少女たちが戦う世界で戦闘機に愛を叫べるか?   作:生カス

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どこでもいっしょ

「ッ……だぁー! つっかれた!」

 

 巨大空中空母ストームルーラー。

 ここに来て、一か月ほど過ぎた。

 空母内にある食堂で、俺はウルフ……いや、今はフェンリル隊か。

 彼女らと夕食を摂っているわけだが、そんな中、落花がテーブルに突っ伏してうなだれたのだ。

 

「こ、こんな連続して出撃したこと、ウルフ隊のときにもなかったですよ……」

「ホント、一日に三度も四度も出撃させられるとは、さすがにこたえるね……」

 

 同じようにレイと大羽も、げんなりしたように呟く。

 レイは食器トレーにあるサラダをボソボソと咀嚼しながら、大羽はコーヒーを片手に頬杖をついていて、どちらもどこか、うわの空だ。

 

「なあ隊長、その肉食わないならくれ」

「ダメよ、これは取っておいたの」

「ケチ」

「……それよりヨーコ、アナタいい加減、その左目直しなさいよ。戦闘に支障が出るわ」

 

 それに対して、駆藤と天神はほとんど疲れた様子もなく、今日の夕食メニューであるステーキの取り合いをしてながら、そんな話をしていた。

 

「これでいいのさ、大事な証だ……なあ、ニッパー?」

「なんで俺に聞く?」

「ふん、ノリが悪いな」

 

 なんてことを俺に言いながら、駆藤は左目の黒い眼帯をさすりながら、見せびらかすようにして、俺に笑った。

 あの眼帯、いつの間につけたんだろうか? ラヴェルから脱出した時にはつけてなかったと思うが。

 まあ、どうでもいいか。

 

 何にせよ、この過酷なスケジュールであそこまで普段通りにできるとは。

 最強のフェアリィと、戦闘だけならその最強に引けを取らない切り込み隊長なだけはある。さすがというべきか。

 

 とはいえ、先の三人のあの様子も、無理からぬところがあるだろう。

 『イレギュラー』に参加してから間もなく、俺たちはそれぞれ『レーヴェン』、『フェンリル』として戦場に駆り出されることになったのだが……出撃の頻度がラヴェルに居たころの比ではないのだ。

 一日に何度も出撃するなど日常茶飯事だし、相対する相手もランバーに加え、企業傘下の武装勢力も同時に相手にせねばならない。

 密度も量も、ラヴェル時代より遥かに大きい。如何にウルフ隊として名を馳せた彼女らでも、疲弊して当然というものだろう。

 

 そんな無理なスケジュールを組んだのは、いうまでもなく、このストームルーラーの指揮官であるあの男、ギルバート・ロッソだ。

 俺たちがここに来た瞬間から、活動を活発化したらしい。

 せっかくフェアリィが来たので、そろそろイレギュラーの存在をできる限り広く伝え、一人でも参加してくれる勢力を増やしたいから、とのことだ。

 

 納得できる理由ではあるのだが、どうもそれだけではない気がする。

 実際、アーケード隊はロッソについていき、何やら別行動をしているらしい。

 何をやっているのかは、まだ聞いてないが……。

 ひとまず、そういった経緯で、俺たちは働きづめ詰めになってる。というのが、ここ一か月のサマリーだ。

 そろそろ戻ってくるとの話だったが……。

 

 ……等と考えていると、不意に袖を引っ張られる感触を覚えた。

 何事かと思い、振り向く。

 するとそこには、あのホムンクルスが――今はライカが操っている、件のホムンクルスが、グリーンの瞳で俺をじっと見つめていた。

 

「……なんだ?」

 

 と、問うが、ライカは答えない。

 代わりとばかりに、俺の食器トレーからフライドポテトをつまみ、俺の頬に押し付けてきた。

 一体何がしたいのだろうか? 食わせろということだろうか?

 

「……ねえナナさん。良いんですかアレ?」

「……何が?」

「その不機嫌そうな声がもう答えですよ」

「……いいからさっさと食べて寝るわよ」

 

 などと、レイと天神がこちらを見て、仏頂面で話しているのが聞こえた。

 何の話なのか、聞いた内容からは判別できなかったが、恐らく他愛ない雑談だろうと判断して、考えるのをやめた。

 

 兎にも角にも、一番わからないのは、『これ』だ。

 どういうつもりかは見当もつかないが、ロッソ指揮官はもうひとつ、俺に指示を出した。

 『作戦行動中以外は、極力ライカをホムンクルスに憑依させろ』という、謎の指示だ。

 彼曰く、『情操教育の一環』とのことだが……わからない。

 ライカは戦闘機なんだ。人間の真似事などさせて、何になるというのか。

 

「やあやあ諸君、お疲れ様だね」

 

 すると、向こう側からそんな声が聞こえた。

 噂をすれば……とでもいうのだろうか。声の方に顔を向けると、この空母の指揮官である男、ギルバート・ロッソが、気の抜けた笑顔を携えて、こちらに手を振っていた。

 どうやら、出張から戻ってきたらしい。

 

「あ……お疲れ様です、ロッソしきか――」

「あー! ブラッククソ上司ッ!」

 

 と、天神の挨拶を遮って、開口一番にそんな罵声を浴びせたのは落花であった。

 まだ怒りをぶつける元気はあるようだ。

 

「酷い言いようだね。まあ事実だからしょうがないけど」

 

