魔族と暮らすことになったエルフの話   作:朝起きるのが嫌い病

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第8話

「人類は古来より未知を未知のまま扱う能力を持っている。そしてそれは、最も原始的で論理的な行為の積み重ねによって産み出される。すなわち、観測だよ。私が見た中で、あなた程この観測が得意な魔法使いはいない。観測し、共感し、模倣する。人間の中でも、飛びぬけて魔法に対するイメージが得意」

 

夢を見ている。これは過去の記憶だ。シオンはそう直感した。

 

霧を操る魔法(ネベラドーラ)竜巻を起こす魔法(ヴァルドゴーゼ)万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)、様々な魔法を見せてきた。大半の魔法を不完全ながらも使えるようになったわ。だからこそ、不思議。魔法を否定する魔法なんて、どうして使えるのか。魔法を使っている人間が魔法を否定するイメージを持つ。素敵ね」

 

シオンが生かされている理由の一つとして、魔法を否定する魔法をソリテールが解析しきれていないことがある。ソリテールはシオンの髪を撫でながら続ける。

「観測と言えば、人間は認識を歪めることがあるよね。現実を視認して受け入れるのではなく、認識し都合のいいように解釈する。魔族にはない思考」

 

シオンは思い込みとは違うのかと聞いた。

 

「違うわ。だって思い込みと違って、薄々事実をわかっているのに目をそらしているでしょう?」

 

シオンは自分もそうだと思うかと聞く。

 

「それはあなたが一番わかっているでしょ」

 

「………理想をイメージできなければ、現実を変えることはできない。人間は脆さ故に、目を逸らすけどだからこそ実現できることだってある」

 

シオンが放った言葉にソリテールは目を細めて、嗤う。

 

「あなたは本当に素敵ね」

 

 

 

シオンは誰かに呼ばれた気がして、目を覚ました。ぐるりと首を巡らせて、状況を確認する。

 

まず目に入ったのは全く整理されずに大量に積み上げられた薬草。そして、ゼンゼが助けた幼女が作ったらしい髪飾り。

 

ここはゼンゼの病室だった。シオンは、ゼンゼの傷の具合を見に来たのだがいつのまにか寝てしまっていたらしい。

 

ソファーから身を起こす。すると、小柄な少女がソファーから転げ落ちた。

 

「………痛い」

 

淡々とした声で抗議しつつ、銀色の髪の少女が床の上で座り込む。ベットではなく何故かシオンの上で寝ていたらしかった。

 

「あー、妙に暖かいと思ったらお前が布団になってたのか。傷の具合はもういいのか?」

 

「全快じゃないよ。試験まで魔法は使いたくない」

 

まだ眠そうに目を擦るゼンゼを強引に立ち上がらせる。

 

「髪、すごいことになってるな」

 

ゼンゼの髪の毛は大爆発という感じで、寝癖に覆われていた。腰まであった銀髪が足首まで伸びている。

 

「髪、梳いて」

 

ペタペタと裸足でベットに移動して腰かける。髪の隙間から眠たげな双眸を覗かせ、シオンが誕生日に渡した櫛を手渡した。

 

「俺にやれって?」

 

「私は怪我人」

 

シオンは嘆息し、ゼンゼの髪を優しく梳きつつ窓の外を見る。

 

「晴れたな。街を出るなら今日中だな」

 

「そうだね」

 

ふわりと微かに甘い匂いが鼻先を掠めて、とんっとゼンゼが枝垂れかかり一言、「眠い」と囁き、目を閉じた。

 

「二度寝するか」

 

微かな重みを感じながら、シオンは壁に寄り掛かり眠りについた。

 

 

 

 

二度寝から復帰し、二人は領主の部屋に向かった。

 

魔物の討伐から2日。ゼンゼの傷を癒せる僧侶を領主に呼んでもらい、動けるようになるのを待っていたのだ。

 

「報酬が馬車だけでは納得できないとは言ったけど、これはこれで何とも言えないな」

 

「それだけ、お二方を買っているということですよ」

 

シオンとゼンゼの目の前には、シュトラール金貨3枚が置かれていた。そこそこの場所に、しっかりした家が買える金額である。破格の報酬にシオンは顔を引き攣らせ、唾を飲んだ。ゼンゼは貴族の出身だが、それでも魔族の討伐でこれだけの金額を手渡されるのは予想外だったようで、硬直している。

 

「戦いを目撃した衛兵が興奮気に報告してきました。お弟子さんを含め、極めて優秀な魔法使いの様で。『千剣』の名は伊達ではありませんな」

 

「………なあ、その異名。誰が呼び始めたんだ?」

 

「さて、諸説ありますな。ただ、私はとある旅人の少女から聞きましたな。とても話好きな少女でした」

 

「………あっそ。まあ、いいや。馬車を貸してくれるんだよな」

 

「もちろんです。大陸魔法協会に、一筆したためても良いですよ。遅れても試験を受けられるはずです」

 

「貰っておくよ。保険はいくらあってもいいし」

 

話がまとまり、馬車を借りる準備を始めると思い出したように大量の魔導書を差し出してきた。

 

シオンではなくゼンゼにだが。

 

「これは―――?」

 

ゼンゼの問いに、領主は頭を下げて答えた。

 

「感謝の証です。私やシオン殿はきっと大義のために少数を守れなかった。領民を救っていただき、ありがとうございました」

 

感情を表に出さない少女が浮かべた微笑が、印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

無事二級魔法使いの試験の会場に着いたシオンとゼンゼは、予定調和のように試験を突破した。

 

二級魔法使いの試験だがシオンの感想を言うのであれば、予想よりもあっさりと終わったなっである。

 

ゼンゼに促され一緒に受けた試験だったが、二人とも大して手こずらないで終わった。

 

魔物が跋扈する森から指定された物資をスタート地点に持ち帰る試験であり、命の危険はあったが想像よりもゼンゼの魔法と相性が良く開始20分でクリアした。本来は、少ない物資を受験者で奪い合う意図があったのだろうが、シオンの名前を知っていた受験者がおり大半が戦いを避けたのが大きかった。

 

「このまま、一級魔法使いの試験を受けるか」

 

「………え?」

 

ゼンゼは、惚けた表情でシオンを見る。

 

「オイサーストまでここから2週間。申し込みの締め切りは3週間後だ。一級試験は3年に一度しか開催されないし、受けれるタイミングで受けた方が良い」

 

シオンは一級魔法使いに興味を持ちだしていた。それは今回の試験官に「一級魔法使いには『大陸魔法協会』の創始者ゼーリエから、好きな魔法を下賜される」と聞いたからだ。

 

「師匠、そんなに欲しい魔法があるの?」

 

「そうだな、俺の抱える疑問と問題を解決する魔法が欲しい。それ以上に大魔法使いとやらに興味が湧いた」

 

「エルフだからか?」

 

「何だよ、不満そうだな」

 

「3週間後、何があるか知っているか?」

 

「三週間後?」

 

「………師匠が独り身な理由がわかったよ」

 

「おい、訂正しろ。エルフは性欲が薄いんだ。俺は興味がないから独り身でいる」

 

「私に隠れて面白い店に夜行っていると聞いてるが?」

 

「………気のせいだ」

 

「だといいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

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