魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡   作:防御特化っていいよね

34 / 60
第34話 覇王

「通り魔、ですか?」

 

「そうだ。ここ最近ストライクアーツの有段者やDSAAで好成績を収めたものに路上試合を挑む輩がいる。DSAA優勝者に心配は無用だと思うが、お節介ついでにな」

 

「なるほど。それは、怖いですね。しかも女なんですって?」

 

「ああ、しかも『覇王』を名乗っているらしい」

 

「俺にケンカ売ってるんですかね?」

 

 俺はバインドでぐるぐる巻きになった次元犯罪者を見張りながら目線をしたに下ろす。するとそこには短剣型デバイスを構えた銀髪の女性がいる。彼女の名前はチンク・ナカジマ、我が後輩ヴィヴィオの師匠を務めるノーヴェさんの姉に当たる人だ。まあ、つまり戦闘機人の一人、ナンバーズだ。そんなことはどうでもいいのだけどな、普通に話せるくらいには仲良くなれたし。

 

 この春、St.ヒルデ魔法学院を卒業した俺は結局は管理局の嘱託魔導士で生計を立てていくことを選択した。ヴィヴィオは一緒に登下校できなくなることを結構残念がっていたが、別に会おうと思えばいつでも会えるだろといえば一瞬で納得した。確か今日春休みが開けて進級になるだろうからヴィヴィオは小学4年生になるのか。背丈はそんな変わってないけど。

 

 それでなんで俺がチンクさんと一緒にいるかといえばなんだけど、端的に言えば任務である。管理局から嘱託魔導士への任務依頼はなのはさんがやったみたいに直接依頼するのと、管理局から借りた端末に送信される自由に入れる任務の二つがあるんだけど、今回は後者。実戦勘を養いたかったので次元犯罪者の捕縛の補助を受けたわけである。

 

 嘱託魔導士にやらせることじゃない、と思うかもしれないが俺の場合魔導士ランクが高いので依頼される任務の難易度も相応に高いらしい。当然ながら俺はあくまで嘱託の臨時局員でしかないのでメインで任務を遂行する管理局員が何人か同行することになる。それが今回、このチンクさんだったわけだ。

 

 最初はJS事件関連でギクシャクしてしまったのだが、ノーヴェさんが上手く仲立ちしてくれて更生活動をしている元ナンバーズとは割と仲良くなることができた。ヴィヴィオを陛下呼びしている件についてはモノ申したくなったが、ヴィヴィオが強く否定しないので俺も口をつぐむことにしたのだ。

 

「姉としては、ノーヴェが狙われないか心配だ。相手の方が危ない」

 

「ノーヴェさんを圧倒できるなら路上でケンカする意味が分からないんですけどね」

 

「しかし、DSAAを観戦して思っていたが実戦慣れがない割に躊躇がないな」

 

「躊躇ったら殺されちゃいますし。殺傷設定バリバリだったじゃないですか相手」

 

『先んじて殺さないだけいいと思うのだがな』

 

 ユニゾンしているラフィの物騒なベルカ思考を切り捨てて俺はワイヤーロープで今回のターゲットをぐるぐる巻きにする。今回の次元犯罪者は盗掘屋でロストロギアを発掘しては闇オークションに流していたやつなんだけど戦闘慣れしてないわりに躊躇いなく殺傷設定で攻撃を仕掛けてきたので思いっきりフラムで脳天をカチ割ってやったのだ。非殺傷じゃなかったら体が左右で別れてたんじゃねえかな。

 

 それにしても、覇王、覇王なあ……DSAAで俺が優勝したことでアロイジウスの名はそれなりに知れ渡った。古代ベルカに通ずるものなら覇王とアロイジウスの関係は知っていてもおかしくはない。流石にアロイジウスの記録は少ないとはいえ残ってはいるのだ。それは勿論、覇王イングヴァルトの師であり、シュトゥラの筆頭騎士としての記録が。

 

 それを知った上で覇王を名乗っているのであれば俺にとっては喧嘩を売られているに等しいのだが。悪いんだけどかつての主君が辻殴りの悪名に落としめられたなんて初代が知ったら犯人真っ二つじゃすまんぞ。古代ベルカってメンツ滅茶苦茶重要だったからな。俺個人としてもあまりいい気はしない、クラウス殿下のその後を知っている身からすると、複雑な気持ちだ。

 

 しかし、やはり犯罪者捕縛は性に合ってるのかもしれないな。今の俺は進学もせずふらふらしているプーだが、やはり管理局の仕事をしていた方が何というか落ち着く。斬った張ったはない方がいいのは勿論だが、俺のような古代ベルカの思考回路を持つ暴力装置のような人間からしたら天職なのかもしれない。別に俺も必要ないなら武力なんて無くていいとは思うんだけどな。

 

「とにかく気を付けてくれ。ヴィヴィオのこともある、覇王を名乗るのならば猶更だ」

 

「了解。せいぜい出会わないようにするよ」

 

『主カイト、買い物をして帰ろう。今日はなのはから教わった唐揚げを作ろうと思う』

 

「いいね、それ」

 

