魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「とんでもないな。これ。凍結速度なら私のアーテム・デス・アイゼスといい勝負かもしれへん」
「今年の男子ちょっとおかしいかもな。カイトレベルがもう一人いるなんてよ」
「完全にオールラウンダーだね。バインド、シューター、魔力付与。器用、それでいてそつがない。執務官向きの人材じゃないかな」
「フェイトちゃんのいう通りだね。何でもできるっていうのは強みでもあり弱み、だけど彼は……強みだけしかない」
目の前に広がる光景を見て、俺はただただ舌を巻いていた。1回戦の最後の試合、そう。イサムの試合だ。彼の戦闘をゼロから生でみた俺たち、大人組も含めて驚愕の声を漏らすしかない。ノーダメージの完封勝利、イサムの結果だ。ただただ圧倒的な試合。試合ではないか、蹂躙だ。一面の銀世界になったリングの中では的確に急所を切り付けられた相手が氷漬けになって戦闘不能判定を受けている。
俺が炎熱の変換資質を持っていたように、今まで隠していたのだろうそれを彼は見せてくれた。おそらくは俺に向けて。氷結変換資質。炎熱や電気の変換資質はそれなりに数がいるが氷結の変換資質を持つ人間は少ない。イサムはそんな中の一人だった。彼は試合開始と同時に籠手型デバイスからカートリッジをロードし、リング内を凍り付かせた。そして、それから発生した靄に身を隠して、奇襲を始めたのだ。
トラップバインドで相手の足を凍り付かせ、ワイヤーで手を縛り、背後から真一文字に首を狩る。インテリジェントデバイスに防御魔法を張らせる隙も無い一撃は相手のライフの8割を削り取り、ダウンさせた。ここまで30秒の早業だ、一方的な狩りを前に実況すらも言葉を失っていた。そして……相手が立ち上がりダウンが解けた瞬間に……首が落ちた。
もちろん比喩表現だが、一瞬俺は本気で相手の首が落ちたんじゃないかと錯覚したほど鋭い一撃だった。その場で小太刀型デバイスをだらりと下げたまま止まっていたはずのイサムの姿がブレて、次の瞬間には凍り付いた相手のライフがゼロになっていた。なるほどね、あれが神速か。俺が色々見せたからあいつも自分の色々を見せてくれたわけだ。感謝しねーとな。
リングの中で白い息を吐いて気絶した対戦相手に深い礼をしてから去っていくイサムを眺めつつ、あいつだけはやっぱり別格だなと心の底から畏怖と尊敬の念を覚えた。いやー、決勝で当たるのが楽しみだわ、マジで。ジークと戦うのも楽しみだっつー話だったけど、あいつもジーク並みに厄介かもしれないな。
「あいつが古代ベルカにいたら国のトップがコロコロ変わってただろうな」
「違いない」
「物騒な話はやめーや。カイトくん的には勝ち目はあるん?」
「どうでしょうかねえ。フィジカルだと俺が勝つでしょうけど、技術的にはあっちが格段に上です。どっこいくらいですかね?殴り合ってみないと分からないかも」
「良い騎士、いや魔導士になるだろうな。剣士としてはもう既に一角の状態に達しているだろう」
俺とラフィの古代ベルカジョークにチョップで突っ込みを入れてきたはやてさんの質問に素直に答える。冗談抜きで、俺のような正面戦闘タイプとは真逆の戦い方だ。俺がフロントアタッカーだとすればあいつはガードウイング、機動力を生かした戦闘をするタイプだ。バリアジャケットはロングコートに口元マフラーでスタイリッシュなのだが装甲自体はそう仰々しいものでもない。動きやすさ優先だろう。
シグナムさんから見て、剣の腕はやはり恭也さんの見立て通り御神の剣士として遜色ないものなのだろう。俺もあの剣を受けるのは無理だとは思わないが中々苦労しそうだ。あいつなら多分ただの木の棒を渡しても何かを斬ることができるだろう。そういう域だ。ちなみに俺の場合木の棒も目標物も折れる。そういう戦い方だしな。
しかも魔法式はベルカ式ではなくミッドベルカ混合のミッド主体。射砲撃も対応していると考えるべきだ。誘導弾程度は撃ってくるとみて間違いない。とにかくこれで今日のプログラムは全終了、女子は大盛り上がり、男子は女子に並ぶ派手な奴が出たもんだからこっちも盛り上がっている。皆が帰路に就くのに合わせて俺も立ち上がる。ふわ、とイクスがあくびをしてそれを恥ずかしがるのを眺めながら、俺はぐっと伸びをするのだった。
「カイトくーん、ヴィヴィオの魔法の練習に付き合ってもらえないかなー」
「いいですよ。どうせ今日は軽く運動して休むだけのつもりなんで」
「えー、なのはママ恥ずかしいよ~」
「……やめようか?」
「う~~~いてくださいっ!」
どうやら結構な人がはやてさんパワーで無理やり休みを取ったからしわ寄せで今から仕事に行くぜ!という凄い無茶苦茶スケジュールで来ていたらしい。いわゆる半休というやつだったのだ、名残惜しそうに去っていく皆さんに俺は全員にきちんとお礼を言って頭を下げて見送る。久しぶりにドブラック管理局の一端を見てしまった。それでいいのか管理局、そのうちドタバタ人が辞めるぞ。高給でも限界はあるぞ。
なのはさんだけはどうやら全休を取っていたらしく、俺に折角だからヴィヴィオの魔法の練習に付き合ってあげられないか?と尋ねてくる。全く構わなかったのだが、なぜかヴィヴィオが恥ずかしがってしまったので遠慮しようとしたら今度は引き止められた。女の子っていうのは難しいな……初代も首を傾げるわけだ。初代は見合い結婚だったけど。
魔法の練習場っていうのは割とどこにでもある。というのも魔法都市であるミッドでは一般人の場合緊急時以外戦闘用魔法は禁止されているわけだが、それでも管理局員以外でも魔法を使いたい人はいる、今の俺みたいな魔法戦技の選手とかね。だからミッドチルダにはあちらこちらに魔法練習用の公園が会ったりするんだけど……。
「ここただの公園では?」
「戦闘魔法なんか使わないから平気だよ~」
「管理局員の言葉とは思えませんね」
「にゃはは~。さ、レイジングハート」
『yes』
なのはさんの首元から赤い宝石のような待機状態になっているレイジングハートが桜色の翼を生やして浮遊し、ヴィヴィオの元に飛んでいった。しかし、マジでよく学んだAIだな、主人の魔力を勝手に使って空を飛んだりとか、普通のインテリジェントデバイスなら絶対やらない。何年も学んで蓄積していったデータが疑似的な感情を作り出しているのだろうか?
両手で器を作ったヴィヴィオの掌に着地したレイジングハート、そうしているとヴィヴィオの足元に彼女の魔力光である虹色が灯ってベルカの魔法陣を描いた。鈴の音のような心地よい音が響いて、彼女の体を虹が包んでいく。え?は?そういえば何の魔法か聞いてなかった。身体強化系か?ふぅむ、とイクスと一緒に寝てしまったラフィが入ったバスケットをそっとベンチにおいて俺は立ち上がる。
「ど、どう、ですか?」
「……………………」
「ま、ママどうしよう!?カイト先輩止まっちゃった!?」
「あら~カイト君ったらヴィヴィオに見惚れたの~?」
「それ俺がどう答えてもめんどくさくなるやつなんで何も言いません。しかし、そうきたか………」
どしゃあぁ、と俺はベンチに沈む。俺が崩れた振動がバスケットの中にまで伝わったのか、ひょっこりと仲良く顔を出したラフィとイクスがヴィヴィオを見て目を丸くした。ラフィなんか完全にフリーズしちゃってイクスが肩をゆすって起こそうとしている。だってしょうがねえよ目の前の光景を見たらそうなっちまうって。
いい加減現実から逃げ出すわけにもいかないので何がどうなったかをきちんと考えよう。ヴィヴィオが、でかくなった。うん、シンプルだな。ただし、おそらくは17,8歳くらいの年齢まで魔法で成長したという感じであっているだろうか。原理的には今のイクスと同じだな、魔力で体を覆って、成長した体を作るという魔法だ。確か身体強化の一つだったはず。
俺が何も言えなかったのは、安堵と驚きが同時に襲ってきたからだ。というのも成長したヴィヴィオの体は、オリヴィエ陛下とは少し違うものだったから。これはつまり、遺伝子マップから作られたヴィヴィオとオリヴィエ陛下は当たり前ではあるが別人なのだという俺の中の核心を深めてくれるものだったからだ。似ているのは仕方ないにしろ、姉妹レベルで済んでいるなら、それは俺にとっては嬉しい事だったというわけ。
これが安堵なのだが、もう一つある驚きというのはヴィヴィオのバリアジャケットデザインのことだ。後輩の女子の体つきをあーだこーだいうのは非常に騎士としてよろしくないし、男として最低なのは分かっているが、そのデザインはどうにかならなかったのか。なぜ胸の形を分かるようにした。というかボディラインをなぜ出した。淑女たるものとオリヴィエ陛下に一度説教したことがある初代の気持ちが今分かった。
あたふたする動きは完全にヴィヴィオそのものではあるが、非常によく成長したお姉さんがそんな仕草をしているので一応思春期な男としては脳みそがバグってしまいそうになる。ヴィヴィオですよね?ヴィヴィオですとなのはさんと視線でアイコンタクトを取ってから俺はようやく動き出した。
「……すまん、驚きすぎて言葉が出なかった。身体強化か?」
「は、はいっ!体が小っちゃいとリーチとかで後れを取っちゃうので、大きくなればいいかなって!名付けて大人モード!」
「なるほどね。術式的には安定してるみたいだし……というか脳みそ使う練習に俺は役に立ちませんよ」
「えー?カイト君そういうけど魔法の自力発動上手じゃん。防御魔法とか」
「魂にこびりついてますからね」
外見的なことはさておき、ヴィヴィオ曰く大人モードとやらの目的はわかる。確かに俺よりだいぶ小さいヴィヴィオが格闘技においてはその小ささのおかげで結構な不利を背負っているのは仕方ない、仕方ないのだが……まさかこんな強引な解決法を見出してくるとは思わなかった。
確かにこれなら問題なく打撃技投げ技組み技関節技寝技まで大人と同じようにやることができるだろう。しかし、そんな風に急に手足や体の長さが変わると感覚が追っつかなくなると思うんだが……ああ、それで俺が呼ばれたのか。なのはさんも最初からそう言えばいいのに。
うし、と気合を入れなおして上着を脱ぐ。薄いTシャツ姿になった俺がヴィヴィオと相対する。なのはさんがそれで俺が意図を察したのだと理解したらしく、微笑んで頷いた。つまりなのはさんはヴィヴィオが大人の体の感覚を掴めるように俺にスパーリングの相手をしてやって欲しくて呼んだわけだ。
「はーいヴィヴィオ―。カイト君がスパーリングの相手をしてくれるみたいだから、その状態を維持したままパンチとキックのコンビネーション、やってみて」
「多分普段の状態と確実に感覚がずれるだろうからな。攻撃しないから打ち込んで来い」
「わかった!よろしくお願いします!カイト先輩!……あうっ!!!」
「………………」
「ふ、ひゃ~~~………………!」
あらら、となのはさんが困り眉で苦笑する。俺も流石になんて声をかけていいか分からなくなった。ストライクアーツの構えを取り、俺に向かってステップで近づこうとしたヴィヴィオは一歩目で感覚の違いを忘れていたのか、足を縺れさせてドバターン!とまるでコメディ映画のような大袈裟な転び方で顔から地面に突っ込んだ。
ぶってしまった鼻を両手で押さえて涙目になっているヴィヴィオに俺はどう声をかけていいかわからない。恥ずかしさと痛さで目がグルグルしているヴィヴィオがぐしぐしと目を拭って赤くなってしまった鼻を抑えつつ立ち上がる。どうやら続けるつもりのようだ。よしこいっ!
ジャブ、ワンツー、アッパー、右回し蹴り、左上段側頭蹴り、かかと落とし。おおよその感覚はどうやら先には掴んでいたみたいだけど、たまに意識がずれているみたいだな。俺は左で彼女のラッシュを受け止めつつもそう分析する。そして大技であろう右飛び後ろ回し蹴り……を放とうとジャンプしたヴィヴィオがぽんっと音を立てて元の大きさに戻った。どうやら意識を攻撃に割き過ぎたらしい。
「おっと」
「うわわっ!?」
「ひゅー、カイト君ナイスキャッチ~!」
「なのはさんは暢気ですね」
空中で体が変わったことでバランスを崩したヴィヴィオを横抱きで受け止める。ひゅーひゅーとなのはさんが囃し立てるがさらっと消えていった右手の魔法陣は衝撃吸収のものだった。ちゃんとみて考えてるあたりヤッパリこのひとはヴィヴィオの母親なんだな。恥ずかしいのかぷしゅ~とゆでたタコのようになったヴィヴィオと俺の頭に着地したレイジングハート。ここまでかな。お疲れさんヴィヴィオ。
ライバルのイサムくん、鬼強い。氷結資質に御神流、デバイスはツインです。小太刀型アームドとカートリッジ用小手型インテリジェント。ミッド式ですね。
ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします