魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡   作:防御特化っていいよね

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第37話 エレミアとダールグリュン

「お待ちしておりましたわカイトさん、ささ、こちらへ」

 

「……いつも思うんだけど俺こんな歓待を受ける理由がないから普通にしてくれねえか?」

 

「まあ、アロイジウスはダールグリュンには騎士の鑑として伝わっているのですよ?おざなりにしたらダールグリュンの沽券にかかわるのです」

 

「んな無茶苦茶な」

 

 毎度毎度でかいことでお馴染であるヴィクターの屋敷……ダールグリュンの家にやってきた俺をわざわざ玄関先まで出迎えてくれたヴィクターに俺が申し訳なくなってそこまでしてくれなくてもいいんだぜって言ってみるけど、アロイジウスを嘘偽りなく知った上で尊敬の念を抱いているらしくて、どうもヴィヴィオとは違う感じでやりづらい。

 

 ヴィヴィオは、こう……あえて言葉に表すならば妹とか、そういう感じで見ることができるんだがヴィクターは年上なのだ。年上の女子にこんな尊敬の念を向けられるのはヴィヴィオ以上に困る。もっとこう、学校のあのアホとまで行かなくてもいいから普通の友達として何とかならないか?クッソ高い紅茶にお茶菓子を毎度用意するのも疲れるだろうに。

 

「あっ、カイ君!元気しとった?」

 

「お前も元気そうで何よりだな。ちゃんと飯食ってるみたいだしよ」

 

「えへへー、ヴィクターとカイ君のおかげで元気です」

 

「そりゃよかった」

 

 結局ヴィクターに手を取られた俺は引っ張られるようにして彼女の屋敷の中に案内される。応接間には既に本日のお茶菓子であろうスコーンにクリームをたっぷりつけて頬張るジークがいた。実に幸せそうにもぐもぐとほっぺにクリームをつけてスコーンを口いっぱいにしていた彼女は俺を見ると咀嚼もそこそこにごくんと飲み込んでぱぁっと花が開くような笑顔で俺を迎え入れてくれる。

 

 クリームが頬についてるぞ、と指で頬を指さすとぼふっと蒸気が出そうなほど一気に沸騰したジークはあせあせと指でクリームを掬って舐めとった。だーいぶ元の調子に戻ってきたなジークのやつも。ヴィクターとも仲直りできたみたいだし、俺としても嬉しいもんだ。

 

 ヴィヴィオとアインハルトの再試合が決まった翌日、プー、あるいは無職である俺は暇を持て余しているので、同じく暇を持て余しているジークと暇じゃないけど時間はある修士課程のヴィクターの元にはせ参じたわけだ。ちなみにこいつらは俺がストラトスの断空拳を無防備で受けて入院してたことは知らない。2日しか入院してないし。

 

 エドガーがわざわざ淹れてくれた紅茶をありがたく頂くことにした。しかしこの執事もよく出来た執事だな。よく気がまわり、主であるヴィクターのことをよく理解していると見える。理解しているからこそ時々主を揶揄っているのだろうが、それが許される間柄なのだろう。ふむ、そう考えると初代とクラウス殿下、オリヴィエ陛下のような感じか。得心がいった。

 

「さて、今日もやろうか。ジーク、ヴィクター」

 

「ええ、是非ともお願いしたいですわ。私たち重装型の騎士にとってアロイジウスの戦闘はまさに完成系。理想といっても過言ではありません、勉強させてくださいな」

 

「カイ君強いからなあ。ウチの攻撃完全に捌ききるなんて初めてやもん。それに……」

 

「お前がイレイザーをものにしかけてるのに俺は関係ないぞ、多分」

 

 俺がどうしてこの二人の所にいるのかという話になるがそれは当然ながらジークのエレミアの神髄の制御の訓練のためである。あの河原でエレミアに向き合うと決めたジークは早速そのために訓練をしようと言い出した。言い出したはいいんだが……むしろ何をどうすればいいのか分からなかった。そりゃそうだ、俺にもさっぱりだもんな。

 

 根源的にジークは殲撃、ガイスト・クヴァールを怖がっているのだが……それは意識のないうちにいつの間にか身の回りのあらゆるものが削れ、消し飛んでいるせいだ。ガイストはイレイザー魔法、ものを消し飛ばす魔法なんだが本来のイレイザーはここまで物騒じゃない。AMFのような魔法を消し飛ばす魔法という分類なのだが……

 

 そこは破壊力と殺傷力、ついで物理に重きを置いた古代ベルカの戦闘一族……イレイザーの効果範囲を広げてあらゆるものを消し飛ばす殲撃として完成させてしまった。防護するために鉄腕を使わないと反動が来るほどのもんだ、そりゃあ暴走しただけであらゆるもんがぶっ壊れるわけで。

 

 なのでこう、地道に頑張ることにしたわけだ。そもそもジークの素の状態でガイストできるのかって聞いたら、一応できるっていうのでまずガイストに慣れるところから始めた。最初はジークはおっかなびっくりだったが、ここで思わぬ収穫が会った。ガイストの発動自体は、いくらやってもエレミアのオートパイロットに引っかからなかったのだ。それが分かれば早かった。

 

 今となってはジークはガイスト・クヴァールを己のものにしつつある。もともとジークは武芸に関しては天才の部類だ、射砲撃、バインド、魔力付与、身体強化……ありとあらゆることをスポンジが水を貯えるがごとく圧倒的なスピードで学習していく。ガイストの制御が出来れば、オートパイロットの制御もできるだろう。

 

 まあ、オートパイロット自体は正直遺伝子プログラムを紐解く必要があるので俺じゃお手上げだ。3代目のソフィーアのように学者肌のアロイジウスがいないこともないが、残念ながら俺はそうじゃない。特にエレミアのようなアロイジウスより古い一族の遺伝子を弄るなんざ……それこそジェイル・スカリエッティでもいないと無理だろうしな。

 

「しかし、いつも思うがヴィクターのとこお茶請けはうまいな。どこの店だ?」

 

「ふふ、実はこのスコーンヴィクターのてづくもがっ!?」

 

「ジーク!余計なことを言わなくてもいいの!」

 

「へー、ヴィクターは料理もできるのか。うん、うまい。俺はこのチョコチップが入ったやつが好きだな」

 

 どうもヴィクターは自分が作ったものだとバレたくはなかったらしく、何時も落ち着いている彼女にしては珍しく大慌てでジークの口の中に大きなスコーンを突っ込んだ。ジークは食料を与えるとそれに集中して静かになるが、流石にものが大きすぎたのか頬がリスのように膨れてもごもごしている。うーん、そんな表情をしてても美人とは恐れ入るな、さすがはエレミア……全く関係ないか。

 

「そういや、カイ君はアロイジウスとして完成したやんな?」

 

「ん、まあな。城塞も城砕も継いだ。あとはひたすら高めるだけだ」

 

「正直、カイトさんの後に続くアロイジウスがカイトさんを超える姿は思い浮かばないですわね」

 

「まー、まずラフィとユニゾンできるかどうかが分水嶺だもんなあ」

 

 先代の城塞である母さんは、ラフィとのユニゾン適性を持たなかった。故に城塞不撓を完成させることが出来たのはむしろ奇跡といっていい。アロイジウスはラフィとユニゾン出来て初めて適性的に並になるからだ。ユニゾンできなきゃ、俺は飛行魔法使えないし、砲撃魔法を形成することもできない。バインドももってのほかだ。近接特化の俺をある程度万能よりにして死角を失くしてくれるのがラフィというアロイジウス家の至宝なのだ。

 

 俺の後に俺を越えてもらう必要がある後代も、まずはラフィとユニゾンできるかどうかで大分かわる。正直、アロイジウスの魔法自体は別になくなってもいい。預かり物さえ守れるならこだわる必要はない。必要ないなら城塞も城砕もなくなっていいさ。本質は魔法でも家柄でも、そしてベルカ騎士であることですらないのだから。ようは、心ひとつあればいい。当主としてなら魔法自体無くてもいいんだからなアロイジウスは。守りたいもの守れりゃそれでいいんだよ。

 

 

 

 

「うし、やるぞジーク、ヴィクター」

 

「よろしく頼むわー!」

 

「胸をお借りしますわ」

 

 ヴィクターの家にある広い訓練場で、着替えた俺とジーク、ヴィクターが相対する。バリアジャケットは着ていないが、己がデバイスは既に展開済み。鉄腕を解放して腰を落として構えるジークと、斧槍の穂先をこちらに向けるヴィクター、相対する俺は同じく斧槍のフラムと小盾のシュロスを構えて対峙している。

 

 いわゆる2対1の状態であるが、実は俺はタイマンよりこっちの方が得意だったりする。というのも俺が毎日ダイブしているなのはさんが顔を顰めるでおなじみベルカシミュレーターは、基本大群vs俺という形になるので俺の戦闘経験の8割は多対一なのだ。偏っているのは仕方ない。

 

「殲撃!」

 

「八式、雷剛断!」

 

「っぱきついな!」

 

 挟撃の形になる様に両脇から攻めてくるジークとヴィクターを同時に対処する。コンマ数秒早かった雷を纏ったヴィクターの大上段から振り下ろす一撃を横薙ぎにしたフラムで払ってそのまま回転しジークにも攻撃を仕掛ける。ジークはスライディングする様に俺の薙ぎ払いを躱した後ジャンピングアッパーで俺の顔を狙ってきた。

 

 3枚のシールドを軸線上に貼ることでジークの動きを遅らせる。俺のシールドはイレイザーに対抗するための特別シールドというわけではないので若干ジークの拳を止めつつも紙のように貫かれる。まあそうなるわ、その0.5秒が欲しかったんだがな!