 ふん縛った犯人を担いだ俺は、最近なのはさんとよく料理を教え合いっこしているらしいラフィの献立に思いをはせるのだった。イクスは今日スバルさんちにお泊りだしなあ、俺が不在だとどうしても不安になっちまう。戦に赴くのにラフィを置いていくわけには行かないし、かといってイクスを家においておくのも問題だ。イクスの体が治ってくれればいいんだけどなあ。

 

 ああそうそう、最近イクスはどうやらお勉強に凝っているらしい。まあ体が治ればSt.ヒルデ魔法学院に入学するだろうからな、ヴィヴィオと同じくらいの年代だし転入って感じになるだろう。現代のことを学ぼうとしているイクスの生真面目さには頭が下がる思いだ。ちなみに勉強になるとラフィは役に立たなくなる。主にベルカ思考のせいで、俺も教えられる部分は教えられるけどな。俺らにはやっぱ歴史が鬼門だわ。

 

 バラバラバラと音がして、管理局のヘリコプターが上空にやってくる。俺とチンクさんは空を飛んでヘリの中に入り、帰還するのだった。やかましい犯人の声をBGMにしつつ、俺は今日は遅くならなくてよかったと胸をなでおろすだった。

 

 

 

 

 

「……主カイト」

 

「……ケンカか?」

 

 任務の報告を終えて帰路についた俺たち、近場のスーパーによろうと思ったのだが、通りがかりの路地裏から何か鈍い音が聞こえてくる。ラフィの指摘に見過ごすのもなんだかなあと一応嘱託管理局員として様子を見に行くべきだと思った俺はそこに顔を出すことにした。撃ち合うような音だった打撃音が、段々と一方的に何かを殴るような音に変わっていよいよまずいと思った俺は路地裏に飛び込む。

 

「お前、噂の通り魔か。おいアンタ、大丈夫か」

 

「ハァ……ハァ……何なんだこいつは……っ!?」

 

「貴方はっ……!」

 

 路地裏の中にいたのは、一方的に打ち据えられる男と、容赦なく拳を入れようとする女だった。翠玉色の長い髪をなびかせた女が、腰の入った拳を男の顔面にぶち込もうとしたのに割って入り、左手で女の拳を握って止めた。バイザー越しに驚いた反応をした女は俺の手を振りほどいて2、3歩下がる。

 

 男の方は、ちゃんと見て分かった。確か身体強化ありの格闘競技のプロ選手、しかもヘビー級の有望株の男のはずだ。DSAAの裏番組に出てたのを覚えている。遅れてやってきたラフィに目配せして男に肩を貸して出て行ってもらう。俺は静かに目の前の喧嘩屋に相対する。

 

「自称、覇王さんでいいのか。何したいか聞いていいか?」

 

「自らの強さを知りたいのです。そして……アロイジウス、貴方に聞きたいことがあります」

 

「強さ比べしてーんならDSAAに参加すりゃいいだろうが。しかも覇王なんぞ名乗りやがって、クラウス殿下の名を汚すな」

 

「私が目指す強さはそこにはありません。やはりあなたも、覚えているのですね」

 

 てめーもな、と返そうとして俺はむっつりと黙り込む。自称覇王、見てくれは騎士甲冑着た女だが、立ち振る舞いを見て自称するのも納得いった。覇王流(カイザーアーツ)……クラウス殿下が練り上げた徒手格闘の流派の名前だ。生憎、聖王戦争以降クラウス殿下と初代がまみえることはなかったからどうなったかは知らないが……クラウス殿下が覇王と呼ばれる所以となった格闘技の立ち方をこの女はしている。

 

 そして、覚えているという不可解な発言、こいつも記憶継承者だ。しかも……覇王イングヴァルトの継承者。つまり正当なシュトゥラの王家の血筋。本来であればシュトゥラに仕えたものとしては跪くべきなのだろうが状況がそれを許さない。DSAAなども魔法戦技としての強さを求めないという発言をそのまま受け取るのであれば、戦争でもしたいのか?益々ふざけてるな。

 

「なんだ、もう一回聖王戦争を再現でもしてーのか?この世の地獄だぞありゃ」

 

「……この身は、彼の拳が最強であると示すために」

 

「妄執か……あんまり俺を怒らすなよ」

 

「拳を交えるのであれば、望むところです」

 

「……ベルカの戦場を忘れたらしいな、我が主の子孫は」

 

 ざり、と女が構える。どうやら我が主の子孫が望んでいるのは強さの比べ合いではなく殺し合いによるどっちが強いかという強さ比べらしい。実に古代ベルカらしい、古臭い考え方だ。記憶を継承したなら知っているはずだ、あの戦場の悲惨さを。転がる仲間の頭、敵の魔弾……数瞬前にとなりにいた奴が自分の中身ぶちまけて死んでいるようなあの場所を。大昔の悔恨に憑りつかれやがって。それはお前じゃないというのに。

 

「始める前に、聞きたいことがあります」

 

「なんだよ」

 

「聖王オリヴィエのクローンの居場所を教えてください。それと冥府の炎王イクスヴェリアの居場所も」

 

