知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結) 作:月光好き
難産、圧倒的難産……!
普段の倍近い文字数となってしまいましたが、話の収まりがいいのでこのまま投稿。盛れるだけ盛ったらこうなっちゃった。
「まず最初に言っておく。クヴァールを倒そうとは思うな」
時間は少しさかのぼり、二手に分かれる前。
最深部手前の広間で短い話し合いをする中、デンケンはそう切り出した。
「奴は魔王がいた時代……つまりは今よりも魔法使いが大勢いた時代に、戦った相手を全て殺してきた魔族だ」
「……僅かでも隙を見せれば、逃さず突いてくるでしょうな」
「その前提で動いた方がいい。そして一度でも状況が入り乱れた場合、単独で動く奴の方が優位に立ってしまう。……それだけは避けねばならん」
その言葉にドゥンストは賛同する。
年を重ねている自分達は、魔王がいた時代の名残を他の受験者より知っている。
だからこそ、クヴァールへの警戒は人一倍高かった。
そしてその内容にはデンケンも同意している。
最悪の一手、それは状況をかき乱されてこちらの連携を崩されることだ。
そうなると地力が勝負を分けることになり、こちらに死者が出る可能性が一気に跳ね上がるだろう。
「故にフリーレン。現状とこれから話す内容は、
「わかった」
「随分と悲観的だな、デンケン。宮廷魔法使いのお前でも流石に怖いのか?」
「……舐めるなよ、リヒター」
いつにも増して慎重なデンケンの様子を見て、リヒターがそう声をかける。
それを聞いた彼はやれやれと一息つき、全員を見渡して口を開いた。
「確かに全盛のクヴァールに勝つ方法は思いつかん。……だが今の奴に負けない方法ならば、いくらでもある」
「始めるぞ……!」
デンケンの言葉を皮切りに、全員で一般攻撃魔法を放つ。
それを見たクヴァールは防御魔法を展開して対処。
しかし連続して放たれ続ける一般攻撃魔法に集中しているのか、反撃をする様子は見えない。
その様子を見たデンケンはリヒターとラヴィーネに合図を送る。
すぐさま二人は魔法を中断。
リヒターは地面に手を突き、ラヴィーネは杖先を地面に向ける。
「
「
ラヴィーネの魔法が地面を凍らせながらクヴァールの複製体に迫り、リヒターの魔法による土塊が奴の防御魔法を破損させる。
このままでは氷が自身に届く。故にクヴァールの複製体は飛行魔法で上昇して回避しようとする。
しかしそれを見ていたリヒターが対処。床自体を上昇させながら奴の足元に絡ませ、そのままラヴィーネによって全身を凍らせることに成功した。
「よし、捕まえた!」
「攻めたてろ!」
そう言いつつデンケンは光の矢を、反対側にいるドゥンストとカンネは一般攻撃魔法を浴びせるために放つ。
だがクヴァールの複製体はその状態のまま防御魔法を再展開。
リヒターが再び破壊しようと土塊を操作するが、奴の周囲に漆黒の光が複数煌めくのを見て舌打ちをした。
【
「この状態から反撃するのか……!」
迫りくる土塊を、複数の
そのまま足元に繋がる床も爆破し、氷を砕いて自由になる。
そして防御魔法を展開したまま、周囲を一斉に迎撃するために多数の光を周囲に煌めかせた。
「通常の
デンケンは即座に種類を見抜き、指示を飛ばす。
それを聞いたカンネとラヴィーネは近くにいるリヒター、ドゥンストをそれぞれ守るように防御魔法を展開する。そしてデンケンは軌道を先読みし、飛行魔法で回避をしながら光の矢を再生成した。
防御を任せたことで、リヒターとドゥンストは攻撃を継続できる。
デンケンも含めた三人の包囲攻撃により、クヴァールの複製体は全面攻撃を中断せざるを得なくなる。
とは言えクヴァールの複製体は防御魔法で一般攻撃魔法と
さらにその合間に
「ッ、防げてはいるけど……!」
「なんつー圧……!」
迫りくる
戦況はややデンケン達に優位に見える。
しかしこちらの攻撃は有効打にならず、防いでいるカンネ達は集中してやっとの状態なのが現実だった。
「……あまり長くはもたんな。頼んだぞ、二人共」
(――この隙も駄目。認識はできたけど、私ではまだ間に合わない)
何度目かの攻防。
フリーレンとその複製体が魔法をぶつけあっていく中、フェルンは隙を見つけて奇襲を加え、再び隠れることを繰り返していた。
最初に一撃加えられればそのまま力押しできたのかもしれないが、それはもう過ぎた話。
フリーレンの複製体はフェルンの奇襲を常に意識しており、魔法を使う際に生まれる隙もさらに少なくなっているのを感じ取れた。
「これでも駄目か。なら…………」
フリーレンはそう呟き、作戦の方向性を変えることを決める。
今の隙ではフェルンには少なすぎる。それならば、より大きな隙が生まれるように誘導すればいい。
どうにも胸騒ぎがするため、長引かせるのは避けるべきだ。
そう判断したフリーレンは杖を構えなおし、自身の複製体との戦闘を再開した。
【
「来るぞリヒター!」
「ッ!」
もう何度目だろうか、クヴァールの複製体の周囲が煌めく。
しかし今までとは違い、直ぐにそれは発射されない。
それはつまり今までとは違って溜めが必要という事であり、それを防御魔法で防ぎ続けるのは難しいという事だ。
そしてデンケンの指示を聞いたリヒターはすぐに地面を操作。全員の正面に土壁を形成し、クヴァールの複製体の視界を遮る。
直後に発射される圧縮派生の
「聞いていたよりも速いな!」
「とは言え軌道は単調、あれ以外は防御魔法で防げることも確認できましたぞ!」
「このまま行くぞ。リヒター、ラヴィーネ、もう一度だ」
「わかった!」
「あぁ」
再びクヴァールの複製体を拘束しようとリヒターとラヴィーネが魔法を発動する。
しかし行動を察知していたクヴァールは、爆発付与の
視界は煙で覆われ、その中に突っ込んでいった氷が奴をとらえたのかはわからない。しかしそんな都合のいいことは起きないだろうと、この場にいる全員が薄っすらと察していた。
そして答え合わせをするかのように、煙の中で大量の光が煌めく。
魔族は杖などの触媒がいらず、奴は周囲の空間から魔法を発動できる。
故に今迎撃しても中断できるか怪しい。そんな危ない橋を渡る理由はデンケンにはなかった。
「回避だ!」
指示を聞き、全員が別々の方向に飛び出す。
直後いくつもの
それは柱を貫通せず、様々なタイミングで全員に狙いを定めて襲い掛かった。
「もう対応したか……!」
それが追尾派生だと気づき、全員が回避を諦めて防御魔法で防ぐ。
しかしどの方向から来るか判別できず、何名かは防御魔法を全面展開するために足を止めてしまう。そしてその隙を、奴が見逃すわけがない。
煙の中から姿を現したと同時。
クヴァールの複製体は既に溜め終えた圧縮付与の
「カンネ!」
「ッ、やば……!」
狙いが散らばることはなく、一人に集中。
偶々距離が近かったカンネへと殺到し――――
「
――この場にたどり着いたラオフェンが魔法を即座に使用。
高速で移動しカンネの手を掴み、共に脱出した。
「ラオフェンか!」
「言われた通り、メトーデさんの複製体は倒したよ。……あと、私だけじゃない」
ラオフェンはデンケンにそう返しつつ、煙の中から姿を現すクヴァールの複製体を見据えて杖を構える。
その様子を見て反応したのか、再び奴の周囲が煌めく。
しかし背後に魔力を感知し、正面を見ながら
それを察知したクヴァールの複製体は振り向きながら防御魔法で防ぎ、これにより追撃が完全に途絶える。
視線の先に立っているメトーデは視線を奴から逸らさず、デンケン達に向かって口を開く。
「間に合ったようですね。デンケンさん、どうしますか?」
「メトーデか。……手数は増えたが、目的は変えん。押し込んで動きを抑え込む」
「うん!」
「わかりました」
デンケン達は反対側にいるメトーデと同時に一般攻撃魔法を放ち、再び包囲攻撃による防御魔法の強要を行う。
