魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「ねえ、ホントに被害届出す気ないの?」
「ありませんよ。というか出そうとしたら俺無断での戦闘で今度こそしょっ引かれます。俺は魔法を失敗したんです」
「その言い訳は流石に無茶が過ぎるわよ……」
「とまあ、主カイトは譲らないのだティアナ。諦めて欲しい」
はあ~~、と病院のベッドの上で体を起こした俺を前にしたティアナさんとラフィがため息をつく。イサムに教えてもらったのだが地球ではため息をつくと幸せが逃げるのだそうだが、確かに慣用句としてよくあてはまる言葉だと思う。気絶する前に大事にするなと念話で伝えたことを守ってくれたらしく、すぐさま最低限の治癒を魔法でした後、はやてさんに連絡を入れてくれたらしい。
とりあえず俺が死ぬかもしれないと言われたはやてさんは佐官パワーでシャマルさんを動かしてくれて、転移で現れたシャマルさんはその場で俺の手術を開始、肋骨の陥没骨折&肺挫傷を誤魔化せる程度に直してくれて、俺は魔法でやらかして肋骨をやったDSAA優勝者として病院に入院することになった。
ちなみに俺が目を覚ましたのは手術から3時間後である。シャマルさんが目を丸くしていてわたわたしていたのがちょっと可愛らしかった。頑丈なのが取り柄なので、しかし一歩間違えれば死んでいたな。無防備で覇王流を受ければそりゃあああなるが、俺も譲れなかったし。真正古代ベルカ式デバイスなしの打撃に非殺傷が付いてるわけねーんだわ。
「結局誰も、俺が助けたあの人も被害届出してないんでしょ?捕まって反省してるならもう言うことないんですよ俺としては。記憶と自分を混同してるわけですし、裁判しても責任能力なしで民事でしか裁けないですよ」
「アインハルト……ノーヴェが見つけた時かなりひどい錯乱状態だったらしいわ。ノーヴェを確認した途端問答無用で襲い掛かってきたとか」
「ノーヴェさんなら返り討ちでしょうねえ。しかし、やり過ぎましたね。まさか12歳の女の子だったとは。大人モード流行ってるんですか?」
「あんたの言う通り、ノーヴェが意識もない相手に負けるはずない。とりあえず拘束してみれば魔法が解けて、子供が出てきたわけよ。今頃警察署にいるんじゃないかしら」
「……現行犯で逮捕しないあたり皆さん俺のこと言えないくらいお人よしですねえ。まあ俺も誤解が解けたんでもう何も言いませんけど」
俺が昨日会った覇王の末裔、ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルトはどうやら俺と邂逅して重度の錯乱状態に陥ったらしく徘徊するその足でノーヴェさんに遭遇、そのまま襲い掛かり返り討ちにされて保護。詳しく話を聞くと俺としても誤解している部分があって昨日の怒りの矛を収めることは出来そうだ。結局そのストラトスも記憶に振り回されているだけみたいだしな。
クラウス殿下はオリヴィエ陛下を救えなかったことを悔いていた。どうやらクラウス殿下の記憶継承は術式によってなされる俺やジークのようなタイプと違い、強い感情が遺伝子に刻み込まれているタイプで意図せずに記憶が継承されてしまうもののようだ。それは薄れてしまった覇王の血脈がたまに隔世遺伝で強く表れた時になされるもの、ストラトスの中には覚えがないのに強く頭を叩く後悔の念が渦巻いているらしい。
それのせいで既に終わっているはずのベルカの戦争は、彼女の中では終わらない。彼女の中に渦巻く感情を断ち切るにはクラウス殿下の後悔を払拭することだが、今になってそれは絶対に叶わない。それならば、クラウス殿下が作った覇王流がこの世で最も強いことを証明することで、オリヴィエ陛下をも守れるようになったと満足してもらうしかない、ってところか。
俺の中にある初代が昨日出てしまったせいでストラトスを見限るような発言をしてしまったが、誤解だった部分も含めてティアナさんから事情を聴くに同情心の方が勝ってしまった。言い方の問題だったが、ヴィヴィオやイクスたちと手合わせして強いことを証明できればいいのであって、そもそも殺したりとか害したりとかいう気持ちはさらさらなかったらしい。そうならそう言えよ、無駄に痛い思いしたわ。
「つまるところは俺は早とちりしたうえで内臓一つオシャカにしかけたわけですか。笑ってもいいですよティアナさん」
「笑える要素が何一つないわよ」
「主カイト、もう二度としないでくれ。老衰以外でロードを失うのはいつまでもこたえるものだ」
「悪かったって。次からはちゃんと返り討ちにするよ。とりあえずイクスを連れて来てくれてありがとうございました」
「気にしなくていいわよ。アインハルトに会わせた時、すごく面白かったわよ?」
でしょうねえ、と俺は布団を被った俺の腹の部分で泣きつかれて寝てしまっているイクスを見て苦笑する。ストラトスにやられた、というのはぼかしてあるが俺が一応半死半生になったのは口の止めようがなかったのでイクスに伝わってしまっていて、ティアナさんがスバルさんの家からわざわざ連れてきてくれたらしい。任務に入る前は笑顔でお泊りしまーす!と楽しそうだったのが俺を見た瞬間にボロボロ泣いて俺の上からどかないもんだから困ってしまった。
しかし、ストラトスとイクスが偶然とはいえ邂逅したのか。まあ、今のハムスターに負ける状態のイクスを前にして戦おうというバトルジャンキーではなくてよかったな。戦おうとしたら多分目の前にいる執務官のお姉さんに止められるか親友の防災士長に殴り飛ばされるかのどっちかに終わるんだろうけど。
「それで、ストラトスとヴィヴィオを会わせるんでしたっけ?近いうちに」
「そうね。覇王の血筋と聖王の血筋、アインハルトの中にある覇王の記憶と感情が落ち着くかもしれないわ。お互い、格闘者同士だしね」
「うーん、まあ100%今のヴィヴィオじゃ勝てませんが、仲良くする分にはいいんじゃないですかね?」
ヴィヴィオは確かに並みの格闘者よりゃ強くなった。伊達に俺相手に殴り合いはしていない。だが、ストラトスの拳は悲願のためにすべてを捨てたもんだ。12歳やそこらで断空を形にした時点で並みの努力では不可能、いくらクラウス殿下の記憶があって覇王流を再現できるとは言えど、無茶苦茶な努力をしないとあそこまでは成れない。殺し合いを前提にした拳とルールの上で比べ合う拳は違い過ぎるからな。
「それよりも、ヴィヴィオに謝っときなさいよ?ヴィヴィオ、アンタが死ぬかもしれないってなってひどく取り乱したんだから」
「……土下座で足りますかね。五体投地まで考えてますが」
「傷に触るようなことしたらバインドでぐるぐる巻きにしてやるわ」
「普通に謝ります」
あーーー、罪悪感。昨日はほら、初代が7割くらい表に出てきちゃっていたからストラトスに対してお前に振るう力はないとまで言い切って無抵抗したんだけどそのあとのことなんて全く考えてなかったよね。身を賭して王の間違いを正すのも臣下の務めだっていう感じでさ。覇王の拳は誰彼構わず殴り倒すものじゃなくて何かを守りたくてクラウス殿下が作ったものだから、それを思い出して欲しかったんだろう。しかし、記録として弁えているはずの初代の感情があそこまで荒れ狂うとなると覇王と聖王については初代的には触れられたくない部分なのだろうな。
「ちなみにもうすでに完治はしているんですが」
「あんたホントに何なの?」
「ベルカの騎士ですが」
「あたしの知ってるベルカの騎士は少なくとも致命傷から1日で完治しないわ」
俺は何もやってないぞ。シャマルさんが優秀なだけだ。死ななければ安い安い、回復力と耐久力に定評のあるアロイジウスです。そもそもミッドって医療技術滅茶苦茶発展してるから内臓が吹っ飛ばない限り普通に治してくれるからね。呆れた顔のティアナさんが帰るのを見送って俺は一眠りするのだった。
「カイト先輩~~~!よかった~~!生きてる~~!」
「ごめんごめん、悪かったヴィヴィオ。任務が終わって暇だったから新魔法試してたら暴発してな」
「う~~~~!!!」
「もー、カイト君油断したらダメだよ~?はやてちゃん物凄く慌ててたんだから」
『すんませんなのはさん、話合わせてもらって』
『私はいいんだけど、多分バレるよ?その、アインハルトちゃんだっけ。会うんでしょ?ヴィヴィオと』
面会時間ギリギリになって滑り込むように学校を終えたヴィヴィオとなのはさんが俺の病室にやってきた。さっき手術跡の抜糸を済ませたので俺としてはもう元気一杯なのだが退院は同時にした検査次第らしい。抜糸後も治癒魔術で塞いでもらったから見た目的にはいつもと変わらないな。ヴィヴィオとなのはさんに挨拶をして、念話で直接なのはさんに礼を言う。
