魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「いーかげんこれどうにかなんねえかな。転送ポート家に設置しようかね」
「んだよカイト、世界最強の男が情けねーな」
「うるせえ。不戦勝でずっこけたばっかなんだよこっちは」
学校の机の上に突っ伏す俺に、バカのいじりが突き刺さる。次元世界最強、ああその通りだ。次元世界の男子の中では、という注釈がつくんだけど。個人的に最高だったイサムとの世界戦決勝からはや一か月が経とうとしている。イサムとはちょこちょこメールやら通話やらをして今度模擬戦するかという約束を交わしているところだ。ちなみに今あいつは早速御神流の大本らしい地球に行ってなのはさんのお兄さんである恭也さんに会いに行っているのだとか。帰ってきたら強くなってそうだな。
「ああ、イクス……ありがとうな」
元気出してください、といわんばかりにイクスがバスケットから出てきて俺の頭を小さな手で撫でてくれる。ラフィはバスケットの上に腰掛けて仮想画面を出してにらめっこしている。俺が何でこんなに疲れているかというと主に理由は二つ。まず一つがフラストレーションが溜まっていることだ。というのもDSAAのエキシビション、男子優勝者と女子優勝者の試合が中止になってしまったのだ。
原因は女子戦の優勝者が大怪我してたから。どうも、男子戦と女子戦の盛り上がり具合は同じくらいヤバかったみたいなんだけど、女子戦は何と収束砲の撃ちあいになるという前代未聞の試合になったらしいのだ。え?何それ射砲撃型が二人も勝ちあがったってこと?で、その収束砲の余波で優勝者も準優勝者ダブルノックアウト、撃ち合い前のライフポイントが高かった方が勝者になった。ちなみに二人ともなのはさんに憧れて射砲撃を始めたそうです。エースオブエースやべえな。
そこまでは良かったんだそこまでは。ここからが不幸というか何というか、優勝者の人はどうやら収束砲に適性があまり高くない人だったらしく、相手の収束砲に対抗するために自分の魔力を限界以上に捻り出してしまった。その結果どうなったか、リンカーコアが傷ついてしまって暫く魔法が使えなくなってしまったのだ。流石に文句も言えねえよそりゃ。
あくまでエキシビションはエキシビション、中止になることも間々あるらしい。結果、俺は不本意にもほどがあるという形で次元世界最強の男子となってしまったのだ。俺は認めてないからな、試合させろ。まあそれはしょうがない、しょうがないのだが……世界戦優勝の後のマスコミが酷いったら。
家の前に張り込むわ、登校中に付きまとってくるわ。コメントやっても満足しねえわでもう毎日大変なんだよ。ヴィヴィオやコロナにリオといった子供たちがテレビカメラに映るのはあまりよろしくないと思ったので暫く別行動なとヴィヴィオに言ったのだが、涙目になっててこっちが悪いことしてるみたいで心に来たわ。はーやってらんねえ。
あと、管理局からのラブコールもきた。それはそれでいいんだけど、そのうち陸士隊の門叩くつもりだし。でも士官学校はイヤだ。何が楽しくて幹部コースからの提督コースを選ばなきゃならんのだ。俺は陸に行きたいのであって海に行きたいわけではないのだ。もう何だったらシグナムさんが隊長やっているとこに放り込んでほしいくらいだ。あそこなら退屈しなさそう。そんな希望は通るはずもないけども。
雑誌の特集、テレビ出演、あとなんか芸能事務所というかスポーツタレントの事務所からのスカウトとか、DSAAを優勝したらこんなことになるとは思わなんだ。いや、悪くはない話だとは思うんだけどな?それはそれとして大変なんだよ。雑誌関係はともかくテレビ出演はマジで困った。困った結果、ジークにどうしてる?って聞いたらヴィクターに任せてるっていうんだよ。
しゃーねえとヴィクターに聞くとお断りしておきましょうか?と快く引く受けてくれた。持つべきものは友達だな。俺の家は確かに古くて格式と歴史があるんだけど、実業家の側面も持っているダールグリュンとは違って一般的な伝手は全くないから、そういうノウハウがあるヴィクターを頼れるのはありがたかった。お礼に今度お茶をしに行くことになった。あれ?何でもてなされるんだ俺が?
