魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「あー、陛下だいらっしゃーい。それとミスターチャンピオンも!」
「シャンテー、久しぶり!」
「おー、不良シスター。うちの山あんま荒らすなよ」
「もー、それはもう反省したってばー。知らなかったんだよ~」
DSAAも近づいてきたなあ、なんてのんきなことを考えながら俺がやってきたのは何を隠そう聖王教会本部である。ちなみに何度か来ているんだが、初めて来たときはほんとにすごかった。イクスの体を預けて世話してもらっているからさすがにアロイジウスといえど礼節を欠く真似をするわけにもいかず、ちゃんと挨拶に行ったのだ。
そしたら教皇様に会うことになってあれよあれよと貴賓扱いされて困惑する羽目になったわけだが。どうも教皇様に至ってはタカ派ではなくむしろ温和派、騎士カリムの直属の上司のような感じで彼女から俺についてはある程度聞いていた様子。そういえばいつの間にか俺に対する勧誘のあれそれなくなったなと思ったら止めてくれていたらしい。それは素直にありがたかった、じゃまでしかねーもんあれ。
手土産と言ったらあれだけど、カリムさんとの交渉通りの諸侯の手記とおまけにオリヴィエ陛下が好んでいたワイン、まあこれは当時の初代がとっておいたものだが一本失敬して保存魔法をかけたまま渡すことにした。聖王教会の母体となった聖王連合国には当然記録係があったのでオリヴィエ陛下のワインのことは知っていたらしい。聖遺物が増えたとかなんとか、いやそれおっさんが保存してたもんでオリヴィエ陛下は触ってすらいないぞ。
とまあ、そんな感じで険悪だったらアロイジウスと聖王教会は一応表面上は可もなく不可もなしといった具合の関係を維持できているのだろう。それでもラフィと一緒には来ないし、来るときはたいていイクスの体の様子を見に行くくらいなんだけど。あと、いい加減聖骸布取り戻せよ、あれオリヴィエ陛下がクラウス殿下に贈られたお気に入りの服なんだぞ。ゆりかごに持ち込んで大事にしてたものなんだからな?
それで目の前の話に戻すが、今一緒にいるのはヴィヴィオと俺の家の土地でたまに薬草を勝手に採取しているらしくその縁でとっつかまえたことがある聖王教会のシスター、シャンテ・アピニオンである。シャンテはまあ、なんというか厳粛な感じがする聖王教会のシスターとしては力が抜けるほど自由奔放でちょっと悪い子ちゃんだ。シスターシャッハに怒られているのを見たことがある。
「そうそう!シャンテってDSAAに出るんだよね!?」
「へー、よく教会が許したな」
「えへへー、怒られたけど勝手にエントリーしたんだ」
「なんじゃそりゃ」
がくっと俺はずっこける。組織への帰属意識がまるでない。いや、聖王教会は宗教団体なんであって管理局のように内部統制が必要なほど厳しいわけじゃないが独自の騎士団を持っているうえに武装シスターとかいうわけのわからない職が跋扈している以上勝手な行動は慎むべき、なのだろうけど別に教会だしどうでもいいや。
「イクス陛下もー。体は毎日見ているけど本人に会うのは久々ー」
「ああ、世話してもらって悪いな。見立て通りならもうすぐ修復が完了すると思うんだけど」
「シャンテー!せっかくだから一本やろうよー!」
「え~、ライバル相手に技の披露なんてするわけ……いや、見えないからいっか!よし!やろう陛下!」
「ケガをしないようにしろよー」
俺の頭の上で景色を楽しんでいたイクスにも挨拶をしてくれたシャンテにヴィヴィオが模擬戦というかスパーリングを持ち掛ける。一瞬ライバル相手に情報を開示することを恐れたらしいシャンテだったが、見えないなどというよくわからない言葉を言って対戦を許可した。見えないねえ、ヴィヴィオの動体視力を知っていて言ってるなら相当な自信だな。
それぞれがデバイスを起動してシャンテはシスターシャッハのウィンデルシャフトと同型らしいトンファーに刃がついたアームドデバイスを手にする。逆にヴィヴィオは制服姿のままで相対した。へー、防御機能のみに割り振ってバリアジャケットすら捨てたのか。面白い機能作ってるなあクリスのやつ。
