魔法少女リリカルなのはVivid 城塞の軌跡 作:防御特化っていいよね
高町ヴィヴィオはむくれていた。JS事件が解決し、機動六課が解散してから毎年行われているこの春のオフトレ合宿において彼女だけはどうしても蚊帳の外に近い状態になってしまうからだ。ヴィヴィオは聡明な子供である、その出自からもそれは疑いようはなく、本人の資質としてもそれは表れている。だけど、今回は、今回だけは、参加したいというのが本音の本音であった。
「むぅ~~ノ~ヴェ~~~……」
「ダメだ。あっちに参加するにはお前はまだ体力が足りなすぎる。デバイスだってないだろ?」
「そうだけど~~そうなんだけど~~~」
いつもだったら多少の我がままがあっても聞き分けよくは~い、と返ってくるヴィヴィオにしては珍しくずっと唸っていることに疑問を覚えたノーヴェは片方の眉をあげて一瞬思考をし、マルチタスクを使うことなく真実にたどり着く。翠と赤の視線を独り占めしているのは今回初めて合宿に参加する一人の少年であった。
年齢は15歳、身長は170㎝、がっちりとした体格に高い背、整ってるとは言えないまでも崩れていない顔立ちに焼け残った灰のような色の髪、赤銅色の瞳をした高町ヴィヴィオの恩人。カイト・エルンスト・アロイジウス……古代ベルカの末期、聖王が覇をなした時代から連綿と続く由緒ありまくりの騎士の家系の末裔。
いまどき絶滅危惧種のユニゾンデバイスを従え、しかもそれが夜天の魔導書の管制人格の姉妹機。ベルカの騎士らしく体力には自信があるようで現役の執務官がへばる訓練に涼しい顔をしてついていっている。ノーヴェは初対面の際のスパーリングを思い出して、にんまりと笑う。彼には明かしてないが、戦闘機人たる自分と互角に張り合うタフネスとパワーには唸るほかない。パワーに至ってはまだ上がありそうで、ストライクアーツをやらせたらかなりいい所まで行くだろうという指導者としての面がそう告げていた。
「あっ!あれが先輩のバリアジャケット……おっきい~~……」
「でかすぎて逆に邪魔じゃねえの、あれ」
ヴィヴィオが参加できずにむくれている合間にも向こうの訓練は続き基礎トレーニングから魔法戦技のトレーニングに入ることにしたのか次々とデバイスをセットアップしてバリアジャケットや騎士甲冑に身を包み、己が相棒たる様々な形をした魔法の杖を手に取る。そして、ヴィヴィオが最近ほのかな感情と深い尊敬の念を抱くカイトも周りの重圧に負けたのか素直に二つのデバイスを起動した。
古臭い、昔の騎士が着るような騎士甲冑。焦げ付いたような色のサーコート、グリーヴとガントレット、軽装に見えるがタイプ的には重装甲、行き過ぎているほどの防御特化な騎士甲冑。右手に握る戦斧はちょうどとなりにいるヴィータがガンガンと地面に打ち付けているグラーフアイゼンよりも短い程度の長さだが、巨大で分厚い刃がいっそうそれを大きく見せている。
そして、何よりも目を引く巨大なタワーシールド。カイトがそっくりそのまま身を隠せるほどの大きさの長方形の盾、表面には燃える獅子のエンブレムが刻まれている。私には絶対持てないよぉ、と内心でヴィヴィオが考えるほどに巨大で、少なくとも振り回すようなものではないし、持ち上げるものでもない。目の前の男は普通に片手で持ち上げてエリオに手渡しているが。
トレーニングの手が止まった二人はやはり気になるのでミットを地面においてオフトレ組を観察する。エリオはタワーシールドを若干顔を顰めてそれを持ったが、軽装高機動型の彼にとっては重すぎるらしく苦笑いしてそれを返す。総合すると射砲撃も使うようになった近代ベルカ式の、いわば進化した戦い方ではなく、明らかに接近戦のみに主眼を置いた埃をかぶった騎士の戦い方を連想させるいでたちだ。
そして、そんなレアスキル扱いされる古代ベルカ式の使い手が新しく現れたらどうなるか、それは同じ古代の騎士たちの注目を浴びてしまうということだ。特に、そういった古代ベルカ式の保護に力を入れている聖王教会が把握していないいわば隠れ古代ベルカの騎士、情報が一切なければ何をどうやって戦うのかもわからない。同時代の出身?になる守護騎士たちも興味津々だ。
「軽く調べたんだけど、アロイジウスって全然記録が残ってないんだね。無限書庫に行かないとダメかなぁ?」
「あー、あたしも聖王教会にいるあいつらに聞いてみたんだけど、聖王教会だとマジでやらかした扱いだぞ?」
「やらかした……ってその……毒で……」
「そう、それだ。アロイジウスは古代ベルカの遺産を数多く継承している家だ。で、それを欲しがったお偉いさんがやらかしたわけだ。だから、アロイジウスに何とかしてよりを戻して協力体制を築きたいのが超本音だな。今回の夜天の魔導書みたいなことになってるのが山ほどあるかもしれないらしい」
「あー、まさかバックアップが出てくるだなんて思いもしなかったよね。でも……カイト先輩……かっこよかったなぁ~~~」
「そうかぁ?」
夜天の魔導書の主である八神はやてが入室した時に迷うことなく地面に膝を突き、首を垂れた。余りに突飛な行動に度肝を抜かれたものだが、その威風堂々とした立ち振る舞いとそれに答えたシグナムとヴィータのとのやり取りは服装さえ整えれば確かに絵物語に出てくるような騎士その物のふるまいだったであろう
誘拐事件から直接救われてカイトを尊敬しているヴィヴィオは元より、古代ベルカに興味を持つルーテシアなども目を輝かせてそれを見ていたのを思い出した。ノーヴェからみた彼の印象と言えば、好人物であるがどこか外れている人間といった感じだろう。ただ、見てて面白いのだけは間違いない。
生粋のバトルマニアとして知られているシグナムがレヴァンテインをぱちぱち言わせて、模擬戦をしたいと無言のアピールをしているがおそらく表に出しているのはシグナムとあとフェイトだけで残りの全員ほとんど、特に前衛組は彼との模擬戦を所望しているに違いない。
経験は何よりも勝るのだ、どこかの誰かが使う戦法、戦術であるならば戦場に立つ管理局員として体験しないわけには行かない。しかも古代ベルカ、古代ベルカである。古代ベルカに関わる人物が身内にいるとわからなくなるがレアスキル扱いなのだ。ノーヴェ自身も含めてそりゃあ、気になってしまうのは仕方ないだろう。
「ん?」
「はぇ?」
ようやくデバイス&騎士甲冑お披露目会が終わったらしくタワーシールドことシュロスリッターと戦斧フラムスクーレはカイトの元に戻る。融合騎であるヴェントラフィカも焦げ付いた黒を基調にした軍服のような騎士甲冑を纏った状態ではやてと話しているのは見える。そこに近づいてきたのは本日の教官の高町なのはとその補助、ヴィータであった。
漏れ聞こえてくる会話を整理すると、どうやらカイト自身の魔法適正の話らしい。射砲撃、ほぼなし。防御魔法、身体強化、魔力付与が得意で、補助系は自己回復以外全滅……清々しいとティアナが口にした通り典型的な、どころか骨董品レベルで古いベルカの騎士の適正だった。城塞の異名の通り、防御魔法が得意なようだが比較対象がないから分からないと素直に話すカイトに対してなのはは一つ頷き
「ヴぇええええっ!?」
「なのはママぁぁぁぁ!?」
ノータイムで出現させた20を超える誘導魔力弾をためらいも見せずカイトに叩き込んだ。余りの暴挙にヴィヴィオどころかノーヴェも、フェイトやスバル、ティアナなんかも驚きの声をあげている。何しているのかなんてレベルではない、エースオブエースの異名をとる砲撃魔導士高町なのはの誘導弾だ。六課時代のようにリミッターもかかってないそれを20個も叩き込まれればいくら非殺傷でも気絶するに決まっている。
「うーん、カイトくんいい反応だね!しかも、全弾防御!鍛えがいがあるなあ……!」
「不意打ちだったのに下がってもねえな。衝撃を全部受け止めた上で、一歩前に出たのか。やるじゃねえか」
「危ないですね。当たったら痛いんでやめてほしいです」
「すっご~~~……」
巻き上げられた煙の中から出てきたのは体の前に掲げられたシュロスリッターと紅蓮に燃える防壁だった。腰を落として衝撃を逃がしたらしいカイトが苦笑いしているが、あの魔力弾をいくら防御の上からとはいえあんなしこたま叩きつけられたら自分のバリアは割れているし後ろにも下がらざるを得ないだろう。あれが城塞の由来かと紅い魔力光を見ながらノーヴェは唸った。
「それじゃあ、カイトくんは私とヴィータちゃんとやろっか!皆はそれぞれメニューを送るよー!」
「おう、ビシバシ行くからな!根性見せろよ!」
「え、いいんですか?滅茶苦茶嬉しいんですけど。よろしくお願いします!」
「ああ、あいつは何も知らないからな……」
ご愁傷様だ、とノーヴェは心の中でカイトに手を合わせる。やはり砲撃王高町なのはは興味を持ってしまった。壁を見れば壁抜きで相手に砲撃を当て、防御魔法を見ればバリア破壊砲撃を叩き込み、相手が逃げれば圧倒的な魔力による桜色の砲撃で遠距離撃墜……硬いものを見れば撃たずにはいられない女と守護騎士の中でも対バリア破壊のスペシャリストであるヴィータがダブルで興味を持ってしまった。
しかもこの戦技教導官コンビ、トレーニングがとても厳しいことで有名である。その二人が、マンツーマンで一人につく。地獄の始まりであった。周りにいるその教導を体験したことがある誰も彼も気の毒そうな目でカイトを見ていたが、本格的な教導を初体験するカイトはむしろ嬉しそうに二人についていった。可哀想に、その目が死ぬのも近いだろう。
ゴインゴインとグラーフアイゼンのハンマー部分でシュロスリッターを叩くヴィータに対し、カイトは緊張した面持ちでそれを受け入れていた。無理もない、先祖の記憶を継承していても目の前にいるのは記憶を継いだ自分なんて及びにも付かないほど長い時代を生きた文字通りの古強者、騎士として尊敬するべき相手なのだから。
「むぅ~~、カイト先輩~~……」
「まあまあそうむくれるな。尊敬しているっていってたじゃねえか」
「そうだけど、そうじゃないの~~」
知り合ってまだひと月ほどしかたっていないが、ヴィヴィオにとってカイトという少年は尊敬できる先輩という立ち位置を完全に不動のものにしてしまっていた。古式の格闘技術も、今のヴィヴィオでは敵わないほどの腕前。手には豆や硬くなってしまったタコがいくつもあり、努力の跡がうかがえる。その力強い手を引っ張るのが最近のヴィヴィオのブームでもある。
はたから見ればまるでひな鳥のようにカイトの後ろをぴょこぴょこついていくヴィヴィオは大人組からは大変可愛らしく見守られていたわけである。だって、カイト先輩お話面白いし、私の特殊な出自を知った上で無視してくれるし。とどのつまり、ヴィヴィオにとってはまだまだ名前の付けられない感情を抱いている相手なのだ。
一緒にトレーニングしたいし、スパーリングしたいし……実力が足りないことは分かっているのだけどそれでも向こうに混ざりたい、混ざりたいのである。言い表せない想いがほっぺに蓄積して何度目かもわからないふくれっ面を形成するヴィヴィオを前に、珍しいものを見たとノーヴェは目の前の少女を見て、視線の先の少年を見て隠すように笑った。
「おし、とりあえずバリアの硬さはかんぞ!全力で防御しろ!」
「はい!」
「おらあああああっ!!!」
ヴィータの宣言に対して素直に頷いたカイトはシュロスリッターを前に掲げてベルカ式の魔法陣を足元に鈴の音のような音とともに出現させて体の前面にバリアを張る。気合いの掛け声とともに振りかぶられたグラーフアイゼンがすさまじい音と衝撃を伴ってそのバリアに叩き付けられる。烈風が塵を巻き上げて二人を隠す、まあ割れてるだろうなとノーヴェは目を皿のようにしてそれを見るヴィヴィオを見ながら煙が晴れるのを待つ、そして無事な紅のバリアが鉄槌を受け止めているのを見て目を剥いた。
「ヴィータちゃん」
「ああ、こりゃもしかするともしかするかもしれねえぞ。おい、もう一発」
「はいっ!」
「アイゼン、ラケーテン!」
『Explosion!』
はぇ?とヴィヴィオはなのはとヴィータの会話の内容が分からずにポカンとする。そうこうしているまにヴィータのもつグラーフアイゼンからガシャコンと音を立てて魔力のこもった弾丸が吐き出され、その姿を変える。推進器と鋭いピックを備えたそれを思い切り振りかぶって魔力の推進と共にヴィータは躊躇いもなくぶつけた。先ほどの倍はあろうかという轟音が響き……それでもなお鉄槌は守護を貫通することなかった。
「……なのは」
「レイジングハート!カートリッジロード!」
『Load Cartridge』
「ディバイン……バスターー!!!」
「なのはママぁぁぁぁ!?」
隙を生じぬ二段構えとはまさにこのこと、無傷の防壁を目の前にしたヴィータが無言で道を開けると、なのはは己が愛機に魔弾を撃発させる。それも2発、愛娘の悲鳴のような声をよそに、エースオブエースはその代名詞たる魔法を発射する。桜色に飲み込まれるカイトに、フェイトが同情じみた視線を向けていた。
結局砲撃の洗礼をうける主人公。なおカチカチ。ヴィヴィオちゃんはお母さんの凶行に目を白黒させるしか無くてかわいそうですね。
ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします