魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「ストラトスに勝ちたいから特訓してくれ?」
「はいっ!アインハルトさん、私が弱すぎて失望しちゃったと思うので、今度はちゃんと気持ちを伝えたいんです」
「あ~~~……そうか、そうだよな~~……ん~~~」
ストライクアーツ練習場にて、ミットを持った俺に対して綺麗なパンチを次々ミットに突き刺すヴィヴィオが息を切らしながらそういう風に俺にお願いしてくる。パン、パンと腰を落としてヴィヴィオのミット打ちに付き合っていた俺はどうしたものかと難しい顔になる。ヴィヴィオはそんな俺を見ていぶかしむような感じで首を傾げる。
「カイト先輩?」
「ヴィヴィオ、正直勝負の前にこんなこと言うのはダメだと思うんだが……ここからどうお前があがいても多分、ストラトスに真正面から勝つのは無理だ」
「カイト、お前な……いい方ってもんがあるだろが!」
「ノーヴェ!私なら平気だから……その、ちょっとびっくりしたけど……」
悲しそうに眦を下げるヴィヴィオに俺はいたたまれなくなる。そしてじっと~~という感じで突き刺さる非難の視線、コロナ、リオにノーヴェさんのそれを俺は甘んじて受け入れる。本当ならよしじゃあ勝てるように特訓するか、という風にヴィヴィオを焚きつけるのがいいのだろうが、一旦ヴィヴィオには覚悟をしてもらう必要があるからこの言い方をした。
「自力がどうこう、という問題じゃないんだ。むしろお前は同世代ならかなりできるほうだと思う。俺が勝てないって指摘するのはお前とストラトスの拳の性質の違いだ」
「拳の性質、ですか?」
「……お前、なんでストライクアーツを始めた?」
「えっと、それは……最初は楽しくて、相手と試合してからは段々とのめりこんじゃって……」
「そうだよな。言うなればお前にとってストライクアーツってのは誰かと交流するための手段だ。対して俺やストラトスの拳は違う。もっと言うなら古代ベルカの武術を継承してるやつは恐らく俺らと同類になる」
いいよなあ、楽しむための拳。素晴らしく前向きな答えだ。ストラトスが途中で拳を引っ込めたのがよくわかるよ、だからこそ俺はノーヴェさんたちならともかく本質的な部分でこいつらと本気のスパーをしたくはない。真似でもしてきたらたまったもんじゃない、親御さんになんていえばいいのか分からなくなるからな。申し訳なくて。
「カイト先輩と、アインハルトさんが一緒……それって」
「俺たちの武術は、相手の殺害を前提に置いている。わかるか、人殺しの拳だ。ノックアウトで終了じゃない、相手の心臓を止めて初めて勝ちなんだ。ストラトスが言う勝負ってのは本来それなのさ。だからあいつは、お前の拳の性質に気づいて自分の拳を止めた」
「相手を殺す……」
「優しいぜ、あいつ。俺が指摘するのはそこだ、お前の拳は終わった後も相手が生きているものだ。今は非殺傷なんて便利なものがあるから同じ土俵で戦えるけどよ、ノーヴェさんが地区予選時点で俺にデバイス使用を止めなかったら俺、今頃管理局の牢にいたかもしれないんだよ」
地区予選で拳を交えてわかった。非殺傷が無ければ、クラッシュエミュレートが無ければ……俺は初戦で相手を殺していた。そういう動きが染みついていた、アロイジウスの武術は余すところなく古代ベルカから変わらず受け継がれた戦争のための技法だ。だから俺は、この後輩たちに出来れば殺しの技術ではなくちゃんとしたストライクアーツを学んでほしいと思う。この時代に、殺すためだけの技術は必要ないから。
「相手の殺害を前提にした拳と、相手が生きていることを前提とした拳……どっちが強いかと問われたら俺は前者をあげざるを得ない。同じ殺人術を修めるものとして」
「カイト先輩……でも、私は」
「勝ちたい、か?まあ武闘家、もしくはスポーツ選手ならその答えが出るよな、当然だ。それでも勝ちたいなら俺ができるアドバイスは一つ。拳に込める熱量で、アイツを上回るしかない」
「拳に込める熱量……私の全部をアインハルトさんに……!」
「そういうことだ。あいつ本人は今回そこまで乗り気じゃない、多分ヴィヴィオとは関わるべきじゃないと思ってるんだろ。それをひっくり返すくらいの気持ちを拳に込めてあいつにぶつけるんだな。安心しろ、お前は俺が手をくわえなくても十分に強いさ。ただ……ストラトスにとっては俺がいるのが誤算だなあ」
まあ長々と何を言ってるのかという話ではあるが、ただ勝つだけではストラトスはありがとうございましたと言って去って行ってしまうだろう。汚い話、俺はヴィヴィオがストラトスの意識を改革できるのではないかと睨んでいる。ストラトスの中にヴィヴィオという存在を決して消えないように刻み込んでやれば妄執から解き放つ楔になるのではないかとな。
俺自身でそれをやれればいいのだが、今の俺は悪い意味でストラトスを縛ってしまっている。そう、あの路地裏のアレだ。マジであれは悪手だった。ちゃんと相手をしてやれればよかったのだが、あの時は頭に血が上っていた上に初代の感情が暴走してしまったせいで主君に諫言をする騎士のような振る舞いになってしまった。あれをやっちゃったら俺はストラトスと対等な友達になるのはすぐには難しい。
全く、後輩に自分のケツを拭かせるとは情けねえ先輩だな俺は。ただ、こうして発破をかけた手前俺にできることはすべてやらせてもらおう。ぽいっとミットを捨ててヴィヴィオに構えるように伝える。俺が覇王流の構えを取ったのを見たヴィヴィオはさっきまでと打って変わってぱぁっと顔を輝かせた。
「分かってると思うが、1週間無いんだからスパルタになるぞ」
「のぞむところですっ!」
「ここは、救助隊の訓練でも使っている場所なんだ。廃倉庫だし許可もとってきたから安心して本気出していいぞ」
ヴィヴィオの特訓開始から5日後……まあ、今日が約束の日だ。いやー、ヴィヴィオのやつ頑張ったな。割と俺なのはさんヴィータさんに倣ってスパルタ方式でひたすら覇王流でヴィヴィオを叩きのめしていたんだけど全く折れないんだあいつ。根性ならもう既に完成の域に達しているかもしれんなあ。
「最初から全力で行きます!セイクリッドハート!セーット、アーップ!」
「武装形態」
「ルールは5分間の格闘オンリー、魔法はなしだ。いいな!」
こくり、と姿を変えた少女たちが無言で頷く。大人モード、魔力の肉体を形成する身体強化魔法だ。なのはさんに術式を見せてもらったが、才能がいるんだよアレ。俺みたいにただ能力をゴリ押しであげるだけじゃない、魔力で体を形成するっていうのは結構難しいんだ。ちなみにだが俺には出来ん。
「ふむ、改めて見て思うがやはり荒いな。だが、師を持たずに覇王流を一から組み立てたとなるととんでもない才能だ」
「ああ、俺が覇王流を使えるのはあくまでデータ上のクラウス陛下から盗んだだけだからな。データですらない朧げな記憶の身であれとは、恐れ入るよ全く」
「ヴィヴィオ、勝てるかな」
「頑張ってー!ヴィヴィオー!」
流石にクラウス殿下の末裔の再試合は見逃せなかったのか今日は付いてきたラフィが顎に手を当ててストラトスを分析する。まあ、俺が胸をぶち抜かれたアレの件で激怒していたラフィだが俺が辛抱強くなだめすかしたことでもう一度見定めるつもりになったらしい。リオとコロナの応援が響く中、二人が静かに構えたのを見計らってノーヴェさんが開始の合図を出した。
「はあっ!!」
「くっ!」
初手は当然ストラトス、覇王流の足運びは一気呵成……瞬時に距離を詰めると同時に拳を最適な位置に置いて攻めに繋げる、先手の拳。打ち出された拳はヴィヴィオの顔面を捉える前に、横からヴィヴィオが伸ばした手に払われる。ストラトスはそれに慌てることなくさらに距離を詰めてクロスレンジのさらに内側、ゼロレンジでの打撃戦を始める。
打ち出す、逸らされる、打ち出す、逸らされる。覇王流はアロイジウスと同じく防御の上から叩きつぶす拳ではあるが、ヴィヴィオはそれをクリーンヒットで防御するのではなく最小限の力を横から加えて拳の向きを逸らしてギリギリ体をかすらせるように逸らしていく。
「ヴィヴィオ、すごい!」
「特訓の成果出てるよー!」
「カイトがヴィヴィオを教えたんだっけ?」
「教えてなんかいませんよ、あれはあいつが自分でたどり着いたんです。防御の上から潰されるなら、攻撃に当たらなければいいってね」
スバルさんの言葉に俺は肩をすくめて答える。そもそもヴィヴィオはパワーヒッター型、まあつまり俺と結構な回数スパーリングしているわけだが、そうすると俺の攻撃を防ぐのではなく躱すという対処の方が次につながるということには気づいていたわけだ。ヴィヴィオは目が物凄く良い、正確には動体視力か。どんな速い動きでも彼女は捉えることができる。
