魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡   作:防御特化っていいよね

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第36話 覇王と聖王

「何か随分と大所帯ですね?」

 

「スバル姉ぇとティアナは分かんだよ。だけどなんでお前らたちまでいるんだ!」

 

「えー、別にいいじゃないッスかー」

 

「陛下の身に何かあったら困る、一応護衛役として」

 

「すまんなノーヴェ、姉は止めたんだが」

 

 イヤー大所帯だなあ。と俺は目の前にあるコーヒーを啜りながら俺以外みんな女性という若干気まずさを覚える配置から抜け出そうと動いた。定期メンテナンスのために家に残ったラフィとイクスを何とかして引っ張ってくるべきだったかと圧倒的アウェイを逃れる為にぐいっとコーヒーを飲み干し、そろりと椅子を引いて、スバルさんに見つかった。

 

「どこ行くの?カイト」

 

「ちょっと気まずいのでベルカに浸ってこようかと」

 

「息をする様に戦場に戻ろうとするんじゃないわよ」

 

 だってこんな状況ねえよ。毎回毎回思うんだが俺の知り合いの女性比率の高さ何なんだよ、なんで全員が全員美人なんだよ。道行く人の視線がなんか怖えんだよ。俺は起動しかけのフラムを元に戻してからのマグカップをソーサーに戻して椅子に深く腰掛ける。ストラトスとの邂逅からだいたい一週間くらいか、そんくらいで俺に呼び出しがかかった。

 

 呼び出しというのはヴィヴィオとストラトスを会わせるので立ち会えという話で、ノーヴェさんからの呼び出し、ストラトスには俺がいることを伝えて事件はなかったことになってるから話を会わせるようには伝えているらしい。ストラトス自身は時間が経って落ち着いたからか俺には謝罪したいと言ってきたようだ。うーん、混ざってなければ普通なのかね。

 

「ノーヴェ!お待たせ―!あ!カイト先輩!スバルさんにティアナさんも!」

 

「こんにちはー!」

 

「カイト先輩だ~~!」

 

「おーお前ら、悪いな騒がしくて。あいつももう来るってよ」

 

 そんなこんなしていると学校帰りらしい制服姿のヴィヴィオ、コロナ、リオがやってきた。ヴィヴィオは割と顔に出るのでノーヴェや俺が目に入るとすぐにパッと笑顔になる。うーん、この後輩は相変わらずわんこのようだなあ、とウサギを引き連れた金髪がゆらゆら揺れているのをぼーっと眺める。そんなことをしていると、ピリッとした感覚が背筋を駆け抜ける。視線だけその方向に向けると、いた。

 

「お待たせしました。アインハルト・ストラトス、参りました」

 

「おー、きたか。ヴィヴィオ、こいつが紹介したいやつ、アインハルトな。流派は、まあカイトと同じ古代ベルカの流派だ」

 

「わーっ!あ、あの私高町ヴィヴィオです!ミッド式のストライクアーツやってます!」

 

 こいつこんなに小さかったのか、と感想を抱く俺を一瞬見て非常に申し訳なさそうな顔をしたストラトスに軽く手をあげてからヴィヴィオを顎で示した。クラウス殿下と同じ翠玉色の髪のツインテールと紫と蒼の虹彩異色、顔を改めてみたがクラウス殿下の面影はあるがヴィヴィオほど生き写しってわけでもないな。まあ男女の違いはあるが。

 

 にぎにぎと、握手でヴィヴィオの手を確かめるように握るストラトスに困惑したような顔をしているヴィヴィオ、多分ストラトスはヴィヴィオが思ったより華奢だなあって思ってるんだろうな。ヴィヴィオはあくまで楽しむためにストライクアーツやってるからなあ。かといってそれが真剣じゃないってわけでもないんだけど。

 

「あの……」

 

「い、いえ、すいません」

 

「ま、二人とも格闘者同士だし拳を合わせたほうが分かり合えるだろ。場所押さえてあるし行こうぜ」

 

 ノーヴェさんの音頭で俺たちは残っている頼んだ料理を片付けて、というか主にスバルさんが食べてしまったが。カフェに代金を支払ってその場を後にしてノーヴェさんが抑えてある魔法戦技用のジムに向かうことにした。道すがら俺はティアナさんと楽しそうにしてるスバルさんに話しかける。

 

「スバルさん、向こう着いたらちょっと組手付き合ってもらえませんか?」

 

「お?いいよー!なに~?体動かしたくなっちゃったの?」

 

「ええ、まあ。ちゃんと動くか確かめたくて」

 

「はいはい、分かりました~。不肖スバル・ナカジマ、スパーリングの相手を務めさせてもらいましょう!」

 

