魔族と暮らすことになったエルフの話   作:朝起きるのが嫌い病

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第7話

ゼンゼの師匠になってから3年が経った。

 

東の空がうっすらと白む。闇を退けて白み始めた空の気配に、シオンは目を細めた。

 

ゼンゼとシオンは二級魔法使いの試験を受けるため、拠点にしている街を出て徒歩で10日ほどかかる街、ヴェルガーを目指していた。

 

そしてその道中、野宿をしている森の中で魔物の襲撃を受けていた。

 

「『髪を自在に操る魔法(ハーレシュヴェール)』」

 

強靭な刃となった髪の毛が束になり、名刀を超える切れ味に変質する。ゼンゼが周囲を髪で一掃するだけで魔物たちは両断された。

 

「思った以上だな。髪そのものに50を超える魔法を編むことで様々な性質を付与し、戦闘を行う。十分二級魔法使いになれる力だ」

 

魔力に関しても言うことがない。15年を生きる魔法使いとしては常軌を逸した魔力だ。

 

「二級魔法使いの試験会場まであと少しだ。行くぞ、おーい、寝るな。次の街まであと少しだから。ゼンゼ、ゼンゼ?………ああ、また寝てる」

 

 

 

 

 

「いや~、助かりましたよ。まさか『千剣のエルフ』殿が来られるとは」

 

シオンとゼンゼは街に着いた数時間後に、衛兵に連行され領主の部屋に案内された。

 

この街の近くの山で大量の魔物と魔族が、目撃されたようだ。伯爵は、それを憂えて、討伐隊を組織するように命令したのだが結果は全滅。そんな中、シオンが現れたというわけだ。

 

「『千剣のエルフ』?」

 

「ご存じではないのですか。貴方のことですよ、シオン殿」

 

「フッ、似合わないな」

 

ゼンゼの突っ込みが入るが、無視して続ける。

 

「………魔族を俺にどうにかしろって言う話であってる?」

 

「はい、再度魔物や魔族の規模を調べていますので少し待っていただきたいのですが、最終的には魔族の撃退を依頼したい。この魔族は厄介でして、前回の討伐隊唯一の生き残りである兵の話では『魔物を強化し操る魔法』を使うようです」

 

「………報酬は?」

 

シオンは面倒な依頼だと思った。魔物は魔族のように知性を持たないし、強力な魔法や騙し討ちをしてこない。しかし魔族よりも数は多く、高度の統率を取られると面倒だ。

 

「お二人は二級魔法使いの試験を受けると衛兵から聞きました。ヴェルガーまで馬車をお貸ししましょう。快適かつ最速の旅をご提供いたします」

 

「師匠。これは受けるべき。もう野宿はたくさんだ」

 

ゼンゼがシオンの腕を掴み熱弁する。いつもの眠たげな双眸からは、言い知れぬ熱が放たれていた。貴族のご令嬢からすると、魔物との戦闘よりも野宿は嫌だったようだ。

 

「だそうだ。日にちに余裕もあるし、3日以内なら受諾する」

 

そして、依頼を受けた2日後血相を変えた衛兵が宿に飛び込んできた。

 

「お、お連れのゼンゼ様が我らの制止を振り切って山に入ってしまいました!!!!!」

 

「ええ………」

 

 

 

 

街で知り合った一人の子供を追って山に入ったゼンゼは、早くも後悔していた。

 

小娘、汝は魔法使いか

 

「そうだが何の用だ。魔族」

 

目的はこれだろう?

 

巨大な大剣を背負ったフルアーマーの魔族は、崖の壁に寄り掛かるように倒れた幼女を指差した。

 

「殺したのか」

 

否、あれを餌に人間を殺すつもりだった故

 

ゼンゼは、眠たげな瞳で魔力を熾して魔族を殺すための魔法を使用する。魔族と相対するのも、殺し合いをするのも初めてなゼンゼは恐怖を噛み殺して呟いた。

 

「『髪を自在に操る魔法』」

 

魔族は口角を上げ、大剣を構えて振りかぶった。

 

無数の刃となった銀髪と大剣が打ち合う。瞬く間に響き渡る剣戟の音。一進一退の攻防が続いていく。

 

その魔族の力は卓越していた。魔族が使用している剣は、通常の剣よりも遥かに重く、大きい特注品。

 

そして、ゼンゼの魔法である『髪を自在に操る魔法』は、リーチで遥かに勝っているはずだ。

 

