魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「やあ、カイト君。お邪魔させてもらってるよ」
「叩き出されたくなかったら今すぐその右手を下ろせ」
「つれないねえ」
「魔力刃消してから言え」
日課の50キロマラソンを終えた俺が家に帰ると、客間にはなぜかミカヤさんが湯呑に緑茶を淹れてずずーっと美味しそうに飲んでいた。俺を見つけた彼女は小刀状の魔力刃を形成して俺に一戦やらないかと挑発をかけてくるがなんか面倒くさ、もとい全力ダッシュで疲れているので俺はそっけなく袖にする。なんかこの人、意外というか普通にダルがらみをしてくるタイプなんだよな。構ってさんなんだ要は。寂しがりともいう。
しかし、俺の許可なくなんでこの人がここにいるんだ?と俺が首をかしげていると、キッチンのドアが開いてよたよたと危ない動きをしながらイクスがお盆の上にお茶請けらしいベルカの焼き菓子を乗っけて持ってきた。イクスはそれを何とかテーブルの上に置いたところでようやく俺に気づいたようで、パァッと顔を明るくしながら笑顔で俺の近くに寄ってきた。
「カイト、お帰りなさい。鍛錬お疲れさまでした」
「ああ、ありがとイクス。これ招いたのお前?」
「これって、ひどいなあ」
「うるせえ、暇があったら模擬戦申し込みにきやがって。俺も俺で忙しいんだよ。任務とか、修行とか」
「その修行の手伝いをしてあげようっていうだけなのに」
なんだかなあ、確かにこの人の抜刀術の腕は尊敬に値するものではあるし、DSAAの強豪であるだけあり、強いんだが……いかんせん頻度がな。ヴィヴィオに迫る頻度なんだよ、なんだかんだ俺も甘いから付き合ってやるが、俺の中の比重的にはアインハルト、ミウラ、ヴィヴィオにコロナにリオが第一でそのあと俺、ジーク、ヴィクターでそのあとにその他になるのでかまってやれる時間が少ないんだよ。嘱託の任務もあるし、なんか最近指名依頼が多いんだよなあ。
「それで、なんでミカヤさんがここにいるわけ?」
「それは私の客だからだ。主カイト」
「デバイスマイスターとしてのか」
「そういうことさ。いや、私もデバイスマイスターの行きつけは当然あるんだけど……君のデバイスを見ればわかるよ、研いでるでしょ?それも相当鋭く」
「ああ、そりゃな。落としたら石でも切れるぜ?」
「だからだよ、刀は鋭さが命。今お世話になっている人は管理局の基準までしか研いでくれないからね。できればもっと鋭く、実戦仕様にしたかったんだ」
何でここにいるのかと俺が尋ねるとミカヤさんではなく転移魔法で実家の工房にこもっていたらしいラフィが転移ポートから出てきた。その手にはミカヤさんのデバイスである白鞘の太刀型デバイス「晴嵐」が握られていた。待機形態でも武器型という俺のフラムやシュロスよりも古代ベルカしているデバイスだこと。見る限り刀身自体はデバイスフォームと共通なのかな。
当然のようにソファに座りイクスを膝の上に乗せたラフィが両手で鞘と柄を持ちミカヤさんに渡した。イクスが元の体に戻ってからというものラフィはまるでイクスの母親にでもなったかのように甲斐甲斐しく世話をしている。多分俺が独り立ちしかけているから暇になってるのかなあ。ラフィってものすごく世話好きだし。
それはともかく、とミカヤさんが晴嵐に手をかけてすっと刀身を抜いていく。抵抗なく抜かれていく刀身は、ラフィによって極限まで研ぎ澄まされて鈍い光を放っていた。ミカヤさんは抜き始めた瞬間から表情を変えて刀身があらわになると期待以上というような感じの表情を浮かべた。
「すごいな、全然違う。刀身もそうだけど……抜きやすさが段違いだ」
「鞘のほうに少々歪みを見つけてな。それとデータから見た抜き方に鞘のほうを合わせた。柄を弄れればもう少しよくはなるが、デバイスコアがそこにあるからもう弄れまい。料金は振り込んでおいてくれ」
「もちろん!ありがとう、こんな晴嵐を見るのは初めてだ。試しぶりしたくなってくるよ」
「初期不良があれば教えてくれ。3か月までは無料だ。では主カイト、少々疲れたので私は休んでくる。イクス様を頼んだ」
「ああ」
ありゃ、だいぶ本気出して研いだなこいつ。イサムに聞いたが日本刀という種別らしいこの刀たちは手入れやらなんやらがかなり繊細なので研ぎ師を見つけるのにも苦労しているのだとか。イサムはもうラフィじゃないとだめってなってるらしいけど、あんまり詰め込むと俺がマスター権限で仕事禁止にするぞ。ラフィは俺のなんだからな。
「そうだ、良ければ試し切りについてこないかい?きっとカイト君にも利があるはずだよ」
「模擬戦はなしだぞ。今日は魔力鍛錬の予定だからな」
「わかってるさ。それに行く場所は練習場じゃないからね?」
「どこなんですか?」
「近場のスクラップ工場さ。研ぎあがるといつもそこで試し切りをしてるんだよ」
送って行ってくれるかい?と生意気なことを言う年上のお姉さんに俺は無言で車のキーを手に取り、イクスに手を差し出して繋ぐのだった。それを見たミカヤさんはにんまりとしながら後を追って来るのだった。晴嵐鞘に納めてくれない?落としたら柄まで地面に埋まるだろそれ。
「試し切りってこれか」
「そうだよ。研ぐたびにお世話になってるんだ。カイト君もやってみるかい?」
「……ベルカにおける岩切りのようなものですか?」
「ああ、シグナムさんがやったやつな」
俺の目の前にあるのは、吊り下げられた旅客用の大型バス。何度も来ているというのは嘘じゃないらしく作業員のおっちゃんたちとも非常に仲がよさそうだ。そしてどうやら、この大型バスを今から魔力なしで斬るつもりらしい。イサムに聞いたが、地球の日本だと大昔日本刀が現役だった時人間の死体を使って試し切りしていたというベルカよりも物騒な話を聞いたことがあるな。
当然バスなんかは人間よりはるかに頑丈だが……斬れるんだろうなああれ。そもイサムのやつが魔力強化アリとはいえビル斬りを成し遂げてるんだから魔力なしでもバス斬り位はできるだろうさ。俺?俺もまあ……できるとは思うぜ?得物が得物だから少々荒っぽくはなるだろうけど……。まあ、岩切りの要領で行けるだろ。
「少し離れててね。お願いしまーっす」
『ほいよ、行くぜミカヤちゃん!』
「すーーー……どうぞ!」
大きく息を吐いて腰を落とし、左で鞘を、右手で柄を握った抜刀術の構えを取ったミカヤさんが合図を出す、見事だな。構えが自然体で隙が無い。手が動けばそれが必殺の一撃に化けることがよくわかる。並の武芸者なら目の前に立つことすら遠慮するだろう。ワイヤーが切り離されて、バスが勢いよくミカヤさんに向かって振ってくる。
「天瞳流抜刀居合」
ミカヤさんの手がぶれる。やっぱり、ミウラとアインハルトを連れて行ったときに仕掛けてきたあれとは雲泥の差。当たり前だが手を抜いていたな。ひらめく剣閃は、吸い込まれるようにバスに抵抗なく入っていき、真正面からバスの前部から後部まで真っ二つにした。縦で斬られたバスは、ミカヤさんの両隣で土煙を立てて制止する。
「まあ、こんなものかな」
「すごいです!ベルカの岩切りにも劣りません!」
「はは、ありがとう。カイト君もどうかな?」
「……これでいいか?」
面白そうだなと確かに思った俺は、積みあがってる車の山の前に立ってフラムを起動する。そして、右手に力を込めて大上段に振り上げ、目の前の車の山に向けて振り下ろす。スクラップが砕ける音をたてながら放った俺の一撃は、車の山を両断して、雪崩を起こす。シールドでせき止めてミカヤさんを見るとそうじゃないんだけどな……と苦笑していた。同じようには俺はできんぞ。
「先輩!今日から予選ですよ予選!」
「そうだな、元気そうで何よりだ後輩ども」
「あれ、ミウラさんは……?」
「ああ、あいつは八神家道場名義での参加だから一緒じゃないぞ。ちなみに俺もチームナカジマ扱いだ」
「去年は個人だったのに?」
そうなんだよ。と首をかしげるリオをかいぐりかいぐりと撫で繰り回してから俺は相変わらずでかいDSAA地区予選会場を見上げる。本日からようやく本格的にDSAAの地区予選がスタートするわけだ。この前の予選会で見事に勝った5人はクラスがスーパーノービスからスタートするわけである。ミウラのやつは緊張してないといいんだけどな。
で、去年俺は個人でDSAAに出てぶっちぎったわけだが、今回は後輩たちと同じチームナカジマとしてDSAAに出ることにした。これはまあ、折角団体で登録するなら仲間外れは寂しいっていうのが2割くらいあるのだが、残りの理由はちょっと違う。スバルさんから聞いた話なのだが、ノーヴェさんは本格的にジムを立ち上げようかと悩んでいるらしいのだ。スバルさんから秘密の話として聞いた。
で、それがなぜ俺がチーム入りしてるのかの理由になるかだが、仮にジムを立ち上げたとしてもノーヴェさんは指導者としてはまだ無名、人が集まらない。つまり運営が苦しくなるかもしれないわけで、手っ取り早く受講者を集めるにはどうするか、そう……ネームバリューがあるやつがいればいい。ちょうど俺みたいにフリーかつ実績があるやつが。
実はヴィクターが所属しているジムからもスカウトが来ていたりするんだが、正直指導者を仰ぐなら知らないやつよりノーヴェさんのほうがいいなあって思うんだよ。アインハルトやミウラを指導するようになって分かったんだけど、ノーヴェさん有能なんだわコーチとして。
だもんで、俺はヴィクター経由のスカウトは蹴って、ノーヴェさんに真意は伝えずチームナカジマとして今年はDSAAに出ることにしたってわけだ。一応礼儀として会うだけあってみようかなとは思ってるんだけど、断るなら会うべきじゃないのかね?所属選手の栄光はジムの栄光なのでちょうどよくフリーな俺は確かにカモネギなのかもしれんなあ。
「俺はミウラのセコンドがあるから控室行くぜ。リオの時も行くからな」
「はーいっ!お願いしますっ!」
「他は午後からだよな。んじゃあノーヴェさん、午後に」
「おー、同門になるところあるし、お手柔らかにな」
それはアインハルトに言ってやってくださいと俺はノーヴェさんに返してリオを引き連れて控室に向かう。そうなのだ、今回の地区予選のブロックで、順当に勝ち進めばアインハルトとコロナが戦うことになる。それ自体は試合だししょうがないのだがこんなにでかい大会のしょっぱなあたりで同門対決とは運がいいのか悪いのか。ただ……アインハルトは強くなったからな。コロナもだが。どっちを応援すればいいかね。
せんぱーい!と満面の笑みのリオとハイタッチをしてやってから更衣室に元気娘を放り込んで俺は控室の中に入る。選手でごった返した控室の中には、頭を抱えるヴィータさんと苦笑するザフィーラさんそして……カチンコチンに緊張しているミウラがいた。うーん、あがり症は直せなかったんだよなあ。
「か、カカカカイトししょ~~~!!」
「ミウラ……予選会ではちゃんとできたじゃないか」
「だ、だだだって私の相手……」
「ああ、ミカヤさんだな」
「うぅ~~~」
だめだこりゃ、と俺はザフィーラさんとヴィータさんに顔を合わせるがこればっかりは本人の心の持ちようでしかないんだけどな。昨日あたり楽しんでいこうぜと円陣をやったのがなんか響いてたりするのかね。逆にプレッシャーなのかもしれんなあ。そもそも論、ミウラとミカヤさんは相性的にはそこまで悪くないはずだ。ちゃんと俺が教えたことを守れば勝つのだって非現実的な話じゃない。
しょうがない、と俺はミウラの前に仮想画面を映す。そこに表示されているのはあらかじめ撮ってあったチームナカジマ全員で激励のポーズを撮った動画だ。俺は撮影係したけど、楽しそうなヴィヴィオ、リオ、コロナと恥ずかしくて赤くなっているアインハルトを見てミウラはころころと笑い始める。よしよし。
「行けそうか?」
「はいっ!」
「まあ、気負うなよ。お前の目の前にいる騎士がお前に仕込んだ技は間違いなくお前の切り札になるしな。あたしじゃ教えられないもんだし、記憶なくてよ」
「そういう意味でもミウラをカイトに預けた意味はあったな。本来、門外不出の技を授かったのだからな」
「まあ、奥義っちゃあ奥義ですよ。シュトゥラの、と枕詞がつくので広めてもらっても構いませんけど」
俺がミウラに施したのは徹頭徹尾突撃力の強化とそれに付随するいくつかの技術。ミウラの戦い方自体はすでに目指すべき場所を見据えていたのでやりやすかったのはあるが、吸収力が高かったおかげで重破を教えることができるとは思わなかったけど。とにかく行ってこいとミウラの背をはたき、ミウラはデバイスを起動するのだった。
リフレクションデトネーション面白え...