人生放浪記   作:記憶破損

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相棒との出会い

 

 時は古代中国、富・名声・力…あらゆるモノが存在していた古の時代。道教の修行にて不老不死を得た仙人もいれば、雲を掴み、空を支配する龍もいる。数多の幻想に手が届く世界にて始まるは、一人の男の物語。

 

 絶対なる力を持つ存在が跋扈する世界…されど、この世界を支配するモノがある。それは…‥

 

 


 

 ‥‥意識が覚醒して感じるのは土の味だった。それだけじゃない、体中が固い物の上でうつ伏せになった時のようにあちこち痛かった。実際に地面の上でうつ伏せになっているのだから痛いのは当たり前なのだが。口の不快感を吐き出しつつ、やや微睡と痛みを感じながら起き上がる。

 

 見えているのは獣道。聞こえてくるのは自然の声、葉と葉が重なり、鳥は鳴く。漠然と感じるは…虚無…

 

 どこだここ?ゲームしたあと酒でも飲んでたっけ…

 

 あまりに非現実的な光景に思考を放棄してしまう。しかし、全身から感じる刺激が夢でないと理解させてくる…徐々に受け入れていくと同時に焦りが自らを駆り立てる。まず、自らの服装がボロ布を繋げたような上下になっていた。これなら、男が見たことある路上生活者の方がマシな服装をしていると感じるような物だった。勿論、靴なんていう近代の英知も履いていない…

 

「だ、誰かぁぁ!!!誰かいませんか!!!」

 

 ただ本能で言葉にしてしまった。理解できない現実を覚ます為に…‥ガサ…‥草木が生い茂る中、自らの声に反応したかのように一匹の獣が現れた。男は一瞬、己の迂闊な行動に拳を上げたくなったが、現れた獣を見て新たな虚無へと至った。

 

「…キツネ?」

 

 現れたのは狐、本来なら黄色に近い体毛に覆われているはずだが白い。体毛は白く、目元付近は赤い模様?、お腹周りは紫色の廻しが目に入る。神秘的な存在を目撃した男は、普通なら驚きはあれど誰かのイタズラで済ませてしまう事だろう。だが、非現実的な状況を体感して動揺していた時に現れた、これまた幻想染みた存在を目撃した男が思ったことは…

 

 (【商人放浪記】のキツネじゃん!)

 

 

 商人放浪記とは、クリッカーゲームをベースにしたブラウザゲームである。商人となってお金を溜め、嫁や子供、家来や貿易など様々な事から総収入を上げていきプレイヤー達と競うゲームであり…古代中国を元にした世界観で物語が進む。

 

 家来や嫁の中で神や仙人など伝説上の存在もおり、その世界で使用されている貨幣制度も殷~元辺りの時代を混ぜたような状態であった。その中で家来の収入を増やす手段として珍獣という枠がある。珍獣にも種類があるが、その中で序盤に出てくる珍獣がキツネであった。

 

「俺は夢を見ているのか…」

 

 ゆっくりとキツネに近づいていく…キツネは男が近づいて来ても逃げずに男を観察しているかのように眺めている。男がキツネにあと数歩で触れる距離になった時、片腕を伸ばそうとすると…ギャー!とキツネが威嚇を始めた。キツネの鳴き声は求愛・威嚇などによって全然違う。威嚇はアニメのようなコーン、など生易しい鳴き声ではなく、金切り声のような強烈な鳴き声である。

 

 男は吃驚し、咄嗟に腕を引き戻した時…チャリン…と音が鳴ったと思えば引き戻した腕の指先付近から酒器、そして…銀の秤量貨幣が落ちてきた、キツネはそれに驚き草木の奥に逃げてしまう。

 

「…やっぱり夢じゃないのか…はは、嘘だろ…」

 

 男は落ちてきた酒器、銀の秤量貨幣を拾う。どちらも重さを感じる、酒器は60gぐらいだろうか?銀の秤量貨幣は120gぐらい…例えるなら半分に切ったキャベツぐらいの重さを感じた。男はゲームからであるが、中国の歴史が好きになり調べ、それなりの知識を持っていた。

 

 男は先ほどの再現…片腕を伸ばす、特に指先で何かを触るように、すると…チャリン…同じように酒器と銀の秤量貨幣が落ちてきた。酒器を観察する、李朝時代の刷毛目盃に似ているが…いや、だったら銅貨や鉄貨が出てこないと変だろ?何で銀の秤量貨幣が一緒に出てくるし…男はマジレス、現状どうでもいい事を考えた。

 

