幻影旅団はヒーロー(夢)を見ない。   作:規律式足

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 会場にて行われている、緑谷VS轟の戦闘シーンは原作そのまんまとなります。



第十四話 緑谷VS轟について

 

 なんかもう棄権でいいやと思った、雄英高校体育祭最終種目を爆豪勝己の敗北宣言により勝利し、僕はクラスメイトであるB組の集まる観客席へと戻った。

 

「「「「「リンクー!!」」」」」

 

 すると何故かB組男子勢は僕を見るなりハグしようと迫ってきたので、通信教育で学んだ柔道技にてこれを無力化した。

 

「これが小兵の理、凄まじいノコ」

 

 戦場の組み合いから生まれたとされる柔術、明治初期に数多ある流派を束ねて体系化したこの武道は体格差と筋力差に左右されない巧みさがある。ノリで学んでみたがかなり僕に向いているようだ。

 

「それでどうしたの皆?」

 

 ちぎっては投げは繰り返した後、男子勢に加わらなかった物間君に訊ねる。勝利の抱擁にしては一回戦を勝ち抜いただけなのだが(それでハグしかねないトコもあるが)。

 

「君が退場する時の爆豪勝己との会話がモニターに映されていたんだよ」

 

「マジでっ!!」

 

 どこにカメラがあったよ。

 

「それで君の過去。お姉さんのことを皆(全世界)が知ってしまったんだよ」

 

「それでかー」

 

 自身の迂闊な行動にあちゃーとなる。

 雄英高校に提出した経歴偽造はシャルナークがやっただけあって完璧(流星街以外の名の知られたスラム街出身になっている)、そこに普段の言動からバレてもいいようにや、殺意が出た時、やり過ぎた時の言い訳になるように姉の死については記載はされている。

 だから知られても問題はないのだが、クラスメイトですらこんな反応になるとは。

 ヒーローなんて暴力的でヤクザな商売を目指すのだから身内がヴィランに殺られた被害者くらい山程いるだろうと思っていたが、想定よりもこの国は平和だったらしい。

 街に溢れるヴィラン騒動を見る限り、十人に一人は天涯孤独だと思ったんだけど。

 

「ゆえに寂しさを胸に秘め一人立つ幼子を、皆が抱きしめたくなったのです」

 

 反応すらできなかっただと?!

 僕の背後に現れた塩崎さんが、有無を言わさぬ慈愛の抱擁を持って、僕の身体を優しく包みこんでいた。ちょっと首筋がチクチクする。

 

「幼子じゃないよ」

 

 なんでいつも僕は女性に抱きしめられるのだろうか、小さいからか(吐血)。

 我が子のように愛情をもって慈しみながら抱きしめてくる塩崎さんに抵抗は諦め、されるがままとなった。

 

「ん!!」

 

 次は私っ!!、じゃないよ小大さん。

 他の女性陣も順番待ちの列を作らないの。

 最終種目第2回戦の初戦、緑谷対轟のA組対決が始まるまでの時間、僕はクラスメイト達の優しさに包まれるのであった。

 ん、メール?

 

【慰めてあげようか?】

 

 余計なお世話だよシズク。

 

【近いうちそっちにいくので、ついたら抱きしめますね】

 

 ヒミコは何の為に来るんだろ?里帰りかな。この国だと冤罪でヴィラン認定されてるのに。あと抱きしめなくていいです、と。

 テレビで観戦している知り合いの二人に返信して、修繕されたステージを見る。

 そこに立つ二人。

 オールマイトのようなパワーで活躍したから、というだけで過去話と宣戦布告をしてきたA組の轟焦凍。日本のナンバー2ヒーローエンデヴァーの息子で、実父に屈折した感情を抱いてる存在。彼は個性婚という生まれと苛烈な英才教育による悲劇から父の力『炎』を使わずに一番となることで、父を完全否定しようとしている。

 生まれた時から両親のいない僕からしたら実感できない感情。まあヴィランになろうとしない時点で根は良い子なんだろうけど、僕とは違って。

 そして何故かなんか気に入らないA組の緑谷出久。発動するだけで身体が壊れるほどの強化タイプ個性持ち。僕が知る限り身体強化個性の発動タイプでもあんな風に自壊するなんてなりえない。生来の個性であるならば、そうならないように数年足らずで進化適応してしまうのが、個性という力の恐ろしく悍ましい点だからだ。

 それが成されていないことが不思議で、気になり彼の来歴をシャルナークの報告書から調べてみたら、個性発現は去年という驚きの情報。確かにそんな例はないわけではない。対応力なら随一とされる他所の国のプロヒーロー・モラウなんて煙草を吸える年齢になってはじめて自身の個性に気づいたくらいだ(驚異の肺活量と戦闘力からそれでもヒーロー資格は取得していた)。だが条件や道具が必須でもない限り発現が遅いなんてありえない。ましてや身体強化ならば余計にだ。

 それにもう一つ。

 バレてしまうのだ、無個性ということは。

 個性持ちと無個性。

 それらは同じ腹から生まれる別生物。

 だから相対しただけで、なんとなく違うなと感じてしまうものだ。

 クロロが言うには個性因子の有無がそうさせると考えられているらしい。個性持ちは無個性をまるで人型のナニカであるかのように感じてしまう。無個性からした個性持ちもそんな感じらしいが。まあ身体能力を考えれば当然だろうと思う。発動型であり見た目が無個性と変わりはなくとも、オリンピックが成り立たなくなるくらいの身体能力の差ができてしまうのだから。

 だから、緑谷出久はおかしな存在にしか思えない。ありえない存在なのだから。

 だがヤツがオールフォーワンの配下、内通者であるならばその疑問は解消される。

 ヴィラン襲撃事件以前からB組クラスメイトはパク姉の個性で調べていた。だから内通者はいないと判明している。

 襲撃を受けたA組の生徒である可能性は高かったが、唐突に目覚めた個性からして緑谷出久で殆ど確定だろう。雄英高校と宿敵であるオールマイトが警戒してない点が気にはなるが。いや轟焦凍の話から目をかけられているから疑われてはいるのか?何にせよ本格的に調べてる必要ある。

 その結果、ヤツの個性が流星街の誰かから奪われたものだったら報復するだけだ。

 

『スタート!!』

 

 試合の開始が告げられた。

 炎使わぬ氷炎使いと、自壊する強化タイプの対決。その結果は果たしてどうなるやら。

 勝敗に関心はない。

 どちらも戦えば勝てる存在なのだから。

 

 

 

 緑谷出久の痛みを堪えながらの必死な叫びが、僕の時とは違う意味で静まりかえっている会場に響き渡る。

 会場が静まっている理由は、緑谷出久の行動にドン引きしているから。

 一回戦の凡戸君との試合で傷ついた指は見た目だけは治されていた。だがそれらは再び衝撃によりへし折れている。肉体内部からグチャグチャになるその様は直視を避けるほどに痛々しい。

 轟焦凍はそうしなければ勝てない相手。それは万民の認めるところ。だがそこまでしないのが今のヒーロー。自壊しながら戦う姿に観客達からの称賛はなく、異常な存在であると慄かれていた。

 叫ぶ内容は、轟焦凍が冷気しか使わないことを糾弾するもの。

 皆が全力なのに半分だけの力で手抜きされていることが許せないらしい。

 そういったことなら一番批難されるべきは個性を使用していない僕なのだが、念能力を個性だと思っているのだから仕方ないだろう。

 頭がおかしい。

 そんな声がヒソヒソと観客達から聞こえる。

 クラスメイト達すらもそれには同意している。憤る理由はわかるが、それはあんな風になってまで言うべきことだと誰も思えないのだ。

 自身の一瞬の衝動の為にリスクを考えない。それが緑谷出久か。

 でも、その衝動は誰かの為にということが僕にはわかる。そんな人達に囲まれて、そんな人達の背を追いかけて生きてきたから。

 期待してくれる人の為。

 全力で体育祭の臨むクラスメイト達の為。

 そして、淀んだ目をした轟焦凍の為。

 緑谷出久は自ら身を省みずに個性を振るうのだろう。

 

(けど内通者があそこまでするか?)

 

 その行動に緑谷出久か内通者であるという推測がグラついている。

 あそこまで誰かの為に動く、ヒーロー気質な者が、個性を与えられたからとはいえオールフォーワンの為に動くのだろうか?

 しかし内通者の存在は確定していて、一番疑わしいのは緑谷出久だ。

 

(後でマチ姉に訊こう)

 

 旅団全員が当てにするマチ姉の勘。

 彼女の違うと言えばその通りなのだから。

 

 炎を使用した轟焦凍と最後の力を振り絞った緑谷出久がぶつかり合い、会場に轟音と衝撃が走る。

 勝者である、ジャージが破れた轟焦凍の表情に戸惑いはあれど淀みはない。

 敗北はしたが、緑谷出久はナニカを成し遂げたのだろう。

 そんな風に僕は思ったのだった。

 

 

 





 補足・説明。

 トガヒミコについては後日。
 彼女はある出来事がきっかけで流星街の住人となっています。現在はキメラアント孤児院の職員兼シスター兼幻影旅団予備メンバーです。
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