人生放浪記   作:記憶破損

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単なる公開処刑


新たなる夜明け

 

 古代中国と言えど重度の罪人にも執行猶予が存在する。が、この時代では大抵の場合、罪人となった時点で鞭打ち、斬首などほぼ死刑となる。唯一助かる可能性があるのは…被告人が上級国民の時だ。

 

 助かる為には執行人から始まり、判決を下す裁判官、その他発言力がある者達からの助命を引き出す必要がある。ではどのようにするか…簡単だ、金をばらまくのだ。所謂賄賂、いつの時代もあり得る事だが、徽宗皇帝の時代では当たり前の常識レベルで横暴していた。

 

 しかし例外もある…どんなに高官や大貴族であれど庇いきれない事柄は存在する。相手を殺傷した、その現場を見られた。その程度であれば現代では正当防衛だったの一言で解決できるだろう。真実を話す者がいても立場の低い者の発言は聞かれないのだから。

 

『罪人、高俅…其方の罪は数知れず、窃盗、殺人、恐喝、強姦、脅迫、詐欺・・・考えられる罪をこうも重ねた者はそういまい。何よりも、皇帝からの寵愛を盾に使うなど恥を知れ!』

 

 布で猿轡をされ、反論も許されず枷により身動きも取れない高俅…いや罪人。その男は涙を流しながら皇帝に眼差しを向ける。本来このような場にいないはずの皇帝自ら姿を現している現状を最後のチャンスと考えているようだ。

 

 断頭台に乗せられ、怨みを買っていたのだろう。罪人に対し、多くの民が罵倒をぶつける・・・最後の言葉を発する為、猿轡を外された瞬間、その男は吠えた。

 

「皆聞いてくれ!ここにいる者達は騙されているのだ、真の悪は仙人を語る、あの男である!皇帝も騙しているのだァァ」

 

 …民を含め、高官達は視線を向ける。最近になって首都に現れた謎多き人物、黒を主体とした高官の者達に一人、白の鈴仙人に…

 

 皆の注目を集められた罪人はほくそ笑んだ。蔡京殿が連れて来た鈴仙人と呼ばれる胡散臭い男、少なからず文官としての能力がるようだが…皇帝からの評価は最低だった。

 

『…直接会ってみたが、どうにも信用できない者だった。仙術を見せよと伝えても出さず、言葉も発さない。其方も気をつけよ、蔡京の手の者に違いないのだからな』

 

 思い出しても腹立たしい、少し計算ができるからと謁見できるだけじゃなく司会の席まで用意されるなど・・・蔡京殿の身内かと調べても見つからず、最近になって富を流すと言われる山奥に住む鈴仙人の噂を耳にしたが、であるならばもっと富を得た者達がいなければ説明が付かん。語ってるだけだとすぐにわかった。

 

 蔡京殿が見込む程の者、何かしらの才があるのは予想できた…だからこそ、余計な事をせず泳がせていたというのに!何たる行い、何たる侮辱、おこがましいにもほどがある!あの者は詐欺師だ、どんな人物も騙す詐欺師なのだ。

 

「罪人よ、下手な言い逃れは」

 

「否、否、否!!事実である!もし、私の言葉が嘘だというならこの首を即刻切ればいい!」

 

 潔い言葉を発したことに、一部を除き、民を含めた多くは困惑を表に出し始めた。その様子を見て、隠しきれず顔が笑う。

 

「そこの仙人を語る者よ!貴様が真に鈴仙人だと言うのなら今、ここで見せよ!!民や皇帝の御前で貴様の仙術で富を出し、皆に富を授けて見せよぉぉ!!」

 

 一時の静寂の後・・・第8代皇帝、徽宗からの声が響く。民が皇帝の声を聞くなど滅多に訪れない事柄、ましてや寵愛を受けていた者を罪人として見届ける心境の最中での言葉なのだ…腕を広げ、全ての者の視線を集めさせた。

 

「今宵…この場において、私は言葉を発する事を苦と感じる。だが、しかし!己の命を賭けてまで発する言霊には意味があると思いたい…鈴仙人よ皆の前に」

 

 …緊張した様子を隠そうとせず、不慣れな動きを看破した罪人は勝った!と心の中で思った。鈴仙人の近くで佇んでいた蔡京殿、いや蔡京は苦虫を潰した顔を隠していない。大方、どのように言い逃れするか考えているのだろう。ふざけるな!貴様も同罪だ、決して許さんぞ!

 

 鈴仙人が皇帝の前に立つ…そして互いに礼を行うという、この場において異常な光景されど、不作法ながらどこか神秘的な光景を目にした者達はより注目を集めた。罪人にとっては早くやれと怒りが増すばかり。

 

 そして…透き通るような皇帝の声が辺りに響く

 

「…鈴仙人殿、今一度(・・・)お見せ頂けないか?あの者の手向けに…余はこれ以上、民の傷を広げたくない…」

 

 …うん?罪人は聞き間違いかと耳を疑った。

 

 瞳に涙を溜め、声が上がる事を自覚しながらも皇帝は続ける

 

「罪人となった者もまた…この乱れた世が生み出した一つの罪である。余が…私が!皆の期待に応えられぬばかりに!!」

 

 静寂が包む場に響く、思いが詰る言葉…聞く者によって心の在り方の変化が訪れる。同情、共感、怖れ、敬意・・・数多の思いが各個に現れる中で一人、無となる者がいた。

 

 …意味がわからない…

 

 顔の表情は落ち、生きながら骸の如く硬直している罪人がいた

 

 一定の時間、皆々の心が戻った時を狙ったように聞こえ出す…まるで皇帝を、この世を、嘆きを祓う清浄なる音が響き渡った

 

 …チャリーン…チャリーン…

 

 ああ・・・この方は・・・…そこにいた民は思った。あの方はこの混沌とした世に現れし、天界からの使者だったのだと…

 

 皇帝は両腕を重ね、ただ頭を下げ・・・ただ一言、発した。

 

「我々と共に歩んで頂けませぬか」

 

 その言葉に答えるように、皇帝の膝の下に溢れてくるような、光り輝く黄金の山が生まれていく。

 

 …チャリーン…チャリーン…

 

 その空を撫でるような動作を止めた時…仙人は皇帝と同じように礼を取った

 

 

 

 ウォォォォォォ!皇帝陛下万歳ぃぃぃ徽宗皇帝万歳ぃぃぃ!

 

 

 はちきれんばかりの歓声、拍手喝采が沸き上がる。この時ばかりは互いに牽制している者達であっても同じ感動を分かち合った。涙を流しながら、神話を目撃した者達にとってこの瞬間は一生の思い出となったに違いない。

 

 

 

 …ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!…今にとっては酷く小さい男の声はもはや誰にも届いていなかった…こうして一人の罪人の人生に盛大な幕が落とされた。

 

 

 


 

 

 

 誰にも話が聞こえない客間にて、二人の男が座っていた。方や実に愉快と言わんばかりに笑い続け…方や顔には出さないが、とげとげしい雰囲気を纏っていた。

 

「…やってくれましたね」

 

「何を言う?お前と歩みを合わせるようにしただけであろう…くくっははは、これで新法党の法を制定できよう?なあ」

 

「フフフ…ええ、そうですね」

 

 二人は蔡京と徽宗皇帝…今回の劇を振り返っていた。

 

「旧法党の方々とお話している時ですか…」

 

 あの罪人は猶予時間に金をばらまくのは想定内、流刑(りゅうけい)にでもされたら困るのだ。事前にこちらから動いて、万が一の無いようにしていた。それだけではない、奴と関わり合っている貴族も調べ、皇帝直印の令状まで使用した。確実なる死を渡す為に。

 

「獣に芸を教えるのは簡単だったぞ?それよりも…未だにお前と組む事に鳥肌が立っておる」

 

「鈴仙人殿からの願いなので」

 

「実に素晴らしいな!私の為に仰せ遣はす仙人殿は!」

 

 今までの憂鬱とした顔は消え、愉悦に浸る男の顔が瞳に映る。流石に刺激し過ぎると後が怖いため態度を改める。

 

 自分の下に訪れたと思ったら、いきなり今までの無礼をお許しをなどと…別の意味で恐ろしい言葉から始まり、関係回復を願ってきたのだ。理解する前に、お前は誰だ!と口にしてしまう程の衝撃を受けながら、鈴仙人からの祝福に文字通り天を仰ぐ気分になっていた。

 

「…それで?余の国を正常に戻す案は浮かんだか、余の腹心」

 

 どの口が言うかと呆れながら口にする。

 

「先ずは、今までと違いこれ以上の法案変更を行わないように閉廷させます。これは決まり次第、皇帝自らの発言で民にお伝えください」

 

「・・・やっとか…よりにもよって、お前の口から聞くとはな」

 

 今の王朝が揺らいだ原因…そもそもの世の乱れは旧法党と新法党の派閥争いのせいだ。民にとっては、次の日には税が上がったり、下がったり、時には自分達を助ける法ができたと喜んだ次の週には無かったことになる等、日常茶飯事となり王朝を信用できなくなっていった。そして、政治批判をする者達が跋扈する未来が待ち受けていたのだ。

 

 皇帝は国の終わりまで予想できるほど人の醜さを見てきた。特に目の前の人物が牛耳っていたはずなのだが…今では一番自分の理解者とは何と皮肉。

 

 ジト~と見ていたら、その人物は目をそらし…とある人物の名を口にした。

 

「最近になって鈴仙人殿を重ねてしまう事があります…司馬光(しばこう)という男に」

 

「確か、私が即位する前にいたという旧法党の」

 

「理想論をそのまま実行する馬鹿な男でしたよ…それに答えられたのは私だけでした」

 

「ほう…ではその理想を継いだと?」

 

「まさか、彼はただの人。仙人のような力も無い、どこまでも真っ直ぐな人だっただけですよ」

 

 昔を思い出し、同時に嫌な無茶ぶりも思い出して真顔になるが続ける

 

「強引に改革を進め、その言葉の大きさを理解しながら突き進む。その結果、孤独となり最後は病死…実に呆気ない男でしたよ」

 

 これは忠告だと理解した。このまま鈴仙人に頼りすぎると、いざという時に対応できず瓦解するぞという前例だと。

 

「肝に銘じる、ではそうならないように、より強固な関係を築いていこうではないか!」

 

 …共に明るい国を進もうぞ!ははは!… 

 

 その問いに対し、眉間のシワを伸ばして対応する蔡京であった。

 

 

 

 

 





 見て頂きありがとうございます。評価もされ、やる気も続いております。
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