魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡   作:防御特化っていいよね

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第25話 本日の餌付け その2

「都市本選も、意外とすんなりいけましたね」

 

「いや、心配はしてなかったけどお前ほんとに初出場で世界戦にコマ進めるのかよ……苦戦っつー苦戦もしてないし」

 

「360度全方位から致死の攻撃が飛んでくるベルカの戦場よりは戦いやすいですよ?」

 

「比べるもんがおかしいんだよ」

 

 都市本選の決勝後の会話がこれである。苦戦という苦戦はしていないというが、決勝の人結構強かったんだけど。具体的には射砲撃タイプで小細工を弄する滅茶苦茶戦略が完成されている人って感想。惜しむらくは砲撃の威力がなのはさんには遠く及ばなかったことだ。両手両足をトラップバインドで縛られた時はマジで舌巻いたね。腕力で粉砕したら相手ポカンとしてたけど。ちなみにベルカ末期戦闘シミュレーターだと1秒止まると確実に死ぬので割とバインドは致死攻撃だったりする。あぶねえ。

 

「イクスも見てくれてたか~?」

 

「ああ、イクス様も楽しんでくれたようだ」

 

「そっか、よかった」

 

「特等席だね、イクスさん!」

 

 ヴィヴィオが持っているはやてさんに聞いたお店で買ったバスケットの中には、イクスと小さくなったラフィがひょっこりと顔を出して俺の試合を見ていてくれた。イクスの意識と体を分離した後の話だが、結局のところ体の世話は聖王教会にお願いして、意識の方は俺とラフィと一緒に暮らすことになった。イクスのやつは、ラフィに一番懐いているし、同じくらいのサイズになれるラフィなら安心だろ。

 

 急ピッチで小さいミニチュア家具などをはやてさんの紹介してくれたお店でオーダーメイドしたんだが、結構高かったな。流石管理局勤めの佐官、お金持ちだ。俺にはインテリアのセンスはないし、ラフィも使えるだけいいだろというベルカ末期思考なのでそこら辺はヴィヴィオがとても頑張ってくれた。イクスが両手をあげてすごい、と口パクで伝えてくれるのを笑ってみた俺は相手にもう一度頭を下げてからリングから出る。

 

「世界戦は結構先だな。女子部門が終わらんことにゃ始まらんか」

 

「あっちは多いからなー、人口が。男子の方は高ランクだとすーぐ士官学校に入校しちまうもんだから」

 

「高収入ですからねえ管理局。ちなみにこの前騎士カリムとお茶した時管理局入るぜーって言ったらちょっと青ざめてました」

 

「そりゃお前、聖遺物失うかもってなったら青ざめるよ。というか聖王教会に入ってほしいんだろ、はやてみたいに二足の草鞋でもいいんじゃないか?」

 

「まだ若干不穏なんですよね聖王教会の上の動きが。騎士カリムが牽制してくれてはいるみたいなんですけど」

 

 ここ最近家に女性がよく遊びに来るようになって若干肩身が狭い俺がノーヴェさんと前のように気安いやり取りをする。イサムのやつも、どうやら都市本選に通ったようだ。俺と同じように、一切本気を見せず。試すような剣筋は変わらなかったが、楽しみが出来て悪くないな。ちなみに我が家への来客頻度第一位はスバルさんである。仕事終わりとかに顔出しに来るんだ、2日に1回くらい。イクスも嬉しそうだから何も言わんけど。

 

 ちなみに第2位が高町家。ヴィヴィオは新しいお友達に今日あったことを教えて一緒に遊んでいる。楽しそうなのでそれもよし。第3位は、ヴィヴィオにくっついてくるノーヴェさん。いつも通りに接してくれて嬉しいなあ。ああ、そうそう。ノーヴェさんの御姉妹と一緒に両親の墓参りも済ませた。まあ、全員ではないらしいが悔い改めてくれているようなので俺から何かを言うことはないな。

 

 この後用事があるんで、と言ってみんなと別れる。ラフィはイクスと一緒にみんなでミッドチルダ観光に行くらしい。俺はちょっと気になることがあるんで、一足先に帰路に就くわけだ。その気になることというのは、ジークのことである。あの後ジークとはメールでやり取りをしているわけであるが、何時もだったらくだらない話を送ってくるアイツがそっけなく「ほっておいて」としか言わんのだ。

 

 もちろん、あいつの身に起こったことを考えれば放っておいてやるのも人情だが、助けてやりたいと思ってしまうのは傲慢だろうか。エレミアについては初代とオリヴィエ陛下、クラウス殿下と一緒に一人のエレミアがいたという話は覚えているし、彼女がエレミアの神髄を使いこなしていたのも覚えている。それだからこそ、腕前で劣るとは思えないジークがエレミアの神髄を使えないことに俺は首を傾げるのだ。

