魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「風呂ってのはいいなあ」
「ホントにな……海鳴で銭湯っていう公衆浴場に入りに行ったんだけど、地球ってちょっと風呂に本気出し過ぎじゃないか?」
「あそこかな?六課時代に行ったんだけど……大変だったんだ……」
何があったんだエリオのやつ。まるで男性浴場に入ったのにもかかわらずなぜか女性浴場に引きずりこまれたみたいな遠い顔をしているが。現在とっぷり夜は暮れ、俺とイサム、エリオの男子トリオはルーテシア曰く「ホテルアルピーノの目玉」と称するだけはある天然温泉、しかも露天風呂に並び、イサム曰く日本ではこれが作法らしい頭の上にタオルを乗せてだらけていた。
「しかし……カイトってすっごい体してるね……」
「ん、ああまあな。我ながら無茶な鍛え方ばっかしてりゃ、まあこうなる」
「その左胸の比較的新しいのなんだ?見事に急所だが」
「ああ、これな。魔法に失敗してなあ」
目ざといなイサムの奴め、我ながら筋骨隆々という言葉を体現したような肉体をしていると自負しているが、とちってフラムをぶつけた足の古傷やら、炎熱資質でやらかした火傷跡とか、身の丈に合わない大岩を持ち上げて全身潰された時の古傷とかが散見する俺の体の中から見事にアインハルトが断空拳を打ち込んだ場所を見抜きやがった。誤魔化す俺にふーんというイサムだが、多分他人にやられたってバレてんなこれ。
隣の女子風呂ではやはり女性陣が圧倒的に多いおかげで背中側できゃっきゃうふふという女性陣の風呂に対する感想が聞こえてくるような来ないような……まあ、楽しんでるようなら何より……なんか異様に騒がしいような気がするがまあ女性陣全員が集まればそりゃそうなるだろ。そう考えていると、柵越しに魔力が励起するのを感じた。リオか!?何があった!?
「やーーーーっ!??!」
「にゃあああああああっ!?」
「……」
「……」
「……」
リオの羞恥にまみれた悲鳴のごとき掛け声が聞こえてきたと思ったら、向こう側から轟音がしてひゅるるるるるっ!ぼっちゃーーん!と上空から人型の何か、というかほぼ人が落ちてきた。向こう側からなんだセインか、との声がするのでつまり目の前でぷか~~と浮いているのは聖王教会のシスターセインなのだろう。ごぼごぼと泡を口から吹いて立ち上がろうとしたセインさんに俺はこめかみに血管を浮かべてエリオとイサムに声をかけた。
「おい、ふたりとも」
「うん」
「よしきた」
「あいったたた~~……ふぇっ!?」
「「「ウェルカム!」」」
憩いの時間を邪魔された起こった俺たち。男子3人合わされば知能指数が下がるという格言通りにアホになっているので、魔力とタオルで局部を隠しつつ、自らの鍛え上げた筋肉を思う存分パンプアップさせて顔をあげたセインさんの前でポージングを取った。いきなり目の前が筋肉で埋まったセインさんは、ぼしゅうっ!と真っ赤になって風呂の湯気に負けないほどに頭をゆだらせて気絶した。戦闘機人をキャパオーバーさせてやったぜ。
「で、カイトどうやって運ぶのさ」
「触ったら……セクハラだよね」
「もうすでにセクハラしてるんだから今さらだが、シュロスに乗っけて運ぶか」
まさかこんなことのために代々伝わるデバイスを使うとは初代も予想していなかっただろうが、俺は脱衣所からシュロスを取ってきて起動し、大盾の上に水着姿で目を回して気絶したセインさんを乗っけて担架を運ぶように3人で運び、とりあえずバインドでぐるぐる巻きにした後バスタオルを3枚重ねた廊下の上に転がして風呂の中に戻った。湯冷めして風邪ひいてもしらん。
一応念のため広域念話でセインさんを気絶させてバインドで巻いた後廊下に出したというと、何したのとティアナさんから返ってきたが、俺たちは知らんぷりをするのであった。流石に今回は俺たちは被害者だと言ってもいいと思う。加害者になったけどな。ふはははは。
「それで、リオがこんなになってるのか」
「うわーん!せんぱーい!むにゅって!むにゅってされたー!」
「ほぉう。これは俺も聖王教会に対する認識を改めないとまずいかもしれんな。まさかとは思うがイクスの体になんかしてないだろうな?返答によっちゃマジで関係を考え直すぞ」