「知ってどうする」

 

「……弱き王なら、この手で屠るまで」

 

 その言葉に俺は一瞬で沸騰するように頭に血が上るのを感じた。よりによって、よりによってクラウス殿下の末裔が聖王の血筋を害すというのか。そこまで堕ちたのか、堕落したのか。僅かな時であれどあの暖かく、優しさと平和に満ちていたかつての日々を知っていながらその選択をとるのか。もはや目の前の相手は、王にあらず、騎士にあらず。なれば……。

 

「聞きだしてみろよ」

 

「言われずとも。往きます、覇王、断空拳っ!」

 

 一足飛びの踏み込み、覇王流(カイザーアーツ)の必殺の歩法で瞬時に俺の眼前に踏み込んだ女は始めから全力で行くつもりだったのだろう。練り上げられた力を足から伝え打撃力に変える断空と呼ばれる技法を余すところなく用いた直打を俺の胸めがけてはなってきた。粗削りでがたがただが、断空として形になっている打撃だ。俺はその打撃を前にして……全ての構えをやめ、身体強化も解いた。

 

「なっ!?なに、を……!?」

 

「がふっ……あ゛あ゛っ……」

 

 直撃の瞬間に俺が戦闘態勢を解いたことに驚愕した女だったが、完璧に練り上げられた会心の一発を逸らすことは出来なかった。めり込んだ女の拳は、俺の左胸の肋骨を粉砕し、肺に致命的なダメージを与える。破裂してないだけ御の字か、腐っても覇王流(カイザーアーツ)だな。吹き飛んだ俺がブロック塀にめり込んでガラガラと崩れ落ちるソレの下敷きになる。強引にブロックをどかして立ち上がった。

 

「な、なんで……」

 

「ごふっ……俺はベルカの騎士だ。お前みたいな過去の亡霊に振るう斧も、構える盾も、握る拳も持っちゃいねえんだよ……!」

 

「ひ、ひっ……!?」

 

「主カイト!?貴様っ!」

 

「ゲホ、よせ、騎士の誉れも忘れたチンピラだ。お前が怒るだけもったいない……」

 

 肋骨が肺にでも刺さったのか、呼吸が苦しい。息も絶え絶えってのはこういうことか、と間欠泉のように口から流れ出る鮮血を吐き捨てながら俺は覇王を睨みつける。動揺し、歯をカチカチと鳴らしながら後ずさりする女を戻ってきたラフィが俺の惨状を見て魔力を漏らし始めるのを諫める。

 

 強さ比べ、結構。勝手にやりゃイイ。DSAAのようなルールに縛られた戦闘でのそれに納得がいかないなら、管理局員にでもなればいい。戦うことに目的を置くならば、人に迷惑を掛けないようにする手段はいくらでもある。ただ、この女は違う、終わったことを引きずっている。聖王戦争も、ベルカも、シュトゥラですら……もう滅んだ。滅んでしまったのだ。

 

 それを今さらほじくり返して何とする。何ができる?確かにクラウス殿下はオリヴィエ陛下を止められなかったことを悔いていた。だがそれがヴィヴィオやイクスを害する理由になってたまるか。それが許されるのは、本人同士の間柄だけだ。創作の中じゃ時を超えたリベンジは鉄板だが、現実で見ると関係ねえやつ同士が殴り合うだけで何の意味もない。

 

「見逃してやるぜ覇王様。ゼェ……!少なくとも戦場という観点でみりゃお前の大勝利だ。何だったら首持ってくか?切れ味いい斧なら貸してやるよ」

 

「あぅ……う、あ……!」

 

「この命で満足するならもってけ。ただ……お前に王の矜持が少しでもあるなら……もうこんなことやめろよ。頼むぜ、我が王の末裔」

 

「……お師、さま……私は、僕は……!」

 

 よたよたと頭を押さえて、女は去っていった。混ざっているな、あれは。少々悪いことをしたと思うが、これくらい脅しつけりゃ大人しくはなってくれるだろう。むしろ、煽ってしまったかもしれんか。そんで俺も、時間切れだ。片肺死んでるし、多分それに肋骨が刺さってるからこんな喀血してんだろ、と俺は薄れゆく意識の中で妙に冷静だった。ラフィの慌てる声だけが、妙に鮮明に聞こえていた。




黒歴史仮面

 絶望的ワードチョイスと言葉選びの悪さと口下手と焦りとその他もろもろが合わさってアロイジウスブチギレ案件を引き起こした。騎士としてすら認めてもらえずヤベーイ。誤解の部分がたくさんある。本当だったらたくさん話したいことがあったけど一番見られたくなかった辻殴りを見られてしまって混乱した。

脳筋筋肉城塞ガチギレアロイジウス

 言葉の表面を受け取ってブチギレてしまった。これが現代の覇王かぁ〜、だめだこりゃ状態。なお初代も主人公の中でブチギレているので割と冷静じゃない。案件が案件なので冷静になれなかった。でも手を出すのは違うよなーってなってる。なお黒歴史仮面の拳を無防備で受けて立って話せるあたりおかしいが突っ込むやつがいなかった。

 ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。