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「合格したよ団長」
『そうか、雄英高校教師陣の実力を見極める目が確かだと褒めるべきか、諜報能力の低さに呆れるべきか、悩むところだな』
「厳しいね」
『コトが起きるのは確定事項、それなのに入学させる生徒の調査ができてないだろ』
僕の素性に勘付いていてあえて泳がせてるって感じでもないしなあ。
「やっぱり雄英高校はオールフォーワンの暗躍に気づいてないのかな?」
『その可能性が高い。つまりお前の危険度が上がったことを意味する。大丈夫かリンク?』
「いくら僕が旅団最弱でも念能力者なんだ、そう簡単には殺られないよ」
『お前の実力は知っている。だが優先事項を違えるな、情報は大事だが、それよりもお前の命は重いんだ』
「団長は過保護だな、僕だって幻影旅団なのに」
『団長としてはお前が替えの利かない駒だからだが、兄貴分としては弟分が心配なんだよ』
「了解、ヤバかったら情報より自分の命を最優先で動くよ。ついでに弟分として言わせてもらうけど、パク姉との関係はいつ進展するの?」
『注文したピザが届いたようだ、切るぞ』
「流星街に宅配ピザ屋はないよ!今ホームなの知っているんだよクロ兄!!もしもーし、もしもーし!!」
ち、逃げやがって。
悪党として生きると決めた団長。でも恋人作ったり結婚はしても良いだろとは旅団全員が思っている事だ。だから末っ子のような立場である僕がこうして進展するようけしかけてるのに当の本人はすぐに逃げる。
パク姉はパク姉で待っている女ムーブかましていて自分からは迫らない。そうしてるならヒソカと団長がサシ飲みしてるだけで不機嫌にならないで欲しいよ、全く。
雄英高校から仮宿に届けられた合格通知、高性能な映像装置から映し出された手の込んだ演出で伝えられた主席合格という結果を僕は団長に報告した。
入学できればそれで良かった僕としては主席なんて立場は正直言ってどうでも良い。けれど僕は良くても周りの、いわゆるわざわざ雄英高校を選び入学した生徒達はそうじゃないだろう。ヒーロー業界にランキングがあるからには校内であろうと順位に必ずこだわるヤツはいる。そして主席である僕に絡むヤツだって当たり前のようにいることだろう。
手を抜けば良かった、と今なら思う。
しかし自分の個性を使用せず念能力のみで戦う、ということにばかり気を取られてしまった。
実力の見積もりを誤る、これは周りが自分より強い連中しかいないことの弊害なんだろう。
「はあ、目立たずに情報収集に勤しむつもりだったんだけどなあ」
無くなった未来を悼みながら僕は仮宿のベッドでふて寝するのだった。
春。
日本というヒーローによるヴィラン殺害が認められていない平和な国での生活も慣れ、いよいよ雄英高校入学初日だ。
その入学までの期間中になぜか天敵であるシズクが僕の住むアパートに何週間も居座りやがった。仕事があるわけでもないのにダラダラと過ごし、勉強している僕にちょっかいかけてきたり、どこそこへと連れて行けと好き放題していた。
しばらくしてからフランクリンが仕事だからと回収しにきてくれたけど、その時も嫌だと抵抗までしていたくらいだ。もっとも抵抗しても頑強さならウボォーギンに次ぐフランクリンに後始末担当のシズクが勝てるわけがなく、最終的には猫のように首根っこを掴まれて運ばれていった。
そんな天敵の様子と退去する事実につい笑みを浮かべてしまった僕を見て、シズクはなぜかムッとした表情になり呼び出したデメちゃんを僕の頭に振り下ろしてから(金庫とかぶち破る威力)不機嫌そうに帰っていった。
去り際には馬鹿でかいタンコブをこさえて倒れ伏す僕を呆れ果てた表情で見るデメちゃんとフランクリンの姿があったような気もする。
しかしフランクリンもよくここまで何事もなく来れたもんだ。ヒーローだらけなこの国だとフランクリンは見た目だけで捕まりそうもんだけど。なお後日ヒーロー達の行方不明事件が報道されていたけど、多分無関係だろう。
そんな些細なこと(瀕死になりかけ)もあったりしたけど、僕は雄英高校で自分が過ごす教室1ーBへと辿り着いた。
ヒーロー科は一般入試定員36名、推薦入試定員4名の合わせて40名。1クラス20人ずつの2クラスとなる。
ウボォーギンやフランクリンでも通れそうな大きなドアを開けて教室へと入った。
「やあやあおはようはじめまして新たな仲間よ。僕の名前は物間寧人これから3年間よろしく頼むよ君が途中でリタイアしなければねえっ!!」
途端、なんか絡まれた。
畳み掛けるように話しかけてくる、整った容姿の金髪少年は物間寧人というらしい。彼は言葉とともに握手を求めるように右手を突き出している。ふと見渡して周りの既に席についた子達を見るとまたやっているよという反応、教室に来た生徒全員に同じことをしているようだ。
「僕の名前は、リンク・アクセス。リンクが名前で一応外国人、自分の人種は知らないけど」
差し出された右手をあえてとらずに言葉のみを返す。握手を返さないにはわけがある、触れることを発動条件とする個性は非常に多く幻影旅団でもパクノダとコルトピ、あとは団長の盗賊の極意も盗む過程で本に触れさせる。だからどんな個性か分からない他者との不用意な接触は当然避けるべきなのだ。
というか一般常識的にも触れたら発動する個性があまりにも多いからと個性発現以降からは握手自体が忌避されて廃れつつある挨拶だ。日本だと違うのだろうか?この国も伝染りやすい病気などから他者との接触行為は避ける傾向にある筈なのだけど。
「へえ、さすがは実技試験で大活躍しただけはあるね。警戒心が強いねえ、今まで大半の者が当たり前のように握り返してきたのに」
「警戒心というか。国によっては握手しようとしたら個性を使うと判断されて射たれるんだけど」
治安が悪い国だとどうしてもそうなる。
そういった国は個性は武器であるという認識が当たり前なのだから。
「そ、そんな国があるのかい?」
僕の言葉に冷や汗をかきだす物間寧人君。むしろこの日本の常識や倫理観が例外的に緩いだけだと感じる。ヴィランの暴れない日が一日も無く、毎日ヒーローが戦うレベルの治安なのに個性使用制限とか銃火器の所持制限とか僕には理解ができないよ。
「それで何が目的で握手を?」
警戒心があると言ったからには、握手してしまった警戒心が無かった生徒達は迂闊だったことになる。となると個性の発動条件か何かだろう、洗脳系ならば要警戒対象だ。
「ハーハハ、ならば教えよう僕の個性は『コピー』。触れた者の個性を使用できるっ!!そして自己紹介と新しいクラスメイト達の個性を知るためにやっているのさ。物によってはコピーできないけどね」
「相手に黙って個性使用とか下手したら殺し合いになるよ?」
危険な個性、彼は始末すべきかな。
現状僕は念能力を個性と偽っている、それがコピーされることでバレる可能性がある。
さらに僕の個性である『魂の絆』がコピーされたらどのように反映されるか分からない。
開示した情報が正しい保証もないし、ちょっと放置するには危険な存在だね。
「お邪魔ギミックを破壊した君の個性は興味深い、是非ともコピーさせてくれないかな?」
そんな僕の思考に気づいた様子もなく再び差し出される右手。
この状況だと今後の学生生活を考えると断るのはよろしくない、どうしたもんか。
「ホラいい加減にしなよ。日本なら笑って許されても外国だと不快な行為だって鱗とポニーも言ってたじゃん。せっかく同じクラスになったのに初日から嫌われるよアンタ。あ、私は拳藤一佳、よろしくね」
差し出された右手を念弾で消し飛ばすかまで考えていた所で、別のクラスメイトが物間寧人君の行動を止めてくれた。金髪をポニーテールにした女子生徒、動きから見て武道経験者ってトコかな?
「個性の開示は自己紹介の第一歩じゃないか」
やり過ぎだという自覚があるのかぶつくさ反論している。なんか無個性の人が聞いたらブチギレそうな常識だなあと思う。流星街は無個性が多い、だからそんな常識が無かったんだ。
「あー、自己紹介なら教えるけど僕の個性は『生命エネルギーの操作』。身体能力の増強に知覚範囲の増大とできることは多いけど、操作をミスったら生命力が枯渇して死ぬからコピーする時は気をつけてね」
情報の開示で追及を避ける。
このやり方で誤魔化せれば良い。
それにリスクがあると言えば彼だって下手にコピーをしようとはしない筈だ。
それでももしコピーされたら纏の失敗で死んだように見せかけて始末するのが妥当か。仮に念を扱う素養があったとしても、後日シャルナークの『携帯する他人の運命』で操れば同じように始末できる。
「そ、そうかい。なら御詫びに助言するけど個性名はシンプルな方が良いよ。ヒーローの紹介にも使われるからね」
「了解」
個性名か、書類とかやむを得ない時以外は開示する気がなかったから考えた事がなかったな。
五十音順に並ぶ机から自分の席を見つけて座る。知識はあるけど初めての学校生活、果たしてどうなるやら。
「全員席についているな。
はじめまして一年B組諸君、俺は君達の担任になる『管 赤慈郎』。ヒーロー名は『ブラドキング』。呼ぶ時は本名でもヒーロー名でもどちらでも良いがヒーローコスチュームを着てる時は基本的にはヒーロー名を呼ぶのが常識だ。あとヒーロー名は敬称を付けなくても失礼にはならないと覚えておけ」
「「「「はい!!」」」」
プロヒーロー、ブラドキング。
個性は『操血』。肉弾戦を得手としていて近接戦闘からの捕縛に定評ある、と。
あと親戚の一人がマフィア子飼いの戦闘員をやっている、だったかな?
シャルナークはどこでこんな情報まで調べてきたのやら。
「さてこれから体育館で入学式をやるわけだがリンク・アクセス、生徒代表挨拶の内容は大丈夫だな」
「はい、こちらにまとめてありますのでご確認ください」
ヒーロー科実技試験を主席で合格したと告げられた際に入学式で生徒代表として挨拶することも伝えられた。内容も調べてからまとめたから不備はないだろう。
「ムウ、些か無難過ぎる内容だがコレで良いのか?雄英高校の入学式は親類だけでなくヒーロー関係者も参列し、テレビで生中継もされる。アピールする絶好の機会でもあるんだぞ」
マジか凄いな雄英高校。
「あの、そこまで注目されているイベントなら僕が代表で本当に大丈夫なんですか?試験結果はトップだとしても、推薦入試合格者は別枠でしたし、他科の生徒からも不満が出るのでは?それに僕は親類のいない孤児だから悪目立ちしますよ」
新入生代表とするなら科を問わず一年全員から選出すべきだろう。特にあんな実技試験では戦闘能力がないから下の順位、という結果に不満がでる。
そして孤児であると告げると同時にクラス内の空気が変わった。
その反応こそが孤児であるというさして珍しくないことがこの国では特別であるという証明になった。
「お前の意見も分かる。
だがどの科の誰が代表であっても不平不満がでることには変わりがない。推薦入試合格者と比べてもお前が彼らに劣っているとは思えないというものが教師陣の判断だ」
まあ確かにヒーロー科生にしても、別の科の者が主席だったら納得しないか。
ヒーロー科合格者があの実技試験に向いていた個性だっただけといくら揶揄しても、現場はあんなお遊戯どころではないのだから、というか今までそうしてきたからなあ(ヴィラン側視点)。
「孤児だから悪目立ちする点に関してはこちらも申し訳なく思うが、推薦入試合格者であるエンデヴァーの実子である轟と八百万グループご令嬢である八百万が入学式に参加できないから家柄で選ぶわけにはいかんのだ」
その二人のどちらかが生徒代表挨拶をした方が式そのものに箔がつくと思うけど、参加できない理由でもあるのかな?
「だがこれだけは言っておく、雄英高校教師一同はお前が一年のトップであることに異論はない。間違いなく現時点で新入生で一番優れている生徒はお前なんだと理解してくれ」
評価してくれていることには喜んだ方が良いのかな?それだけ見込まれているわけなのだし。
けどね、期待の眼差しを向けるブラドキング先生と雄英高校教師一同の皆さん。
僕、幻影旅団なんですけど。
ヒーロー候補として期待することそのものが大間違いなんだよなあ。
まあいい、参列者の前に立って原稿を読み上げるだけのこと。なんとも言えない微妙な感情を今だけは割り切って、やり遂げよう。
『それでは新入生代表挨拶。本年度実技試験主席リンク・アクセス君、おねがいします』
「はいっ!!」
今の僕はシャルナークシャルナーク。
外面良さ気な人当たりの良いうさんくさいイケメンをイメージして演じるんだ、成り切るんだ。
入学式が開始して、校長挨拶などのアレコレが終わり僕の出番。
開始直前に同じヒーロー科であるA組が全員不参加ということが広まり少なからず騒ぎ(注目されていたエンデヴァーの実子の不在が大きい)になったのだが、教職員は手慣れたように説明して治まった。
まあ息子が生徒代表をやるべきだと抗議してきた日本ナンバー2ヒーローであるエンデヴァーは最後まで目立っていたが。
幻影旅団としては日本最大のヒーロー事務所を構えるエンデヴァーは気になる存在だが今はおいておこう。とりあえずこの行事を終わらせないと。
ズラリと整然と並ぶ新入生から一人抜け出し盤上へと立つ。エンデヴァーには不快そうな視線を、ヒーロー関係者とマスコミからは商品を見るような欲望のこもった視線を、同期たる新入生から尊敬と憧れに不満や敵意と様々な感情が入り混じった視線を、雄英高校教師からは期待の視線を、そんな感情の闇鍋をぶつけられながら僕は一礼してから口を開いた。
「春の《FABOOOM『死ねえ!!!』》」
けれど、その原稿にまでまとめた新入生代表挨拶の言葉は体育館の外から聞こえてきた爆発音と叫び声によって覆い隠されたのだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「トニカクガンバリマス」
「「「「「頑張れっ!!」」」」」
痛みすら感じだした周囲の沈黙の果てになんとか絞り出した言葉で新入生代表挨拶を終わらせたのだった。
闇鍋の如き集まり煮詰まっていた感情の坩堝は、惨状を超えて今一つの思いへと昇華されていた。
「「「「ドンマイ」」」」
へと。
「これからここでやっていけるのかな僕」
嫌嫌ではあったが真剣に準備したモノを台無しにされて、さらに周囲から同情されて入学初日から僕の心はボロボロになっていた。
こうして本来同級生から羨望と嫉妬の対象となる筈の新入生代表にしてヒーロー科主席は事情を知らぬ一年A組を除き全生徒から同情される存在となった。
そして一年A組は他クラス全てからヘイトを集めることになるのであった。
ちなみにこの時の中継を僕を除く幻影旅団総メンバーでリアルタイム視聴していて、ホームは大爆笑に包まれていたそうだ。
なんでデカイ仕事も無いのに集結してんだよ。
入学式新入生代表挨拶とと個性把握テストの開始時間がかぶったのは、入学式がサクサク進んだこととテストの準備に時間がかかったからです。
雄英高校敷地的にはもっと離れてやってもおかしくないのですが、A組が反感をやたらと買っていたのはこんな入学式になったからかと思いまして。
青山君は命拾いしました、同じクラスだったら下手したら入学初日に一家全員行方不明になってました。