人生放浪記   作:記憶破損

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使えるモンは使うべきだ。


これが権力だ!

 

 この時代は理不尽で満ちている。悪人であれど、上役の者から寵愛を受ければそこら辺のゴロツキだろうと権力を振るえるのだ。例えば、皇帝からの寵愛を受けた者であればなおさらね。

 

 日が射してくる仕切り窓を尻目に慣れてきた筆使いに酔いしれる…そんな静かなひと時が今の俺には愛おしい…

 

「調子に乗るなよ、仙人を語る盗人めが!この帝の寵愛を受ける高俅(こうきゅう)がその正体を暴いてやる!」

 

 俺と一緒に仕事をしていた人たちが間に入り、その者を取り押さえている。そうこうしている間に、扉を開ける宦官の人達が現れた…

 

 

 

 

 

 

 普通に仕事をしていた。仕事を任されたからにはやるのみ!と社畜精神・・・いや違う、曖昧な俺の状況を脱却するために普通に仕事を頑張っていたのだ。

 

 今の俺を現代の役職に直したら、財務省に所属する会計士に近い…意味わからんだろう?この前まで山でタップゲームしてた男がだよ、この時代の貨幣経済を支えていたのは帝直属の官職だから結果的に俺は国の経済資本のど真ん中に置かれたという事だ。

 

 蔡京が絶対手を回しただろ!って思ったよ?でもね、引継ぎの際に意外とガバガバな決算書を見せられて…これ意外と楽じゃね?って思ったわけよ。実際に仕事をしてみて、サポート役の人達にも過去の資料集めを頑張ってもらい(決算書を指をさすなどで知らせる)比較して今月の決算を計算してみる。この時代には月初め、月終わりなど決算日が既にあり、現代基準で計算もある程度できた。

 

 それから、Excelが欲しいと何度も思いながら前年度、前々年度などの財務費を割り出し、何かおかしくね?と思ったところを確認するを繰り返していく。そして裏事情がわかっちゃうのよ…あ、これあかんやつや…ってね。

 

 誰がどのくらい経費使いました~って現代でもあるじゃない?この時代は決算する人達がまあ、歳や何かしらの事情が無い限り変わらないんですよ…水滸伝に関係なく、汚職し放題になるには資金を動かす人の協力が無いとできないじゃない?つまり、俺の前の役職者は裏帳簿を作ってたのがわかった・・・わかってたよ?汚職がはびこる時代だからね、でも俺が職に就いて少し調べるだけで出てくるレベルのガバガバ具合なんだよ…もうさ、同じ文官の奴ら腐ってるよ。

 

 それ以外にも…このままだと財政破綻しないか…とか、お先真っ暗情報などわかってくるんだ。これの解決策を考えるのも俺の役職なんだよね…これ狙ってるだろ!俺に資金を出させようとしてるだろ!ってな考えが頭に過るけどさ安直過ぎじゃねツッコミを先に入れたい。

 

 皇帝が住む北宋(ほくそう)全土を賄えるほどの金銀を出したとして経済は一時的に回復するだろう。その後は金銀価格の暴落が一気にくる、それに対応する案が無い限りできないし…それ以前に現代資本の考えで物事を考えられる俺と違い、価格の暴落とか、社会不安云々とか、経済論を理解しておかないと対応もくそも無い事だ。未来知識が無いとまず無理だ。

 

 そして何よりも・・・そういった法を作る立場、それらの人をまとめる人がね…蔡京なんですよ。無理ゲーじゃね?あいつに文字で伝えることは出来ると思うよ?でもあいつ自身が権力欲しい人物じゃん、そんな奴に情報渡したら本当に積む。皇帝蹴落として自分がなるよ、混乱に乗じて漁夫の利狙って史実でトップになってるんだもん。俺の情報と立場を最大限利用すればマジで皇帝の座を狙いかねない。

 

 …そこで俺は逆に考えた。別にいいじゃんと…

 

 水滸伝の世界であり、今の俺がいるのは本編より少し前だとすぐにわかった…高俅という大悪党がまだ宮殿内にいたのを見たからだ。こいつも蔡京と同じく四姦の一人で、音楽から始まり蹴鞠(けまり)など多芸で徽宗皇帝の目に留まり、そのまま側近みたいになっちゃったゴロツキだ。マジでこいつは汚職云々じゃなくて、クズなのだ。

 

『いいもん持ってるじゃねえか、よこせ』

 

『それは、妻から貰った大事な』

 

『俺に逆らうのか!お前の妻が美人なら飽きるまで抱いてやるよ、死ねェェ』

 

 皇帝の権力を惜しげもなく使い

 

『金よこせ』

 

『もう資金が』

 

『なら子供でも売ってこい』

 

 …まだまだエピソードはあるのだが、文庫本の方だといくつか過激な部分は省略されていたりする。しかも、こんな大悪党でありながら徽宗皇帝の前ではいい子だった為…少し注意されるだけで生き延びている。皇帝の前では蹴鞠が上手くて、話し上手な高官で太尉の役職についてる。

 

 こいつのせいで梁山泊側に行った連中は多い、特に皇帝側の大貴族の一部を敵にした原因がこいつの私利私欲の為の行動だったのが笑えない。殺した人物の知人・家族などの繋がりが結果的に梁山泊メンバーに繋がってるケースが多いいのだ。偶然の場合もあったが、こいつが消えるだけでも宮殿内の空気は良くなると思う程だ。

 

 だからさ…消えてもらおうと思うんだよ。皇帝の寵愛に関しては知らん!ていうか、皇帝の耳に入らないように裏工作してるのは描かれていた。つまり、事実を皇帝に突き立てれば四姦の一人を潰せるという事だ!その為に俺は…蔡京を使おうと考えた。だってお頼りくださいって言ってたからさ・・・最大限利用してやるよ。

 

 

 

 


 

 

 

 鈴仙人が呼んでいると聞いたのが、遠い過去の出来事のように過ぎていく。自分に渡してきた、まとめられた情報の数々…近くで見ていた者達に聞いても過去の帳簿などから作り上げたとしか答えがない。

 

「これは…いえ、なぜ私に…」

 

 長年の官職たちが使用した金の動き…その大半をわかりやすく、一つの紙にまとめられて渡された。想定を超える能力、自らの仙人として力量を誤ったと内心で舌打ちしている最中の事、その思い人がまとめられた人物の中から一人を指さした・・・傍から見ても不愉快という言葉が出てくるような態度で。

 

「…高俅殿が何か」

 

 蔡京にとって高俅とは、いてもいなくても変わらない男だった。皇帝からの寵愛を受け浮かれている馬鹿、欲の制御もできない野獣と変わらない。あの皇帝の前で上手い事、いい人を演じているので見逃しているだけの存在。そんな人物より、このまとめられた事柄を確認した上で書かれた一部の者とお話をしたい気分なのだが…鈴仙人は動いた。

 

「!っ何と…」

 

 …チャリーン… 部屋の中に鈴の音が鳴り響く

 

 鈴仙人は金を出したのだ…隠していた仙術を私の前に出した。一回だけではない、何度も、何度も、繰り返し出した。足元に山となる金が崩れる…その光景に生唾を飲む。そしてもう一度、高俅の名の部分に怒りを込めるかの如く指さした。これだけされれば理解する、高俅は仙人の怒りを買ったのだと…

 

「私に裁けと申すのですか」

 

 …鈴仙人は頷いた…

 

 

 

 

 

 

 

 鈴仙人がここまで怒りを表すとは思わなかった。高俅という男は所詮、そこいらにいるゴロツキと変わらない俗物。例え目に余る人物だとしても、それが霞む程ここは欲に覆われている。

 

「仙人の目線では何が見えているのか」

 

 証拠はすぐに集まった。日頃から怨みを買っている男だ、遺恨の処理もせずまた遺恨を作るようなどうしようもない男…皇帝の寵愛の意味も理解していない馬鹿な男。

 

「皇帝も少し放し飼いし過ぎていると自覚して頂くとしましょうか、仙人様のお怒りを鎮める為に」

 

 皇帝が何故このようなゴロツキを高官にしたか…蹴鞠?違う、文化人だから?違う。わかりやすい邪悪だからだ。自分の為なら他人なんてどうでもいい、そのことを隠しもせず暴れまわる獣。故に言い訳が作りやすい、こんな獣がいるから…と。

 

「それにしても、仙人殿は私に世直しでもさせようと?フフ、そうですか…そうですか」

 

 帳簿だけじゃない…国の状況から、金の流れの細かな点、他国に流れる物資の数まで正確に記された物を私に渡した。

 

「ですが、聊か急すぎる…いえ、この考えに行き着くように渡したのでしょうか?案をまとめ上げよと」

 

 自分の立場、官僚など貴族第一主義の法を中心とした旧法党、民草を助ける法を中心とした新法党・・・現状、自分は新法党としているが、その都度変えている為どっちつかずな立場を取っている。

 

 鈴仙人はどこで自分の立場を理解したのかは存じないが、利用しようとしていたら逆に利用される事になっている。その現実に不思議と笑いが止まらない。

 

「鈴仙人殿、貴方は私の良きご友人になられた」

 

 搾取する側が搾取される本末転倒な現実。そして、その状況を作ったのが搾取される事しか知り得なかった存在だと言うのだ…違う、知らせたのは自分だ。自分がこの魔境に招き入れ、あの仙人すらも染め上げたのだ!未だに善であるが、その善は歪みだしている。今回の件はその始まりに過ぎないと確信する。

 

「頂いた前金は…世直しに使いましょうか。今回の件で皇帝も考えを改めて頂けるでしょう」

 

 仙人が現れる前、皇帝は既に諦めていた。自分の代で国を立ち直すのは無理だと、せめて皇帝の継続だけでもと…その為の贄、隠れ蓑としての獣だったのだ。結果的にその獣によって、堕ちた心を燃え上がらせる羽目になるなど思わないだろう。

 

(この私が今一度、天を上げる事になろうとは)

 

 皇帝からしたら信じられないだろう。あの蔡京からにじり寄って来るなんて、それこそキッショっと思うに違いない。蔡京にとってみれば、より良い条件で権力を掌握できる可能性が出て来たから協力するだけなのだが、皇帝にとってはこの腐った世を直す最後のチャンスとも言える。

 

 やることは山積だ。今まで溜めていた側が、その山をある程度残すとはいえ片付ける側になるのだ。その手段が用意されていても、すぐには難しい。

 

「貴族達にご協力を頂きましょうか。それこそ皇帝のお言葉を授けて」

 

 濁った中に新たな濁り…実に愉快と感じながら、足取りを進めるのであった。 

 

  

 

 

 

 

 

  





 見て頂きありがとうございます。仕事終わりに書いているのですが、他の書いてる皆さんは何時書いてるんでしょうね。
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