舞子の踊りから始まる煌びやかな始まり。高官や宦官、貴族や地方官など地位に関係なく収集され行われた異例の皇帝祭祀。真の祭祀とは何たるかを知っている古参組は眉間にシワができており、逆に新参の者達は場も相まって壮大な雰囲気に当てられた。
周りを囲むように建てられた客席に響く音楽が奏でられ、舞は表現、音は歴を感じさせる。歴史の積み重ね、その全てを表現する舞子の者達に魅了され始める男達が多い中…密談に耽る者達もいた。
「随分と華やかな祭祀ではないか?蔡京殿」
「数日かけて行う祭祀故、こちらとしても皆様を歓迎するのに手間取りました。どうでしょう?皇帝が考えたこの祭祀は」
心底不愉快と隠そうとせず、身の丈九尺(270cm)から蔡京を見下ろす様は棍棒を持たせれば獄卒の鬼と間違われる程の圧が放たれている。蔡京はその圧を受けながらも平然と物事を進めようと口を開く…どこか諦めたような、萎びたような雰囲気を纏っているのに疑問を持ちながら会話を続けた。
「これは園遊会。企みは気づいておる、新法であろう…嘆かわしい、皇帝をだしに使うなど」
この事態を作ったのが皇帝なのだが、いちいち指摘していたら終わらない為言わせる。この人物はこの北京にて大質屋の主人、その影響力は計り知れず…鈴仙人の徴収?にも乗っていた人物である
「生を実感する…今を生きる我々によって決めねばなりません」
「過去を捨てる事はできん」
「新風に乗るのも一心となるでしょう」
「・・・あの仙人殿か。お噂は広がっておる、そういえば、お主の相方が大声で店に来たのはそれが理由か」
何してるんだあの馬鹿は…常識的に考えて首都にいる、しかも発言力のある人物に突撃するな…
蔡京の心労は増えるが、その心労を作ったのは自分なので自業自得である。民にとって蔡京を
「変わるのか…悪政が」
…相手から政府批判の発言が出て、乗り気になったとホッとする。これは試しだ、自分が揚げ足を取るかどうか、この発言に追及をするのであれば心は完全に離れるだろう。
「変えますよ、変えねばなりません」
「クハ!まさか、その口からそのような言葉が出るとは、鈴仙人殿から説法でも受けたか?」
「生憎と鈴仙人殿は言葉を伝えられません」
「ほう…それは難儀な事だ。だが、そのありようなら信じてもよい!」
この一言を聞き、やっと他の者達に対する後ろ盾を手に入れた。
「これから伝える者達には、金を貸さないで頂きたい」
「なに?」
「旧法派の者達を中心とした官僚に金を貸すなと申し上げた」
「聞こえておる!何故だ!」
その問いに笑顔で答えた。
「数を減らす為。新法を決議するに当たり、各派の数が最終的に争議を決めます」
末恐ろしい事を考えると盧俊義は嫌悪した。
「戯けが、大貴族以外を振るい落とす気か?各地方においてワシからの援助を無くして続けられる者はいくらいると思うておる!」
現代基準にした場合、地方にいる議員が皇帝に任された地区を自分たちなりに税金やインフラ整備など行っている。(その議員が旧法派とする)そして、その議員達の資本金を渡す大手が盧俊義の大質屋である。簡単に言えば銀行のような立ち位置なのだ。
万が一…資本金を突然受けれなくなった場合、現代であれば補助金など国家が動いてくれるだろう。この時代の場合、皇帝の土地を各議員が任された状態(借りているとも言う)。つまり、損失の全責任は各議員に来るのだ。そうなればどうなるか…何としても失った分を取り戻す必要が出て来る。
各村、各町での税の引き上げ…それでも賄えなければ、人身売買、裏帳簿、治安の悪化、それらに伴う人民の怒り・・・その矛先が最終的にどこに来るかなど明らかだった。
「大丈夫です。その為の鈴仙人殿ですので」
「いくら鈴仙人殿の評判を盾に…いや違うッ貴様!王朝に依存させる気か!」
