魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「だから悪かったって。ぶつかったことは謝るよ」
「あ、ああ……」
「もう行っていいか?」
「ちょっと待ってくれ!」
「またかよ。さっきからその繰り返しじゃねーか」
「少しだけ、少しだけなんで!」
快晴のミッドチルダにて俺は顔をしかめていた。俺の頭の上にいるラフィからイラついた空気が出てくるのを念話でなだめつつ足を止めて目の前の二人を見下ろす。事の始まりは10分前俺がラフィと話して上の空だったのが悪かったのだが、人とぶつかってしまったのだ。その相手が、目の前の女子二人組、制服からして高等部当たりのどっかの学校だろう。マスクとサングラスで若干人相が悪い、不良一歩手前の印象の二人に因縁とまではいかないがなぜか引き止められているのだ。
こまった、この後合宿で話が合ったアインハルトのデバイスとはやてさんに呼ばれた件で八神家に呼ばれているのだが。時間的にはまだまだ全然余裕があるので付き合ってやっているのだが俺も面倒くさくなっているし頭の上で寝転んでいるラフィが本格的にうとうとしてきているのでさっさと終わらせてほしいのだが。
「あ!きたきた、リーダー!こっちこっち!」
「すんませんっ!引き止めちゃって、どうしてもリーダーをチャンピオンに会わせたかったんです!」
「ああ、そういうことか。最初から言えばいいのに。それで、大丈夫か?」
「ハッ……ハァッ……ちょ、ちょっと待ってくれ……」
「あー、まあ深呼吸でもしろよトライベッカ。慌てすぎだ」
「お、オレのこと知って……!?」
「女子の部でも実力あるやつは把握してるよ。落ち着いたか?」
へー、意外な出会いがあるもんだなと俺は目の前の相手を見る。覚えがある、二股に分かれたポニーテールの赤髪、赤い瞳。気の強そうな顔立ちと男勝りなしゃべり方。ヴィクターから耳に胼胝ができるほど聞いたインターミドルで二つ名がつくほどの強豪選手である『
「その、戦いを見て……ファンになったんだ、サインくれないか!?」
「いいぜ。洒落たやつ書いてやるよ。読めるかは知らんが」
「……なんだ、この文字?」
「古代ベルカ末期に使われてた文字だ。読めたら学者になれるぜ」
サインねえ、表舞台に出ないから忘れがちになっているが俺は一応『次元世界最強の男子』ということになっているのだ。次のDSAAが近いからかなり減ったが、外に出たらそれなりに声をかけられる機会があった。優勝直後が一番ひどかったけどな。普通に名前を書くのも面白くないので古代ベルカ文字でサインを書くとトライベッカは首をかしげている。しゃれっ気が過ぎたか。
「しかし、サインでいいのか?」
「へ?」
「実は待ち合わせまでかなり時間があってな。模擬戦程度なら付き合ってやれるが」
「や、やるやる!いいのか!?ほんとに!?」
「いいぞ。おい起きろラフィ、仕事だ」
「ん、ああわかったあるじかいと」
寝ぼけてやがんなラフィのやつ。暇すぎるとよくスリープするからなラフィは。いかんせん稼働期間が長すぎるので時間間隔が常人とは違うらしいのだ。暇だったらすぐ意識を落とそうとしやがる。トライベッカはまさか模擬戦に誘われるとは思わなかったのか予想以上に驚いて軽く跳ねて自分のデバイスを確認している。
しかし誘った俺が言うのもおかしい話だがこの3人、制服ってことは学校に行く途中……いや、時間的にはもう1限目が始まっていてもおかしくない時間だ。もしやさぼっているのか?なんかいいなそれ、まじめに学校に行くのもいいが、さぼるのもある意味で青春だろう。そういう意味ではトライベッカは満喫してるのかもな。
「バリアジャケットなしデバイスあり、本気で来ていいぞ」
「おうっ!レッドホーク!」
「武装形態」
じゃらっと体操着に着替えたトライベッカの左手に鎖が巻き付く。なんと珍しいことにトライベッカのデバイスは鎖型という見たことないものだ。俺が模擬戦吹っ掛けたのもこれが気になったからである。そして、俺と同じ炎熱変換資質を持ち、砲撃魔法を得意としているときた。しかもクロスレンジの殴り合いで砲撃を交えた格闘砲撃型というとても珍しい型だ。気になるだろ?
