魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
「アインハルト」
「は、はいっ!」
「コロナとの対決になるわけだが……相性で言うならコロナの方に分がある、が」
「覇王流の拳にかけて、勝利して見せます!見ててください、お師さま」
「よし、俺は何も言わないからな。お前の力を発揮してこい。んでコロナ」
「はい!」
「相性云々は頭の片隅に投げとけ。俺はセコンドとしてはアインハルトにつくが、お前が全部ひっくり返せるもんだと思ってるぞ。魅せてくれよな」
「カイト先輩……!」
大変だな、お前というノーヴェさんの視線をスルーしながら俺は会場入り前にチビども二人の頭を片手ずつでつかんで激励を送る。アインハルトとのセコンドにはなるが、コロナも応援しているのも事実だしな。
実力差は確かにあるが、大どんでん返しが当たり前に起きるのが実戦だ。正直素直すぎるきらいがあるアインハルトと、非常に戦術眼のあるコロナだと俺は正直コロナが怖いくらいだ。予想外のところからわからん殺しされたらたまったもんじゃねえ。この前のオフトレで俺を嵌めた作戦考えたのってコロナらしいし。
キリっと顔が引き締まった二人をリングの上に送って、セコンドの位置に立つ。向こうにいるノーヴェさんとオットーさん二人と視線が交錯する。どんなもんに育てた?という二人の視線に俺もお手並み拝見と視線を返した。
「参ります!」
「こっちも!」
開始の合図と同時に、アインハルトが覇王流の歩法で一気にコロナの懐に飛び込む。大人モードの足運びはいつもの状態と大差なく、アインハルトの普段の努力のたまものだ。ただ、コロナもぶつかり合いでは相手に分があるからと動かずに待ちの姿勢で受ける、わけではなかった。
「ブランゼル!クラッシュバインド!リフレクトケージ!」
「くっ!はぁっ!!」
コロナが選んだのは、踏み込んだ地面そのものを壊して足を止めるバインドと、物理攻撃を反射する檻状の結界の同時展開だった。最初からこれを待っていたな?片足が地面に埋まって固定されたアインハルトが黄色の檻で囲われる。動けなくされたなアインハルト、お前の相手は待ってはくれないぞ。
「クリエイション!叩いて壊せ!ゴライアス!ギガントナックル!」
ドゴォッ!!!と、瞬時に生成された巨大ゴーレムの大きな拳が檻ごとアインハルトを叩き潰す。いよっしゃあ!とノーヴェさんが腕を振り上げている。なるほど、これがコロナの最善の策か。
驚いたのはゴーレムの生成速度、オフトレの時よりも倍くらい早く組みあがっているし組みあがってる途中で攻撃モーションに入った。一瞬止めればゴーレムが作れるからか……!何もさせずに、超質量で殺しに来たって感じだ。でも、成長したのはコロナだけじゃない。
「――――お見事です」
「うそっ……!それ、カイト先輩の……!」
「お師さまがおっしゃるには、断崖はシュトゥラの基本技能ですから。改めて、参ります」
「っ!ゴライアス!」
アインハルトは、ゴライアスの巨大な拳を両手で受け止めていた。ありゃ、『舞布』だな。覇王流の防御技だ。体を柔らかく使い関節一つ一つで段階的に攻撃の衝撃を吸収して最終的に受け止める。それに、衝撃を地面に流す断崖を組み合わせて一撃必殺の威力を10分の1以下まで抑えやがった。
地面に衝撃を流したおかげで足元は大きくひび割れ、アインハルトの足を開放していた。腰を引き、拳を振るう。アインハルトの拳はそれだけでゴライアスの拳を肩まで粉砕し、大きくバランスを崩させる。
どんなもんですか、と今度は俺がノーヴェさんを見る。悔しそうな顔をしているノーヴェさんだが、アインハルトも今のはギリギリだった。額に若干汗が浮かんでいるあたりあいつ表に出してはないが焦ってる。ゴライアスが出来ちまったからなあ。
覇王流の踏み込みは烈火のごとく、ゴーレム操作にマルチタスクを割いているコロナはバインドと結界を使う余裕がないらしく、ストライクアーツの構えをとりつつ、逆手にブランゼルを構えて格闘戦に入った。
短剣型のデバイスであるブランゼルではあるが、コロナのゴーレム創成に特化している性能なので武器としては見た目通りでしかない。振るわれるそれをアインハルトは手首や肩をおさえていなし、反撃のジャブで確実にコロナを追い詰め削っていく。
覇王流は攻めの武術だ。一気呵成に攻めて攻めて攻めまくる。それはなぜか?答えは単純だ。聖王オリヴィエ陛下のレアスキル聖王の鎧を破るためだ。防勢に回るとじり貧になるんだよな、硬いしオリヴィエ陛下自身がめちゃんこつよいし。
足先から練り上げる断空の力をスムーズに伝える身体操作の技術はまだおぼつかないものの、大振りのゴライアスの攻撃にはアインハルトの溜めが間に合うので実際問題にはなっていない。残るはコロナ本人だが……言いたかないがチビたちの中じゃ一番本人の戦闘力が低い。さて、どうするか?
「やあああっ!!」
「がっ!?」
「アインハルト!?」
コロナの気合の声とともに、アインハルトの反応速度を超える速さでコロナの両手を使った掌底がアインハルトにクリーンヒットする。今のは、リオが使う虎砲って技のはずだ。何でそれをコロナがあんな精度と速度で、と思考を回すと……初代の記憶の中のオリヴィエ陛下とコロナが重なった。まさか……!
「身体操作……!マリオネットか!」
オリヴィエ陛下の両手が義手だった。その義手を動かしていたのは魔力である。ただ、魔力は魔力でしかなく術式を通さなければうんともすんとも言わない。術式とは機械で言うプログラムで、この動作の時はこう、という動きしかしない。まあつまり、だ。
腕をあげるという動作、お茶を口に運ぶ動作、相手を殴る動作、幾千幾万の動作のプログラムをオリヴィエ陛下は使いこなして戦いの場に立っていた。コロナがやったのは、自動で自分の体を動かしたのだ、最速最短、人の反応速度を超えて。
ここでラウンド終了のゴングが鳴る。大きく息を吐いて向こう側に戻っていくコロナとこっちにやってくるアインハルト。アインハルトももう気づいているようなので目を合わせる。
「アインハルト、吞まれるなよ。今のは」
「はい、オリヴィエと同じです。ですが、目の前にいるのはコロナさんですから」
「よし、なら……早めに終わらせてやれ。あれは、危ない」
「……コロナさんが壊れてしまう。あんな危ない技を……」
そう、マリオネット……身体自動操作は体の事情を無視して動かす。人の域から半分踏み出した程度でも負担は無視できない。連発すればコロナの筋肉や骨、腱はこの試合中ですら切れる恐れがある。それほど勝ちたいというのもわかるが、覚悟を決めるのがさすがに早すぎる。
「何も言わんと言ったが相手がアレだから俺も口を出すぞ。アインハルト、ゴーレム操作は無視だ。攻撃を相殺する程度にしておけ、あれがあるだけでコロナのマルチタスクを消費させられる」
「あの自動操作に集中します。予備動作を見つければ……」
「ああ、間違いなく攻略可能だ。そんで、自動操作のプログラムだが……十中八九俺たちがモデルだ。覇王流はともかく、技に関してはおそらく格闘型のノーヴェさんやヴィヴィオ、リオあたりだと思う。スバルさんもなくはないが……初見技じゃないぞ」
「はい。オリヴィエのように技師にエレミアがいるわけではありません。彼女のように縦横無尽な動きはできないでしょう。お師さま」
「なんだ?」
「見ててください」
そう、あくまであの身体操作はプログラムした通りにしか動けない。動き出せば止まることはできない。自分の意思が介在できないからこそ人を超えた動きを可能としているのだ。あれが、脅威なのはコロナの頭の回転速度があればこそ。
俺はまっすぐな目で俺を見るアインハルトをみて、フラムを起動した。コンッと先端が地面につく音がするとアインハルトは目を見開いて、すぐさまに跪いた。おお、覚えてるのか。と思いつつ、アインハルトの肩にフラムを置き、軽く叩く。
「アインハルト、いい目をするようになった。あの路地裏の時とはまるで別人だ。撤回しよう、騎士でも王でもないというあの言葉を。ここから、お前の覇道の始まりだ」
「……はいっ、はいっ!!」
今のは、いわゆる騎士の叙勲のやり取りだ。先達が、のちに続くものを認める儀式でもある。ガチィンッと勢いよくフラムを地面に突き立てた俺の言葉にアインハルトが何度も頷いて立ち上がる。
向こうを見るとまざまざと余計焚きつけやがってという顔をしたノーヴェさんの姿がある。悪いね、俺もアインハルトもその技術だけは正しく使ってほしいもんでな。今みたいに壊れるか壊れないかの瀬戸際じゃ困るんだよ。
さて、気合を入れてやったアインハルトと相対したコロナは……こっちも気合十分だな。さっきの戦闘が引き継がれるのでゴライアスもある状態だし、あの身体操作があればアインハルトに対抗できると考えてるのだろう。
実際、対抗できる。人の反応速度を超える一撃に魔力による身体強化が乗る、その上に超質量の攻撃であるゴライアスによる同時援護があるわけで。それは手を焼くよ。コロナが成長したら俺もどうなることやら、うかうかしてられんね。
「ネフィリムフィスト!近接ラッシュ!ゴライアス!」
「……!」
アインハルトは、動かない。大地に根を張るように腰を落として構えをとり、飛び込んでくるコロナと真後ろに迫るゴライアスの巨大な拳に挟撃される形になった。ただ、一目見りゃ絶体絶命ではあるが、古代ベルカという視点で見ると……大正解だ。
「シィッッ!!」
「かっっはっ……!?」
「コロナッ!?」
ノーヴェさんの悲鳴に近い叫び声と吹き飛んだコロナがリングアウトしたのがほぼ同時。アインハルトは、コロナの間合いが自分の一歩手前に来た時にコロナの懐に飛び込んだ。コロナが自動操作を発動したのとほぼ同時に間合いを狂わせ、攻撃の内側に入ったのだ。
覇王流の最速の踏み込み、それはつまり断空の踏み込みだ。そしてコロナの威力の乗らない拳を受け止めたアインハルトは間髪入れずにコロナを背負い投げるような形で背後に迫ったゴライアスの拳にたたきつけたのだ。そして、自らの攻撃の勢いを二つ利用されたコロナは吹き飛んで壁にめり込んだって話だ。
「古代ベルカは戦争の時代だ。一対多数は当たり前、巨大兵器とその他大勢なんてのもそう。今更ゴーレムが増えたところで動きなんざ鈍らない。ま、あれを10体20体出されたら話は別だが」
ましてや俺やアインハルトが継いでるのは古代ベルカの頂点に近い者たちの記憶と記録だ。思い出せ、深く沈め。吞まれずにクラウス殿下の力を掘り起こしていけ。相性が悪いのなんていつものことだ。深手を負ってるのも当たり前だ。重症で目がかすんだ回数なんざ忘れてただろ。お前がフルで力を発揮したら、もっと先まで行けるんだぜ。
「ま、だっ!マイストアーツ……!」
「俺、か」
「超えて見せてください、コロナさん。私もあなたを超えます!覇王!」
ズタボロのコロナがカウント9でリングに戻り無理やり体を動かしてとった構えは、何の因果か俺の構えだった。防御に優れた型だからか。対してアインハルトはまっすぐ見据えて構えをとる。覇王断空拳、修行を繰り返し精度をあげた必殺の拳。
先ほどとは逆の形、突っ込むアインハルトと受けるコロナ。アインハルトのゆく地面がトゲをむき出し、岩弾を飛ばし、魔力弾を嵐のように吹き荒れさせる。コロナのやつが残りの魔力を使って勢いを削ごうとしている。
アインハルトは止まらない、踏み込みでトゲを粉砕し、岩弾は紙一重で躱し、魔力弾は投げ返し、もしくは当たって最速最短、まっすぐにコロナの元へ向かい……到達した。
「断空、拳っ!!!」
「マイストアーツ!纏岩拳!」
ゴーレム操作の要領で腕に岩を纏ったコロナのアッパーと、断空の力を練り上げたアインハルトの打ち下ろしの拳がぶつかり合う。結果は、明らかだった。コロナの拳をアインハルトが押し返し、上から下にたたきつける形になってコロナを地面にたたきつけた。
同時に、クラッシュエミュレートが起動してライフの計算が一瞬で表示される。結果は、コロナのライフポイントの全損であった。ダメージで動けないコロナをアインハルトが抱き上げてリングを降りる。
「……あ、アインハルト、さん」
「とても……とても強かったです。コロナさん」
「だな。アインハルトにここまで手を焼かせたんだから腐ってもお前が弱いなんざ言えねえよ。見ろよ、この歓声」
「……でも、勝ちたかったなあ……」
拍手喝采、雄たけび混じりのそれを見て、聞いたコロナは嬉しそうにしながらもそう言って意識を落とした。その目尻から一筋涙がこぼれる。アインハルトはそれを拭ってコロナを抱き上げたまま医務室に向かった。背負ったな、アインハルト。
整理のため番外編は一回消しました。折を見てまた投稿するかも。ではまた次回に