お前のことだよ、相棒(空崎ヒナ)!!   作:バージ

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かつて二人の生徒が経験したように、別れは唐突にやってくる。その準備ができているものなど、どこにいるというのか。



星にして太陽。ヒナの「ゲヘナ」

 

最近、形容しがたい嫌な違和感がある。

 

自由と混沌を気風とするゲヘナ校区では日常的に多くの事故や事件が起こる。操夜先輩という絶対者が風紀委員長に君臨してなお、一エリアあたり一週間に一度以上の事件が起こっているくらいだ。

ただ無軌道に見えるゲヘナにも、事件事故には傾向がある。例えば企業関係者の行方不明事件なんていうものは、その他の事件と比べればずっと少ない。なのに最近、企業関係者の行方不明者が急に増加している。別に大したことではないと言えばその通りなのに、何故かそれがささくれのように気になった。

 

「あの日、屋上で操夜先輩のキラキラを見たの」

「おおー、運良いじゃん」

 

別の日には、風紀委員のそんな会話を耳にした。普段であればなんて事のない、よくある世間話。風紀委員であれば操夜先輩と一緒に戦ったことがある人は多いし、その時に神秘的な光を目にして印象に残っている人も多いだろうから。

ではなぜこの時だけ気になったかと言えば、話に出てきた日、操夜先輩は別の場所に巡回に行っていたはずだったから。本来いたはずの場所とは別のところで操夜先輩の光を見たというのは、何かおかしい話だ。でもあくまでこれは世間話、その時は追求しなかった。

 

漠然とした不安感を抱えたままのある日、操夜先輩が私用のために一週間不在となるという。一週間も操夜先輩に会えないのは残念だけど、風紀委員会としての不安はない。

操夜先輩は自分がいなくても風紀委員会が正常に稼働できるようにしている。改めて考えると操夜先輩は本当にすごい、私には絶対マネできない。

 

ただし大丈夫だったのは操夜先輩が不在となって一日だけだった。別に操夜先輩が不在だからってゲヘナ生徒がそろって暴れだすようなことは全くないはずなのだけれど、おり悪くというべきか問題が多発した。

銃撃戦が頻発するだけでなく、「カイテンジャー」の事件、「災厄の狐」の事件、「納骨堂」の事件、「地鎮祭」の……とにかく、そこらの犯罪集団とは比較にもならないほどの力を持った者たちが次々と問題を起こした。

それでも、私たちはギリギリで何とか対応できていた。操夜委員長の右腕と言われるだけあって、アケヤ副委員長は風紀委員会を十分に指揮していた。

 

 

 

 

 

しかしそれも、副委員長が倒れるまでのことだった。

 

 

 

 

 

 

委員長不在の五日目の夜。副委員長がやられた。その一報を聞いた、丁度近くの場所にいた私はすぐさま彼女のもとへ駆けつけた。

しとしとと雨の降りしきる夜、打ち倒され気絶している風紀委員達。アケヤ副委員長に駆け寄った私が聞いたのは、信じられない言葉だった。

 

犯人は、遠星操夜委員長。

 

それだけ言って気を失ったアケヤ副委員長。ありえない言葉に固まっている私のもとに、濡れた地面を歩く足音が近づいた。

 

「あー、なんだ。バレちゃったか」

「操夜、先輩…」

 

微笑みを浮かべる操夜先輩が、何でもないかのようにそこにいた。

 

「いやぁ、予想以上っていうの?副委員長の勘が鋭くってさ。まさか俺が黙ってたことまで気づいちゃうなんてな。せっかく風紀委員を掌握して俺の言うこと聞かないような奴は中枢に置かなかったっていうのに。まー、だからこうやって地面をなめる羽目になってるわけだが」

 

普段より少しだけ饒舌な様子の操夜先輩。実際今の風紀委員会に、何ならそれ以外であっても、操夜先輩に逆らうものなど存在しない。

 

「ヒナには知られたくなかったなぁ。やれやれ…」

「操夜先輩、何を…」

「まだ分かんないか?…俺がやったんだよ。こいつらも、企業行方不明者の件も、ここ数日のテロもなー」

 

いつもの微笑を浮かべ、のんびりとした口調で、操夜先輩が話す。その内容を聞いてはいても、私はまるで飲み込むことができなかった。内容をどれだけ思い返して考えようとしても、心がそれを否定し続ける。そうして私は何の結論も出せないままに、呆然と普段通りの先輩を見つめていた。

操夜先輩は付き合いの長い人にしかわからないようなわずかなため息をつくと、右手で持っていた愛銃、「人たるの証左(トゥルースソーロウィング)」をゆっくりと私に向け、そして発砲した。

一発だけ放たれたそれは当然のごとく私に命中し、そして痛みを与える。

 

うそ…。

撃たれて血が出ている場所を、呆然と見つめる。ありえない。そんなはずない。ありえない!!操夜先輩が、操夜先輩がそんなことするはずない!!!

 

「操夜先輩、どうして」

 

普通の生徒のそれであれば大したダメージにもならないはずの銃弾も、操夜先輩ほどの実力者のものであれば話が違う。しかしそんなこととは全く関係なしに、響いた痛みと操夜先輩に撃たれたという事実は私の空転する思考をリセットするに十分だった。

 

「どうして?そりゃー、違反者と風紀委員が戦うのは普通だろ?」

「違う!分かるでしょ…操夜先輩」

 

小さくそういうヒナの声はふるえて、泣きそうな声色だった。そんな聞いたことのないような声を聴いて、一瞬言葉に詰まる操夜は、しかし小さく息を吐いていつもの調子に戻る。

 

「理由か。正直、ゲヘナにおいてはどうでも良くないか?みんなそれぞれが他の人から見たらくだらない、あるいは理解できない理由で暴れてる。やりたいことをやるのに、他人や決まり事なんて気にしないんだ。温泉開発部の奴らなんて最たるものだよな………よーするに、実際は俺がやりたいからやってるだけってこと」

 

理解できない。何一つ納得できない。確かに操夜先輩だって、このゲヘナにおいて好きなように生きている人間の一人だろう。それでも道理を外れるようなことは、いたずらに誰かを傷つけるようなことをしたことは一度もない。

このゲヘナにおいて、ゲヘナの中にあって星とすら呼ばれる光。それが、どれほどすごいことか。一体どれほどの人を救ってきたことか。彼に救われたことのある人はたくさんいる。私だって。

 

「あー、それで、いつまでそこにいるんだ?この距離で棒立ちなんて、らしくないぜ。ほーら」

 

そう言って、今度はフルオートで「人たるの証左(トゥルースソーロウィング)」が火を噴いた。今まで何度も目にしてきた、神秘的な緑色の光がキラキラとまたたく様を、今回だけは見ていられない。

足を引きずるかのような鈍い動きで、何とか近くの車の裏へと飛び込む。

今まで培ってきた身のこなし自体は鈍ってはいないものの、逆に言えばそれ以外のすべてがまるで機能していない。それほどまでに心が、面を上げて前を向くことができなかった。

 

炎は踊る、人の社会の見上げる先で

 

操夜はヒナが車の陰に隠れたのを見ると、FAMASを単発に切り替えたのちすうっと息を吸ってピタッと止め、そして一発の弾丸を撃ち放った。普段は銃の周りでだけ輝いている小さな緑色の光が、その時だけ体の周りにまで広がり、そして車に命中した弾丸が巨大な爆炎を生み出した。グレネードのそれよりもはるかに大きいだろう爆炎は、十秒近く燃え盛り炎の柱を形成する。

キヴォトス基準でも火力の高いほうに分類できるそれは、直撃範囲内であれば一撃で相手の意識を奪うことができ、そしてグレネードと違い破片が飛び散ることのないクリーンな爆撃だった。

しかしそんな一撃を平然と放った操夜は、止まることなくゆっくりとフルオートに切り替え、一撃を逃れていると確信している相手に向かって一弾倉分の球をすべてバラまいた。視線を完全にふさぐ火柱を経た狙いも何もない射撃でありながら、そのうちの一発が走るヒナに命中する。

 

精神のまるで機能していない状態のヒナであるが、体はトップクラスの戦闘力に恥じない動きを自動で行い、爆発の直撃も衝撃で飛ばされた車も回避しきっていたのだ。

 

建物の陰に隠れたヒナであるが、半ば反射的に手にした愛銃「終幕(デストロイヤー)」を撃つことはおろか構えることすらできないでいた。

戦闘においてヒナが常になくすことのない冷徹さも、充実しきった気力も、そこにはかけらも存在していない。すべては操夜先輩を前提としているものだったから。今ここにいるヒナは空崎ヒナであって空崎ヒナではない、土台から崩されてしまったものだった。

空崎ヒナと遠星操夜の実力はおおよそ互角であるが、二人がが戦った時、遠距離ならばヒナが有利、中距離ならば互角、そして近距離ならば操夜が有利だ。本来であれば、すぐにでもヒナはこの場を離れなければいけないし、そうしていただろう。

 

ヒナにも、そして操夜にも予想できなかったことであるが。ヒナは操夜先輩と敵対したという事実に耐えられなかった、いや、そもそも受け入れられていないのだ。完全に理解を拒んだ状態で、頭も心も停止したままで、体だけが状況の悪さを判断して自動的に動いていた。

おぼつかない足取りでヒナは操夜から離れていき、そしてヒナが当然距離を取る選択をしたことを確認した操夜は、追おうとして立ち止まった。そしてせき込み、血を吐いた。

少しの間その場で立ち止まって息を整えた操夜は、特にそのことを気にした様子もなく、追跡を再開した。

 





最強のコンビであった二人が、相棒と相争う。最大の友が、最大の敵になる。そういうシナリオが、「友」と「敵」、どちらの認識も間違っているままに始まった。
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