、口は挟まんけど……双方何かしようとしたら止めるで」

 

 時空管理局の少将ときたか……聖王教会の重鎮と考えてもよさそうだな。はやてさんの忠告に俺は頷いて彼女の前のソファに失礼する。はやてさんは俺の隣に、後ろに控えていたシャッハさんはカリムさんの一声で彼女の隣に腰掛けた。さて……どうやって躱そうかな。そもそも論、向こうは俺にどうしてほしいのか……。

 

「騎士カイト・エルンスト・アロイジウスさん……その節は大変申し訳ございませんでした。こうして直接の謝罪の機会を頂き、感謝しております」

 

「やめてください。100年以上前のことです。そもそも家は、毒殺その物に怒ってるわけではないんですよ」

 

「……聖王教会の、体制のお話ですね」

 

「そこもですが……端的にまとめるならば信用が置けない、これにつきます。こんなものを未だに送り付けてくる時点でね」

 

 俺は卓上に持ってきていた聖王教会からの封書を纏めてバラバラと置く。開封していないものも持ってきたがどうせ中身は同じだ。はやてさんが一つ手に取って中身を確認するが……顔を顰めてすぐに封書を元にもどした。シャッハさんの表情を見るに、やっぱりこの封書は聖王教会の総意ではなさそうだな。カリムさんは封書を手に取り開けて、差出人を確認する。

 

「一応聞きますが、これそっちの総意と取っていいです?」

 

「ありえません、と返したいですが……信用がないですね。そもそも、アロイジウス家に接触するには詳細な許可が必要なのです。前例を再び起こしてはならない……なのに」

 

「差出人はタカ派として有名な男です。ヴィヴィオ陛下を今一度聖王として擁立し、ベルカを再興しようとしている男……」

 

「……聖王の威光の元、逆賊アロイジウス家に恩赦を施すので、聖遺物その他を聖王教会に差し出せ……なあカリム、ありえへんでこんなバカげた条件。何でこんなのが野放しになっとるん?」

 

 めんどくっせーんだこいつ。なまじ権力があってしかも小物の癖に証拠を消すのだけは非常に上手いんだろ。母さん父さんがまだ生きてた頃は鳴りをひそめてたみたいなんだけど、俺がアロイジウスを継いでから子供相手で強く出れると思ったんだろう。中々ファンキーな内容に封書の中身が変化していった。そして、俺がヴィヴィオに接触した時から……絡んでくる回数が増えた。

 

「まあこれは置いておくとしてもです。一部の暴走ということにしときますけど……それでも、申し訳ないですがあなた方が望むものを渡すことはできない」

 

「今日ここで、聖王陛下の戦腕について論議する気はありません。確かに聖遺物、教会においては最優先で保護をしたいことは間違いないですが……それを申し出るほど、私たちは厚顔無恥なつもりはありません」

 

「……一応は、信じます。それとどうしても聞きたいことが一つあります。答え如何によっては、断絶については考え直してもよいと思っています」

 

「なんでしょうか?」

 

「高町ヴィヴィオ、ご存じですね?彼女の血統……いや……はっきり言います。彼女は……デザインベイビーですね?」

 

 俺の言葉に場が凍り付く。はやてさんも、シャッハさんもカリムさんも、言葉を選んでいる様子がありありと分かる。そもそも、なんで俺が個人的にとはいえ聖王教会の人間と会う気になったかと言えばヴィヴィオの存在が挙げられる。もちろん彼女自身を如何こうするつもりは俺にはないが、いくら何でも似すぎている。オリヴィエ陛下を愚弄するようなことをしていないか、知りたかった。

 

「……………………そうです。彼女は……聖王陛下を母体としたクローンです」

 

「遺伝子提供はどこから?」

 

「……おそらくは聖骸布です。聖遺物として保管していたものを、とある司祭が盗み出しました。聖骸布は、行方知れずに。遺伝子マップは今も裏で取引されているでしょう」

 

「……そうですか」

 

 ミシミシと握り締めた手から赤い雫が零れ落ちてフローリングを汚した。結局は、彼女の願いはどれも踏みにじられているわけか、平和な世界を望みゆりかごに身を捧げ、眠りにつけたと思ったら死体ですら利用しようとする輩が湧き、死後果てしない時間が経ってなお……彼女に縋り付こうとするやつらがいる。ああ、気分が悪い。クラウス殿下に何と報告すればいいのか……ダメだ、初代が混じりかけてる。落ち着け、俺。

 

「確かにオリヴィエ陛下は、ゆりかごにより戦に終止符を打ちました。ですが、それは後世で崇め奉られたり、死体を切り刻まれて分身を作られたりするためではない。ただ、大切な人を守りたかった。それだけです。俺が怒るのは正直筋違いです、結局初代も陛下を見殺しにした一人だ。だからこそ、彼女の願いを尊重したかった」

 

「ヴィヴィオさんのことについては、申し開きもありません」

 

「カリムさんは当事者ではないでしょう。はっきり宣言します。アロイジウス家は高町ヴィヴィオを聖王とは認めない。遺伝子が同じだろうが、血統が同じだろうが……普通の女の子だ。もうこれ以上、オリヴィエ陛下もヴィヴィオもそっち(聖王教会)の事情で振り回すな」

 

「……肝に銘じておきます」

 

 逆臣の宣言がどれだけ効果を持つか分からんが、俺は古代ベルカの血を直系で引く人間だ。そして、当時の記憶を鮮明に保持している記憶継承者でもある。そいつが、聖王として認めないと言えばそれなりに影響力はあるだろう。カリムさんもどうやらヴィヴィオを聖王として擁立するつもりはないというのが言葉の端々から分かったので、この宣言をした。察してくれたらしく、うまく使ってくれることを願うだけだ。

 

「まあとりあえず硬い話はこれでいいですかね?とりあえず封書だけ止めてくれると嬉しいです、処分するのもとっとくのもめんどくさいんで」

 

「いきなり軽くなったなカイト君」

 

「ヴィヴィオに関する話だけは裏を取っておきたかったし、可愛い後輩が普通の生活を出来るようにサポートするのも先輩の仕事でしょう?」

 

「……いい先輩やなあ……こんな先輩が私も欲しかったわ。管理局の先輩といったらな?ホンマに人使いが荒くてもう」

 

 ぽかんとするカリムさんとシャッハさんをよそに俺は治癒魔法で掌を治癒したのち魔法でフローリングを汚した血液を浄化するのだった。肩がこるわ、真面目な話をすると。

 




 強気カイトくん。ヴィヴィオがいなかったら聖王教会と関わる気はさらさらなかったがヴィヴィオがいたのでおめーどうやって絶えた聖王の血統見つけ出したんだよオラァンとガンをつけに行きました。不良騎士だからね、仕方ないね。シャッハさんはちょっと頑固なのが作中から伝わってくる人だと思う。聖王教会もアロイジウスに関しては偏見マシマシなので。

 では次回。感想評価よろしくお願いします。
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