 どうやら、特定の何か押す動作をするとゲーム同様に酒器と貨幣が手に入ると理解した。ゲーム上では当初、借金返済のため主人公が酒屋を経営するところから始まり、酒屋を連打するとお金が発生…この場合は稼いだことにより発生した貨幣を使い、お店に人を雇う流れ。所詮、序盤だけしか使わない機能、中盤になると家来などの収入を上げた方が儲かる仕組みなためミッションの【限定報酬】【毎日20回タップ】という為に連打するだけになる。

 

「歩くか…」

 

 心の中の整理をしながら酒器などを手に持って獣道を当てもなく歩き始めた。

 


 

 道なき道を進む中、男は川を見つけた。長い事歩き続けていた男は一目散に近づき顔を川へとのめり込む様に川水を飲み始めた。細菌、感染症、熱湯消毒、あらゆる考えを思い浮かべるが、のどの渇きが阻害する。

 

 渇きが癒えた時になって後悔するが、最早どうでも良いと考えつつあった。男は獣道をさ迷う中で、思考は生きるという本能に進んでいった。川水を飲んでいた際、川の中央付近に川魚を見つけたのだ。腹が減った、普段であれば手料理の一つや二つ…幻想に囚われるも思考を巡らせた。

 

 川を観察すると、横幅7m程度の小規模の川、深さは中央付近で自分の足が太ももまで沈む程度…自らの身長は約170㎝、単純計算で半分の85㎝ほどの深さ。川岸であれば足をすくわれる程ではないが、中央に行けば流されるであろうとすぐにわかる。命綱もない、そこら辺の木の枝で簡素な物なら作れるかもしれないが、自らを支えられるほど強固な物を作る技術を持っていなかった。

 

 …先まず男は、自ら作った簡素な靴を脱いだ。その靴は、足底には酒器を土踏まず・踵・足指付近の下になるように配置し、その上に何十枚もの大きめの木の葉を重ね、木で骨組みを作り、紐代わりに木の根でグルグル巻きにした物だった。靴を履かずに歩いた直後に足が痛み、手に持っていた酒器を見て咄嗟に考えたものであったが、我ながら作って良かったとしみじみ感じた…それでも痛いが無いよりかはマシであった。銀の秤量貨幣もハンマーのように道なき道を切り開く道具として活用するなど、物は使いようである。

 

 川魚を取る際、代表的なやり方と言えば網であろう。長い棒の先端に網、それを使って捕まえる、一連の方法を<ガサガサ>と言われる時もある。しかし、そんな上等な物を用意できそうにない。魚釣りも同様、木の枝などで釣りはできるだろうがエサを用意できない。

 

 禁止とされるやり方では石打漁、電気漁などあるが…石打漁は川の中で石をぶつける必要がある、今回は川の中枢に入る手段が乏しいので無理。電気漁はそもそも電気がない…

 

「あとは…でもな…つか石で囲むと塞き止める必要が…」

 

 男はさ迷っている中で、ここが山の中だと知った。平べったい地面が続いていた為、ジャングルの中にでもいるのかと思っていたが、徐々に傾斜が目立ってきた事から山だと感ずいたのだ。だからこそ、川がある可能性に賭けて動物の足跡を追った…生き残る為に冷静に考え、キツネを思い出した。ゲームキャラと安易な考えだけじゃなく、キツネとして考えたのだ。キツネは雑食で何でも食べる、水も飲む、そもそも縄張りが動物全般で決まっている中で自分は出会った。つまり、キツネの活動範囲内に飲み水がある可能性に賭けたのだ。そして、その賭けに勝った。

 

(…河川に沿って下山すれば村や町があるかもしれない、下手にここで塞き止めた場合は問題になる。だが、下山して人に会えるか?そもそも下山に何日かかる?すぐ人に出会えればいい…でなければ飢え死に)

 

 男が気にしているのはその一点のみだった。塞き止める手段は既に持っていたからである。やり方は簡単…タップし続ける。酒器の重さは約60g、重さが足りず流されるだろう。対して秤量貨幣は約120g、川の流れで数メートル流されると予測できるが川底に溜まる可能性が高い。そもそも押す動作だけで無から無限に増殖している物体であり…要するに、川を塞き止めるだけのクリッカーゲームをすればいいだけだ。

 

 男はサバイバル技術をニュースやアニメで少し知ってる程度の知識しかなかった。動物、この際キツネでも何でも動物を狩れたとしよう…さて、血抜きから始まって、内臓の処理などできるだろうか?そもそも血生臭い行為をできる覚悟があるか…それ以外にも森の幸、食べられる木の実・キノコなど探せばあるだろう、見分ける知識があればだが…男はできることを考え、やはり魚を取ることにした。単に食べたいからじゃない、流された酒器を誰かが見つけてくるかもしれないという可能性にも賭けたのだ。普通に考えて大量の酒器が川に流れ始めたら疑問に思って誰かが確認しに来るだろう。

