しゃべり好きな褐色の肌を持ったアラン。
それに二児の父であるヘクター。
なぜ彼らが死ななければならないのか。
なぜ俺は生きているのか。
死神が鎌首をもたげたとき、俺は刃先にはいなかった。
死者は戻らないというけど、昔の人は魂というエネルギー体が肉体に戻ると信じ、ミイラ化させていた。
どこかで聞いた言葉を胸中にこだまさせる。
しかし、魂か。
あのシャアの反乱で人は魂の奇跡を目にした。
そして誰もが、あの奇跡をもう一度体験したいと思っている。
星をも動かす力。
あれがあれば人の行く末は安泰だ、とする声も聞こえる。
人の思惟から発した力。エネルギー。
外宇宙への道のりを明るいものとした。
実際、宇宙世紀になり多くの人を魅了してきたいわゆる貴族連中が喜びそうな話ではある。
彼らは自分がえらく、民草を守る誇りを持ち、一部スペースコロニーでは沸き立っていた。
貴族社会。
それが繰り返される悲劇を止める新しい秩序とされている。
だが、それは同時に今ある歴史の繰り返しではないだろうか?
俺にはよく分からないが、歴史というものは繰り返されるのだろう。
モビルスーツデッキでアセンブリガンダムを眺めていると、整備兵がとりついているのが見える。
各部モーターのチェックから始まり、フレームの痛み、アンテナの確認を行っている。
紅茶をストローですすり、心あらずといった様子で物思いにふけっていると、後ろから声をかけられる。
「よ。ジョージ。何しているんだ?」
「仲間が二人、死んだ」
言葉を失い、呆然と立ち尽くす整備兵の一人アラン。
「お前が生きていただけでもみっけものだ。命大事に」
「俺は、あいつを殺す」
あのザク。今度あったら殺してやる。
憎しみを生み出す、腹の底から沸き立つ高熱。
「そうか。だが、殺すだけじゃダメだな」
「どういう意味だ」
俺は聞き捨てならずに訊ねる。
「あいつら、袖付きを完全に滅ぼすのさ」
「違いない」
アランの言葉に安心している自分がいる。
仲間がいると分かると、ここまで強くなれるのだ。
俺は身体を流し油臭いモビルスーツデッキから自室へと向かう。
その途中ヘクターの遺品を整理する兵と出くわす。
「おいおい。そんなものまで持っていくのか?」
使い古したおおよそ男性には似つかわしくないイヌのぬいぐるみ。
「はっ。でもこちらも彼の所有物ですので。家族からもらった大事なものかもしれませんし」
「それはそうだが」
困ったように眉根を寄せる兵。
「分かったよ」
大切にしていたもの。
極東の島国ではあらゆるものに神が宿り、精神が宿ると聞く。
恐らくはあのぬいぐるみも何かしら心を持っているのかもしれない。
そんなオカルトじみた考えをしてしまうのも、サイコフレームのせいだろうか。
無為な考えをふり下ろすように首を振る。
食事を終え、シャワーを浴び、新しい軍服に袖を通す。
自分が持ってきた家族の写真を眺める。
俺もいつかあんな風に死ぬのか。
胸中に浮かんだ言葉が背筋を冷ややかなものにした。
※
「このザクブレイカーに傷をつけるものがいるとはな」
仮面を被った男はそう言い、ザクのコクピットから降りる。
整備兵が集まり修復を開始する。
「あのガンダム、欲しいな」
仮面の男は艦長にそう告げると、時計を確認するアイザック艦長。
「次仕掛けるにはいつですかね? ジークフリート」
「すぐに出る。ギラ・ズールを借りられるか?」
「はい。すぐに用意します」
アイザック艦長は敬礼をするとすぐに整備兵に連絡をとる。
余ったギラ・ズールがあったはずだ。
ギラ・ズールの手配を済ませると、アイザック艦長は二度目の出撃を促す。
パイロットはエミリー=ヴァイオレットとサクナミ=ハリソンの二人。