そしてそうなんだよな~~~!!と俺は頭を抱える。いくらヴィヴィオ相手に誤魔化しても、ストラトスとヴィヴィオが会った時にストラトスが言ってしまえば俺のこれはタダ嘘をついただけになっちまう。ストラトス相手に先んじて悪感情を持たせたくなかった苦肉の策だが、これ逆に悪感情溜まりそうだな、どうしたもんか。同席するしかねえか。
「とにかく生きてて良かったです……えぐっ……先輩が無事で、ほんとに、ほんとに……」
「悪かったって。次からは気を付けるよ。反省したから」
「ほんとですか……?」
ああ、と俺は最初は俺がちゃんと無事なことに安心して喜んでいたヴィヴィオが段々と安堵の気持ちが強くなってしまったのかその虹彩異色からぽろぽろと涙をこぼしていくのを慌てて慰める。ぐしぐしと目を擦るヴィヴィオの頭を撫でてやってようやくヴィヴィオは泣き止んだ。はー、よかった……。
「とりあえずさっきした検査の結果が良好ならそのまま退院だからな。お詫びになんか言うこと聞いてやるよ。何がいいか考えときな」
「……カイト先輩に、お願い……」
「もう先輩じゃないんだけどなあ」
「先輩はいつまでも先輩です!」
多分それ争点がずれてるんじゃないか、とぴょこっとくくったテールを揺らしたヴィヴィオに思った俺だが折角治った機嫌をまた損ねたくはないので黙っていることにした。そうしているうちにやかましかったのか俺の腹の上ですやすやしていたイクスが目を覚まして、俺の顔を見てほっとした後にヴィヴィオに気づいて布団の上をよたよた移動しようとする。
イクスになんか甘いラフィが彼女を優しく手の上に乗せてヴィヴィオの手に乗せてやると、イクスにごきげんようと挨拶をして今日あったことを報告しだした。そういえば……
「その空飛んでるウサギなんだ?」
「あ!先輩に紹介するの忘れてた!この子はクリス!正式名称はセイクリッドハート!私のデバイスです!」
「おお、ついにデバイス貰えたのか。良かったな~。しかし、変わった待機形態だな」
「あはは、違うよカイト君。このぬいぐるみはアクセサリー、本体は宝石型だよ。かわいいよね~」
俺が指さしたのはヴィヴィオの周りをくるくる飛んで回っているウサギのぬいぐるみだった。流行りの玩具か何かかと思ったら何とインテリジェントデバイスらしい、いつだかなのはさんがこういうデバイスがいいんじゃないかなーと俺に明かしていた感じの仕様とは随分と違うな。でもやはり、融合装着型のようだ。
よろしく、と今のイクスと同身長の大きさであるクリスが俺の目の前に飛行してきてぴょこっと片手をあげる。な、なんか最初からかなり性能のいいAIを積んでいるな……もしかしてレイジングハートの学習経験値引き継がせたんじゃないだろうななのはさん?このレベルのAIとなるとかなり高い筈であるんだが……まあいいか……。
「リオとコロナも来たがってたんですけど、二人ともお家の用事があるんだーって」
「おー、有難い話だが恥ずかしい姿を見られなくていいな。その二人には後でちゃんと顔を見せておくよ」
どうやらヴィヴィオに続いて出来た俺の可愛い後輩二人にも心配をかけてしまったらしい。最近会う回数減っているからかどうもなつかれ具合が日に日に上がっている気がする。スパーリングの時にしか出番がないからな俺。近代ストライクアーツに関しては役に立たんからな俺は。せいぜいサンドバックにしかならん。
「というわけでやっとデバイス持ちになったヴィヴィオにプレゼントだ」
「ふぇ?な、なんですか!?」
「クリス、受け取ってくれな。よし、それ俺が使っているバリア魔法をヴィヴィオ用にチューニングしたやつ。うまいこと使えー」
「わ、わあああ!ありがとうございますっ!」
なのはさんから近々ヴィヴィオがデバイスを持つということをあの宴会の時に聞いていた俺は魔力量は並だが魔力濃度は濃いらしいヴィヴィオ用に使っているバリア魔法の術式を改良したものをクリスに渡した。ヴィヴィオはそれを見て、滅茶苦茶喜んでくれた。うんうん、ここまで喜んでくれるとプレゼントし甲斐があるなこの後輩は。
誤解が解けました。なお、某黒歴史仮面ちゃんの記憶継承は主人公とは違う形です。作中描写からの推測ですけど、流石に制御された術式による継承とは思えないので偶発的な事故のような側面を持っています。不幸やな黒歴史仮面ちゃん……
ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします