使い手たる存在が二人もいるなんて、SRTは盤石だなぁ()。勢いで書いたので、何かおかしいかも。
実はナギサが両手をつかまれてベッドに押し倒されるという夢を見て悶絶した結果、ミカとセイアに言葉で刺されまくるという話(ギャグパート)を間に入れようと思っていましたが、タイミングを逃しました。
後半から実質最終章開始です。今までも割とそうでしたが、ゲヘナの「自由と混沌」に対する解釈は独自解釈です。
神秘とは何だろうか。実のところ、その言葉を知っている者はゲマトリアのような組織を除けばほとんどいない。可能性があるのは長い歴史の中で知識の集積を行っている組織か、常人離れした知力の持ち主くらいなものだろう。例えばトリニティのシスターフットや大古書館、ミレニアムの全知の学位の保持者などだ。
神秘というのは、具体的な内容を語るには広すぎる概念だ。身体能力や弾丸の威力、未来予知のような超常的な能力ともかかわりが深く、確かに強い神秘の持ち主はそれだけ強い力を持っている。しかし本質は別、少なくとも俗にいう魔力やらオーラやらといった概念とは根本的に異なる。
しかし操夜は分かっていてあえて、便利で本質から遠い使い方をしている。それがワザとしつらえたかと思うほどに都合がいいからだ。
何が重要かと言えば、操夜は常識からは外れていても決して人間からは外れていないということか。
そんな操夜がいるのはD.U.地区のとあるビルの一室。整然とした雰囲気と吹き抜けで開放感のある部屋のソファに腰かけ、目の前の机に身を乗り出している。
左手に持った棒の先に付いた弾丸からは常識はずれにも炎が立ち昇っており、それを右手に持ったガラス棒にかざしている。炎の熱によってガラスを変形させ、望む形を作るガラス細工の製法だ。
しかし操夜のそれは普通ではない。神秘の行使によって温度の上下を操っているため、外から炎をかざすよりも高精度にガラスを変形させることができるのだ。
これを鍛錬の一環として行っているわけだが、そんな操夜を物陰から見つめる影がいくつか。
「ニコ、いつまで見てるの?」
「え、うん……もうしばらく」
「さっきもそういってなかった?」
SRT特殊学園に所属するFOX小隊の内二人、ニコとクルミだ。ちなみに小隊長であるユキノは隠密での連邦生徒会長の護衛についているため不在である。
残りの三人は別々の役で、ゲヘナの星の護衛という側面もゼロではないのだが、この超人に護衛なんていらないだろと割と本気で思っている。
「いつも思うけど、二人は何を考えて私たちを同席させるのかな?これ、一応連邦生徒会長とゲヘナ風紀委員長の密会でしょ?」
操夜の様子をじーっと見つめているニコをクルミが呆れた様子で眺めていると、別の部屋からひょこっとやってきたオトギが小さな声でそういった。
実際いつかの会談では連邦生徒会長とゲヘナの星が会ってエデン条約の協議をするという、重要な場面も存在した。しかしその時は露骨に関わり合いになりたくないという操夜の様子と、それを受けて難しい顔をする連邦生徒会長という状況が発生。
超人同士の余人には理解不能な以心伝心を見て、クルミなんかは含まれた意味が深すぎる、まるで飲み込めないと政治的な理解をあきらめていたりする。ほかの面々も似たようなものだが。
「知らないわよ、超人二人の考えることなんて。ニコまでおかしくなってるし」
クルミがぶった切るが、密会する予定の二人がどちらも超人であることはすでにFOX小隊の共通認識だった。そうしてクルミとオトギがわずかにニコから離れ、コソコソと小声で話しだす。
「最近操夜先輩といるときのニコが色っぽいよね。不倫かな?」
「いやいやいや。え?ていうかどっちが不倫する側なの?ニコ?ゲヘナの星?」
「そりゃ…ニコでしょ。言っててなんだけど似合いすぎだよねぇ、ニコおかーさん」
「シングルマザーなら浮気って言わないわよ?というかオトギ、あんただってこの間デレデレしてたじゃない」
「はー!?デレデレなんてしてないし!」
憐れニコ、当然のように人妻みたいな扱いをされ、何故かシングルマザー扱いされる。
この場にいないユキノが真面目な性格を一手に引き受けているところもあり、ニコまで目を離しているため姦しかった。
小隊長であるユキノは、連邦生徒会長とゲヘナの星が親密であることは良いことだと思っている。
SRT特殊学園の生徒というのは、大なり小なり武器としての役割を持っている、というのが生徒たち自身も自覚するところだ。自分たちが武器である以上、使い手があってこそ成立するものであり、その行動は使い手に大きな影響を受けることになる。
もしもの時は"使い手"としての役割を遠星操夜に移す、そういう可能性があることを彼女たちは感じ取っていた。それが全てではないにせよ、自分たちが同席しているの理由の一つがそこにあると分かっているのだ。
SRT特殊学園が強大な武力を保有することが許されているのは、自分たちが武器であるからであり、使い手によってコントロールされているからだ。FOX小隊メンバーとしても、使い手が複数いることは安心できる要素だ。
それは連邦生徒会長の目論見通り、操夜とFOX小隊が十分な信頼関係が築けていることの証明でもある。操夜由来の任務を受けたこともあるし、元から操夜自身の信頼が高かったこともあり、ことはすんなりと進んだ。
実際のところ、ゲヘナの星こと操夜委員長の存在は驚嘆に値した。
そもそもキヴォトスという無法世界において広い校区を統治することの如何に難しいことか。現状に目を向けてみても、ごく一部の有能な生徒が過労死しそうなブラック労働をすることによって何とかしているか、そうでなければそもそも統治できていないかのどちらかである場合が多い。
というか投票率4%未満のゲヘナ生徒会長とか、週替わりクーデターのレッドウィンターとか、冷静に考えなくても狂気の産物だろう。
一部の生徒が何とかしている場合においても、その極一部が欠けただけで崩壊する場合が多い。連邦生徒会なんかまさにそれで、もしも連邦生徒会長という超人が急にいなくなったりしたら冗談でもなんでもなく瓦解するし、連邦生徒会の能力は95%低下するといっても全く過言じゃない。
おかしいだろキヴォトス!そもそもなんで生徒が政治やってんだよ!一・二年で卒業したらいなくなるような人材が統治をやってる現状を悔い改めろ!!
そしてそんな現状の中燦然と輝くゲヘナの星は、ゲヘナ風紀委員とかいうバカでかい組織をまともに稼働させた上で、ホワイト労働を実現するとかいう奇跡をやってのけた。しかも自分がいなくなってもヒナとアケヤ、他幹部達によってある程度維持可能という盤石な体制である。
そりゃあ上層部に位置する存在であれば、ゲヘナの星パネェ!となるのも当然である。何なら操夜も委員長になって以降、前線での活動とは無関係な部分で注目されることが増えていた。もちろんその中には尊敬だけでなく、羨望や嫉妬や警戒なども含まれているが。
なおそこまで行ってなお、卒業したら人員がいなくなるという構造上の問題が放置されている。
そんなこんなで割といろんな人から尊敬のまなざしを向けられている操夜は、いつもの通りに遅刻している連邦生徒会長のせいで待ちぼうけを…くらっていなかった。相手が時間通りに現れないことを最初から織り込み済みの操夜は、平然とガラス細工の作成を始めたわけだ。ある意味ゲヘナらしい奔放さに、クルミなんかは呆れている。
この場にいない二人を含めて、この六人はなんとも不思議な馴染み方をしていたのだった。
ヒナには友達と呼べるような相手がほとんどいない。ヒナを尊敬する人も恐れる人もたくさんいるし、味方や仲間であれば多くいるといえるだろう。しかし同級生である天雨アコがギリギリ友人と言えるか言えないかというくらいで、対等な相手というのは極端に少なかった。
ヒナ自身自ら友人を求めるような性格でなかったこともあり、人間関係はかなり偏っていた。
経験こそが人を成長させるのだとしたら、その点についてヒナは正しく幼かった。それはヒナが特別運がなかったからではなく、総合的に見て自然な結果に収まったものだった。
「あなたは操夜君のこと、どう思っているの?」
ある日、鬼方カヨコがヒナにそんなことを言った。接点の薄い二人が会話している時点で珍しいことであり、しかも内容もまたおかしかった。こんな珍しい事態が発生したこと自体が、後の悲劇を暗示していたのかもしれない。
折悪く回答することが叶わなかったのは、もしかしたら不運なことだったのかもしれない。鬼方カヨコはあるいはヒナにとっての数少ない友人となり得る可能性があった人物だからだ。
ヒナは、自分を知らなかった。
遠星操夜が大切な存在であることは分かっていたものの、それどころの話ではなく、実際には全く認識が足りていなかった。ヒナは操夜先輩と敵対して戦いあうことなんて想像することもできないし、操夜先輩がいないのであれば生きていくことすら難しいだなんて。最大の強みと最大の弱点が、実は同一のものであったのだと。
遠星操夜こそがヒナのゲヘナであり、遠星操夜こそがようやくヒナをゲヘナにしたのだった。それが原因でどんな目に合うにせよ、それが良いことか悪いことかなんて、余人に言えることではないのだろう。
操夜はヒナのことを信じている。だから、もしもの時はヒナはすべきことをできると思っている。たとえ辛い状況でも、銃を手に取り戦う強さが、ヒナにはある。
ヒナの心身の絶好調は操夜がいるからなんて思っていない。だから当然操夜の計画は、ヒナが立ち上がり戦えることを前提としている。