幻影旅団はヒーロー(夢)を見ない。   作:規律式足

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 原作キャラクターへのアンチ表現があります。閲覧注意です。



第十三話 爆豪勝己の災難

 

 控室に歓声が聞こえる。

 僕の前に行われたA組の麗日と切島の試合は、僕の予測通りに麗日が勝ったようだ。

 触れたモノを無重力状態にする個性。使用する際に副作用があるそうだが便利な力だ。盗賊の極意との相性も悪くないから盗みたくなるが、今は時期ではないか。盗むのであれば、闇の帝王の存在が世間に周知された時。そのタイミングであれば、個性喪失をヤツの仕業だと思わせることができるからだ。

 こんな場所にいるけど、僕は幻影旅団の一員で、ヴィランで盗賊で強盗。欲しいモノは盗るだけだ。

 勝利した喜びを噛み締めているA組の麗日と通路ですれ違った時に、僕は彼女を獲物のリストへと記入するのであった。

 

『一回戦最後の組だな』

 

『いよいよ一回戦の本命だな』

 

 解説席でA組の担任であるイレイザーヘッドとB組の担任であるブラドキング先生が口を開く。

 一回戦の本命。

 その理由は、雄英高校ヒーロー科一般受験の成績、トップ1・2の試合だからだろう。

 

『その身体に秘めたるパワー、小さな超人。

 ヒーロー科リンク・アクセス!!』

 

『中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねえ、ヒーロー科爆豪勝己!!』

 

『雄英高校教師陣の定めた、現在の一年首席次席の決戦が今!!始まるぜえっ!!』

 

 会場を盛り上げるプレゼント・マイクのマイクパフォーマンス。熱狂する会場と観客達、そして何故か不安げで心配そうこちらを見るA組の生徒達と、僕を応援するB組のクラスメイト達。

 だが、相対する爆豪勝己は『次席』という言葉を聞いた瞬間からブチギレたかのようにビキリビキリと表情を歪めていた。

 選手宣誓でもわかるようにプライドの高い子供なんだろう。

 はあ。

 ため息をつきそうになるのをなんとかこらえる。似たような個性の、遥かに強くて恐ろしい人物を知るがゆえに俺にとって爆豪勝己は脅威足り得ない。

 ただただ耳障りな言動をする不快な存在としか思えない。苛立ちを抑えこんで、やりすぎないように注意しないとな。

 

「テメェみてえなドチビが首席かよ。気に入らねえなブチ殺す」

 

 また身長をネタにされている。

 しかし、ブチ殺す、ねえ。

 

「耳障りなヤツ」

 

「ああっ!?」

  

「その言葉を理解してないくせに吐くなよ」

 

 コイツに誰かを殺す気が無いことは見て分かる。単なる掛け声やカッコつけやキャラ作りなのも察することができる。

 でも、その言葉を。

 こんな平和で箱庭みたいな国で、恵まれた環境の中ぬくぬくと生まれ育ったヤツに吐かれたとなると不快過ぎる。

 ああわかっている。

 妬みで僻みで嫉妬だと。

 これからの行いが八つ当たりに過ぎないことだと理解している。

 それでも、それでも、

 公的にぶちのめせるならぶちのめす。

 審判であるミッドナイトが表情を引き締めた。僕の過去を教師達は知っているからだろう。

 

『スタート!』

 

 プレゼント・マイクの開始の合図と同時に爆発音が鳴り響く。見た目通りに軽い僕を吹き飛ばして場外判定を狙う気なのだろう。

 カウンターを狙わないのは第一種目での僕のパワーを見たから。あのゼロポイント仮想ヴィランを殴り飛ばせる僕に先手を許すのは危険だからだ。

 ましてや第一種目で爆豪勝己と同じクラスの緑谷出久が指を犠牲にした衝撃波を放っている。

 距離をおいて様子を窺うことはできない。

 だからこそ接近し、爆発の衝撃と破壊力で打ち倒す気だ。

 BOOOM!!

 爆音が空気を揺らし、衝撃と熱が僕の身体に襲いかかる。

 

「ハッ」

 

 反応もせずに右手による爆破をくらった僕を爆豪勝己は大したことはないといいたげに嘲笑う。

 彼としては、入試実技の救助ポイントが原因で自身の上となった僕の存在が面白くないのだろう。

 ヒーロー志望者が救助ポイント0って、何を目指しているのかとツッコミたくなるのだが、それは置いとくとしよう。

 周囲も回避しないで直撃した僕に、決まったやら、やっぱり爆豪の勝ちだとか、しょせんチビだし、とか呟いたりしてる。

 けど回避できなかったのでない。僕は回避しなかったのだ。

 爆豪勝己の個性の爆破の火力が大したことがないのは見るだけでわかる。

 その火力は発動元となる爆豪勝己の掌が耐えられる程度でしかないからだ。

 確かに個性に合わせ、個性を伸ばす上で鍛えられて進化した分厚く特殊な皮膚だろう。

 けれど念能力で底上げされてない状態ではその強度はしれたものだ。

 また爆破による殺傷力も手榴弾に比べたら大したことはない。手榴弾や地雷の殺傷力の高さは爆破だけではなく、爆破により高速で飛んでくる鉄片によるものが大きい。その飛んでくる鉄片が対象をズタズタにするから手榴弾は危険なのだ。なので投げられた時は、敵の身体で爆発する手榴弾を包み込みと良い。そうすれば鉄片は吹き飛ばず被害はでないからだ。

 爆豪勝己が砂利などを握りこんでから爆破したなら対処したが、単なる爆破は念能力の纏で充分に耐えられる程度だ。

 だが爆豪勝己はそんな情報を知らない。

 だからこそ、爆破を喰らいながら突っ込んできた僕への反応が遅れた。

 

「!?」

 

 切島や鉄哲のような肉体硬化タイプ個性ならそうされると警戒していて反応できただろう。迎撃して距離を取れただろう。

 けれど出来なかったからこそ、爆豪勝己は自身の強みである機動力を失うことになる。

 

「グ、ガァァァ!!」

 

 ボキリと音が鳴り、爆豪勝己が痛みから叫びを上げる。

 爆炎掻き分けて突き進んだ僕の狙いは個性の発動元である爆豪勝己の掌。熱を帯びたその掌の一部である指を何本か無造作に掴み、一気にへし折る。

 爆豪勝己の爆破による高速機動は生まれ持った個性によるものだとしても神業レベルの代物。それを可能としているのは爆破を受け止める掌と指。掌と指の角度で爆破を推進力にでき、思うがままに駆けていたのだ。

 だから僕はその指を折る。

 ただそれだけで高速機動を使用させられなくできるし、A組の緑谷も自損した指程度ならやり過ぎにはならないだろうからだ。

 

「テメェ!!」

 

 指の折られた方を抑えながら爆豪勝己はこちらを睨みつけてくる。

 

「まだやる気?」

 

 その一般人ならビビるだろう顔も、僕からしたらチワワの強がりにしか感じない。

 強く見せるのに必死なんだなあ、となんとなくそんな印象を持った。

 

「ブッ殺す!!」

 

 だからといって耳障りなのは変わらないけど。

 無事な手で爆破を発動し飛びかかってくる爆豪勝己。どうやら本当に指をへし折るだけで高速機動はできなくなるらしい。落ちた速度、崩れたバランスで襲いかかる爆豪勝己の攻撃を避けて、呆気に取られた表情のウニ頭を掴み、地面へと叩きつける。

 コンクリート製のフィールドに放射状のヒビが走る。苛立ちのままにやったから威力をミスったかも。

 

「ク、ソガァ。ブッコロシ、てや」

 

「煩い」

 

 それでもしぶとく喚く爆豪勝己の頭を再度叩きつける。都市での戦闘にで鈍器など不要。優しく受け止めてくれる大地とは違い、都市そのものが固くてどこにでもある便利な凶器だ。

 

「ブチ殺すだの、死ねだの、耳障りだよお前」

 

 こっちの国では人を不快にさせる行動をしてはいけませんと習わなかったのかな?

 流星街出身の俺だって、大人衆から不快にしたら殺されるからやるなと習ったのに。

 ダラリとした爆豪勝己の頭掴み同じ視線になるように持ち上げる。

 意識があるからかまだ審判は止めないが、判定しようと近づいては来ている。

 

「その言葉の重みを理解しないでカッコつけで吐き続けるようならさ。それでこちらを不快にするなら」

 

 僕みたいなヴィランが、幻影旅団メンバーである存在が言って良い言葉ではないことは百も承知。

 どの面下げて言うのかと思う気持ちもないわけではない。

 いいや、知っているからやるんだ。

 命の重みを知るから。

 殺されることの理不尽を知るから。

 死という喪失を知るから。

 

 報復として僕達はやり続ける。

 

「殺すぞ」

 

 熱狂した会場が凍りついた。

 仕事以外で出すことのない全力の殺意。

 それはプロヒーロー達は当然として、触れることのない一般人の観客達すらも背中に氷柱をぶち込まれような冷たさを感じさせた。

 そして、死神の鎌が首にかかったような恐怖を、危機感を走らせた。

 

「ヒッ!?」

 

 唯一人、真正面から僕の表情を見ながら殺意を浴びた爆豪勝己は観客達の比ではない。

 コイツらしからぬビビったような表情を浮かべ小さく悲鳴を上げた。

 はあ、やり過ぎた。

 それでも教師陣が止めてないのは僕の境遇を知るからと、爆豪勝己の言動態度に問題があると認識していたからか。

 ゴミのように放り捨て、審判であるミッドナイトに顔を向ける。

 これ以上は不味いからだ。

 

「棄権します。このままだとやり過ぎてしまうので」

 

 優勝しようかと思ったけどもういいや。

 

「そうね」

 

 納得はしかねているようだが、やり過ぎてしまうことが良くないとはわかっているみたいだ。

 僕の宣言を受け入れて勝敗が確定しそうになった瞬間。

 

「待ちやがれ!!俺の、俺の負けだ!!」

 

 爆豪勝己による敗北宣言が会場に響き渡った。自ら敗北宣言をする、そんならしからぬ行動に幼馴染である緑谷出久が誰よりも驚いてA組生徒達も目を見開いている。

 ただまあ会場はそらそうだよな、という空気だ。見るからに勝敗は明らかだったからだ。

 むしろここで自ら退いた方が彼は評価されるだろう。引き際を見極める、それもまた職業ヒーローには必須な能力なのだから。

 

「爆豪くんの敗北宣言により、二回戦進出アクセスくん!!」

 

 盛り上がりはない。

 空気は未だに冷めたままだ。

 

「おいドチビ野郎」

 

「何だよチンピラ」

 

 去り際に爆豪勝己からかけられた言葉に返事をする。

 

「テメェ、何者だ?」

 

 直感的に僕が何なのか理解したのかな?才能ある危険な卵だ。

 

「昔ヴィランに姉を殺された、唯のスラム街出身のガキだよ」

 

 その発言をカメラで全国中継されていたことを僕は気づいていなかった。

 それがどんな反響を呼び、生徒達に影響を与えるのかまだ誰も知らない。

 

 

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