「わ、悪かったって!ちょっとしたいたずらのつもりだったんだよ~~!」
とりあえずさっさか風呂から上がった俺たちが見たのは水着姿のまま正座するセインさんと、俺を見た瞬間に涙目で飛び込んできたリオとまだ若干怒っている女性陣であった。むにゅってされた、というのが何のことなのか分からないが、快活なリオをここまで怖がらせたとあっては先輩として許すまじと割とガチでキレ始めた俺をまずいと思ったらしいなのはさんがまあまあと宥めてくる。
「リオに謝って許してもらってくださいよ。まあ俺たちは仕返ししたんで」
「はい……ごめんなさい。調子に乗り過ぎました」
「その……私も思いっきり蹴っちゃって……」
「俺たちは謝らんからな」
「ホントに何したのよ……」
とりあえず今夜のご飯はセインが全員分作ること、とルーテシアの沙汰が下りこの件は流れることになった。まあ俺も本気でセインさんがイクスの体になんかしてるとは思ってないし、彼女が調子に乗りやすくていたずらが好きなのも知っている。女性陣全員にセクハラ働いたらしいが、バツはもう受けただろう。でも暫く距離は置こう、うむ。
「そういえば、明日は全員参加の模擬戦があるんですよ!アインハルトさん!」
「模擬戦、ですか?」
「ああ、オフトレの2日目恒例らしいんだけどな。参加者全員で陸戦の模擬戦やるんだよ。ぶっちゃけメインイベントだな。イサム、もうちょい押してくれ」
「俺もソレ楽しみなんだ。このくらいか?」
セインさんが楽し気に調理をしている傍らで俺たち男子組と子供組は風呂上がりのストレッチにいそしんでいた。この体が温まっているタイミングでやるのが一番いいのだ。風呂上がりのストレッチはいいぞーと、開脚してべったりと胸をつけた俺の上に胡坐をかくイサム。こいつ何してくれてんの?悪いが俺は筋肉ダルマではあるがきちんと動ける筋肉ダルマなのだ。
「そういえばチーム分けどうなるんだろうな」
「流石にカイトと俺は分けるだろ。一緒にしたら……」
「色々できるもんなあ」
「フロントアタッカーはカイト一人いれば十分よね。スバルとノーヴェ二人がかりでもダメだったし去年」
「あ、いたいた~。はい、みんなこれ明日のチーム分けね~」
のほほ~~んとした顔のなのはさんが俺たちの所に現れて仮想画面を大きく広げてぽいっとおいていった。残された画面をのぞき込んだ俺たちは一瞬で不可解な顔になってお互いを覗き込む。んなばかな、とティアナさんとスバルさんにも画面を見せるとビシッと固まった。そりゃそうなるわな。
「青チームが、先輩にイサムさん、なのはママにルールー、エリオ……だけ!?」
「なんでですかね」
「去年アンタが一人で3人も4人も引き付けたからでしょ。フロントアタッカー何人分の働きしてるのよ」
「それで相手側が人数増えて、埋め合わせにガードウイングにイサムさんが入ったのかな……?」
「で、でもでも!これってカイト先輩と本気で戦えるってことだよね!?」
はっ、とした顔で子供組の視線が俺に突き刺さる。それはそうなのだが、納得がいかん。なのはさんにとって俺の中の評価がどうなっているかはわからないけど、過剰反応な気がしないでもないが。まあ確かに去年我ながら大暴れした……こう考えると自業自得なのか。しょうがないなあ。
「アインハルト」
「は、はいっ!」
「明日、揉んでやるよ。戦場に立つつもりでかかってきな」
「えーっ!先輩私はー!?」
「お前らはいつも相手してやってるだろ。アインハルトは初めてなんだぞ」
まあ、後輩3人衆はなんだかんだ何でもあり模擬戦をやったことがあるのでいつも通りでいいだろ、ということでなんも分からん状態のアインハルトに声をかける。後輩たちからブーイングが飛んでくるが、俺自身きちんとアインハルトと戦って実力を見ておきたいというのが本音だ。知り合って日が浅いからまだ何もやってやれてないしな。
「俺は眼中にないかあ」
「お前ら後ろのサムライに気を付けておかないと気づかないうちに首落ちてるぞ」
「明日後ろからお前の首狩ってやるよカイト」
「あ?」
「んん?」
「ま、まあ!本気の先輩と戦える機会は中々ないですから!皆相手にしてくださいね、先輩!」
