一般通過テロリスト首輪付き少女   作:最近は駄犬

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夢にしては知らないものばかり

 

「あ、タイツ伝線した……」

 

 観測できる範囲で一切コジマ汚染がない、あるいは計器にひっかからない程低いらしいと判明してから、少々揉めたうえでボクは一人、機体の外へ這いずり出てきた。

 その結果、タイツが伝線してしまった。気になる。そしてやっぱり、ストレイドは埋もれていたらしい。半分地中に、半分瓦礫に。ボクが無理やり出てくる隙間しかなかった。スミちゃんだったらケツではまってたね。

 

「うーん。ビル。瓦礫ばっかだけど、これいつの戦闘の? せっかく汚染のない土地なのになんで放置されてんだろ。……ちゃんと地上だよねここ。どこの企業の支配地域?」

 

 すでに伝線してしまったタイツはもう惜しくもないので、一思いにストレイドの埋まっていた建造物の残骸から滑り降りる。

 ボクも一応強化人間に分類されるんだろうけど、それは殆どネクスト操縦のためで、大事な脳を保護して、補強して、補完して。その脳の入れもである生命を維持するためだから、特別運動神経がいいみたいな事はない。

 頑丈ではあるけど。

 傭兵だなんて言っても、ボクはネクストを動かせるだけなのだ。一応、降りてる時の暗殺対策なんかである程度の護身はできるけど、その程度。

 

 つまり何かというと、そう離れていない距離で戦闘音がしはじめて、どうしようか困っている。

 対人でだって若干心もとないちっぽけな拳銃しか持ってない。耳に届く音的に、MTくらいは居そうなんだよなぁ。ACはもっと重い音する気がするんだよなぁ。どうしよ。

 

「ちょっとだけ見てこよ」

 

 こっそり隠れて、戦力チラ見してこよう。ここがどこで、どの勢力が争っているのか分かるかもしれない。汚染がないような場所で、ネクストがカッ飛んでくることもないだろうし。

 ……ない、だろうけど、人間て思ったより馬鹿だしなぁ。

 わりとこの辺りに住む連中の揉め事ってだけかもしれないし。

 

「スミちゃーん、なんか周り小競り合いしてるっぽいから軽く見てくる」

 

 白い猫ちゃんのふわふわポシェットから普段使いの私用の通信機器を出し、ストレイドの中にあったデバイスへ発信し呼びかけるが応答がない。離れている訳ではないのに。滑り降りてきた瓦礫を見上げるが、のぼる気は起きない。もともと、周囲の探索だと言って出てきたのだし大丈夫だろう。

 正体不明ジェネとか、なかなかの恐怖だがどうしようもなくなれば、スミちゃんがストレイドで応戦する。そこまでならなくても、ネクストのコックピットの中はそれなりに安全だろう。

 それもまた、揉める原因だったのだけど。

 

 猫ちゃんポシェットの中に通信機器を戻し、代わりにちゃっちい拳銃を取り出す。9mmぽっちの弾丸が6発しか入っていない。もっとも身近な兵器に比べると、あんまりにも心もとない。

 それを片手に銃声と駆動音がする方へ向かう。

 

 わー。ヘリもだいぶ飛んでる。こんな角度から見るの滅多にないから、ちょっとわくわくしちゃうな。自分が想像しないものがたくさん出てくるのなら、これは夢ではないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 歩兵ってものを生で見たのは初めてかもしれない。

 各企業、各施設の警備に当たっている人間が個人携行の火器を持ってるのは見たことあるけど、戦場らしきばしょで見るのは初めてだ。ネクストが出てくるようなとこに、生身の兵士になんていても直ぐ死ぬだろうし。

 

 動いてるMTかACの姿を確認するため、余計な戦闘に巻き込まれないよう細い路地を選んで進んでいたのだが、そんな初めて見る生の歩兵が、おそらくこの地域に住んでいたのであろう非武装の人間に向けて発砲した。

 ボクは身を屈めて銃声が止んで、足音が離れるのを待つ。うめき声はまだ聞こえるけど、もう少しで静かになるでしょ。血だまりの中の人間を観察してみると、生活水準は低そうだ。やっぱり地上かな。クレイドルの中知らないけど。

 清浄な土地狙っての侵攻なのかな? 先住者殺してぶんどる感じ? コロニー間での闘争かな。傭兵雇う費用もないようなとこの。

 よし。さっきの歩兵の装備剥いで確認してみよう。装備は統一されてたし。ついでに小銃くらい欲しいな。護身用の拳銃じゃぁあねえ。

 

 運動神経がいい訳ではないけど、足は両足義足だから筋肉の限界とか考えずに稼働させられて、楽。問題は身長に比べて体重が重くなる事。本当に解せない。

 女の子の体重を当人に非のない所で増やすのは重罪だと思うの。

 思うけど、それはそれとして、質量は正義でもあるんだよなぁあ! 先程去ったばかりの歩兵を追い、全力の助走をつくて最後尾に居た兵士の腓骨を粉砕を目標に蹴りつける。

 

 硬い土くれを握りつぶしたような、ぽん、と爆ぜる音がして体勢が崩れる。そのおかげで低くなった首に飛びつき、間髪入れず首元に押し付けた拳銃の引き金を引く。ごちゃごちゃ装備をした頭部や、どうせプロテクター着けてる胸部を狙うより、鎖骨辺りから動脈をぶち抜く方が確実かと思ったんだけど、ちょっと失敗。 

 盛大に噴き出た血が顔に掛かり、髪に絡みつく。うっわ、きったな! これ、どこで洗おう。

 

「なんだっ!?」

 

 粉砕骨折による潰れたうめき声と、ほぼ同時の銃声に、先行していた人間が振り返りこちらに銃口が向く。ボクがしがみ付くようにした人物が既に虫の息なのを察し、躊躇いなく発砲される。

 残念ですが、ボクにはミートシールドがある訳ですよ。脚は個人携行火器なら当たっても平気ではあるけど、あんまりがんがん衝撃入れると不具合が出る。壊される前にぶちのめそう。

 

 盾の首根っこを片手で掴みつつ、もぎ取った、まだちゃんと対人武器として採用されてる銃器を適当に撃つ。人間と『戦う』ってしたことないから、うまくできない。

 一人をマガジン一つを空にして黙らせて、もう一人を穴だらけになた盾を投げつけてできた隙に膝を蹴り砕いてボクへ向かう銃口を逸らせる。

 

「……んっの、イレヴンがっ……!」

 

 は? レイヴン? ボクは生まれついてのリンクスだが? 鴉はみーんな山猫に食われちゃったじゃないの。そんなことも忘れたの?

 

 ふらふらと持ち上がる腕を全力で踏みつけて、拳を砕く。ついでに頚椎も踏み砕く。やはり質量は正義。四肢が変な挙動でを起こしてびくびくしてるけど、もう敵対はしなそうだから有用そうな物は貰っていこう。せっかくだから、一番手入れが綺麗な銃がいいなー。マガジンは全部もらっとこ。あと通信機器。んー、企業はどこも絡んでないのかな? 本気でなんなのここ。

 

 欲張ってむしりとった物は、当然猫ちゃんポシェットに入る訳もない。適当にその辺で死んでた人間が抱えていた袋を貰う。ざっと逆さにしたら、写真とか個人的な物ばかりで特に要らなかったらそのまま捨てた。

 結局どういう勢力が争ってるのか、装備を確認しても分からなかった。

 スミちゃんが言うには、まだまだ可愛いだけのお子様らしい。やっぱオリジナル様は感覚がちがうなあ。確かに、スミちゃんの方が人生経験長いのは確かだけどもさ。

 ボクは判断できなくても、スミちゃんなら分かるかもしれないし、情報拾えるだけ拾い集めよう。

 

 

 

「わーなんだあのいかにもな機体! 可愛さが微塵もねえ!」

 

 火事場泥棒よろしく、通信機と弾薬を拾い集めていた。地震のような物凄い地響きに、なにがあったのかと高い位置から見たくて駆け上ったビルの上から、見渡し見つけたのは、ここまでに散々目撃した背面のパーツがごっそりなくなり停止していた紫の機体と同じやつと、それを追う白と金の機体。それらも三次元的な動きはなく、地面を滑るような機動をしている。速度も目で(リンクスの、とつくが)追える程度だし、QB吹かす様子もない。

 ここに至るまでに見かけた機体よりは、素早い気もするが、それもあれも見たことも聞いたこともない。破壊された戦闘車両なんかも、知らないやつばっかり。

 いったいどこなんだろうここは。その疑問の答は未だに判然としない。時々耳を傾ける通信機から、聞こえる命令も、だんだん錯綜しだしている。侵攻側が反撃食らって右往左往しているのだろうか。

 

 もっと武装やブースターの数、動き回る機体の挙動を確認したいと屋上の縁ぎりぎりまで乗り出す。

 飛ぶ様子もないし、追いかけっこに夢中だし、僕が見下ろしている位大したことないだろう。そう言えば、ACよりだいぶ小さいな? え、ちゃんと人乗ってるあれ? 

 

 身を乗り出して、徐々に接近する機体を確認するボクの足元が瓦解して、がくんと視界が揺らぐ。 

 

「こんっの、どクソエイムがよぉおー!」

 

 とても個人的趣向により『だせぇ』と結論付けた機体に追われていた、そっちもボク感覚で『だせぇ』紫の機体が、無茶苦茶に打ちまくった実弾の一つが、ちょうどボクの足元を穿ち、崩す。狙っているのではなくて、追跡の妨害に崩してるんだろうけど、腹立つー!

 うっかり空中に投げ出されてしまえば、中指立てる位許されると思う。たぶん、リンクス、皆コクピットの中で悪態ついてるって絶対。うちはボクがお口チャックしてるから、大抵セレンさんが暴言を吐いてる。でもリンクスはイキり散らしてなんぼだって言ってる人いたもん。そこまで直接的でないにしても。

 

 しかし高さが高さだし、頭はいいだろうけど、腹部打ち付けたら中身にダメージきそう。脚は壊してもまあ、なんとかなるでしょ。着地を試みて衝撃に備えっ!?

 

 どてっと普通に転んだ程度の衝撃で、背中を支えられて安定するが、そこから立ち上がる事はできない。じっと自身を受け止めた物を見上げて固まる。

 

 ボクは地面に打ち付けられる事無く、大きな冷たい鉄の手のひらに受け止められていた。

 

 ネクストでないのは、機動やPAもないので分かる。それでも見たことない機体の操縦方法なんてものは外から見て分からない。それでも人間を握りつぶすことなくキャッチし、保持するような技量に驚愕し、硬直して胃がむかむかするヒロイックな機体を見返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、と重々しく息を吐き出し意識を切り替え、改めて計器の一つ一つを確認していく。機体そのものの異常はジェネレーター以外見当たらない。

 強いて言えば、武装やブースターが異なるためいくらフレームが同じだとは言え、実際に動かすとなった時に自分が十全に動かせるかどうか、という問題だろうか。

 それを考えると、自身の愛弟子の適応力には関心する。もともとの小細工があったとは言え、あれはどんな機体でもどんな武装でも即座に適応する。

 胸に満ちる誇らしさに口元が僅かに緩む。

 

 あとは汚染の検出されない土地でネクストを動かした場合、企業連が五月蠅そうだ、とそこまで考え一人自嘲気味に笑う。アルテリアの襲撃を行い、ライザがORCAに加担するのを良しとし、体制へ明確な反意を示して何を今更、と。

 

「……GAのやつの方、か」

 

 まるで、別のアルテリアも襲撃したような言い様だった、と思い起こす。

 

 目覚める前の記憶は曖昧だ。

 漠然と、愛娘の圧倒的な力を目にし、私の弟子はここまで育ったのだと、至極満ち足りた気持ちを抱いた。それだけが明確に残っている。

 だが、もし、まだ彼女の中に私を墜とした記憶がないのなら……まだ、まだ、彼女にとって頼れる存在でありたい。

師で、母でありたいと思ってしまう。

 

 一瞬浮かんだ思考から、再び手元へ意識を戻す。

 

「あいつはいつの間にこんなプログラムを……」

 

 ライザが言うには機体が丸ごと埋まっているらしいが、損傷は無いようだ。だが外部への通信が悉く死んでいる。回線をいくつか回そうとも、ノイズさえ流れない。

 駄目でもともと、と、娘の私物デバイスを開けば胡散臭い通話プログラムが数個目に入る。地上の、一定のコミュニティでのみ使用できるものだろうか。

 一体どこの誰とやりとりする為の物だろうかと睨みつけつつも、物は試しと端から起動していく。

 

『……はそこ……100m移……正面壁越し……P1は10……4……スラッシュ……を撃……』

 

 予想外にも、プログラムの一つから雑音でブツ切れには成ってはいるが、確かに人間の声を拾った。

 

 





首輪付き少女
ライザ・ヘイズ/霞サクラ
腰まである白髪黒目の首輪付き少女。外見は13、4歳だが実際はもっと年上。リンクス戦争終盤辺りには産まれていた。子供の凹凸の少ない顔も相まって、霞スミカよりも日本人的な顔をしている。
可愛いものが好き。猫ちゃんもすき。本物は見たことないけど。
軽量二脚は可愛いくない。歯茎可愛くない。まんまる可愛いストレイド。そんな感じの基準。多分OBするとメロンソーダみたいな可愛いナニカが凄い濃度で噴き出る。
セレン・ヘイズにカーパルスで墜とされた記憶がある。わりと人の心がない。



霞スミカ/セレン・ヘイズ
年齢不詳の黒髪碧眼の女性。とりあえず、首輪付き少女位の娘が居るようには見えない外見。純日本人というよりも、若干スペイン辺りの血が見える。
AC乗っている時は、霞スミカの方を名乗っている。オペレーター業とは別に考えている。
大幅にフレームや武装が変わると流石に無理だが、インテリオルの初期ストレイドならまあ動かせる。最近の弟子の機体をうわぁ…という顔で見ていた。
首輪付き少女に撃破されたさいの言葉を口にした記憶がある。人の心はあるつもり。
 
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