 それに対してロッソは、受け流す程度に返事をして、俺たちの方に向かってきた。

 

「やあ、ライカ。元気そうで何よりだ」

 

 ロッソはそう言って、ホムンクルスに乗り移ったライカに挨拶する。

 それにライカは答えない。

 ただ、立ちふさがるように俺の目の前に立って、彼を見据えていた。

 

「はは、まだ嫌われてるみたいだね。情緒が育ってきてるようで、結構なことだ」

「……指揮官一人ですか? アーケード隊の連中は?」

 

 俺がそう聞くと、ロッソは「あぁ」と言って、続ける。

 

「君たちの噂がいい具合に広まってきたからね。そろそろ頃合いだと思って、スカウトに行ってもらってるよ。戻ってくるのは数日後かな」

「噂……て言うと?」

 

 と、ロッソに聞いたのはレイだ。

 

「ニッパー、ライカの主翼にあるマークを、ちょっと変えたのを覚えてるかい?」

「ええ、まあ……それが?」

 

 ライカの主翼にあるマーク、というのは、以前ライカがマーティネスに接収されたときに描かれた、押収済を示す証だ。不揃いな歯車が三つほど描かれた、不格好なマーク。

 そのマークが、ストームルーラーにきてすぐ、『こんなのをつけっぱなしでは格好がつかない』というロッソの言で、急遽上書きする形で塗り替えることになったのだ。

 

 それでできたのが、主翼に大きく描かれた、白い花弁のマーク。

 シンプルながら花束を想起させるデザインが、主翼の右側に描かれた。

 

「あれがシンボリックで良かったらしくてね。思った以上に早く我々(イレギュラー)の存在を世間にアピールできたんだ。『企業に対抗している、フェアリィを連れた謎の花飾りの戦闘機がいる』っていう噂が、いろんなところから出てきてるよ」

「へぇー、ライカちゃんやったね! ヒーローだよ!」

 

 ロッソの言葉にそう言いながら、レイはライカの頭を撫でていた。

 ライカは特に何も言わず、目を細めてされるがままに撫でられていた。

 ……心なしかふんぞり返ってるように見えるのは、気のせいだろうか?

 

「まぁというわけで、タイミング的にもいいかと思ってね。君たちには、ある任務を遂行してもらいたい。これが終わった後は、一週間の休暇を与えよう」

 

 と、ロッソ。

 その言葉が発せられた途端、一瞬の静寂の後、わっと声が上がった。

 

「ほ、本当ですか!?」

「ウソだったらみぞおちぶん殴るよ!?」

「よかった……終わりが見えるってこんなにうれしいんだッ……」

 

 主にレイと落花、大羽の三人から……であるが。

 しかし、レイや落花はともかくとして、大羽もこういった休暇を喜ぶとは意外だ。もっと淡々と仕事をこなすタイプだと思っていたが、意外とメリハリがあるタイプらしい。

 

「で、その任務ってのは?」

 

 と、駆藤。

 

「あぁ……そうだな、それを言う前に……ニッパー」

 

 すると、しかし、ロッソは駆藤ではなく俺の名前を呼んだ。

 何だろうか、と思っていると、彼はそのまま続けた。

 

 

「君は今回、ライカじゃなく別の航空機に乗ってもらう」

 

 

 ロッソが言ったその瞬間、何故かライカが早歩きで彼の方に向かっていった。 

 ……嫌な予感がする。

 

「まあつまり、今回はトラスニクはお留守番――いったい!?」

 

 その予感は案の定的中した。

 ライカは何か気に障ったのか、ロッソめがけて突進し、彼に頭突きをお見舞いした。

 

「いけライカちゃん! 殺せ殺せ!」

「みぞおちだよライカちゃん! わかる!? みぞおち!」

 

 それを見るや否や、落花とレイが大はしゃぎで追撃をライカに言い渡す。それに加えて大羽が小さくガッツポーズをしてるのを、俺は見てしまった。

 一応彼は、俺たちのラヴェルの脱出を手助けしてくれた恩人のはずなのだが……。

 どうやら酷使されたことで相当ヘイトが溜まってしまっていたらしい。

 過労も相まって、みんな妙なテンションになっていた。

 

「……はぁ~ッ。早く寝たいのに」

 

 と、天神がここ最近で一番のため息を吐いて、心底辟易としたように言った。

 先ほどは隠してはいたが、なんだかんだと言って疲れていたのだろう。その声から苛立ちが見て取れる。

 恐らく火に油だろうから、今の一瞬の隙で駆藤が天神のステーキをかすめ取ったのは黙っておこう。

 

「ニッパー、止めて」

 

 有無を言わさないその口調で、天神は俺に言った。

 俺もそうするつもりだったので、何も言わずライカを抑え、強制的に膝に座らせた。

 理由はわからないが、こうすると彼女は鎮静化するのだ。

 これをやると何故か天神が不機嫌になるようなので、あまり彼女の前でやりたくはないのだが、今回ばかりは仕方ない。

 

「……大変失礼しました、指揮官。それで任務の内容は?」

「いてて……えぇと、そうだね、まずなんだけど――」

 

 天神が改めてそう聞くと、ロッソは腹をさすりながら、眼鏡をかけ直し、言葉を続けた。

 

 

「君たち、自分のラヴェルに帰ってみない?」

 

 

 彼はへらへらと笑いながら、そんなことを言ってのけた。

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