 俺、なんだかんだ病み上がりなんだよな。肋骨に拳型の穴が開いたばっかりだし、肺は破裂寸前までいった。魔法の力でほぼ完治したが、若干違和感があるようなないようなって感じなんだよ。なので俺と同じフロントアタッカー型のスバルさんと組み手して違和感を矯正したいのだ。スバルさんは笑顔でオッケーを出してくれる。有難いことだ。

 

 じとっとした視線を感じてその方向を見ると、軽く頬を膨らませたヴィヴィオとついでにリオとコロナがいた。ストラトスはどうやらそれに目を白黒させているが、俺と目が合うとすぐに逸らした。うーん、俺が強い言葉を投げたせいとは言え少しやりづらいな、謝るべきか。しかしヴィヴィオがいるからなあ。いつまで秘密にすればいいやら。

 

 ヴィヴィオはともかくリオとコロナも俺とスパーしたいのか、結構な頻度でやってると思うんだけどな。あんまり俺とやると変な癖がつきかねないから回数についてはノーヴェさんと相談の上で調整してるんだけど。明らかにヴィヴィオたちと俺では格闘戦に求められるものが違い過ぎて俺の真似でもしだしたら目も当てられなくなる。

 

「……わかったわかった、お師匠様の御許しが出たら相手してやるから」

 

「だからあたしは師匠じゃねえ。やる分にはいいんじゃねえか?アインハルト相手にして余力が残ってりゃな」

 

「いえ、私は、その……」

 

 ストラトスはどうやら自己主張が苦手なタイプらしいな。わりとぐいぐい来るタイプのノーヴェさん相手にタジタジになってるし。しかし、こんな本でも読んでる方が似合ってるような感じの子がベルカ式の鍛え方をしているんだから世の中分からんもんだな。俺はスバルさんに頭を下げて、到着したジムの更衣室の中に入るのだった。

 

 

 

 

「それじゃ、スパーリング4分1ラウンド。射砲撃とバインドなし。純粋格闘勝負な」

 

「はいっ!」

 

「参ります」

 

「スバルさん、お願いします」

 

「まっかせてー!」

 

 コート二つ、片方はヴィヴィオとストラトス、もう片方はスバルさんと俺。時間は有限だし調整に軽く殴り合うだけだからまあヴィヴィオとストラトスと同時にやってもいいだろう。スバルさんのシューティングアーツはローラースケートの着用を前提とした格闘技だし俺も格闘自体は本職ではない。まあ、それなりにやろうか。

 

 となりの合図と同時に俺とスバルさんもぶつかり合う。俺もスバルさんもパワーヒッターなので隣でヴィヴィオが出しているような軽く鋭い音ではなく、鈍く重い打撃音がお互いのガードの上から突き刺さる。うーん、違和感はまあ……こんなもんなのかね。流石シャマルさんが治してくれただけあってちゃんと元の心肺機能は戻っているようだ。

 

 スバルさんの右ストレートを左手で受ける。ズドムッ!とまるで重い物同士が激しく衝突し合う音が響いた。踏ん張った俺を見てにっこりと笑ったスバルさんの攻めが苛烈になる。魔法戦なので身体強化ありでやっているが、そもそもスバルさんは戦闘機人、元のスペックがだいぶ高い。俺もそれなりに鍛えているつもりなのに、魔力なしで腕相撲負けた時ちょっと悔しかった。

 

 ドパァン!とサンドバックに撃てば容易く両断するであろう蹴りも防御し、体の調子が特に問題ないことを確認し終えた俺が攻勢に転じる。風を切る右フックをスバルさんが受ける。悪くないな、攻守が交代した俺とスバルさんが少しの間攻防をしていると隣のコートででかい音がして、ヴィヴィオが吹っ飛んでノーヴェさんに受け止められるのが見えた。向こうは終わりか、速いな。

 

「……お手合わせ、ありがとうございました」

 

「あ、あの!私、何か失礼なことしちゃいましたか……?それとも、その弱すぎたとか……」

 

「いえ、趣味と遊びの範囲でしたら十分にお強いです。ただ、私の拳を向けるべき相手ではありませんでした」

 

 いうなあ、ストラトスのやつ。ヴィヴィオが酷く困った顔になってしまったので俺とスバルさんはスパーリングを中止して隣のコートに行く。ストラトスはヴィヴィオのことを弱いからと評したわけではなく、拳の性質が自分と違い過ぎることに戸惑ったんだな。少なくともヴィヴィオはストラトスが戦うべき聖王ではないというのを理解したのだろう。傷つけたくないと思ったのかね。しゃーねえなあ。

 

「あの!不真面目に感じたのなら今度はもっと真剣にやります!なので、もう一回!今日じゃなくてもいいので、もう一回やらせてください!」

 

「……時間と場所は、お任せします」

 

