出港した輸送艦コロッセスは月グラナダに向かって進路をとる。
ぞわぞわした肌をつく感覚がつきまとうが、何かあるのか?
「艦長。包囲一〇七。接近中の感あり」
「なんだ? どこの民間船だ?」
リヒティがぴりついた様子でオペレーターに声を上げる。
全身にのしかかるような重い感覚。
「熱源接近! 包囲ゼロゼロゼロ!」
「機関最大加速! かわせ!」
防眩フィルターを通してでも
「敵は何機だ?」
「一機です。その後方、大型の熱量感知」
レーダーに赤い光点が光る。
数二つ。
速度の早いのは
だが、この艦を狙う意味はなんだ?
こちらにはガンダムしかない。他には護衛のジェガン二機くらいだ。
特筆すべき重要人物もいない。
「ジェガンを出せ。それからガンダムもな!」
リヒティは大声を上げて、こちらを一瞥する。
「ジョージも行け」
「しかし、あの機体に武器はないですよ?」
アセンブリガンダムは武器どころか装甲もろくにない。
「ジェガンの武器があるだろ。ジェガンのが」
「分かりました」
ガンダムのジェネレーターならジェガンのビームライフルを超える武器を扱える。とはいえ、それでも
俺は
無重力下での移動にはワイヤーガンを使っての移動が楽ではある。
動く手すりでの移動もあるが、急いでいるときはワイヤーガンに限る。
格納庫へいくと、解体中のナラティブガンダム用のフィンファンネルの奥にアセンブリガンダムが見えてくる。
俺は急いでアセンブリガンダムのコクピットにとりつく。
「ジェガンは先に発進させた。こいつもすぐに出すぞ」
「了解」
俺は起動をかけると、近くにあるビームライフルをオートで武装する。
ガンダムのマニピュレーターでジェガンのビームライフルをつかみ、携行する。
人間の手に近いマニピュレータがワイヤレスでビームライフルと同調していく。
データをインストールし終える前にコロッセスのエアロックに入る。
「ジョージ= アドラム。アセンブリガンダム、行くぞ!」
輸送艦から旅だったガンダムは周囲に視線を配らせる。
光が走った、と感じた瞬間、顔を持ち上げる。
上部から放たれた光の束は拡散しつつ、輸送艦へと向かう。その甲板が熱線でなぶられる。
溶け出した金属片が宙に舞い、非常隔壁が展開される。
吹き出した空気を止めるための隔壁だ。
「いた」
先に出撃したジェガンが足止めを食っているなか、そいつを見つけると反射的にビームライフルのトリガーを引き絞る。
ザクに見えた。
赤いザクだ。
しかし、ザクとはちょっと違う。
つぶさに観察している暇もなく、小惑星を盾に肉迫してくるザク。
手には大ぶりの斧が握られており、ビーム刃を発信している。
「袖付きか?」
ビームアックスの持つマニピュレータ、その
ジェガンのシールドでビーム刃の発信していない柄を抑えこむ。
ビームライフルを撃ち放つと同時、回避行動をとるザク。
なるほど――。
いい腕をしている。
装甲もないこいつでは適わないかもしれない。
ザクの腕からマズルフラッシュの煌めきが見える。
マイクロミサイルか!
俺は機体を後方に流しながら、AIによる頭部バルカンが火を噴く。
発射された秒速二キロの爆発物を的確に撃ち落としていく。
爆炎と噴煙を上げると、再度接近してくるザクが見える。袖口から発射されたマシンガンがアセンブリガンダムのフレームを削る。
フルサイコフレームではあるものの、通常弾でも傷はつく。
こちらのフレームの強度を見てからの反応か、ザクは再び斧に持ち替えて接近してくる。
いいぞ。
もっと近寄れ。
お前とは違いこっちにはジェガンがいる。
「こい。アラン、ヘクター!」
『おうよ!』
『やってやるさ』
無線機から鳴り響く声がノイズ混じりに聞こえてくる。
この距離ならミノフスキー粒子でも無線は伝わる。
ザクの後方、二時と十一時の方向からジェガンが二機、肉迫してくる。
アセンブリガンダムの脚部でザクを蹴りつけると、俺はシールドのミサイルを撃ち放つ。
袖口のバルカンで撃ち落としていく。
その噴煙に紛れて装備が変わった。
いや、斧の柄から斧腹に持ち直した。
柄に見えるビームライフルの構造物。
「まずい。逃げろ」
俺がアランに呼びかけるが、遅い。
アランのジェガンに向けられるビームライフル。
発射されたメガ粒子砲が渦を巻いてジェガンに吸い込まれていく。
『袖突きめ』
怨嗟の声がノイズ混じりの無線に乗る。
コクピットを焼かれ四肢を散らし、火球へと変わるジェガン。
『こいつ!』
俺はその赤い機体の後ろに向けてビームライフルを斉射する。
「おちろ」
ミサイルを受けてジェガンのコクピットハッチを焼かれるヘクターのジェガン。
苛立ちを見せたザクが遠慮なしにビームアックスを振り回す。
ジェガンがシールドで受け止めるが、次の瞬間袖口から持ち上げられたハンドガンがコクピットを撃ち抜く。
手加減していたということか。
俺はどこまでももてあそばれていたらしい。
そう知覚した瞬間、ザクがこちらを向く。
嘲笑ったかのような一つ目がこちらを睨む。
「くそ。こんなところでやられてたまるか。俺はまだ死ぬわけにはいかない」
故郷に残してきた弟を、母を生かすためにも。
発露した感情に乗ったのか、アセンブリガンダムが回避行動をとる。
意図とは違うが、この機体もサイコフレームをのせている。
人の脳波に感応したということか?
マジマジとザクを見つめていると、アセンブリガンダムのビームライフルが火を噴く。通常よりも強力な熱線で銃口が焼ける。
ザクは熱線を回避しようと反転するが、足口あたりに被弾する。
「下がれよ。下がってくれないと俺は」
荒げる声が敵の気勢をそいだのか、ザクは後方に見えていた戦艦へと機体を流していく。
撤退したのか。
胸を撫で下ろすと俺はアセンブリガンダムをコロッセスに向ける。
深追いはなしだ。
「アラン、ヘクター」
もうその名を呼ぶ機会のなくなった同僚に敬礼する。
俺は生き延びた。
生き延びてしまった。
彼らの意思を背負っていかねばなるまい。