魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「くっ……はぁ、はぁ……もう一本お願いします……!」
「いいぞ、こい!」
「はぁっ!」
「脇が甘いっ!」
踏み込んで突撃してくるアインハルトに対して俺は容赦なく、見つけた隙に攻撃をねじ込む。認識外の攻撃を受けたアインハルトはまともに俺の拳を受けて吹き飛び、立ち上がろうとするががくりと膝をついて、前のめりに倒れる。俺は彼女が地面に激突しないように受け止めてから横抱きに抱き上げて、近くの岩場に座らせた。
「ラフィ、手当頼む。次はミウラ、やるぞ!」
「はいっ!よろしくお願いしますっ!」
「アインハルト、呼吸を整えろ。お前の体はまだ覇王流に耐えられるつくりに変化しきっていない。中身から変えるのだ、相当苦しいだろう。落ち着いて深く深呼吸しなさい」
「はいっ……!」
特別特訓を始めてはや1週間、特訓の日々は続いている。息も絶え絶えな様子のアインハルトにラフィは回復魔法をかけながらアドバイスをしている。俺の目の前に立ったミウラは、ひゅっと息を吸い込むと地面をけって俺の懐に飛び込んでくる。そう、そうだ!純格闘に限らずありとあらゆるレンジに必要なものは、敵に飛び込む勇気!
「いいぞ、ミウラ!突撃力を損なうな!そのまま攻撃してこいっ!」
「たああああっ!」
左のフック、右のストレートからつないで中段の回し蹴り、俺はあえてずり下がりながら彼女の攻撃を受け続ける。そして、一瞬のスキをついてミウラの手を取り投げ飛ばした。彼女は地面に投げつけられるもうまく受け身を取り、立ち上がる。いいガッツだ。さらに地面をけって飛び掛かった彼女に繰り出した右こぶしに抱き着くようにミウラは関節技に移行する。
が、大人げない自覚はありつつも関節技にあらがった俺は再びミウラを投げ飛ばす。ミウラは吹き飛んでラフィが展開した衝撃吸収用魔導ネットに受け止められる。上下逆さのままに目を回しているミウラの両手には色違いのリストバンドがつけられていた。そしてそれは、ようやっと呼吸を落ち着けたアインハルトも同じ。
「慣れたか、その二つ」
「いえ……その、まだ違和感が大きいですし、まともに動けません」
「ふぇ~~~……体も魔力も重いですよぅ……」
「だろうな。むしろ1週間で模擬戦まで持っていけるのに俺は驚いてるよ」
「その様子なら強度を上げても大丈夫そうだな。明後日あたりに上げるとしよう」
二つのリストバンドの意味は、俺も常時かけている魔力負荷と筋力負荷を自動的に行ってくれる簡易デバイスだ。夜天の魔導書の修復の時手伝ってもらったアテンザ技師の作品らしい、ちょうどアインハルトやヴィヴィオくらいの年が一番魔力が伸びるので魔力値の絶対値を伸ばすために着けている。当然これはヴィヴィオたちもやっているのだが、ヴィヴィオたちは筋力負荷はなし、魔力負荷のみでやっているようだ。
これは俺がわがままといった、というのが正しいのだが……アインハルトは覇王流を十全に使うには少し体が出来上がっていないし、ミウラのスタイルなら筋力がないとお話にならない。特にミウラのスタイルは、カウンターに非常に弱い。相手を一撃で落とせる攻撃力を手に入れなければ返しの一撃でノックアウトされる。
正直そこらへんは本来長い期間を経て体を作っていくものではあるが、DSAAまでに反動なしで戦うためには多少なりとも肉体改造が必要なのだ、二人とも。無理させない範囲で筋力負荷も行うようにノーヴェさんにお願いして許可を取り、二人の状態を見てデバイス技師であるラフィが適宜修正を入れている。
「お師さまは、ずっと行っているのですよね。自力で」
「そうだな。だからと言って俺の見てないところでやるなよアインハルト。お前の体を壊すために俺は修行つけてるわけじゃないんだからな?ミウラもだ」
「はい……」
「わかりました!」
「よし、アインハルト。断空拳、打ち込んで来い」
「……参ります!」
息を整えたアインハルトが立ち上がったのを見計らい、俺は断空拳を打つように彼女に命じる。アインハルトはそれに素直に従い……覇王流の構えを取り、踏み込み、そして断空拳を繰り出す。彼女の断空拳はオリジナルに近づけたコピーのようなもの。本来の形ではない。極めた断空に構えは必要ない。ありとあらゆる姿勢から、必殺の一撃を穿つ覇王の拳だ。一撃必倒、二撃目はいらず、それが断空拳。
現在は直打と振り下ろしのみ。それが断空拳が未完成であることの証だ。鎌風を起こしながら迫る拳を、俺はいつだかの裏路地の時と違いきちんと受け止める。込められた衝撃力を足から地面に流す、俺の足が若干地面に沈んだ。それに俺が笑みをこぼす、いい威力になってきたじゃないか。そしてそれはアインハルトも同じく。
「これは……」
「今のを忘れるな、空を断つ……本当の断空に近づいてきたな」
「これが……!」
アインハルトの覇王流は完成品をそのまま身に着けたもの、だけど前提技術が欠如している。スキップはできるのに走ることはできないといえばいいのだろうか。欠如を埋めることができれば、まだまだ断空拳の威力は上がる。覇王流が完成していく。パズルが完成していくように足りないピースを埋めていくのは、楽しいだろ?
極限まで疲労した体が、必然的に負荷の少ない動きを選ぶ。傷ついた筋肉が、これ以上傷つかないようにスムーズに力を流動させ、アインハルトの小さな拳の一点に集中し炸裂したのだ。覇王流は、こんなものではない。アインハルトの、俺の記憶にある覇王流はもっと強く、鋭い。目指す先はまだまだ先だぞ。そして……
「ミウラ、次はお前だ」
「はいっ。重破……いきますっ!」
「よしこいっ!」
「ハンマーシュラーーークッ!!!!」
ミウラの宣言とともに、俺の体を衝撃が貫く。重いもの同士がぶつかるようなすさまじい音が周囲を駆け抜ける。体重差故に俺にとっては軽いはずのミウラの拳は、これ以上なく重いものに変わっている。まだまだ不完全ではあるが、教えた技術を身に着けつつある。そのことにやはりミウラはアインハルトにも劣らぬ才能を秘めていると笑みを深めた。
ミウラの突撃力を上げるために、俺が選んだ手段はシュトゥラの武術のうちの一つを、彼女に教え込むということだった。その名は「重破」といい、文字通り重さで破壊する技術だ。その重さというのは、装備を含めた自分の体重。俺ならばシュロスとフラム、バリアジャケットに予備のカートリッジを含めて200キロ超、ミウラならばまあ大体50キロ前後というところか。
突撃力というのは、速さ、重さ、硬さそして筋力で決まる。その重さを大幅に増強するのが重破である。からくりはまあ小難しいので流すが、この技術は装備も含めた全体重を拳や蹴りに乗せることができるという技だ。例えば俺が使えば、俺の拳はたちまち200キロの鉄塊に変わる。
ミウラのそれは未完成だが、彼女の長所を大幅に伸ばす技なのは変わりない。だが……それを1週間かそこらで概要レベルとはいえ習得しかけているなんてちょっとドン引きするくらいの才能だ。八神家全員が太鼓判を押して鍛えてほしいっていうわけだ。まっすぐ行ってぶん殴るだけで、すでにミウラはノービス程度の相手ならもはや敵なしになっているだろう。
「もう少し重心落とせ、だいぶ乗るようになってきたけど関節が固いな。風呂上がりにストレッチを念入りにしとけよ」
「ありがとうございますっ!」
「それと明日から対武器で長物と鈍器をやる。長物はラフィが、鈍器は俺だ。半端にやると叩き潰すからそのつもりでこい」
「「はいっ!」」
「よし、じゃあ今日は解散な。シャワーを浴びた後ラフィはアインハルトを送ってきてくれ。俺はミウラを送っていく」
そう言って俺は実家の屋敷を指さす。いつもは使ってないが、修行が始まってからは使う機会があると思って草だらけだった大人数用の修練場の整備と大浴場を掃除したわけだ。個人用は使っていたが、大人数用は縁がなかったからなあ、まあ使わないよりゃいいんだけど。俺は筋力負荷のバンドを二人から受け取り、ラフィも伴って実家の中に入っていくのだった。
「で、またお前はなんでここにいるわけ?」
「えへへー」
「えへへではないぞ。練習終わるたびにお代わりしにきやがって。ノーヴェさんにどやされるの俺なんだからな?」
「だってー!私も先輩にトレーニング着けてほしいんですもん~~!私にも稽古つけてほしいんです~~!」
両手を振り上げて私も先輩に強くしてほしい~~!と主張する金髪のちっこいのを見下ろして俺は溜息を吐く。この金髪のちっこいの、高町ヴィヴィオもうすぐ10歳は全体練習を終えて、さらにノーヴェ師匠様による個人特訓を終えた後のくたくたの体にもかかわらず毎日俺の家まで押しかけて俺に稽古をつけてほしいとのたまっているのだ。