いつでも、と俺がフラムとシュロスを構えるとトライベッカは額に汗を一筋垂らした後、恐怖を振り払うように雄たけびを上げて飛びこんできた。いいな、気圧されたのを一瞬で立て直した。二つ名がつくだけはある。発射された燃える誘導弾をフラムでたたいて空中で止め、そのまま打ち返した。
「いいっ!?」
「古代ベルカ相手に生半可な射砲撃は通じんぞ」
「このっ!ガンフレイムッ!!」
「ふっ!」
トライベッカは打ち返された誘導弾を巻き込むように直射型の燃える砲撃を発射する。燃えるそれを俺はフラムを振り下ろして左右に割って対処した。なるほどな、トライベッカはどっちかというと俺たち側だな。タイプ的には競技者というものよりも戦闘に重きを置いた傷つける魔法の打ち方だ。しかし、我流でここまでやれるとは恐れ入る。
我流で強くなるのは、個人的には難しいと思う。体系的に残った技術というのはそれが有用だから今まで残ったわけだ。その体系だった技術を学ばずにひたすらに我武者羅に己を鍛えていくというのは、途方もない根気が必要だ。なのに彼女はいうなれば砲撃番長流の開祖ともいうべき戦い方を身に着けている。ある意味では初代並みに才能があるといえるだろう。
「さすが……!レッドホークっ!」
「ラフィ」
『炎熱付与』
トライベッカは左利きか、俺と同じだなと彼女の左手に巻かれたデバイスが発火し、左こぶしを炎が覆うのを見てフラムに炎をともす俺。またまた親近感わくな。と俺は腰を落として突っ込んでくるトライベッカを迎え撃つ。スバルさんや俺、ヴィヴィオがやるように近距離砲撃は割と有効だから彼女のスタイルも理には適っている。
「だらぁっ!」
「紅火剛閃!」
「んなっ!?」
ジャラララ!とトライベッカの左手から十分に熱されて赤熱する鎖が伸びて俺のフラムを雁字搦めに拘束する。俺は水切りの応用で身に着けたアンチェインナックルの武器版で鎖を断ち切り、さらに左手で切った鎖を握って引く。鎖を俺の剛力で引っ張った結果、トライベッカはつんのめって俺のほうに勢いよく飛んできた。
カウンターで顔面にフラムを、と思ったがやりすぎてもいけないので俺はそのままぴたりと彼女の眼前でフラムを止める。寸止めされたフラムが相当怖かったのかトライベッカの瞳は若干うるんでいた。や、やりすぎたか……?と加減を誤ったのかひやひやしていた俺はとりあえず
「ここまでだな」
「……あーーーっ!くそっ!想定してたのの100倍強え!オレも鍛えなおさねーと!」
「そっちこそ流石って感じだな。防御は苦手か?」
「うっ……それは、すこし……」
苦手なんだな、と俺は目の前で痛いところを突かれたとしょぼくれるトライベッカを見て苦笑する。相手をしていて思ったが、トライベッカは攻撃に傾きすぎてどこか防御をおろそかにしている印象がある。バリアジャケットがあればまた別かもしれないけど俺が攻撃を躊躇ったのはそれだ。
自分で言うのもなんだが、俺は防御に割り振った騎士である。だからこそ一撃で相手を落とせる攻撃力も持つ必要があった。端的に言えば、俺が思いっきりトライベッカに今の状態で攻撃あてるといくら改良式非殺傷といえど貫通する。フラムも最近研ぎなおしたばっかりだったし、せっかく会えたのだからと模擬戦吹っ掛けたがもう少し考えるべきだったかね。
「とにかく、ありがと!オレの悪いところもストレートに教えてくれたし、いいやつなんだな!」
「いや、時間があったからな。トライベッカもさぼりはほどほどにしとけよ」
「ハリーでいいぜ!あ、できればまた模擬戦……」
「暇があったらな。俺もカイトでいい、連絡先わたしとく」
「やったっ!じゃ、メールするからたまに返してくれよ!」
ふりふりとポニーテールを揺らして喜ぶハリーに、俺の泥臭い戦いのどこにファンになる要素があったのか非常に疑問ではあったが、自慢するように友達に俺の連絡先を掲げて喜んでいるのを見るとなんだか悪くない気分になった。しかし、また女の知り合いが増えたか。狙っているわけではないのだがどうしてこうも俺の周りには女性、それも美少女が集まってくるのか。不思議で仕方ない。