 

 俺は試合後の疲労感に包まれた体のまま……シャワー浴びたから汗臭くないよな?それはともかくとして会場からそのまま実家の土地の中にある川にやってきた。ジークが、住居を移動していなかったらここに居るはずだからだ。テントは……あるな。ジーク本人は、どうやらテントの中か。生きてんだろうな?ヴィクターの話によるとよく行き倒れているらしいし。

 

「ジーク、いるか?」

 

 返事は、ない。ジークの気配はする。寝てるのか?と思っていたらどたばたバタッ!と音がして慌てたような音が中からした。どうやらジークが目を覚ましたのか俺が来たのに気づいたらしい、テントのファスナーに手をかけて開けるぞ、と声をかけると物凄く焦った声が帰ってきた。

 

「ちょ、ちょおまって!心の準備させて!」

 

「お、おう?」

 

 心の準備、という割にはなんだかテントの中身が異様に騒がしいが、ストップがかかってしまったので俺はテントの入り口に立ち尽くす。中では慌てたような動きが見て取れ「ああ、もう!なんで洗濯しとかんのウチのバカ」だの「み、水浴びしかしてへんのだけどバレへんよね……?」とか「うぅ……タイミング悪いんよカイ君のアホ」とか聞こえてくる。悪かったな間が悪くて。

 

「お、おまたせ!あっ……」

 

「……メシ、食うか」

 

「うぅぅぅぅ~~~~~!!!」

 

 急いでばっとテントのファスナーを開けたジークはいつものジャージ姿だった。まあ若干乱れてはいるけどな。どうやら着た切り雀になっているらしいジャージと下着の山がテントの片隅にこんもりしてるのが見えてしまい、俺はそっと目を逸らした。ジークは慌てすぎて気づいていないらしい。そしてタイミング悪く、空腹のジークの腹から可愛らしい音が聞こえて、俺はぼそりと呟くのだった。真っ赤になってしゃがみ込むジークは、見た感じいつも通りなのかな。

 

 

 

 

「カイ君のあほ、すかぽんたん、乙女の敵……むぐむぐ」

 

「理不尽だなあ。ああ、洗濯はちゃんとしろよ」

 

「カイ君のバカッ!」

 

「おうよ、頭は悪いぜ」

 

「……自慢できることじゃないんよ。ほっておいてって、言うたのに」

 

 初めて会った時のように、カチンコ漁で魚を確保した俺が焚火でそれをこんがりと焼き、ジークに手渡す。俺の隣で自分の恥ずかしい所を見られたからか、赤みがさした頬をそのままに魚はきちんと受け取って食べるあたり食欲がないわけではなさそうだ。俺は焚火に薪を追加して俺から顔を逸らすジークをまっすぐ見つめる。

 

「俺……正確には俺のご先祖様か。放っておいてと言われて放っておいたら物凄く後悔したことがあるんだよな」

 

「……後悔?」

 

「オリヴィエ様のことだよ。大丈夫って気丈に笑ってさ、最後にはゆりかごに命を吸われちまった。俺のことじゃないんだけど、あれはくるよ。俺はそういう後悔はしたくない。だから俺は、お前に関わるのをやめない」

 

「心配しすぎなんよ。ウチはちゃんと、自分で立って歩けるから。今は、ちょっと休憩しとるだけ」

 

 心配しすぎ、ね。ヴィクターなんかもっとすごいぞ、毎日ジークは大丈夫なのかしらだの合わす顔がないだのと物凄い長文のメールが届いているからな。それでいてジークに会いに行く勇気は出ないもんだから。世界戦代表にはなれずに終わったからヴィクターは余計に合わす顔がないのかもしれないな。

 

「うるせえな。お前の顔、寂しいって書いてあるぞ。だから俺を追い返さなかったんだろうが」

 

「うっ」

 

「だいたいな、エレミアの神髄が出たくらいで何だってんだよ。目の前にいるだろ、それをものともしなかった馬鹿野郎がな」

 

「カイ君は、特別やん。私と同じ、記憶を継いで、技を継いで、この時代にそぐわないものを持っとるんよ。私は、意識がないうちに何もかもが壊れてるのを見るのは、いやなんよ」

 

「それはそうだな。正直、俺はお前のこと分かってやれねえよ。けどよ、お前なんか忘れてんじゃねえか?」

 

 ぱちっと生木を燃やしているせいで火の粉が爆ぜる。ジークと似て非なる状態にある俺には彼女の本当の理解者になってやれるとは言えない。言ってはならない。そんな上っ面だけの同情なんかいらないだろうし。だけど、俺にはどうしても彼女に一言言ってやりたいことがあるのだ。それをあっさりと反故にされちゃ、こっちも言いたいことはあるんだから。