「あー、わかった。それじゃスパーじゃなくて練習試合にするぞ!来週だ!いいな!?」

 

「ありがとうございます」

 

「あ、ストラトスちょい待ち」

 

 まっすぐに歩み寄ってくるヴィヴィオを眩しく思ったらしいストラトスは顔を逸らしつつ真剣なヴィヴィオの再戦の申し込みを受けてくれた。去って行こうとするストラトスを俺は呼び止める。余り俺とは関わるべきではないと思っているであろうストラトスは怪訝そうな顔で振り返った。スバルさんに目配せするとスバルさんはヴィヴィオを担いでコートから出ていく。

 

「構えろ。ちょっとだけ教えてやる」

 

「え、でも……私は、その」

 

「断空ってのは覇王流(カイザーアーツ)の基本にして奥義だ。クラウス殿下の記憶の中に断空を完成させた時のものはあるか?」

 

「……はい。お師さまに向かって初めて断空拳を放った時のことは、強く焼き付いています」

 

 戸惑うストラトスをよそに俺は話を進める。ストラトスの返事、俺はそれを聞いて一つ頷くと腰を落として構える。ストラトスがハッと息を呑むのが見えた。それはそうだろう、俺は今何時ものアロイジウスの格闘術の構えではなく、覇王流(カイザーアーツ)の基本の構えを取っているからだ。

 

 そして、つま先から足首へ、足首から膝へ、膝から股関節へ、腰、背骨、肩を経由して練り上げた力を伝達していく。目を皿のようにしてそれを見るストラトスの前で、ズダン!と踏み込んだ俺が正拳を放つ。覇王断空拳の直打が暴風を伴って吹き荒れる。

 

 まあ、覇王流(カイザーアーツ)は初代が手伝ってクラウス殿下が作り上げた格闘術なので、それがどういうものなのかとかは身につけてはいる。特に断空はアロイジウスと関わりが深い。足先から練り上げた力を拳に伝達する断空に近い技術がシュトゥラの騎士には伝わっていたからだ。クラウス殿下はその技術をさらに発展させてほんのわずかな動きで甚大な衝撃を生み出す断空を開発したわけだ。

 

「多分、他人が放つのを見るのは初めてだろ。俺の断空とお前の断空、何が違う?」

 

「動きが小さく、それでいて重いです。そして……力の流れがスムーズでした」

 

「だろうな。お前は断空をいくつか段階すっ飛ばして身に着けてるから動きがおかしくなってんだよ」

 

「だ、段階、ですか?」

 

 そうだ、と俺はストラトスの疑問に頷く。おそらくストラトスが思い出せる記憶はクラウス殿下が強く記憶しているもののみだ。断空を開発した時、オリヴィエ陛下との決闘の時、そしてオリヴィエ陛下の死を聞いた時……この間こいつの断空拳を喰らってみてわかったが、動きの割に威力が少なすぎた。仮にクラウス殿下が放っていたら魔力なしでも俺の胸をぶち抜いていただろうしな。

 

「断空には前提となる技術がある。それがシュトゥラの騎士の防御技術、『断崖』だ。断空拳とは真逆のやり方だな。受け取った力を地面に流す技術だ。ヴィヴィオたちならわかるだろうが、俺が防御した時後ろに下がらないのもこれのおかげだ」

 

「……どうして、それを私に……?」

 

 断崖……断崖絶壁を背にしても決して落ちないようになるというシュトゥラの騎士の逸話から名付けられた技だ。文字通り、完璧にこなせば後ろに下がることはなく、むしろ前に出ることができるシュトゥラの盾持ちの騎士ならほとんどが身に着けていた必須技術。訳が分からない、という顔をするストラトスに俺はヴィヴィオを指し示しながら背を向けた。

 

「色々あんだろ、お前にも。ま、教えて欲しかったら来週のこいつとの再戦頑張るこった。ほらヴィヴィオ、宣戦布告くらいしろー」

 

「ふぇっ!?あ、あのアインハルトさん!来週よろしくお願いします!私、頑張るので!」

 

「はい、よろしくお願いしますね」

 

 なんでだろうな、俺も正直どうしてストラトスにお節介を焼きたくなったのかは分からん。クラウス殿下が残した覇王流(カイザーアーツ)を歪んだ形にしたくない初代の気持ちか、それとも道に迷って泣きそうな子猫のような雰囲気をしているストラトスにほだされてしまったのか……だけど、改めて会って思った。あの路地裏での邂逅よりは、印象良くなったぜ。我が王の末裔さんよ。




 筋肉言語によりアインハルトの内なる優しさを察することができた脳筋城塞くん、評価を改める。主人公は覇王流を「使える」だけであって「極めている」わけではないのであしからず。普通に斧持って蛮族した方が強いです。

 ではまた次回、感想評価よろしくお願いします
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