「そういやもう卒業近いけどお前どうすんの?」
「おれ?俺はオヤジのレストランに入るぜ。また飯食いに来いよ。お前はどうすんの?プロの魔法戦技の選手になるわけ?」
「プロはねーな。暫く嘱託魔導士しつつDSAAやっていい具合なところで管理局いくわ」
「世界戦優勝者なら手ぐすね引いて待ってんだろうなー管理局も」
今日で授業は終わり、冬休みに入る。中等部3年生である俺らはいい加減進路というものを考えないといけないのだ。大体はもう決まってるんだけど、俺はほら、金はあるしミッドだと学歴よりも魔法適正が重要視されるから。うんうん。何というか、進学する気にはならねえんだよなあ。ヴィクターは修士課程に進むらしいけど。流石はお嬢様。
そんな会話をしつつ、女子の一人に可愛がられるイクスを見守る。すっかりこのクラスのマスコットになってしまった冥府の炎王様だが、本体の方はどんどんと自己修復を進めているようだ。今精神体が入っている魔力の体も不要になる日も近いだろう。1年以内かな?と女子に魔力を分けてもらっているイクスは、沢山友達が出来てうれしそうだな。
女子が掌に置いていたイクスを優しく俺の頭の上に下ろした。おい何でそこに置いた、イクスは運動音痴なんだぞ。10歩歩いたら両脚くじくんだぞ。不安定な場所に置くんじゃない。俺はため息をついてイクスを摘まんで机の上に下ろした。授業が始まりいつもは騒がしいクラスがシンと静かになる。
古代ベルカ歴史学の教授の授業は相変わらずちょこちょこ間違っているが、これが正史扱いなので俺は何も言わないのだった。イクス、首を傾げるな。確かにそこの王様はマリアージュを使って国を攻めたがなかったことになってんだよ。教授の顔色がえ?これ間違ってるの?という顔になったが俺はそれを務めて無視するのであった。
「すんません、遅れましたか?本局にくるのは初めてなもので……」
「時間より前やでー。ごめんなぁ、本当なら迎えに行きたかってんけど緊急のコールがあってさっきまで別世界におったんよ」
「むしろそれでよく間に合いましたね」
「伝手と貸しは使いようなんやで」
「騎士はやて、今日はよろしく頼む」
「いやそれは私が言わないといけない台詞やわ。リインフォースのこと、よろしくお願いします」
冬休み初日、俺とラフィの姿はミッドチルダ、ではなく時空管理局の本局、デバイス研究部の中にあった。時空のはざまに浮かぶ本局に行くのは初めてだったが、はやてさんから予め渡されていたIDカードのおかげで迷うことなくここにたどり着いた。騎士カリムや騎士シャッハの姿はないが、これはどうやら俺に気を遣ってくれたらしく聖王教会としては後でデータをくれればいいという感じらしい。
恐ろしいことを言わないでほしい、と確かにさっきまで戦闘をしていたらしいはやてさんのシャワー後っぽいちょっと湿った髪を見ながらそう感想を抱いた。ちなみにイクスは定期的な検査のためスバルさんと一緒にミッドに残った。おそらく今日はスバルさんの家でお泊りになるだろう。
さて、マリエル・アテンザさんというデバイスマイスターの協力を得ることができた俺たちはやっと今日忙しいはやてさんと守護騎士たちが纏めて休みを取れるということで伸ばしに伸ばされていた夜天の書の管制人格の復帰&夜天の書の欠損部分の修復を行うことになっている。
「では早速始めよう。夜天の書の記録領域は膨大だ。すぐさま復活とはいかん、2、3時間は覚悟してくれ」
「むしろそんな短い時間でいいん?」
「ああ、カルナージからの帰りで夜天の書を見せてもらった時どこが破損しているかは大体確認した。バックアップからそこを移植、完璧になったところで妹の人格を再生し、記憶をロードする。ツヴァイ、こっちへ。アテンザ技師、夜天の書とバックアップの読み込みを開始してくれ」
「分かりました、お任せください」
「はいですっ!」
大きくなったリインフォースツヴァイがラフィの後ろについていく。はやてさんから夜天の書とバックアップを受け取ったマリエルさんはそれを目の前の大出力データが運用できるメンテナンス装置にセットしてさっそく読みだす。その間にラフィはツヴァイの胸に手を当ててベルカの魔法陣を展開する。するとツヴァイの魔力値が3分の2まで下がり、彼女がクラッとふらつく。ラフィはツヴァイを支えつつ、彼女の胸から何かを取り出した。
