微糖…かな?
脳内を
車や人を跳ね飛ばしながら爆走する緑色の戦車の存在を聞いたのは、昼過ぎ十五時頃だった。私と操夜先輩を含めた四人が風紀委員長室のソファーでくつろいでコーヒーを飲んでいたとき。
操夜先輩の改革前であれば、おそらくこんなのんびりできるような時間は取れなかったことだろう。この時間とコーヒーもまた操夜先輩が勝ち取った功績の一つだ。
「それじゃ、二番隊に任せるよ」
操夜先輩が電話で二番隊に対処を委任している。
ゲヘナにおいては事件が起こるのは日常茶飯事。大きな問題でなければ、操夜先輩が急いで対処しなければいけないようなことにはならない。今回の件も、毎日の業務の一つとして片づけられるはずだった。
「へえ、突破されたんだ。二番隊が二重の検問敷いてたけど」
もたらされたのは、こちらの敷いた検問が突破され、相手は依然として爆走中という報告だった。
というのも爆走する戦車といわれていたものはもはや戦車でもなんでもなく、何らかの兵器であるらしい。戦車以上の巨体であるにもかかわらず、そのシルエットはレーシングカーのような速度を出すことを想定した物だった。時速は百五十キロ近く出せることが確認され、それが高速道路に移ったことでいよいよ手が付けられなくなったらしい。
コーヒーを飲み干して作戦室に移動すると、丁度報告が入ったところだった。
「分かりました!犯人は指名手配犯、無限回転寿司戦隊・カイテンジャーです!」
カイテンジャーといえば、キヴォトスでもかなり有名な指名手配犯で、戦隊ヒーローのような恰好をした謎の犯罪者集団だ。となると今回暴れているこれもどこかから盗み出された戦術兵器だろうか。送られてきた写真を確認すると、戦車のようなハッチが左右に二か所あり、そこからカイテンジャーの四人が顔を出して銃撃を行っている。おそらくは最後の一人が運転しているのだろう。
現在は銃撃の届かない距離から車で追跡中とのこと。確かにこれを止めるのにはやり方を考える必要がありそうだ。
操夜先輩を見ると、相棒である私のような、付き合いの長い相手でないとわからない程度に小さく顔をしかめていることがわかった。
「どうしたの?」
「目的は何だろうなと思ってさ」
それを聞いて私は小さく首をかしげる。目的を気にすること自体が少ないからだ。なにせこのゲヘナにおいては個々人が好き勝手に騒ぎを起こすし、きわめてくだらない理由や単に暴れたいだけで問題を起こすものがいくらでもいる。
「ゲヘナ生なら気にしないけど…カイテンジャーはゲヘナ生じゃないだろ?」
言われてハッとする。確かに操夜先輩の言う通り、カイテンジャーは謎の勢力であり、特にゲヘナに所縁があるという情報もない。とはいえゲヘナが突き抜けているだけで、ゲヘナ意外にも無秩序な問題行動を起こすものはいくらでもいるけれど。
「まー、さっさと止めたほうがいいのは確かか。…副長、一応情報収集の手配を。ヒナ、行こうか」
「分かった」
やった、操夜先輩とコンビだ!……じゃなくて、気を引き締めていこう。
二番隊を最低限の偵察班を残して撤退させ、私たちはヘリで現地に向かう。ちなみにミサイルなどは搭載していない輸送ヘリだ。この手の高価な兵器を消耗しかねない運用は操夜先輩が嫌うため、大抵安全圏でしか使われない。攻撃ヘリなどは人員が足らず使わざるを得ないとき以外は基本お留守番だ。まあ生徒の方が丈夫だし金がかからないので、さもありなん。
そうこうしているうちに爆走兵器の最高速度が二百キロ近くまで更新されており、追いつくだけで一苦労。
「攻撃はヒナに任せる」
「任せて、操夜先輩。守りはお願いね」
「おーとも」
作戦は単純、ヘリで追いかけながら私の遠距離射撃で足を止める、もしくは減速させる。足止めさえできれば撃破自体は問題なく可能だろう。
相手からの反撃を避けるためにヘリはある程度の距離を維持、ミサイルなどの攻撃は操夜先輩が撃墜する。操夜先輩が守りに着く以上、このヘリは"安全圏"だ。
全速力で飛ぶヘリの中で、ちらりと隣に座る操夜先輩の顔を覗き見ると、空から見るゲヘナの光景を楽しんでいるようだった。こんな時でも普段通りの操夜先輩を見て、なんだか不思議な気持ちになる。幸せというわけではないけれど、それに近い感情。
「目標付近まで到達!準備をお願いします!」
パイロットの無線を受けて、私達は立ち上がる。高速道路の両脇にはいくつもビルが立ち並んでいるため、私たちは後方から追いかける形だ。開いた右側の扉から銃を構え、しっかりと体を固定する。
銃撃開始。ヘリのやかましい音に負けないくらいの銃声で、毎分千発以上の弾丸を敵戦車に浴びせかける。するとハッチを開けて出てきたグリーンが持っていたのは、まさかの最新型地対空ミサイル。キヴォトスでも有名な指名手配犯とはいえ、一体何を考えてそんなものを持ち込んだのか。
「丁度良い獲物だな」
発射された地対空ミサイルを、操夜先輩が鼻歌交じりに弾丸一発で撃墜する。撃ったグリーンの驚く様子が、この距離かつ仮面越しでも分かった。どう?操夜先輩はすごいでしょう!
しかし私の銃撃はある程度は命中するものの、敵戦車に堪えた様子はない。タイヤまでがっちり装甲に覆われており、見たこともなければ戦車と呼ぶべきなのかも分からない謎兵器が相手のため、有効な攻撃箇所が不明な状況。
それに一番大きな問題は、やはり時速百五十キロ前後で移動するヘリの中から、同じ速度で走る戦車を銃撃するのがかなり困難なことだ。時折吹くビル風のせいで姿勢が安定しないし、距離もだいぶ開いている。
ミサイルの類や最悪スナイパーライフルの狙撃であっても操夜先輩なら迎撃可能だけど、普通に銃撃されたら対処が難しい。このヘリがそうすぐには落ちないだろうけど、相手は有名な指名手配犯、長くはもたないと考えるべき。
「目標、増速中!時速…二百二十キロ!!」
「はっや。どう考えても戦車じゃないな、これ」
「ほんとね。どこから持ってきたのやら」
カイテンジャーも地対空ミサイルやライフルで攻撃してくるが、すべてあたらないか操夜先輩に迎撃されている。
「ビル数減少、もう少しで横から攻撃可能です」
「よし、じゃあ左から攻めようか。ヒナ、そっちいくな」
敵車両に目を向けているためにわからないけど、後ろで操夜先輩が何やらがさごそしてから、私の胴に左腕を回してグッと力を入れた。
「せ、先輩!?」
「こうすれば撃ちやすいだろ?」
確かに自分がヘリから振り落とされないように、姿勢制御に結構力を使っている。だから支えてもらえればそれだけ銃撃に集中できる。
けれどこれは、これはまさに!まさに合体!!!一つの砲身に力を合わせた合体技!一心同体!!
(声にならない心の叫び)。
操夜先輩の腕が私を支えている!決して放さないようにがっちりと!!完全に拘束されている!!私はこれをなんと言い表せばいいの?甘美?悦楽!?溶ける、私が溶けてしまう!!操夜先輩が私を私をわた
「気張っていこうか!」
「ええ!」
操夜先輩の声とともにスッと心が落ち着き、景色の流れがゆっくりと減速していく。操夜先輩と合体した私の弾丸の威力は少なく見積もっても二百五十パーセント増し。後部車輪を撃ち抜かれた爆走兵器はスリップしながら跳ね上がり、高速道路から壁を突き破って落ちて爆発した。
カイテンジャーとかいうどんな謎兵器を出してきても全く違和感ない色物。
いろいろ予定外があったけど作者は書いていて楽しかったのでヨシ!
ちなみに基本的に平日の投稿はないです…今回は予定外。