ゼンゼの命を奪おうと思えばそのたびに体力と集中力をすり減らしながら、体ごとぶつかっていくしかない 。事実、魔族は全くゼンゼに近寄ることができていなかった。

 

「ッ!」

 

だが、先に動きから精彩がなくなっていったのはゼンゼだった。

 

戦闘経験の違いと言ってしまえばそれまでだが、気を抜けば殺されてしまうとゼンゼに思わせるだけの気迫が魔族にはあった。

 

だからゼンゼは無傷で勝つことを諦めた。魔法で空中に浮遊し、髪を束ねて強烈な刺突を放ち出す。

 

魔族はそれを躱して、空中にいるゼンゼを切り殺そうと飛び上がる。魔族の大剣がゼンゼの体に接触するのと、ほぼ同時に魔族の心臓が吹き飛んだ。

 

な、に…

 

「『一般攻撃魔法』」

 

魔族が避けた髪を媒介にして杖から魔法を放つように、攻撃魔法を放ったのである。剣はゼンゼの左肩の骨で止まり魔族は地面に落ちた。

 

守り切った。そう思ったゼンゼの緊張の糸が切れ、魔法が解ける。

 

しかし、ゼンゼが落ちることはなかった。

 

「間に合った」

 

ゼンゼが視線を上げると桜色の瞳が心配そうにこちらを見ていた。

 

「遅くなった」

 

地面に降りたゼンゼは、ふいに引っ張られる。引き寄せられて、シオンの胸に頰があたった。腕が背中に回り、強く抱きしめてくる。彼の衣服を通して彼女の頰にシオンの体温と鼓動が伝わる。

 

「―――ぁ」

 

シオンの声色はずっと優しい。壊れ物を扱うかのようにゼンゼをただ優しく抱きしめる。

 

「よくやった。後は、俺がやる」

 

シオンの言葉が少女に染み込んでいく。自分のすべてを受け入れ、優しさだけで構成された言葉。シオンは、ソリテールから受けた抱擁を意識して少女を抱く。

 

シオンは周囲に視線を這わせる。少し離れた小さな崖の下。そこに小さな幼女が倒れていた。周りに散らばっているのは煎じれば、解熱効果がある薬草である。

想像できる。この子の家族の誰かが熱を出したのだろう。薬草の買い置きが尽きており、魔物が出没している以上大人たちも山に入って採取などしようとしなかったんだろ。

 

だから、幼女は一人でここまで来たのだろう。

 

それに気づいたゼンゼが追いかけてきたというところか。魔物は危険で並みの冒険者や魔法使いでは、太刀打ちできなくて腕の立つものが退治するまでその生息圏に近寄るべきではない。

そういう大人の理屈を受け入れられなかった子供たちが無茶をした。

 

本来なら叱り飛ばすべきなのだ。

 

しかし、シオンはゼンゼに対して怒りなどを覚えていない。

 

あるのは賞賛だ。

シオンは魔法使いとして、一流とは言い切れないがソリテールからの知識もあり戦闘力に限れば大魔族と戦いが成立する程である。しかし、手の届かないものを守ることは結局のところできはしない。最終的な街への被害を抑えるという大きな目的を達成するために、シオンは目の前の幼女を見捨てるだろう。

 

シオンにとって優先順位が最も高いのは、ゼンゼであり次点に街である。

 

ゼンゼが戦わなければ、この小さな女の子の命は間違いなく終わっていたはずだ。つまり、シオンには守れなかったものを確かにゼンゼは守ったのだ。

 

シオンは口角を上げる。

 

ゼンゼは平和主義だ。自ら進んで戦場に飛び込むタイプではない。

 

だからこそ、シオンは彼女を好ましく思っていた。

 

本当に大事な選択肢を間違えない。

 

あの日、何もできなかった自分とは違って。

 

「だからさ、お前たちは失せろ」

 

100を超える魔物がシオンたちがいる場所に集結する。魔族が消え、統率がなくなった魔物はただ人間を殺す獣と化す。

 

「『剣を作り操る魔法(シュヴェール)』」

 

シオンは冷徹な瞳で、獲物を見る。そして、底冷えする表情で告げた。

 

「全員この場で殺す。『武器を強化する魔法(スパーダ)』」

 

展開された剣が淡い光を宿して、宙を舞う。頭上より放たれた光の剣雨が効果範囲内にいたすべての魔物に襲いかかる。

 

轟音と衝撃が周囲を駆け抜けた。酷烈な剣雨の終わった後、残ったは消失していく魔物と剣に穿たれて爆砕した地面だった。

 

 

 

 

 





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