ラフィの胸にあったのは夜天の書の表紙にある装飾と同じ剣十字のアクセサリーのようなものだった。ラフィは妹らしいと呟いて、魔力値が下がってしまってちょっとしんどそうなツヴァイの頭を優しくゆっくり撫でていき、ついでに魔力を分けてあげてから立ち上がる。随分と楽になったらしいツヴァイがはやてさんの所に戻っていった。
「今回の修復では守護騎士の記憶が戻ることはない。該当データがないからな、構わないか?」
「いい。今の主……はやてのことをちゃんと覚えられてんなら、それで」
「ああ。リインフォースが戻ってこられるなら私たちの記憶など些末なものだ」
「……了解した。ではアテンザ技師、始めよう」
「はいっ!」
守護騎士の結束は固かった。ヴィータさんは言い切り、それに続いたシグナムさんもそう。そしてシャマルさんもザフィーラさんも無言で頷いた。マリエルさんの隣に座ったラフィが両手に仮想キーボードを出して目の前に映し出されたデータの文字列をすさまじい速度で流しながら時折焼き切れたような場所を見つけて修復していく。うわ、ぜーんぶ遺失した古代ベルカ語だ。読めはするけどこれ解釈間違ったらひでえことになるな。俺にゃ手伝えん。
「そういや、まだDSAA優勝おめでとうパーティしてへんやんな?」
「してないですけど、おめでとうって言ってもらえれば十分ですよ?」
「いーや、遠くに行ってもうた私の家族を取り戻してくれるんやで?何もせんかったら私の気が済まないんよ。それに」
「それに?」
「結局私の料理食べてもらえへんかったからな。ショックやでー、はやてちゃんの料理になびかん男がいるなんて。リインフォースが戻ってこれたら、盛大にパーティしようか。みんな呼んでな」
むっすー、とどうやらあの聖王教会との話し合いの時に袖にされたのがショックだったのか冗談だと分かる感じで言いつつも結構マジな感じで言ってくるはやてさん。実は優勝直後になのはさんやフェイトさんにお家にきてご飯を食べようというお話はもらっていたんだけど、如何せんマスコミだのなんやのでうやむやになってしまった。同じ立場のイサムはさっさと地球に行ってしまってその分俺に集中する始末だし。
ヴィヴィオなんか優勝直後物凄い勢いで喜んでくれてたんだけどなあ。可愛いんだよなああの後輩、勿論リオやコロナも可愛らしいのだけど。身長が低めのはやてさんが手を伸ばしてうりうりと俺の頬を弄り倒すのを甘んじて受けていたりして、2時間ほどたった。やはり疲れたらしいツヴァイははやてさんが持ってきたバスケットの中に潜り込み、ヴィータさんも少し眠そうにしている。
「……よし。中身の修復はおおむね終わった。解凍中の妹の人格に記憶をインストールする」
「は、速すぎます……!こんなの私が3人いても1日じゃ終わりませんよ……!?」
「伊達に長生きしてない。それに、私が今この世で一番夜天の書の中身を把握しているデバイス技師でもあるからな。そら」
壊れているところも、それがもとはどういったものだったかも同型機でバックアップを託されたラフィにとっては手に取るように分かってしまうのだろう。これが逆に現代のデバイスだったら複雑だ、と困った顔をするのだけどな。あくまでラフィは古代ベルカのデバイス技師であるのだから。
ラフィが剣十字のアクセサリを夜天の魔導書に重ねると光の粒子となってアクセサリは夜天の書の中に消えていく。シンと静かになった部屋の中、静寂を切り裂いてラフィによく似た声が夜天の書の中から聞こえてくる。
『ここは……私は、たしか』
「起きたか、妹」
『ね、姉さまっ!?まさか……まさかっ!?』
「リインフォース!聞こえてる!?」
『主はやて!?』
混乱するような声は次第に期待に打ち震える様な声に変わり、はやてさんが声をかけた瞬間に決壊するような喜びの声に変わった。ラフィはそれを、微笑んで見つめていた。
リインフォース(人格のみ)復活。次回でようやくパーティーですね。体については原作本編までお預けということで。あと数話で原作は入れると思います。それまで気長にお待ちください。
ではまた次回に。感想くれると嬉しいです。返信できてませんがちゃんと読んでます。ゆるして