そも大質屋が何故そこまで金の中心となっていたか?盧俊義が一から信用を積み重ねていったのもあるが、第一に盧俊義は血筋からして貴族であり、同時に大富豪だったのだ。だからこそ元より信用があった…ではその信用は皇帝ならどうだろうか?そして、その皇帝から名を受ける仙人という後押しがあれば…頼りがいのある存在と見えるだろう。
「ふざけるな!それではワシの大質屋が」
「ええ、そこでなのですが…新たな取り組みを実施しようと思っております。これは鈴仙人殿からの提案、私もその発想に驚くばかり」
心底愉快と思っているであろう口元からある事柄を提案された。
「まず…国債、そして債券と呼ぶ制度の導入についてお話します。結論から言えば盧俊義殿の大質屋改め、皇帝お墨付きの証券発行所という形式になって頂きたい」
ー
ーー
高廉に連れられ園遊会…儀、もういいや、酒飲み場兼宴会用の席まで同行した。流石にこの場で復讐はしないと思う…何だかんだ、頭が回る?欲が深い?自分に懐いていた
俺と高廉は向かい合って酒を飲んでいる…いや、何だこの光景は…
その前に、何か他の連中が俺達を避けている?いや、認識していないように通り過ぎている・・・あれ、これって道術使ってね?幻覚出してるよね!?何かドラマの水滸伝で似たようなのやってたよこれ!
「気づいたか…だがおかしな事だ。貴方から道力を感じない、しかし財宝を生みだす仙術は確かにある」
そう言いながら、懐から俺が入口で出した金を取り出した。
「この金からも道術の類を感じぬ…道士を超え、仙人へ至っている故にわからぬのか」
こちらを睨みながら確かめるように問いかけてきた。だが俺の言葉は理解できないだろう…
『それは仙術じゃないよ』
「…ふむ、何かしらの言語?それとも仙術の類か?・・・なるほど、
え、何が?呪禁?何でそうなる。
「己に術が来ぬようにしていたか、くく…従兄がやられたのも必然だったようだ」
意味がわからない…呪禁って確か厄災とか邪のモノを取り除く為の術でしょ。日本だと陰陽師が使う呪い関連に結び付いちゃったけど、その本質は邪悪なモノから隠れるとか、祓う意味の術のはずだ。
こちらが混乱している中、高廉はまるで真実を告げるように発していく。
「なぜ道力が感じぬか、それは貴方の呪禁にて認識できなくなっている為だ。だがそれ故に、貴方から発する言霊が取り払われ我々が認識できなくなった」
いや違う
「何よりも、仙人へと至る修行において貴方のような方を見た事がない。竜虎山やかの仙人張天師殿を師でもしなければ、例え才があってもその若さで仙術を身に付けられぬ」
そもそも仙人じゃない
「そして…その仙術だ。この世に干渉するのが道術であるという常識を逸脱した術、人の欲を形作るがごとく欲望を具現化する…仙道から外れし邪道な術」
俺はどうすればいいいのだろう
「鈴仙人殿…貴方は仙人ではありますまい?」
そうだよ?…俺は的外れな回答の数々に飽きれ気味に頷いた。そうしたら…メッチャいい笑顔で俺の正体(仮)を言い放った。
「貴方は邪仙!人の欲を対価に貪る仙道を外れし者…富を湧かせるのではない、富に溺れさせる存在であろう!」
え~…どうすればいいの。邪仙ってお前、自分が妖術使いだから思いついたんだろうけど的外れすぎる。
邪仙という存在自体はいるが、現代のように幽世に棲む怪物の意味ではない。人が修行して最終的になれる道術使いの名称が仙人、更に上が真人となる(仏様の考え、悟りを得た仙人の事)。邪仙とは、その名の通り邪悪な思想の元で仙術を使い、欲に堕ちた存在を指す。もっと正確言えば邪仙となった時点で仙人ではない、道士が正しい。妖術使いは道士崩れといったところだろう。
この時点で否定も正定も意味をなさないと思った俺は頷いておいた。