「よーし、ここはひとつ陛下の右側から攻めちゃおうかな~!」
「えーほんとかな~!」
「ほんとほんと!私、嘘はたまにしかつかないから」
たまにつく時点でいつも噓のやつよりはなんか見抜くのが面倒で嫌だな、と離れた俺と胸ポケットに移ったイクスが見守る中スパーリングが始まる。うそぶいたシャンテの宣言通り、彼女は一瞬で姿を消してヴィヴィオの右側から襲い掛かったが、ヴィヴィオはそれをかがんで躱してバックステップで距離をとる。
へぇ~高速移動か。やるなあ~と俺はそれを目で追いながら感心する。シスターシャッハの弟子という話ではあるが、シスターシャッハの場合高速移動が短距離転移になるのでイサムの神速プラス高速移動魔法並みに厄介なんだけど、シャンテはただただ迅いだけのかんじだな。しかし、虚実入り混じった動きは見事なものだ。
「アクセルスマッシュ!!」
「いいっ!?」
シャンテの一撃をヴィヴィオはカウンターにするような形でシャンテのデバイス、ファンタズマを殴り飛ばして外す。まあまさか、刃を殴ってそらすとは思わなかったらしいシャンテが驚きの声を上げる。クリスが身体保護の魔法を常時全身にかけているおかげだからできる方法ではあるが、それをする度胸と根性にヴィヴィオという少女の本質が表れているように思える。
「もしかして……ねえ陛下。次の一撃、よけずに防御してみてよ」
「え?う、うん!」
「いくよ……双輪剣舞っ!」
「クリスっ!ヘイリシュ・パンツァー!」
シャンテが踏み込んでヴィヴィオに対して斜め十字に切りつける、聖王教会流の奥義を放った。ヴィヴィオは両手の甲にシールドを張ってそれを受け、さらに横から力を加えることで攻撃をすかし、十字切りを不発に終わらせた。ヘイリシュ・パンツァー、あの入院した日にヴィヴィオに渡した魔法だ。
力が足りず、踏ん張ることが苦手なヴィヴィオのために俺が使っている魔法からいくつか機能を消して、さらに特化させた魔法。モデルは聖王の鎧だがあそこまでは固くするのは無理だな。まず、防御面積を縮めることでピンポイントかつ魔力の消費を抑えて強度を上げ、さらに何かがぶつかった瞬間そのぶつかったものに反発するベクトルを発生させて攻撃の威力を減衰させる。
ヴィヴィオの目があれば着弾点を見抜くことは容易だし、彼女の高速マルチタスクなら多少重い魔法でも最速で出すことができる。あくまで直撃するときのセーフティとして渡した魔法だが、まさか武器攻撃のずらし防御をする為に使うとはな。ふぅむ、柔軟な発想はなのはさん譲りか?あの人砲撃魔導士の皮被った全距離対応魔導士だし。
「すっご、やるね陛下!よーし、ひゃっ!?」
「おやおやシャンテ、護衛役の僕らに話を通さずにこんな場所で切りかかるとはいい度胸ですね?」
「カイトさんも、止めてくださいな。陛下がケガでもしたらどうするんですか」
「ケガする前に割り込めるようにはしてたよ。シャンテがケガしたかもしれんが」
「ちょっとー!?」
「ち、違うの!私が誘ったの~~!」
防御されたことでやる気を出したらしいシャンテにバインドがいくつも絡みついて木に宙づりにする。うーん、芸術的な縛り方だなあ。割り込んできたのは元ナンバーズにして聖王教会におけるヴィヴィオの護衛役らしいオットーとディードの二人組。まあ確かに本部の目の前でドンパチやるのは確かに悪かったが。それにしてもシャンテが悪いと決めつけているあたりに彼女の普段の素行が見えるなあ。
「ほいヴィヴィオ、先にイクスのところ行っとけ。オットーよろしくな」
「あ、うん!先輩も用事がすんだら早く来てねー!」
「承りました。さ、イクス様」
俺はオットーに胸ポケットからつまんだイクスを渡して、ヴィヴィオと一緒にイクスの体のところに送り出す。俺はこの後騎士カリムといろいろお話をする必要があるのでそれが終わったらヴィヴィオと合流という話にはなるのだが……この目の前のいかんともしがたい光景をどう処理したものか。
「まったく、練習や手合わせをするなとは言いませんが、ちゃんとした場所でやってもらわないと困ります」
「いだだだだっ!?ディード、言ってることとやってることのギャップ~~~!」
「あ、そこバインド通して締めると痛いんだぜ」