これでガンダムを倒せるのか。
「生半可な気持ちでガンダムは倒せん。キミらも頑張りたまえ」
ジークフリートは二人にそう告げると、敬礼をする。
エミリーもサクナミも敬礼で返すと、それぞれのギラ・ズールに乗り込む。
「さあ。今度こそ消えてもらおうか。ガンダム」
フルサイコフレームのガンダムなら欲しがる貴族連中は多いはずだ。
これからの歴史を作る貴族たちに売り込むにはこれ以上ないほどの価値がある。
ザクブレイカーの整備が終わると、ビームアックスをマニピュレータに携える。
ムサイ級から飛び立つと、敵輸送艦に向けて長距離航行を可能とするブースター・ベッドを走らせる。
ブースター・ベッドは文字通り、ブースターつまりは推進力を持つベッドのような平べったい乗り物であり、モビルスーツの推進力を保つことができる。
今頃、シナンジュ・スタインに乗るゾルタンが不死鳥狩りをしている頃だろう。
だがまあいい。
彼にもやりたいことはあるだろう。
それを止める権限などない。
クローンの私には。
「ジークフリート=アッカネン。ザクブレイカー出撃する」
使い捨ての強化人間であるこの私には血なまぐさい戦場が似合っている。
あのフルサイコフレームがどれほどの価値を持っているのか、連邦はまったく理解していない。
シャアも。困ったお方たちだ。
サイコフレームが世界を変える可能性だってじゅうぶんにあるだろうに。
後からついてくるギラ・ズールを背面カメラで見据えて、敵機のいる座標まで機体を走らせる。
ブースター・ベッドからミノフスキー粒子を放ち、敵の電波攪乱を行う。
視認すると、ジークフリートはブースター・ベッドからザクブレイカーを切り離す。
大型のビームアックスの斧筋を持ち、柄にある加速リングを使ったビームライフルを斉射する。
後ろにいたギラ・ズールがビームマガジンを撃ち放つ。
相手はただの輸送艦だ。攻撃オプションはない。
すぐに沈めてやる。
そんな思惟の乗ったザクブレイカーが袖口のマシンガンを撃ち放つ。
「なんだ」
頭上から降り注ぐプレッシャーを感じた。
ビームの光がギラ・ズールのランドセルを焼く。
輻射熱でじわじわと穴が広がっていき、火球へと変える。
四肢を散らし、中に乗っていたパイロットともども爆炎へと消えていく。
『サクナミ』
仲間を思うエミリーの声が腹の底からこみ上げてくる熱を生み出す。
『おのれ』
エミリーの叫ぶ声がギラ・ズールを動かす。
ガンダムを睥睨するように佇むザクブレイカーだが、すぐにビームライフルを撃ち放つ。
相手はセミヌードのせいか、機動力がある。重い装甲を持っていない。
じわりと額に浮かぶ脂汗を拭うと、目の前に迫ったガンダムにバルカンで応射する。
距離をとると、ミサイルとバルカンをばらまき、爆風で距離をとる。
このザクブレイカーはもともと中距離戦を目的として作られている。
サイコフレームの光を見たジークフリートはナメクジが這い上がってくるような不快感に襲われる。
NT-D。
ニュータイプデストロイヤー。
その言葉を連鎖させる酷く不愉快な湿気。
ジークフリートは機体を反転させてガンダムと距離をとる。
ギラ・ズールがガンダムの背後につく。
輸送艦に照準を定めてビームライフルを斉射する。
「帰る船がなければ焦るだろう?」
言葉通り、ガンダムがこちらに向く。
その人の目を模したデュアルアイがギラリとこちらを睨む。
ジークフリートはそれを確認し、ガンダムのビームライフルをかわす。
「ヴァイオレット、敵艦をやれ」
『了解しました』
エミリーがそう返すと、ジークフリートはガンダムと向き合う。
その大型のビームアックスに持ち替えて、近接戦へともつれ込む。