上機嫌に手を振るハリーたちを見送って、俺はラフィとユニゾンを解いた。バトルコートの使用料は模擬戦吹っ掛けた俺が持つつもりだったので先払い済みだ。周りでチラチラ見ていた同業者っぽいアスリートたちの視線をなるたけスルーして俺はまた頭の上に乗ったラフィを落とさないように八神家への道を歩いていくのだった。
「いやーまにあったまにあった」
「遅れるようなことをしていたのは主だろうに」
「時間もあったしせっかくって感じだったんだよ。正直ぶつかったことに感謝したいね。いい経験だった」
「2代目が戦った鞭使いが似たような動きをしていたな」
ラフィのボヤキの内容は後で詳しく聞くとして、模擬戦をやったことでかなりいい時間になってくれた。はやてさんにはお昼時を指定されたのだが、これはきっと俺がなんやかんや申し訳なくて手料理をごちそうになるのを遠慮しているから無理にでも食わせてやるというはやてさんの思惑が透けて見える。
別に俺は他人の料理が食えないというタチではないのだけどはやてさんの手料理は何となく気後れするものがある。はやてさんは言わなくてもわかるが夜天の魔導書の主であり、ヴォルケンリッターを従えている騎士でもある。ベルカ的思考からするとただの一騎士である俺的には主君とか、格上の存在として扱われるべき人間だ。そんな人が手ずから料理をしてふるまってくれるというのは、言いにくいがなんか気まずいのである。
俺が完全におかしいのだが、そういうわけで俺は何となくはやてさんの手料理を避けているし、なんだったらなのはさんとかフェイトさんとかスバルさんティアナさんノーヴェさんのそういうのも避けている。いや、完全に俺が気まずいだけであって相手方が悪いわけじゃないのだ。俺の思考がベルカに染まってるのが悪いのだ。
「おー、いらっしゃいカイト~ラフィ~。逃がさへんで♡」
「ようカイト、ラフィも来てくれてさんきゅな!」
「カイトさーん!ラフィお姉ちゃん!いらっしゃいですぅ~!」
『歓迎する、騎士カイト、姉さま』
「お邪魔します」
「失礼する」
そんな感じでやってきた海岸近くの八神家。潮風が心地よく、そして春先なのに少々熱い。変換資質柄高温への耐性は持っているがそれにしても気温的な変化は感じはする。夏、つまりはDSAAも近いだろうなあ。いやはや、楽しみだ。出迎えてくれたのは相変わらず人をからかう感じの笑みをたたえたはやてさんと素直に歓迎してくれるヴィータさん、そしていつも元気なリインフォースツヴァイ、浮いている夜天の魔導書ことリインフォースアインス。
「ベルカの騎士は不退転です。逃げてなんていませんよ?」
「それじゃあ今日はたらふく食べてってな~」
「まあそれはそれとして」
「おいておかないでほしいなあ。まあ先に本題から始めよか。アインハルトちゃんのデバイスの件やろ?」
やっぱり何となく俺がそこらへんを避けていることを察しているはやてさんが機先を制してくるが、とりあえず本題に入ることには成功した。そもそもアインハルトのデバイスに関して話をしに来たのだ今日は。なぜかはやてさんは異様に俺に飯を食わせたがるのはなんでだ?とにかく、とラフィが軽く作ってきた設計図を仮想画面に展開する。
アインハルトのデバイスはヴィヴィオのセイクリッドハートと同じく融合装着型、エンシェントベルカのエキスパートであるラフィがラフとはいえ設計したそれを眺めてみても破綻している部分は見受けられない。攻勢に強い覇王流に合わせたそれを見てうんうんとはやてさんはうなづいて……ぬいぐるみ外装どうしようかといった。それは後で考えよう。というか必要か?
「必要やよ?せっかくインテリジェントにするんなら、親しみやすいようにしてあげたいやんか。デバイスは一生ものやで?それに、アインハルトちゃん仲良くなるの苦手っぽいしなあ」
「そういうもんですか」
「ならリインとアギトで作りますぅ!アーギトー!」
「わかったから抱き着くなバッテンチビ!」
「もー!それ禁止です!」
まあ、はやてさんの言うことも一理あるのか、と俺は有事の際武器になるようにと待機形態を武器型にしようとしていたラフィの案を消してヴィヴィオと同じ宝石型タイプに書き直すのだった。
ハリーさんかわいい(KONAMI