 

「……ウチ、なんか忘れてるん?」

 

「忘れたフリしてんだろ。俺の宣戦布告からにげたエレミアさんよ」

 

「それは!それは、そうなんやけど……」

 

「俺さ、ここでお前と初めて会った時、すっげえ楽しかったんだよ。少なくとも徒手の打撃戦においてはお前には勝てねえってわかった。だから、大舞台で全力でお前と試合するのをあの時目標にしてたんだよ」

 

 ジークは、分かっていたのだろう。あの時、エレミアの神髄が出るまではこいつも思いっきり楽しんでいたんだし、こいつから吹っ掛けてきた喧嘩だったんだから。エレミアの神髄によって水入りにはなったが、俺がコイツをDSAAの最終目標として位置付けるのには十分なインパクトだった。それほど、こいつは鮮烈に俺に刻み込まれたんだ。

 

「俺だけじゃないぜ。ヴィクターだってそうだ、というかDSAAに出た奴全員は、仮想敵としてお前を見ている。去年のチャンピオンだったお前を倒すために牙を研いで、シェベルさんは届きかけた」

 

「届いてしまったから、ウチはああなった。ミカヤさんの手を砕いて、息の根を止めようとした」

 

「どうしても受け入れられないか、エレミアの神髄は」

 

「……ウチ、こんな危ない力、いらんかった」

 

「そうか。でもなジーク。今は良くても、それを制御できるようにならないと今回みたいな事故は起こるぞ。魔法戦技から離れても、必ずだ」

 

 自らから目を逸らすなと俺はジークに強く伝える。正直、俺とジークが継いだものはさして違いはない。魔法と、技。エレミアの力は制御できるはずなのだ。あとはジーク本人が一歩前に進むだけ。俺は境界線の向こう側から彼女を手招きすることしかできない。最初の一歩は自分で踏んでほしい。なあなあで流されて欲しくない。ちゃんと決断してくれ、チャンピオン。

 

「今日のカイ君は、いじわるや」

 

「そうかもな。でもこんくらいしないとお前は分からないだろうから。ストレートにいうぞ。よく聞け」

 

「聞きたない」

 

「聞け。何があろうとも、俺はお前の味方だ。だからこうやって耳に痛いことを言う。お前が前に進めるなら嫌われてもいい。エレミアの神髄、受け入れろよ。それもお前だ、お前自身だ。何度でも俺がサンドバックになってやるよ。ヴィクターも、そうだからさ」

 

 ジークがジャージのフードを被る。ぽたぽたと水滴が地面に落ちた。ジーク、お前は一人じゃない。エレミアの神髄に一人で立ち向かわなければいけないわけじゃない。お前に手を砕かれたシェベルさんは、お前のことを案じていたぞ。ヴィクターは心配で心配で仕方がないみたいだぞ。インターネットの連中でさえ、お前が出場辞退をしたときはみんなして心配してたんだぞ。俺だって、出来るなら変わってやりたいくらいなんだぞ。

 

 初代と親交が深かったヴィルフリッド・エレミアはエレミアの神髄を受け入れていた。それも自分自身なんだと、自分を守るために力を振るう、もう一人の自分だったとな。自分に拒絶されちまったら、そりゃ辛いさ。過剰反応して暴れたくもなる。自分に向き合える強さがお前にはあるはずだ。そうじゃなきゃDSAAのチャンピオンなんかなれるわけない。いくら強くても。

 

 ぐしぐし、と乱暴に涙をぬぐったジークはキッと前を向いて立ち上がる。バサッっと被っていたフードを脱いで前を見据えていた。

 

「ウチ、かっこわるーーーーい!!!」

 

「ホントにな」

 

「カイ君!両手広げて!」

 

「おう」

 

 川に向かって大声で叫んだジークに俺は苦笑して言葉を被せる。そのままふんす!と気合を入れてこっちに振り返ったジークは俺に謎の指示を出す。言われるがままに両手を広げると、ジークは思いっきり俺の胸に飛び込んで抱き着いてきた。かなりの力できたので不意打ちのおかげかちょっとぐらついた俺にジークはにんまりと笑う。いつもの調子に戻ってきたな?

 

「カイ君、手伝ってほしいんよ」

 

「任せろ」

 

 それ以上の言葉は、いらなかった。




 ジークさんはこれ以降ちょっとだけ前向きになります。ジークさんズボラ説を本作では採用しておりますが異論があるのは認めますん。

 ちなみにジークさんにとって主人公は「エレミアの神髄に晒されても壊れない」「記憶継承者という共通点」「ご飯くれる(重要)」という好印象トリプル役満状態です。古代ベルカ特攻入ってそう

 ではまた次回に、感想評価よろしくお願いします
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