 

「やるか。あ~火も用意しないと…木と木を擦り合わせるんだっけ?」

 

 その後、思ってた以上に塞き止めに時間が掛かり夜になってしまう。想定していたより秤量貨幣も流れてしまい、何度も崩れては溜める、魚を誘導する、を繰り返し疲れがピークになりつつも数匹の魚を手に入れる事ができて満足するな否や、火をつける作業で夜を明かす事になり心が死んでいった。結局、二日目のお昼頃になってやっと焼き魚にありついた時には…美味しさより眠気が勝っていたという。

 

 



 

 

 

「ほう…あの山に鈴仙人(・・・)がいると?」

 

「はい、元長殿も見たと思いますが、あの酒器でございます。」

 

「成程、確かに川から流れて来ておるな…ふむ、眉唾話の類かと思ったが」

 

 数十人の部下を率いる元長と呼ばれた男性は、目を鋭く川から流れてくる酒器を見ていた。その時、山の中枢から聞こえてくる…チャリンチャリンチャリン…と連続して鈴の音のような音が絶え間なく聞こえてきた。それに伴い、人の声が荒くなる。

 

「おお!鈴仙人様が鈴を鳴らしたぞ」

「ありがたや、ありがたや」

「あんた!ウチの子も連れて来な!拾いに行くよ!」

「奥に行きすぎるなよ!鈴仙人様のお怒りを買うぞ」

 

 ここは鈴仙人が住んでいるとされる麓の町。元長が知るこの町は元々は発展性もない、小さな村であったはずであるが…ある時、山岳から鈴の音が鳴りだし、川の水が弱くなったと思いきや、大量の酒器や秤量貨幣が流れてくるではないか。村人たちは思った、福の神が住んだのだ!いや、仙人様では!と…大量の酒器は川の水を酒に変えて飲んでいる為では?と考えた村人は最終的に仙人様だろうと考えたようだ。貨幣はそのお代といったところだろうと…都合の良い解釈で村は発展し、今では町になっていた。鈴仙人と言う名も、鈴の音のような音を出した後に流れてくるから付けられた。

 

 町では掟があり、鈴仙人が住むとされる山に人を入れてはならぬという。曰く、鈴仙人は酒を飲むこと以外興味がなく、人であろうと酒にする。曰く、酒飲みを邪魔する者は川の水を氾濫させ押し流す。曰く、曰く、曰く

 

(富は流せても、()は流せぬか)

 

「元長殿、いかがなさいますか」

 

 尋ねてくる部下もまた、欲に目が移る様に無感情に山中へと続く川に目を離す。

 

「鈴仙人が現れてからの変化を詳しく調べよ、些細な事でも構わん」

 

「山には登らぬのですか?川を辿れば」

 

「早急に調べよ」

 

「…準備いたします」

 

 一部の部下たちが町へと向かう背を最後まで見ず、別の用事を各部下たちに命じていく。内容は様々だが、何故そのようなと疑問に思うような命を受けた者は聞き返そうとするが、答えは返ってこなかった。

 

 命じる内容が済んだ後、川から流れる酒器を手に取った。この町の者達は慣れている為か、必要でなければそのまま川に流し続ける。所詮酒器、貨幣より劣るとだけで見ている…実に浅はかなと感じざる得ない。流れる酒器をもう一つ手に取り見比べる、塗装もなく、歪みもなく、形に癖もない、まるで同じ酒器(・・・・)であるかのような完成度。実にありえない、酒器であろうと陶器であろうと職人のクセは必ず出るというのに…秤量貨幣もまた同じ、重さが統一された物を継続して作るなど本来不可能、持てば誤差がある、それが普通なのだ。

 

 見る者が見れば神や仙人の御業と尾びれがつくのも納得できる偉業。鈴仙人の噂が元長の耳に入ったのも流され続けた酒器が原因だった。とある鍛冶屋が水を調達するために川へ行くと酒器を発見し、価値を見出した。大元を調べ、鈴仙人の事を知ると大層怒り狂ったという…これほどの価値ある酒器を流すな!…その者が叫ぶ声を聞き、酒器の噂は広まったという。

 

 …是非とも欲しい駒よ…

 

 日暮れになる頃、元長の元に駒が集まり、盤が揃った。一手、また一手…新たな鈴仙人()への道を対局する準備が整いつつあった。

 

「元長殿、仙人様は人嫌いと聞いております。それに仙術を使われれば、こちらに被害が…」

 

 町へ情報を集めた者から懸念の訴えがあるも、元長は気にせず山岳までの道のりを確認していた。その態度に不安感と怒りが募る中、元長は言葉を発した。

 