あとはそれで、俺が使うまがい物の覇王流相手にどうすれば生き残れるかを考えた結果が、あの攻撃を逸らす防御技術というわけだ。だが、あれも綱渡りだ。ストラトスの拳は逸らしたとしても脅威ではある。ヴィヴィオも防ぐことで手一杯、反撃できないでいる。食い破られれば終わりだ。
「たぁっ!」
「っ!いまっ!!」
バチン!とストラトスの腹にヴィヴィオのフラッシュジャブが突き刺さる。やはりストラトス、強いは強いが実戦勘はヴィヴィオとどっこいどっこいだな。俺と同じで拳を振るう場所に恵まれなかったからか、実戦経験が少ない。覇王流に限らずパワーヒッターの決め打ちは大振りになりがちだ。そこの一瞬緩んだ部分に素早い攻撃を叩き込んだヴィヴィオの顔に自信が浮かぶ。
打撃戦が奏でる鈍い音が響き続ける。ストラトスは少し慎重になり、そして攻撃を当てたヴィヴィオは自信が出たのか攻めに入りだした。防ぐと攻めると交互に入れ替えながらの打撃戦、拳の先のバリアジャケットが破れていく。ヴィヴィオは目の良さと軽いが素早い攻撃を、ストラトスは硬い防御と高い攻撃力の持ち味をお互いに生かしながら攻撃し続ける。そして、決着はすぐだった。
「覇王、断空拳っ!!!!」
「やあああっ!!!」
一瞬の隙を突かれたヴィヴィオの胸に断空拳が突き刺さる、がほぼ同時に断空拳の一瞬の溜めを見逃さなかったヴィヴィオの右ストレートが同時にストラトスの顔に入る。だが、パワーの差は歴然でヴィヴィオは吹き飛んで結界に優しく受け止められ、ストラトスは膝をついた程度。ノーヴェさんがそこで一本を宣言した。
「……まあ、順当な結果だろう。納得した、評価は改めた方が良さそうだ」
「言葉のチョイスが悪かっただけだよ、あとは俺がややこしくしただけだ。頑張ったな、ヴィヴィオ」
きゅ~~~と目を回して気絶したヴィヴィオとふらつきながらも立っているストラトス。勝敗は大方の予想通りではあるが大健闘だろう。ラフィが一つ頷いたのでようやく納得したかと俺は胸をなでおろす。その肩でハラハラしながら見守っていたイクスも一息付けた様子だ。
「どうだった、ヴィヴィオは」
「彼女に、謝らなければなりません。先週の非礼を……訂正しなければ」
「そりゃあいい。是非とも起きたらそうしてやってくれ」
「あの……」
俺はその答えを聞けた時点でヴィヴィオはストラトスの中に刻まれたことを察して、一つ荷が下りたような気分で頷いた。ストラトスも俺がいてはやりづらかろうと踵を返してその場から離れようとする俺をストラトスが呼び止める。何だろうかと振り返ると彼女はびくびくと怯えたような顔ではあったが、芯の強い瞳で俺を見つめていた。
「私は、貴方に言ってはならないことを言いました。あの路地裏で、決して、決してアロイジウスにいうべきではない言葉を。謝罪させてください」
「何だ、そんなことか。いいよ、お前も色々あんだろ。誤解はもう解けたんだから」
「いいえ、私はクラウスの悔恨を知っています。クラウスのせいで国を捨てたアロイジウスに謝罪することすら出来ずに生を終えたのを知っています。同時に、お師さまに鍛えた武芸を見せることが出来なかった後悔もありました。貴方を見た時にそれが同時に襲ってきたんです。私が口走ったことを、私は許せないんです」
……最後には瞳に涙をにじませたストラトスの言葉を俺の中の初代は受け入れた。荒れ狂う感情の波ももうない。そもそも、初代自身ももう許していたことだ。国を捨てる決断は軽いものではなかったが、一番しがらみが少ないのが初代であっただけの話。クラウス殿下が終えたなら、初代は喜んでケツをひっぱたいていただろう。俺は、ストラトスの……いや、アインハルトの頭に手を置いた、初代がクラウス殿下を褒めた時のように。そうするべきだと思った。
「……いつでも来い。必要なら、教えてやる。俺はアロイジウスだからな」
「はいっ……」
蒼と紫の双眸から、雫が一滴落ちた。
ヴィヴィオちゃんは原作より強くなってます。筋肉城塞くんのせいですね、仕方ないね。
ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします