後宮…基本は3000人の女達がキャッキャウフフしてる場所。この表現は古いか?まあいいや、
俺は今、後宮の門をくぐろうとしている。赤い門、赤い柱、赤い…別に珍しくもないが、建築物などの色彩が赤しかない。古代より、赤は太陽や火を連想させ魔除けの象徴とされている。実際、何かしらの妖術対策グッズにも大半赤色が主流なのも古代からの伝統に違いない。
…観念深く辺りを見ていると、俺を見てコソコソ話をしている宮女達がいた。俺の今の服装は変わっている。普段の白一色と違い、黒色が主体で金色の刺繍?のような、あれだ・・・
なんということでしょう…傍から見ても特別仕様、しかも仙人様が黄金の刺繍をした見るからに皇帝からの贈り物を着飾っているではありませんか。補足して言うなら、俺の身長は170㎝でこの時代の平均身長よりやや高いぐらい、三国時代の高身長イケメンがモテる思考は今の宋時代でも当てはまる。そして俺の顔は現代基準で平均的・・・何が言いたいかって?俺はこの時代ではイケメンに分類されるってことさ!
『あの方が…なんて凛々しいの』
『見なさい、皇帝からの贈り物よあれ』
『全ての穢れを祓うんだって!仙人様なんて初めて見たよ!』
『素敵だ…』
…耳をすませば黄色い声が聞こえてくる。顔には出さないが、普段のストレスが少しずつ晴れていくようだ。噂をしている者達は宮女の下働きのようだ。彼女達も大変なんだよ、適性審査を10歳ぐらいで受けて何とか受かったら、掃除炊事、時には毒見まで雑用をこなす日々。上の人達に気に入られたら万歳だけど、大抵の場合は宮廷にも呼ばれず生涯雑用という地獄が待っている。それでも、貧乏生活よりはマシかもしれないがね。この時代、首都であろうと路地裏を見れば孤児や餓死者の遺体とか見つけられる…俺に仙術擬きが無かったら仲間入りしていたかと思うとゾッとしてしまう。
それにしても…皇帝祭祀の欠片もねえな。俺と同じく後宮に入ろうとする官僚達を見ても、上等な服装だが儀礼服の奴がほとんどいない。それどころか、浮き足立っている奴らが大半だ。そりゃね、皇帝の住居みたいな場所に入れるってだけでも名誉レベルなのに、美男美女だらけの後宮ですもの。だけどね?
「あ、あの!鈴仙人様・・・こ、これを」
名も知らぬ宮女の…まだ10歳未満だろう子から花を貰った。少し動揺しながら、渡してきた子を見る。顔立ちや立ち振る舞いからして庶民出の子だろうと予測できた。これでも多くの者と交流してきて、ある程度読み取れるようになったのは強みだろう。
「母をお救い頂きありがとうございました!鈴仙人様のお恵みのおかげで薬を買う事ができて本当にありがとうございました!」
…どうやら、金を配った時にこの子の親族でもいたのだろう。そのおかげで母親が助かったようだ・・・胸がスーとなった。何だろう、こんな暖かい気持ちになるなんて久しぶりな気がする。俺は笑顔で首を振る、こんないい子が居るなんておじさん嬉しい!純粋に感謝されるなんて、ここに来てから一度たりとも無かった。
よーしよしよしよしよし、いい子だな君は!名を聞きたいが、聞けないし…プレゼントでもやるか!いいよな、良いんだよ!どいつもこいつも俺に媚び売って来る連中と違って純粋なんだから!
そういえば、俺の服装変わったけど…俺の力どうなってるんだろう?意識すれば不思議な感覚があるからたぶんイケるはず。
意識して手を空を撫でるように押そうとする。タッチする時にもはや隠す必要が無い金を思い浮かべ、手を下ろす動作をした時・・・
…俺の指が・・・ブレた…
その男はこの時代において珍しく普通の官職の者であった。皇帝の嘆きに共感し、世の乱れを嘆かわしく思いながらもどうするかわからず日々を過ごす…平和を愛する者であった。
『我々と共に歩んで頂けませぬか』
男は涙した…この絶望が支配する世に光が舞い降りたのだ。鈴の音が聞こえる度に富が落ちる、その光景はとても神秘的で、同時に我々の汚が形となっていると思ってしまった。だってそうだろう…後で知った事だが、鈴仙人様は我々の言語を理解はできても言葉にできないという。それは、我々の言葉…言霊そのものが汚れているからではないのか?言葉を発さないのではなく、発する事自体が苦なのではと感じたのだ。
男は憂鬱な気持ちだった。俗界を離れ、仙術を身に付ける程の御方だ…それほど高名なお方でありながら、今の欲に溢れ、穢れに溢れた世を仙人様はなんと考えるか、所詮俗物である自分では考えもつかない思想であるのは承知だ。だからこそ、嘆かわしい気持ちが取れないのだ。
あの神託に近い光景を目にして数日後・・・男は目を開き唖然とした。あの鈴仙人様がよりにもよって、我々の欲そのものを扱う地位に置かれているのだ。当初はただ噂程度だった御仁、だが今ではハッキリと身分がわかっているのだ。男はどうすればいいのかわからなかった。
だから・・・観察した。自分も財務に関わる者だった為、鈴仙人様と一緒に働けるように頑張った。元々倍率が高かった資金に関わる役職、鈴仙人様が現れてから元貴族含む連中も家から圧力と後押しを受けて同じように動いていた。悔しかった…自分は庶民の出、そのような伝手も無く努力で上がってきたのだ。元より汚職が蔓延る中、自らの意思だけは曲げずに進み続けていた…このような事態になって初めて欲するなど、何と小さい男だと恥じた。
だがやはり、あの御方は違った、全てが違う。私より先にあの御方の仕事に携わる席を手に入れた者共は・・・やつれた顔で退職し、後方に移る者が後を絶たなかった。それでも残っているのは、同じ出で努力でのし上がった同僚達が大半であった。後釜として入れられた執務室、鈴仙人様を中心に周りに置かれる書類の束…そして、その束を高速に読み取り一つの紙にまとめ上げる姿が瞳に映った。
何と、何と大きい背なのだろう…どこか、昔に見た父の如く大きな背を重ねてしまい、この御方と共に仕事ができることを心より皇帝に感謝した。
鈴仙人様の処理する速度が速すぎて追いつくのでやっとな日々が続いた。最初は手間取ってしまったが、今では何を欲しているか大まかに把握できるほど距離が近くなったのは嬉しい事だ。何よりも、鈴仙人様が働けば働く程この世が浄化されてきていると実感できるのだ…同じ気持ちを同僚たちと感じながら忙しくも、やりがいのある仕事に就けて我が世の春を感じた。
『---でありまして、今後とも』
…鈴仙人様が活躍すればするほど、擦り寄ってくる連中が増えてきた。嘆かわしい事だ、人の欲が透けて見えるなんて恥でしかない。だが…それでも我らの仙人様は格が違った。単純に仕事を処理しているだけなのだろうが、下級の文官含む仕事まで最近手を回してきている。当初は仙人様を雑用と勘違いしているのか!と激怒して出した者達を問い詰めに行った事もあった。詳細を聞き出すと…自らの浅はかな器を感じ、己を恥た。
鈴仙人様は皇帝と、我々と共に歩むとあの場で証明した。そうなのだ、それを実行しているだけだったのだ・・・この世の欲を浄化する、ただそれだけだったのだ。
やっていることは簡単だ。我々を理解する、その為に情報を集めて、同時に処理を繰り返していたのだ。下級、上級問わず全ての、この北宋に住む者を救う為に…
今、人生において名誉な事に携わっている。後宮に入ることを許された異例の皇帝祭祀、その事自体も大変名誉な事であるが違う。鈴仙人様のお付き(警護)としてお近くにいることを許されたのだ!私だけでないのは知っている、が!この御方の近くを許された事は、生涯において永遠に自慢できると断言できるほど心が浮いている。
凛々しいお姿になった、鈴仙人様を見るだけで息が荒くなってしまう。このまま、間近で匂いや味を感じたい気分になるのを抑える…お付きとしてあの御方を害する輩は必ず排除すると心に誓って研ぎ澄ます。
…宮女の子ども達が、鈴仙人様の服装やお姿を見て雌声を発していた。その内容を聞いた時、当然であろうという優越感、同時に鈴仙人様に雌声を聞かせるな!という思いが同時に起こる。
『あ、あの!鈴仙人様・・・こ、これを』
宮女の者達の中から、止められてはいたが、鈴仙人様に花を渡しに来た幼子が現れた
(な、なんと破廉恥な!?)
自分の簪や手帕を相手に渡し、受け取る…その行為は逢い引きによく使われる行為だった。それは、宮殿内問わず市民であっても常識レベルの隠語。そして…その行為の最上位のやり方・・・それは花である。
貴方と花を咲かせたい…上記の簪や手帕がデートに誘うぐらいの感覚であれば、花はS〇Xと直球な行為である。
男はその幼子に殺意が湧いた、鈴仙人様に対しての狼藉・・・万死に値する!男はすぐさまふしだらな幼子を切り捨てようと考え動こうとした。
『母をお救い頂きありがとうございました!鈴仙人様のお恵みのおかげで薬を買う事ができて本当にありがとうございました!』
が…続く言葉を聞いて動きを止める。どうやら、幼子は花の意味を知らず、単純に感謝を込めて贈ったらしい。無知は何たるかを教えるべきかの思考、己の邪の考えを恥じるべき思考が混ざり停止する。
鈴仙人様は…一度として見た事がない程、喜ばしい笑顔で幼子の頭を撫でていた。
…ナデナデしているのか、私以外の幼子に…
脳の何かが破壊される程の衝撃を受けながら眺めていると、どうやら施しも授けるようだ・・・幼子は状況を把握できていないのか、オロオロとしている。
「鈴仙人とは、噂通りの御方のようだ…仙術も見たいと思ってしまいますね」
混乱している思考で話しかけられ、咄嗟に後ろを振り向いた。鈴仙人様の動向に夢中で忘れていたが、ここは後宮の入口なのだ。私だけでなく、あの御方のやり取りを見ている者は多くいた。
「おっと、失礼した。才ある者にはつい話しかけてしまう、私の悪い癖」
話しかけてきた人物を認識すると、すぐさま頭を下げつつ道を開けた。
「そう畏る必要はないのだが」
苦笑する人物にそのような態度をとれるはずが無かった…花弁を象ったような服、顔は整っているだけでなく、その瞳に見つめられると己の中身まで見通しているかのような感覚に陥るだろう。
話しかけた人物は
「鈴仙人殿が仙術を使うようだ、うむ、是非一度見たかったのだ」
こちらが緊張しているとわかり、気安く喋りかけてくる御仁を前に自分がうろたえてしまう…この気持ちを少しは落ち着こうと自らの鈴仙人様の方を自分も見た。
…チャァァァァァ…
その音はもはや鈴ではなく、雑音…見ている者達全てが唖然としただろう。
・・・金が…雪崩のように幼子を覆いつくす様を・・・
…この服の効果って…連射パットじゃねえかァァァァァ!?…
見て頂きありがとうございます。初めての第三者視点でしたが、いかがだったでしょうか?
後宮の話はそれだけで数十話分のボリュームがありますが、そこまで長引きさせません。水滸伝だからね、私の作品は水滸伝なのか?作者自身も迷走しているような気がします。それでも見てくれたら嬉しいです。