魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
――――死ぬ覚悟をしてきたか。比喩でも何でもない、危害を加えに来たのなら返されても文句は聞かんぞというだけの話だ。ベルカ流の戦場ジョークでもある。ただ一つ違うのは……非殺傷設定を外さないだけで俺もラフィも殺す気でかかるというだけの話。
「うあぁ……ひっ……?」
「ちょ、ちょっとカイト!?うわっ!?」
「どうした、威勢がいいのは口だけか?悪いが
本気で殺気をまき散らす俺に後ろでルーテシアは焦り、魔女は血相を変えて呼吸を乱す。これがベルカの過去に起因する話なら、受け止めるべきなのはヴィヴィオでもアインハルトでもジークでもなく、俺の仕事だ。ベルカに一番近いのは、俺の家系だからな。
ゴウッ!と俺の背後から炎が回り、魔女の背後までつながって円形状の炎の環ができあがる。ベルカじゃよくある、一騎打ちの邪魔が入らないようにする結界魔法だ。まあ、邪魔しないでくれ。本当に殺したりはしねーよ、お灸は据えるがな。あの時みたいに。
「間合いだぞ。何ボサッとしてる?身を守るために躊躇うなと
「っ!!!潰れろっ!!」
半ば半狂乱の叫びとともに俺の上から重力の奔流が襲い掛かってくる。ミッド式にはないんだよな、これ。床がひび割れ、本棚が縦に潰れる。まあ、俺には効かないが。足元がひび割れても姿勢が変わらない俺に魔女の顔色がさらに悪くなる。
一歩一歩、踏みしめながら魔女の方に進む。地面に引きずっているフラムが深い線と火花を散らす。進む俺とあとずさりする魔女、そしてその間に使い魔が割り込んで全力で黒いトライデントを俺に突きこむ。
「フォルムドライ」
トライデントを右手でつかんで止める。号令で巨大な手甲に変形した相棒たちを顔面に思いっきり叩き込んだ。あえて、カートリッジは使わずに。俺の腕力だけで使い魔は結界の炎を貫通し外に吹き飛んでいく。
どんっと魔女の背中が本棚につく。まとわりつく重力がうっとうしいが、まあもともと速度がない俺に関しては多少重くなった程度で動きに支障はださない。じわ、と目に涙が浮かんだ魔女に俺は右手を伸ばす。もう完全に抵抗する気力が削がれたのかぎゅっと魔女は目を閉じる。
「ここまでだな、いたずら魔女。全く、少しは反省したか?」
「……あ……」
ぽん、と魔女の頭に手を置きつつデバイスを待機形態に戻して左手で彼女に魔力錠をかけた。目を見開いた彼女は思い出したのだろう、初代に悪戯を仕掛けるとまいどまいど返り討ちに会って怒られた後同じセリフで頭を撫でられたのを。呑まれているわけじゃないが、記憶継承者だろうしな。
空気に溶けるように結界の炎が消えルーテシアがこっちに急いで飛んできた、それと同時に瓶から間抜けな音がして中から封印されてたヤツらが出てきたので俺は一瞬で視線を外す。あぶねえ、魔力強化解いてよかった、見えなかった。
「もう!カイト!やりすぎ!ほんとにもう……!」
「まさか俺が本気で殺すと思ったのか?」
「……正直、かなり」
「アホ、腐っても嘱託魔導士だぞ。一応現代人だし……それに抵抗する気力を削ぐのが一番楽だ」
「PTSDになるわばかちん!カイト君にはあとでお説教や!あと一歩でユーノ君がバインドでぐるぐる巻きにしてたとこや!」
ばっこーん!といい音をたてて俺の頭にはやてさんの魔杖シュベルトクロイツが叩き込まれる、角で。非殺傷なかったら刺さってたぞ、甘んじて受け止めるけど。後ろを見る、のは絶対できないので苦笑いするしかないが。
「一足先に俺は失礼するぞ。あー、なんだその……とりあえず服着てからこいよ。それと一部のやつらには今ここで謝る。すまんかった。殴りたきゃ受け止めるから後で来てくれ」
「お、思い出させないでカイトせんぱい!」
「あとで一発殴る!」
「一太刀入れてもいいかな?なに、責任取れなんて理不尽なことは言わないよ」
「今回ばかりはノーガードなんでご自由にどうぞ……ん、どうした」
俺が不慮の事故をしてしまったメンツからの非難ごうごうを甘んじて受け止めノーガード宣言をしているとくいくい、と袖を引っ張られた。目線を下げるとさっきの魔女が俺を見上げていた。ちっさいなこいつ、大人モード解いたらヴィヴィオたちより小さいんじゃないか?まさか年下?10歳以下だったらさすがの俺も罪悪感が出るぞ。
「ん……その、ごめん、なさい」
「……ああ、よく言えたじゃないか。まあ俺に言うんじゃなくて言うべきはあいつらだな。呪うのはいつでもできるんだから一回話してみろよ。呪っちまったらもう、交われねえぜ?」
「そやそや。君のその心の疵は君自身のモノやない、君のご先祖様のもの。当然、もし復讐する権利があるとするなら、君じゃなくてご先祖様が、あの子たちのご先祖様にせんとな」
「意外ですね、復讐には反対派だと思ってました」
「そりゃ、命のやり取りどうこうは全力でお断りやで?それでもな、ぶつかり合わなわかり合えなかったことも確かにあるんや。わかり合うためにぶつかるんやったらはやてお姉さんは喜んで応援するで」
「あはは、なのは式だね。それはそうと、カイト君?やりすぎというか演技が迫真すぎるよ。僕でもわからなかった」
びっくりした、まさか謝罪の言葉をここで言えるとは思えなかった。しかも寸前で止めたとはいえ本気で殺気をぶつけられた相手に対して。伊達にベルカ時代からの
「なんかえらい懐かれたなカイトくんや」
「さすがに予想外ですが。あ、ユーノさん一応けじめなんで治癒魔法はなしで」
「いや君明後日試合でしょ?試合会場に無傷で立つのも選手の仕事だよ。それと、何となくわかるんだけどきっとさみしかったんだよ。話を聞く限り、ずっと一人だったみたいだし」
「……ん、悪いことしたって真剣に怒ってもらったの、パパとママ以外だとアロイジウスが初めて。悪いところは変わんなかったけど、いいところはもっとよくなってた。ちょっとだけ呪うのはやめる」
見てしまった連中からきちんと一撃もらった後胴を非殺傷で真っ二つにされた俺が顔面を腫らしながらとても事情聴取とは言えない姿勢、具体的には足を組んだ俺の上にすっぽりはまる形で座ったクロゼルグの末裔……ファビア・クロゼルグの聴取をしていた。こんな適当でいいのか、拷問して尋問しろとかバカみたいなことは言わんがロビーでやるなよ。
で、目的であったエレミアの手記はリオが偶然見つけてくれてチビ達はそれを読み込んでいる。クロゼルグの記憶継承はアインハルトと俺のあいの子みたいな術式感情トントンのタイプらしくて割と昔のことをしっかり覚えていた。で、普通に誤解してたんで解けた。
別に初代もクラウス殿下もオリヴィエ陛下もヴィルフリッドも魔女の森を見捨てちゃいなかったよ。ただ、時代が悪かった。あー、直系としてこんなこと言うのはよくないが……ほんとベルカってクソだな。あの時代確かに暖かく柔らかい大切な喜劇もあったが、それ以上の悲劇が数百倍ある時代だよ。実際、目の前に被害者が山ほどいる。俺はともかくな。
魔女の森の民は動物の特徴を持つ亜人タイプの人間だったが、もうその特徴はないのだろう……多分。ファビアの喉がすごくゴロゴロ言ってるのは名残だと思いたい。殺しにかかられた相手に警戒を緩めすぎだ。
「さすがにDSAAは辞退せざるをえんだろうが、保護観察が解けたら遊びにでもこい。あいつらも待ってるだろうさ」
「せやなあ……これも一つの縁、やしな」
「ねえ、アロイジウス。聞かせて」
「なんだ?」
「ゆりかごに行った後のヴィヴィ様……笑ってた?」
「……わかってんだろ?笑わなかったよ。最後までな」
「……そう。ヴィヴィ様には、笑っててほしかった」
無理だろ、という言葉を寸前で飲み込んだ。ゆりかごに乗り込むというのはそういうことだ。日に日に自我はゆりかごに吸われ、命の灯は小さくなる。虚無のような表情と掠れる声での遺言がフラッシュバックする。
聖王のゆりかごに乗ることになったオリヴィエ陛下……クラウス殿下、初代の嘆願において一度だけ許されたシュトゥラへの里帰り、なんとしてもクラウス殿下はゆりかごへの乗船を止めようとオリヴィエ陛下に一騎打ちを挑み……敗北した。
気絶する寸前に初代に、オリヴィエ陛下を守ってほしいと願ったクラウス殿下に対し初代はその場で出奔を決意して、オリヴィエ陛下とともにシュトゥラを去る。クラウス殿下は知らなかっただろう、どんな時も泣かなかったオリヴィエ陛下がただ、その時の一回だけ……ただの女の子になれたことを。
戦腕を振り落とし、初代の外套に潜り込み、行きたくないと、ここから離れたくないと大粒の涙を流して泣き叫んだオリヴィエ陛下のむき出しの心と何もできないグラムの無念は、初代とオリヴィエ陛下だけしか知らない、話すつもりもない。アインハルトもヴィヴィオも知る必要はない。過去は、過去だ。それが今を縛るのは違うだろう。
「そろそろいい時間だね。ファビアちゃんは僕とルーテシアで保護するよ。はやてたちは、子供たちを」
「ん、そやな。昨日今日といろいろあってみんな疲れたやろ。カイト君にヴィヴィオは試合あるし、他の子たちにもある。そろそろ切り上げんとみんな頭パンクするわ」
「アロイジウス……ばいばい。今度は気づかれないように呪うから。いろいろありがとう」
「いたずらするって言え。んーまあ、今度はちゃんと遊びに来いな。もう怒んねえからよ」
「それは困る」
「なんでだよ」
「あー、カイト。お前の修行バカっぷりを知っているからあえて言うけどよぉ……胴体真っ二つにされたばっかなんだから今日はトレーニングすんな。アインハルトはお目付け役な」
「いや非殺傷だったでしょう」
「非殺傷でもノ―ダメージじゃねーんだよアホ。有言実行してんのはいいけど体張りすぎだ。アインハルト頼んだ」
「は、はいっ!おまかせください!」
「なんだ、泊まるのかアインハルト。ふむ、では食材を調達してくるとしよう。私は別行動する」
本局からの帰りで、そんなことをノーヴェさんに言われた。それにピコンと反応したラフィは買い物かごをもって商店街に消えていく。ヴィヴィオは心配そうにしていたが、ノーヴェさんに言われて帰路に就いた。任せるってことね、了解。
えっちらおっちら帰って、今日は近いから本邸に行こうとアインハルトと連れ立って歩き、実家の庭に入ったあたりで俺は話を切り出した。
「どうだった、今日。俺はヴィルフリッドが何を思ってたのか知れて、正直すっとしたよ。すれ違ってただけでな、みんな想い合ってた。それが嬉しかったぜ」
「私も……親友であったリッドに会えず仕舞いだったクラウスの想いは確かに届いていたのだと知れました。あの、お師さま」
「どうした」
「最近……このままでいいのかと思っているんです。ヴィヴィオさんに出会えて、お師さまに教えてもらって……私は今、とても幸せです。でも、私が欲しかったのは……どんな悲劇も打ち砕き守れる拳を得ることです。それまでは私……」
「笑ってはいけないと思ってた、ってか?」
「……はい」
「最近薄くなってるんだろ、クラウス殿下の記憶」
単刀直入に言った俺の言葉にどうしてそれをと言わんばかりに眦を下げてた瞳を大きく開くアインハルト。実家の庭の岩に腰掛けてた俺は立ち上がって、同じように座っていたアインハルトの両脇に手を差し込んで持ち上げる。いわゆる『高い高い』だ。
「きゃっ!?お師さま!?」
「いいんだよ、それで。アインハルト、過去の記憶を持っているからこそ俺たちは過去に縛られてはダメだ。俺たちが生きているのは
「ほんとに……本当によいのですか……?もう叶わないと知っています、でも、それでも……」
「いいんだよ。覚えてるだろ?クラウス殿下がなんて言ってたか。塗りつぶせって言ったんだ。自分の記憶を。もう陛下もわかってたんだよ、たとえそれが残響でも」
もうこの時代に、子孫に僕はいらない。そう判断したからこそ残響が形となったクラウス殿下は記憶を塗りつぶせと仰ったんだ。十分振り回してしまったから、この先は気にせず自由にあってほしい。もうそれが許される時代になったんだと。
「思い出せるならそれでもいい。だけどそれがお前の記憶や感情より上になっちゃいけない。俺の弟子はクラウス殿下じゃない。ハイディ・E・S・イングヴァルト……アインハルト、お前自身なんだから」
「お師、さまぁ……!ひぐっ、うぇ、うぇえええ……」
高い高いの状態を解除し、小さな愛弟子を抱きしめる。こんなことは初代はやらなかったな。ま……俺は俺だから、弟子への接し方も俺流だ。しばらくひぐえぐと泣いていたアインハルトが落ち着いてきたのを見計らって、俺はちょっとずるい提案をした。
「ちょっと動くか、アインハルト。ノーヴェさんには秘密な」
「……っ!!!はいっ!!!」
顔をあげた愛弟子の顔は……シュトゥラの雪の下に咲く白い花のように可憐で、綺麗で……その瞳はしっかりと俺の目を捉えていた。
原作12巻の霊圧が死んだぁ!このアインハルトは精神面改造がだいぶ進んでいるのでヴィヴィオの全力全開コミュニケーションのお世話にはなりません。だってもう、主人公が認めた一人の騎士ですからね。あと一番弟子。
というかこの作品だとヴィヴィオ普通にまだDSAAの試合あるからね、アインハルトとの殴り合いやってる時間ねーべや