…何とも奇怪な組み合わせ。蔡京はそう思いながら二人の下に足を進めた。周りの者も疑問を持ちながらも声をかけるタイミングが掴めず立ち往生といったところ。それもそうだろう、従兄を実質的に死に追いやった人物と愉快そうに酒を楽しんでいるのだから。
「蔡京殿か…こちらに」
会釈をして座る…鈴仙人から酒器を渡され一口つける。銀器ではない、鈴仙人が出した酒器だ。心をそれだけ許したという事であろうか、よりにもよって処した人物の従弟に対し。
「最近お噂を聞いております。何やら法を動かすとか」
「…ええ、皇帝が嘆いておりました故、今宵で決めようかと」
「おお…ならばもう、揺れ動くことが無くなると?これも鈴仙人殿の発案か」
流し目で見る男に蔡京はますます釈然としない感覚に陥る。目の前の人物は謎多き存在だからだ、道士になるべく修行をしていた噂は聞いていたが高俅によって情報を隠蔽されていたのだ。蔡京にとって胡散臭い人物としか印象が無く、そんな人物が鈴仙人と仲良くしている。
鈴仙人も困ったような笑い顔で酒を飲み流している…反応に困っているのは明白。
「お二人はどこでお知り合いに」
「くくく、なについ先ほど。後宮入口で鈴仙人殿が金をばらまいた時にな」
なぜ金をばらまくんだ、最初から意味がわからない。それより、ばらまいた金はどうした。まだ始まって序盤故にバラツキがあると思っていたが、もしや金を拾っているのか・・・頭が痛くなりそうだ。
「そのような事を聞きたいのではないでしょう。なぜ私が従兄の敵と仲良くしているか、貴方も敵でしたな…」
愉快そうに口から発する男に恨みつらみの念は見えない。
「私も悲しんでおります、従兄があのような事をしていたことに…ですが、酒の席、互いに流してしまいましょう」
「何がお望みで?」
単刀直入に聞いた事に高廉もまた答える。
「私も仲間に入れて頂きたい。新たなる世を動かす一員にな」
満を持して登場した徽宗皇帝を囲むように配置された席。皇帝祭祀ではありえない人数、ありえない配置…だが祭祀も行っていく必要がある皇帝は面倒な気持ちを隠しながら言葉を発した。
「まず、集まって来てくれたことに感謝を…常識を疑う今回の祭祀には余の思いがある。余の民を思う気持ちを其方達と共有したかったのだ、今宵の祭祀はその思いを昇華させる儀式として設けた・・・新たなる世の正定に力を貸してほしい」
誰しも感じているであろう今回の収集、その裏にある思惑を感づいて動いている輩も多いだろう。動かない、動けない輩も無理やり動かすには、押してやる必要がある。
辺りを見渡し鈴仙人を探す。贈った服装を着ていた為、すぐに発見できたが…周りを囲む面子に一瞬気圧された。
大質屋の亭主、最近処した者の従弟、一応腹心、その他旧法派、新法派の面々…少し距離があるが、前皇帝の子孫である柴進殿までいた。腹心が上手い事やっているのであろう…鈴仙人殿の人徳かもしれない。基盤を作っていると目で見てわかるのだ、喜ぶべき事柄だ。
(うわ、呼びたくねえ)
皇帝は面倒事に巻き込まれそうになるのを理解しながらも…鈴仙人を呼び出した。
盧俊義は水滸伝において梁山泊第二位の人物ですが、何でしょうね…突発的に統領候補された哀れな人物観が目立ちます。仲間にされたものの半端な活躍で何でいんの?感が漂う、人によっては邪魔と思うかもしれない立ち位置です。大男、頑固な性格で大質屋の亭主など設定的にミスマッチな立ち位置な気がしますが、作者的に光らせたい人物ですね。
図書館が近くにあるので古代中国について少し勉強しました。徽宗皇帝について調べれば調べるほど…水滸伝のあの芯がある人柄みたいな人物とは思えなくなりました。怠け者で綺麗ごとは言うけど臆病癖がある人物かな?と作者的に感じた人物像です。勿論、汚職が蔓延る前提があるので何とも言えませんが。