時期は秋ごろです。連邦生徒会長の失踪はたしか1月上旬なのである程度の間があります。そして二月(?)に、始まる前から詰んでる透き通るような青春の物語一週目世界線が始まります。
なぜなら本作だと先生着任前にアビドスが崩壊するので…。
かつてアズリエルが言った。
「こうして一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの」
それを聞いた抜身の刃のような後輩は、すげなく言った。
「毎日毎日、一緒にいるじゃないですか。昨日も今日も、明日もそう。こんな当たり前のことで、何を大げさなことを。奇跡というのはもっとすごくて、珍しいもののことですよ」
結果的にそんな当たり前は容易く崩れ落ち、もう二度と戻ることはない。
きっと彼女は今でも後悔しているだろう。仲のいい友人であろうと、自宅にだけは誰も招かない。彼女の部屋には大して多くもない失った人の思い出ばかりが溢れていて、そして自らの罪の証の如くビリビリに破かれた後修復されたポスターが貼られている。
けれど、彼女が悪いはずもない。このキヴォトスにあって急に人が死ぬなんて、一体だれが想定できるというのか。
二人が言ったことは正反対であるように見えて、どちらも正しいのだと今は思う。今の日常というものは当然のように存続していくものではなく、世界というものは、奇跡の上に成り立っているのかもしれない。
奇跡があって初めて、その環状線は、始発点へとたどり着く。それがなければ、捻じれて歪んだ中へと落ちていく。
「いつまで逃げ回っているつもりだ!?撃てよ、臆病者!!」
ヒナが逃げ、操夜が撃つだけの戦闘とも呼べない戦闘を続けて、たどり着いたのは二人にとってなじみ深い噴水広場だった。ここに至るまでに何発もの弾丸を受けながら、ヒナは一度たりとも反撃することができなかった。しかし。
「俺は一度くらいはヒナと戦いたいと思っていた!」
その言葉は、真っ白になっていたヒナの心にスッと入り込んできた。
これまでの言葉もすべて聞こえてはいたけれど、そのすべてが認められないことだった。操夜の言葉を聞いてこれに逆らうことも、あるいは肯定することもできず、ただただ耳をふさいで逃げ回ることしかできなかった。
ヒナにとって操夜は自らを暖かく照らし支えてくれる陽の光であり、変わらずに進むべき道を指し示す星の光であった。操夜に見捨てられるような事態を受け入れられるはずもない。それは太陽と星が同時に落ちてくるようなものだからだ。
そんな中、曲がりなりにも操夜が望みを口にする。藁をも掴むように、今聞いた望みを叶えるために、すべてを脇に置いた。ついにヒナが逃げることをやめ、銃を構える。余人が知ったのならば滑稽だと、あるいは悲哀を感じたかもしれない。問題は何一つ解決してはいないのだから。
「戦う理由は見つかったか、相棒。ならば俺を倒して見せろ!」
そこからの戦いは、静謐な夜には似つかわしくない、鮮烈な戦いだった。二人は今までが嘘のように機敏に駆け回り、近しい距離で銃を撃ちあう。息継ぎ一つを咎め合うような、またたき一つ許されないような、キヴォトスでもそうそう起こらない刹那の戦い。
特殊な形態の戦いであると言えるだろう。操夜は一切止まることなく、ヒナもまた普段の戦い方を捨てて走った。遮蔽などほとんどなく、体をさらした二人であってなお弾丸の多くは掠めるだけで直撃することがない。撃ち放った弾の全体からすれば、僅かな割合の弾丸のみがお互いに命中し、血を流しながらもそれを意に介さない。
その戦いを目撃した者がいたとしても、その多くはまるで内容を理解できなかっただろう。紛れもなくキヴォトス最強格の二人の戦いは、それほどに早く高度で鮮烈だった。もし二人の戦いが理解できるものがそこにいたのならば、視線をくぎ付けにされたことだろう。その二人の美しさゆえに。
今宵初めて操夜の顔に微笑みではなく喜悦に満ちた笑みが浮かぶ。それを見たヒナもまた、鏡に映ったように笑みを浮かべた。
こんな状況なのに私。あなたと向かい合って、初めて本当の自分に気づいた。
あなたが喜ぶ顔を見るだけで、こんなにうれしく感じるなんて。それほどまでに私は、あなたのことが。体の奥底から、力が湧いてくるのがわかる。体に走る痛みすら、あなたに与えられたものだと思うと愛おしい。
それはある意味では、現実逃避だったのだろう。戦いの果てにヒナは限界を超えていた。そして二人の力量が互角である以上、限界を超えた方が勝つのは道理であり、先に力尽きたのは操夜の方だった。
「最後は、かなり、楽しかったな。なんとか、条件は整ったか」
激しくも美しい、そんな戦いは長くは続くことはなく、お互いボロボロの体で荒い息をつき、操夜が片膝をつく。
「操夜、先輩」
ヒナもまた荒い息のままに片膝をつく。
私を見捨てないで。私から離れないで。それがだめなら、せめて私を連れて行って。
そんな自覚した想いを口に出せていたら、何かが変わっていただろうか。息を整えて何かを口にするだけの機会を、ヒナは与えられなかった。
「これが最後かもしれないなら…こうしてヒナと踊れてよかった。眠れる主のためばかりじゃない…それに…踊るのは本能かもしれないけど…歌うのはそうじゃないんだ。世界が無価値でも…人は望むとおりに生きればいい……だから…今くらいは」
ほぼ相打ちに近い状況でも、確かに自身の敗北を認識した操夜は、どこか満足げな様子で言葉を紡ぎ続ける。まるで今にも死にゆく人が最後の言葉を残すかのように。
「光は歌う、人の枠組みの中で
炎は踊る、人の社会の見上げる先で
なぜ人はむなしい努力を続けるのだろうか
なぜ私は無価値な努力を続けるのだろうか」
遠星操夜が歌うその声は、おぞましいほどに美しかった。この歌を聴くあらゆる生き物が、神秘が、物語が、世界が、何もかもを忘れて聞き惚れる。キヴォトスの時間が流れることを放棄して外との時差が生じ、空間がゆがみ音と光が乱反射した。
人の精神を壊し、正気を奪い、神秘を反転させてしまいそうな歌が響く最中、遠くで巨大な緑色の火柱が空高く立ち昇った。遠くからでもわかるほどに巨大な炎の柱は、その巨大さとは裏腹に静かで音もなく、まるで幻のようだった。六本の炎柱が二人のいる噴水広場を中心に囲むように生まれ、中心点たる二人のはるか上空には強く輝く星が生まれた。
その炎を目撃した生徒は、誰もがすぐに目をそらし、二度と見ようとはしなかった。それが見てはならないものだということを、彼女たちは本能的に察していたからだ。
もしその炎をゲマトリアの面々が目撃したならば、視線をくぎ付けにされたことだろう。その炎はどこか彼らの宿敵を彷彿とさせるものだったから。
「しゃがみ見下ろさねば見つけることも叶いはしない
嗚呼、我が足元に生まれた美しくも儚き光よ!
定められることなく在りし日を、暖かく照らし出してくれる」
そして上空の星からは立ち上った六本の火柱とは逆に、滝のように業火が落ちてきた。壊れた噴水の近くで膝をつく、遠星操夜の元に。
「操夜先輩!!」
ヒナはとっさに駆け出そうとするが、足がもつれてしまう。すでにダメージは限界を超えていたのだから、自然なことだった。
そうする間に青い業火は操夜を飲み込み、静かにまき起こった暴風でヒナの小さな体は吹き飛ばされる。暴風が止むまでの間、ヒナは途中に引っかかった段差に必死にしがみついて耐えた。気力を振り絞り、痛みを無視して立ち上がったころには炎は幻の如く消え去っていて、地面は融解したのかえぐれて固まっていた。
そして遠星操夜の姿はどこにもなく、服の切れ端と愛銃である「
超巨大学園都市キヴォトスってたぶん平行世界では結構滅んでますよね。