挟撃によってクヴァールの複製体は動きが止まり、上空へ跳んだラオフェンが杖を伸ばして強烈な一撃を上から叩きつけた。
それをクヴァールの複製体は受け止めたが、勢いに負けて地面に激突する。
その隙を見逃さずにラヴィーネとリヒターは魔法を発動。防御魔法を破壊しながら再び全身を氷で拘束した。
「逃すな!」
手が空いている五人は同時に魔法を発動。
全方向から一斉に一般攻撃魔法が迫り、着弾と同時に大きな爆発を引き起こした。
「…………」
煙の中の動きを見逃さないよう警戒しつつ、デンケンは眉を顰める。
それは疑念、今この状況に対する疑問だった。
(……妙だ、
負けない作戦を立てたとは言え、現状は想定よりはるかに良い。
元々五人でやる予定だった行動も、ラオフェンとメトーデが合流したことでかなり楽になった。
しかしこれは想定しておらず、何故なら複製体の対処にはもっと時間がかかると思っていたからだ。
「メトーデ、他の複製体はあと何体いる?」
「ここに来る前に確認した時は最深部のフリーレンさんと、ここのクヴァールだけでした。道中であなたの複製体が倒されていたので、残るはその二体だけかと」
「……一度倒した複製体、その再生成は確認したか?」
「いいえ。都度魔力探知をしていますが、一度倒した複製体は復活していません。……とは言え、ゼンゼさんとフェルンさんという例外があるかもしれませんが」
「……やはり妙だ」
メトーデとの会話を終え、デンケンはそう結論付ける。
推定十五人、それが現在この迷宮にいる魔法使いの数だ。
以前にはこの規模を超える調査団が派遣されており、
単純に考えて十四人分、そのリソースが果たして今のクヴァールに注ぎ込まれているのか?
いくら半端な複製体とは言っても。
いくら思考を再現するためにリソースが必要だと言っても。
余りにも見合った強さとは思えない。
これならば、他の複製体を出した方が状況は好転しやすいはずだ。
ではなぜそれをしないのか?
先程までの攻防、常にこちらが先手をとっていたのは何故か?
本当に今のクヴァールに、残ったリソースの全てが使われているのか?
もしも、それ以外のことにリソースを回しているのだとしたら――――?
あぁ、間に合った。
「……なにこれ、蝶?」
僅かだが、ようやく理解することができた。
「この魔力は……!?」
「ッ……しまった。奴の目的は、儂等と同じか!」
さぁ、始めよう。
【疑似再現ー
――煙の中から、漆黒の光が煌めく。
いや、それだけではない。
周囲に突如として現れた蝶。
そのすべての個体が、身体の中心から同じ色の光を放ち始めている。
「防御だ!」
デンケンはそう全体に指示を出しつつ、自身も防御魔法を全面に展開する。
どこから来るか。
どの部分に展開すれば消費を抑えることができるか。
そんなことを考えている場合ではない。
部屋全体を飛び回る蝶の群れ。その全てが、奴が魔法を放つための触媒であることに気づいてしまったのだから。
【
そして予想は無情にも的中し、その全てから漆黒の光線が放たれる。
それは部屋全体を覆いつくすほどの密度でデンケン達の防御魔法に次々着弾し、大きな衝撃を与えていく。
「っぐ、あぁ……!」
「まずい……デンケン!」
「やるしかないか……!」
リヒターは声をかけつつ、魔法を発動させる。そして答えたデンケンの周囲を大地が包みこみ、
これにより防御範囲が狭まったことで攻撃の余裕が生まれ、デンケンは一般攻撃魔法をクヴァールの複製体に向けて放つ。
その様子を奴は認識していたが、何も行動は起こそうとはせず。
その全てが着弾しようと迫り――――
「え」
――当たる直前。クヴァールの複製体は姿を消した。
誰もいない空間に、一般攻撃魔法が着弾する。
そしてそれを認識すると同時に、カンネの背後で大きな音が響いた。
その音を聞いたカンネは、防御魔法を維持しながら仲間の様子を確認するため振り返る。