 

「きゃっ!?」

 

「後で謝る!」

 

「ふんっ!!」

 

「うぬぬぬ……ち、力比べはきっついわあ……!」

 

 フラムによって斧槍をかちあげられて両手を振り上げられた状態のヴィクター、無防備状態の彼女に謝りつつも背中で激突して押し飛ばす。そうして俺はジークの追撃の殲撃を魔力を分厚く纏わせた左手で受け止めて彼女の俺より小さな手を上から握りこむ。押し合いならば、断然俺が有利……!

 

 態勢を立て直したヴィクターが俺の後ろから今度は横薙ぎに斧槍を構えて突っ込んでくる。俺は左手の力を急に抜いて一歩ジークに近づく。ジークの顔が急にドアップになる、彼女はそれに驚いたのか目を丸くした。おいおい、隙を作るなよこんなことで、と俺はつんのめったジークを自分の胸にぶつけるような形で受け止めて、押した。どったーん!と反動で後ろにひっくり返るジークから目線を外してヴィクターに瞬時に向き直る。

 

「はあああっ!」

 

「オラァッ!」

 

 ドバキャァ!と斧槍同士が己の属性の魔力を纏って衝突し、炎と雷撃が駆け抜ける。ビーーッ!と俺とヴィクターの魔法のぶつかり合いが練習場に貼ってある結界の許容値を越えたらしく警告音が鳴り響いた。それを合図に、俺たちはすっと体の力を抜いて戦闘態勢を解いた。流石にやり過ぎたか。それにしても……

 

「なんだかんだガイスト、神髄に頼らなくとも使えるようになってきたな」

 

「へっ!?う、うん……カイ君が訓練に付き合ぅてくれてから、何となく安定してきてる気がするんよ」

 

「何でもかんでも俺のせいにするな。主体はお前なんだから、胸張って誇れよ」

 

「む、むね……」

 

「俺の胸じゃねえわ」

 

「やはり、まだまだかないませんわね……むしろジークと二人がかりの方が厄介な気がしますわ」

 

 胸を張って誇れ、と言った俺の胸を凝視するジークにそうじゃないと突っ込む。なんだよ、俺の胸なんぞ筋肉しかないぞ、顔面からそこに突っ込ませたのは悪かったが、両手がふさがってたんで許してくれ。というか戦闘中に恥も外聞もないわ、意図的にやるかどうかはともかくとしてな。

 

 まあそれはともかく、ジークのガイストの制御は日に日にうまくなっている。やはりジークは天才だな、この吸収速度はちょっとやそっとじゃ真似できん。一応、ジークには辛い訓練になるんだけど技と神髄のオートパイロットを出して制御を敢行するという訓練もやってはいるのだ。

 

 こっちは殲撃ほど芳しくはないのだけど、ちょっとずつ制御を取り戻す時間が早くなっているし、意識を完全に失わなければ耐えることができるようになった。はっきり言ってジークにはストレスにしかならないのでやる日は俺とヴィクターが揃ってて、なおかつ俺の土地の山の中でやるという条件付きだけど、ジークは前向きにそれに取り組んでいる。

 

「……いつも思うんだが」

 

「なんでしょう?」

 

「ヴィクターって、ジークの母親みたいだよな」

 

「……そういうカイトさんは、父親のようですわ」

 

「俺が?むしろ俺はダメな兄貴とかそんな感じだろ」

 

「……ウチが娘なのは確定なんか」

 

 ヴィクターがジークの汗を甲斐甲斐しく拭いてあげている様子を見ながら俺がそんなことを言うとヴィクターからカウンターが飛んでくる。ヴィクターはどうやらまんざらではないらしいが、俺が父親とかダメだろ。ジークはともかくヴィクターは修士かつ実業家だ。それに代わって俺はプー太郎。ダメ親父にもほどがあるわ。

 

「ウチは、カイ君の娘なんはいややなあ」

 

「悪かったな脳筋で」

 

「そうじゃないんよ」

 

「私はカイトさんが夫でジークが娘でも構いませんが」

 

「それは構え」




 最近のベルカ年上世代。ヴィクターって2歳年上なんすね……。同い年だと思ってました。二人ともかわいいなあ。

 ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします
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