わーかったわかったって、と俺は胡坐の膝に乗り上げてくるヴィヴィオとコロナ、リオにたじたじになるのだった。その様子をアインハルトは何となーく羨ましげな表情で見つめていたので、俺はため息をついて手招きすると彼女は少しだけ赤くなってそっと近づいて俺の前で正座した。俺はヴィヴィオを猫掴みしてぽいっと投げ捨ててアインハルトに改めて声をかける。
「とにかく、だ。お前の力を見せてみろ。胸を貸してやる、まあ……弟子だしな」
「……っ!はいっ!」
勝手に弟子入りしたとはいえ、俺もこいつに対しては覇王流の矯正をする立場なわけだ。ならそれなりのポーズを見せる必要があるだろう。銀髪を撥ねさせて返事をするアインハルトは、初代の記憶にあるクラウス殿下ととてもよく似ていた。
「ルールはDSAA準拠、人数はかなり変則的だけどチーム戦だ。お互い正々堂々と、そして怪我のないように頑張りましょう!」
試合のプロデューサーなどとなのはさんに茶化されながら促されたノーヴェさんが改めて試合のルールを全員に説明し、ライフポイント管理用のタグを配布した。あの後、夜更かししようとする4人を纏めて担いで部屋に放り込んで寝かせた俺は、しっぽりとイクスと一緒に晩酌を楽しんでいたラフィからワインを取り上げて布団に放り込んだ後改めて自室に戻って寝た。そんで今、待ちに待った試合の直前まで来てるわけだ。
早朝に準備運動がてら青チームで固まって作戦会議をしたのだが、なのはさんに何で等倍で分けなかったのかと聞いたら去年俺が想定以上に強すぎて前線が俺一人にぶち壊されていたからだそうです。ヤッパリ自業自得じゃないか。それはもう納得したので数的不利をどうしようかという話になったんだけど、そこでイサムが向こうの戦力をどうにか分散して奇襲をかけるのはどうかと提案、即決された。
どうやってそうするのかも決まったのだが、作戦が決まった瞬間に俺、イサム、ルーテシア、なのはさんは三日月のような悪い笑みを顔に浮かべていたと述懐しておく。ちなみにまだまだ純粋なエリオはそれにドン引きしていた。お前もこの仲間に入れよ、ベルカ思考は気持ちいいぞ~。
「それじゃ、赤組?」
「青組も~。せーのっ!」
セーットアーップ!とデバイス起動のコマンドを高らかに歌い上げた女性陣が光に包まれる。俺ら男性陣もまあ乗っとくか、という感じで俺はラフィに手を伸ばし、彼女が俺の手をとってユニゾンをして騎士甲冑とフラムとシュロスを展開した。今回、注目はアインハルトとコロナかね。アインハルトは元より、コロナはルーテシアにデバイスを作ってもらったらしいからな。
『準備はいいかしら!?それじゃ!はじめっ!』
ドガァァァン!とガリューが打ち鳴らす大銅鑼の音が響き渡り、模擬戦が始まった。あっちはこっちに対して2対1でマッチアップできる数だが、それを初手で崩させてもらおう。俺は地面にフラムとシュロスをめり込ませて突き刺して、前に出る。同時にイサムとエリオが俺たちを挟み込んでいるビルの向こう側に消えた。
「それじゃ、作戦開始ね!イサム、カイト!やっちゃって!」
「向こうの魔力弾は私が相殺するよー!」
「カイト!いくぞっ!」
「こい!」
そのイサムの合図が響いた瞬間に、ザンッ!!とビルに斜めの切込みが入って真っ二つに切り裂かれた。俺には見えないが、あの向こうにはイサムが小太刀を居合で振り切った状態で佇んでいるのだろう。そして、それをエリオが身体強化魔法全開で蹴り飛ばして、俺の上に落とす。
『頑健、最大出力』
「ふんっ!!」
『ちょっと!冗談でしょ!?』
『うわわわわっ!?』
『ええええええっ!?』
広域念話で拾われる向こう側の驚愕の声、さもあらん、俺は今我が家秘伝の身体強化魔法である頑健を目一杯使用して、ビル一棟を丸ごと持ち上げているからだ。投影映像とはいえ、重さ感覚そして実体化しているそれはまさしく本物。地面に1m以上めり込んだ俺はそれでもそのビルを持ち上げたままさらに力を込めて……相手側に向かって思いっきり投げつけた。放物線を描いて飛ぶ巨大物に、更なる驚愕の声がひびいた。
アホ3人衆、セクハラを働くの巻。それはそうとあれはセインが悪い(無慈悲)
模擬戦開幕です。筋肉ダルマ主人公、がんばってくれます。それではまた次回に。