「ほう」
「うにゃああああああ~~~っ!?」
ベルカ式拷問術から引き出した知識をもとにバインドの通し方を変えるようにアドバイスするとディードは全く躊躇なくそれを行ってシャンテを締め上げた。まあ、ヴィヴィオがいなくなったからいうが、最後のヴィヴィオが迎撃した攻撃、あれ非殺傷貫通するからな。そこらへん含めてオットーも怒っているのだろう。あの距離なら割り込めたがヴィヴィオならいけると思ったので一応静観した。ミスってたらシャンテ吹き飛ばして止めてたところだ。
「まったく、どういうつもりです?」
「どういうつもりも何も、危ないよって教えようと思っただけだよ。陛下の資質、格闘と合ってないもん」
「……死ぬほど余計なお世話だな」
「なにをー!?」
シャンテが最後強引な攻撃を通そうとした理由がそれか。確かにヴィヴィオはそもそも格闘型には向いていない。資質的には高速運用マルチタスク型、つまりはどっちかといえば魔力弾を大量に出して後方から攻撃するようなまあいつものスタイルのなのはさんのような感じになるのだろう。
でもさ、それがなんなんだって話なんだよな俺からしたら。向いてない、だからやめなさいっていうのは余計なお世話飛び越えてけんか売ってるのかって思っちまう。確かにこれが戦場に出るとかだったらシャンテの言い分もわからなくもないが、ヴィヴィオが出るのはそもそもDSAA、殺し合いじゃなくてルールがきちんとある試合なのだ。
「正直、武器の差で叩きのめされる陛下は見たくないよ。せっかく夢見て試合に出るのに」
「武器の差ねえ。そもそもヴィヴィオ本人が格闘技が楽しいって思ってDSAAに出るのにそれを取り上げてどうするんだ?」
「うっ、それはその……」
「あいつはDSAAに出るのが目的じゃないんだよ。自分の拳がどこまで通じるか確かめたいんだ。負けるのだってそういうこともあるって理解している」
「まあ、全部ひっくるめて言うと、カイト様がおっしゃったとおり余計なお世話、ということです」
「う~~~、それはわかったからいつまでこの態勢でいなきゃいけないの~~~?」
「反省が足りないらしいな」
「ちょっ!?」
俺とディードのダブル説教はあまり効いていない様子のシャンテに青筋を浮かべた俺は、フラムをセットアップし、彼女のバインドに追加して引っ掛ける。両手と足を一つに結ばれて木につるされている状態の彼女は追加された30キロの重りに悲鳴を上げて慌てて謝り続ける。なんか嗜虐心がそそられるな。まああまり痛いのもかわいそうなのでフラムでバインドを断ち切って彼女を地面に落とした。
「ぷぎゅ!?」
「とにかく、だ。お前もDSAAに出るつもりならそういう余計なことを考えるのはやめとけ。よそ事に気を取られるとすぐに負けるぞ」
「む~~、それシスターシャッハにも言われた……」
「そりゃああの人は実戦を経てるからな。お前も絞ってもらってるみたいじゃないか」
シスターシャッハ、まああの人は若干頑固なだけであって人間的にはできている人だからなあ。しかも最初に俺をにらみつけたのも俺に聖王教会を警戒し続けてもらうための上の指示だったみたいだし。どうもあの頃はアロイジウスとの接触が仮に成功してもタカ派を勢いづかせるだけになるって判断で会談を失敗よりに抑える必要があったらしいのだ。教皇様から聞いた。
まあその思惑も俺が予想以上にフレンドリーにしたせいで失敗しかけたらしいのだが。もっとこう、頑なかつ厳しい感じで来ると思ってたらしいのだけどはやてさんがうまくやりすぎてしまって俺はヴィヴィオのために聖王教会とは一定程度関係を持ってよしとなってしまっていて、シャッハさんは嫌われ損になってしまったのだ。
とりあえず、地面にぶつけた鼻をさすりながら立ち上がったシャンテともっと縛っていたかったらしいディードと一緒に俺は騎士カリムのもとに向かうのだった。彼女の執務室を開けるとすでに紅茶のいい匂いとお菓子がスタンバイされていて、くだんのシスターシャッハが初めて会ったときとは真逆の恭しいお辞儀を俺にしてくれた。俺は返礼を返してから、騎士カリムの前に腰掛けるのだった。
投稿を忘れてました(懺悔
お許しください