「鈴仙人が出したとされる仙術は川の氾濫のみ、あれは単なる事故であろう。そも鈴仙人はこちらを意思しておらん」

 

 その言葉に驚きと、ならば多くの曰くは!と繋げようとする言葉を読んでいたように言葉は続いた。

 

「世迷言よ…答えは町長共が知っていよう」

 

 話が終わるのを待っていたかのように現れる集団、猿轡をされ、元は身なりの良い姿も今では汚れやシワでボロボロな者達を携え現れた…だが元長は驚きもなくその者達に問うだけだった。

 

「聞かせて頂けるかな?鈴仙人について」

 

 優しく問いかけられた者達は、その問いが死罪を受けるかのように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今日は見回りの人がいないな」

 

 あれから数日間、塞き止めをしていたら遂に人と出会った。その人たちは俺が酒器と銀の秤量貨幣を出している時に出会ってしまい、俺の事を仙人と呼んだ。その時の俺は人と出会えたことが嬉しくて気にしなかったが…こちらの言葉が相手に伝わっていなかった。相手の言葉は理解できるのに、こちらから声をかけてもうろたえるだけで通じていない。

 

 相手の話している内容を聞いていると、聞いたことある言葉を耳にする

 

『この仙人様って、梁山泊から来たのではないのか』

 

 梁山泊って、もしかして水滸伝なのか!水滸伝とは明代の中国で書かれた娯楽小説だ、簡単に言えば108人の実際にいた有名人達が色々な事がありながら梁山泊に集まり、汚職官吏などをなぎ倒すストーリーだ。遇洪而開の三十六の天罡星と七十二の地煞星の話など抜きにすれば人間の泥沼エピソード集にファンタジー要素を足したような作品である。

 

 現代で伝わりやすい作品ならfateに近い、一癖も二癖もある英雄が集まり悪を倒すエピソード・・・水滸伝の場合はビターエンドにしかならないけど。

 

『どうか仙人様お怒りを鎮めてくだされ、我々は金もない農民なのです』

 

 こちらが必死に声をかけているのが威圧となってしまい、頭を下げさせてしまった。どうすればいいのか考え、手に持っていた秤量貨幣を手渡した…最初はおそろおそろ受け取り、俺と交互に顔を動かしながら仲間同士で話だした。内容は小声で聞こえなかったが、少し経つとまとまったようだ。

 

『お任せください仙人様、我々が仙人様を奉ります。ですので…これからもお恵みを』

 

 一緒に下山させてくれよ!とついて行こうとすると絶対行かせないと言わんばかりにカバーしてくる…何度か逃げようとすると泣きべそをかかれ、山の中に家(神社)を作られ押し込められた。衣服も上等な物を渡され、見た目は神社の神主みたいになった。

 

(服を着たら・・・力が湧いた?)

 

 不思議な感覚を感じ、試しにタップしてみると…()の秤量貨幣、鋳造精錬された金の延べ棒(120g)が現れた。これはヤバいと感じて意識すると、今度は元の銀に戻った。どうやら服装を着替えると自らの強さが変化するらしい…ゲームと同じ仕様になっていたようだ。金は課金しかなかったけど…

 

 自分の力が進化したのはいいとして…今日も今日とてやる事といったら、タップだけ…暴れても面倒な事に繋がりかねない為どうしたものかと今日も川を眺めながらウロウロしていた…そんな時、ガシャガシャと鉄が擦れるような音が聞こえてくる。いつもの人ではないと瞬時に理解した、いつも来る者達は私腹を肥やしているのがわかるぐらい豚になっていた。

 

「貴方が鈴仙人殿か…いや失礼、こちらに来る予定だった者達が最近、脱税をしているらしく調査に来たのです。その者達は足を滑らせたらしくこちらに来れぬ様子でしたので代理に」

 

 獣道の山の中に似合わない上等な服装、所々襟や帯に刺繡を施してこだわりを感じられる。目の前にいる者を見た時、最初に目に映るのは頭に付けている一枝花だろう

 

「私の名は字は元長、名を」

 

 俺は知っている。この人物の事を、水滸伝において四姦と呼ばれる程の汚職や裏工作で兄弟となり上がった処刑人…史実において宰相にまでなった恐ろしい男

 

 …蔡京(さいけい)と申します…

 

 

 

  

 








 見て頂きありがとうございます。最近になって水滸伝を読みました…全部呼んでないけど面白かったので勢いで書きました。書き方として、好漢(英雄)とか普段使用しない字を使うと書きずらいので、作者の都合で現代風にします。申し訳ない、また意味がわかりずらい部分は説明口調になることを先に書いておきます。

 字とは→役職名です。簡単に言えばあだ名。
 
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