仕事はすぐに見つかった。一人のエルフが立札をもって立っていたからだ。
立札には『本日冒険に付き合ってくれる方を募集中。報酬は弾みます。戦闘経験者に限ります』と記載されていた。
フリーレンは内容よりも少年がエルフであることに目を引かれた。年は10代前半に見えるが、雰囲気込みでいえば20代にも見える。
しかしこれは見た目の話。長命種の見た目は年齢とイコールではないのだ。
「同胞に会うのは久しぶりだね」
フリーレンに気が付いたシオンは静かに視線を上げ、言葉を紡ぐ。
「………俺は初めてだよ。冒険に付き合ってくれるって認識でいいのか?」
ヒンメルは息を呑んだ。少年の桜色の瞳やふわりと揺れる金色の髪は芸術品のようだが、あまりにも生気のない眼をしていたからだ。
「いくら払ってくれるの?」
しかし、フリーレンはそれに気づくことはない。フリーレンの質問にシオンは答える。
「銀貨30枚と俺のお古の魔導書」
「いいね、乗った」
ヒンメルは予感した。きっと少年には何か大きな隠し事があると。
「なあ、お前らって勇者パーティなんだよな?」
「そうだね」
フリーレンは肯定する。
「魔王を倒すつもりなんだよね?」
「そのつもりだ」
ヒンメルが答える。
「なるほど…何で俺らは竜から逃げてるのかな」
「そりゃ、僕ら三人じゃ勝てないからだね」
「gaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
咆哮が轟く。空気が震えシオンの耳を劈く。湖の底に沈められた宝を手に入れることが目的だったのだが、番人のようにドラゴンが佇んでおり、追いかけられるこの状況。
我武者羅に走り続けるヒンメルは、自身と並走するシオンとフリーレンに声を掛ける。
彼らの距離にそれほど差はなく、ドラゴンの餌食になるのは誰が先かという話で、誰一人として助からないのは明白だった。
「ここから逃げ切れる魔法に心当たりはあるかい?」
「ない!牽制にしかならない!」
「私もないね」
「そうか、なら気合で逃げるしかないね」
シオンは思った。根性論で戦う勇者ってだるいな。
「『
大量の浮遊する剣を瞬時に作り出し掃射するシオンの魔法を見てフリーレンが杖を構える。
「『地獄の業火を出す魔法』」
業火が竜の視界を遮り、踏鞴を踏ませる。
「よし今のうちに走るぞ!」
「言われなくても!」
牽制を続け何とか逃げ切った勇者一行は、肩で息をしながらその場に座り込んだ。
「作戦を立てよう!」
「初めからそうするべきだったな」
ヒンメルの言葉にシオンが溜息をつく。
「フリーレンが先走るから………」
「ごめんて」
フリーレンは宝の中に魔導書が眠っていると知り、テンションを挙げた結果見事に竜に探知されたというわけだ。
「………ヒンメル。お前ならあの竜の外皮を切れるか?」
「ああそれは可能だけど………隙が欲しいな」
「準備時間があれば隙くらいは作れるよ」
ヒンメルの要望にフリーレンが答える。シオンは軽く頷いて、好戦的な笑みを浮かべる。
「フリーレン。俺の得意魔法は『透明になる魔法』だ。役に立つか?」
「いい魔法だ」
その問いへの答えはフリーレンの笑みが物語っていた。
作戦は単純だ。『透明になる魔法』は俺に接触しているすべての物体に影響する。フリーレンを俺の影響範囲にして、近距離から竜に叩き込む。
竜が首を垂れる形で、攻撃を仕掛けた透明な場所に向く。
勇者は完璧な隙を逃がすことはない。茂みから飛び出すヒンメルが疾走した。30歩以上あったはずの距離がわずか2歩で潰される。剣が振り下ろされ、竜の胴体に鮮血が舞う。
踏鞴を踏む竜が、巨大な体を傾けその場に倒れ伏した。轟音が響き、森が揺れる。
「流石勇者、じゃあ潜ってくるからよろしく」
シオンは杖を片手に湖に潜った。ヒンメルは、シオンの行動を見て
「そこは魔法じゃないんだ」
と呟いたが誰の耳にも入ることはなかった。
「そんなことがあったんですねー」
「お前は反省しろ、生臭坊主」
「失敬な、私は敬虔な僧侶です」
竜の討伐を果たし、街に帰ってきた三人がハイターとアイゼンに合流し夕食を取っていた。
「ちなみに魔導書は何の魔法だったんだ?」
「『自分が気に入っているものを具現化する魔法』30秒で消えちゃうけどな」
「ほう」
「試しに掛けてみようか。そら」
シオンが杖を構えると銀色の靄が杖からは漏れ出る。
形作られたのはフリーレンだった。しかも、水浴び直後の薄着だった。ヒンメルの顔がゆっくりと赤くなっていき、そしてそのまま、ヒンメルはパタリと倒れた。
「ひ、ヒンメル?ヒンメルぅぅぅ!!」
「……なんて罪作りな女なんだ」
どうやらヒンメルはフリーレンを気に入っているものと認識したようだ。
とても後悔のない笑顔で鼻血を流しているヒンメルを抱き締めて、さめざめと泣いているハイターと哀れなものを見る目でヒンメルを見下ろすアイゼン。
「これ物だけじゃなくて、人も具現化するんだね」
魔法に興味津々なフリーレン。
「ああ、人を出した場合は動かないけどな」
悲しきかな、鈍感エルフには勇者の思いは見えないらしい。
「こんな魔法もあるぞ。『好みの異性を見せる魔法』」
瞬間、ハイターが鼻血を吹きだした。年若い僧侶には美女のあられもない姿は、刺激が強かったようだ。
「鼻血を出させる魔法に名前を変えた方が良いんじゃないのか?」
アイゼンの言葉は誰に聞かれることもなく、虚空に溶けていった。