この後輩の質が悪いところは根回し、具体的にはなのはさんとノーヴェさんにきちんと了解を取ってからここにきているので、だめだと切り捨てられないところにある。それはそれとしてノーヴェさんには怒られるので理不尽この上ない。いや断らない俺も悪いんだけど。ヴィヴィオは俺が入院した時に約束した『お願い』を利用しているので断れないともいう。
「はー、構えてコンビネーション打ってこい」
「はいっ!やぁっ!!」
「ここと、ここ、あとこうだ」
「ふにゃっ!?あわっ!?あうっ!?」
準備万端な姿でここにきているヴィヴィオと、どうせ来るんだろとトレーニングウェアだった俺は仕方なしに向き合い、ヴィヴィオに打ってくるように言う。そしてそれを素直に受け取ったヴィヴィオは飛び込んできてコンビネーションを打とう、とするのを悉く俺に動作の起こりを抑えられて不発に終わる。むぅ、と口を尖らせているヴィヴィオが口を開いた。
「難しいなぁ。せっかく先輩が教えてくれてるのに」
「まあ、こいつは難易度が高いからな。つっても見え始めているな?さすがだ」
「ふわぁ、先輩に褒められた~!」
「調子に乗らないように」
「んやっ!?いった~~い!」
確かにミウラやアインハルトにかまけてばっかりだと可哀そうだと思うし、折角なのでオリヴィエ陛下に初代が授けた技の一つをヴィヴィオにも今教え込んでいるところだ。オリヴィエ陛下は若干苦手だったみたいだが適性的にはヴィヴィオに当てはまる技だし。
今教えているのは『断海』という、クラウス陛下の断空を観察した初代が開発したものなのだが、結構難易度が高いのだ。断空を極めるよりは簡単だけどという話になるが。断海は、力の流れを見て、操る技だ。もともとシュトゥラの騎士の技である断崖から派生した断空はどんな体勢どんな動きからでも最大の威力をひねり出す技。対して断海は地面から、相手から、あるいは自分自身から発した力を炸裂点に集める技といえばいいのだろうか。
例えば相手の拳の威力を受け取り、カウンターに威力を乗せて返したりできる。当然これにはある種の才能がいる、要は力の流れを見る眼だ。俺がこれを覚えたのはひたすら初代の記憶の経験値とデータ上のクラウス殿下に転がされた経験則であるが、ヴィヴィオは気づいているか知らんが天然でその才能を持っている。
俺のデコピンで痛む額を抑えて涙目になっている後輩に今教えているのは初歩の初歩「力の流れを体感させる」ことである。まずは力の流れの出発点である動作の起こりをひたすらに指摘して体で覚えさせ、さらにそこから緩急自在に流せるようになるのが目標だな。だが……飲み込みが早い、早すぎる。まだ1週間だぞ?そこらでもう、見え始めている。
悔しいなー、俺この技覚えるのに4年かかったんだけどなー。創始者である初代の経験値があってそれなんだからこの技の難易度は推して知るべし、ちなみに今のヴィヴィオのラインに至るのに2年かかってるぞ俺は。だが……悪くない。むしろ最高だ、なぜならこのままのペースで進むとすれば、DSAAに間に合ってしまう。高速カウンターヒッターに、防御、攻撃両方に使える技を仕込む当たり俺も意地がわるいのかもな。
「ふわ……えへへ」
「しかし、よー頑張るなお前も。好きだぜ、ちゃんと頑張れる奴は」
「好き……先輩!私もっと頑張るから!」
「だけど今日はここまでな。これ以上はオーバーワークだ、迎えもきたし」
「ヴィヴィオー、迎えに来たよ~」
「なのはママァ!早いよ~~!」
「あら~。お邪魔しちゃった?」
初代がオリヴィエ陛下にしたように、やさしく頭をなでてやると猫のように目を細め、頬を染めて喜ぶヴィヴィオ。うーん、だめだやっぱり俺は、どうしてもこの子には甘くなってしまうんだなと心の中で苦笑いするのだった。