「……え?」
視線の先。
本来いるはずの友の姿はなく、代わりにクヴァールの複製体が立っていた。
奴は右腕を横に向けており、それはまるで大きく払いのけた後のようで。
――奴の右腕が向いている先。
壁には大きな罅が入っており、その中心にラヴィーネはいた。
「あ、あぁ……!」
杖は粉々に砕かれ、髪が前に垂れていてその表情は見えない。
しかし、それでもわかることはある。
彼女はもう、戦えない状態であるということだ。
「ラヴィーネ!!」
「
カンネの叫び声が響く中、デンケンは即座に行動を開始する。
光の矢が怒涛の勢いで放たれ、クヴァールの複製体は飛行魔法で回避する。それを見たデンケンも飛行魔法を使い、回避しながら一般攻撃魔法も交えつつ猛攻を始めた。
だがそんな状況の中、再び周囲が漆黒に煌めく。
そして今度はクヴァール自身は指先を向けて魔法を放つ準備を始める。その狙いの先を、もう戦えない彼女に向けて。
「ラオフェン!」
「ッ、わかった!」
その様子を見たリヒターがラオフェンに指示を出し、大地を操作して土壁を何重にも生成する。
そして放たれた
しかしその稼いだ時間でラオフェンがギリギリ間に合い、ラヴィーネを回収してリヒターの傍に移動した。
「ラヴィーネ、ねえラヴィーネ!!」
「落ち着け!……ラオフェン、様子は?」
「大丈夫、生きてるよ。でも、気を失ってるからゴーレムが……」
「ッ……!」
カンネは取り乱してラヴィーネの体を揺らそうとするが、リヒターがそれを抑える。
そしてラオフェンに状況を聞いたが、最悪ではないが十分に悪い返事を聞いてしまう。
脱出用のゴーレムは割った人間を連れて脱出する、ゼンゼはそう説明していた。
つまり他の人間がラヴィーネの瓶を割った所で、気絶している彼女を運んでくれるか不明なのだ。これでは危なくなったら即座に脱出用ゴーレムを使用するという事前の取り決めも無意味になってしまう。
(どうする、見捨てるか?)
リヒターの脳内に冷徹な選択肢が浮かぶ。
見捨てない場合、自分たちは気絶しているラヴィーネが起きるまで守りながら戦う羽目になる。
先程の行動からクヴァールの複製体はこちらの選択肢を狭めるため、積極的に狙ってくるだろう。荷物を抱えた状態で戦況を維持できるなんて楽観的な考えは、現状持てそうにない。
見捨てる場合、介抱しているカンネとラオフェンの二人を説得する必要が出てくる。
そのためには説得のため会話に思考を割く必要があり、これもまたクヴァールの複製体にとって隙となる。さらに説得できたとしても、動揺しているカンネが落ち着くまでは援護する必要があるだろう。
(どちらも厄介だな。生きているだけにどうするか……)
「リヒター!」
「ッ、しまった!」
残念なことに、正解はもうどちらでもない。
この状況で即座に判断を下せなかったこと。その時点でリヒターの先は潰えていたのだから。
デンケンの怒声を聞き、反射的に自身の周囲を土壁と防御魔法で覆う。
だがまず圧縮付与の
「リヒター!」
「来るな!」
土壁が崩れ、リヒターは膝をついて血を吐く。
一発一発は小さいが、いくつもの風穴を身体にあけられていた。
激痛で呻くリヒターを助けようとラオフェンが動きだそうとするが、それを彼は大声で止めて
地面からいくつもの土塊を放ち、クヴァールの複製体に回避を強要させる。さらにそのまま残った魔力を総動員し、大規模な土壁を自分たちの前方に生成した。
「大丈夫!?」
「……そう、見えるか?」
駆け寄るラオフェンにそう返しつつ、リヒターは自分の体調を冷静に判断する。
言葉にしたものの、その結論はすでに出ていた。だからこそ魔力切れ寸前になってでも時間稼ぎの土壁を生成したのだから。
「……引き際だな。二人共、ラヴィーネを置いてデンケンを手伝え」
「え?」
「俺が二人分纏めて割る。いくつか試すが、最悪こいつを浮かせた状態で運んでもらうさ」
「で、でも……!」
「いいから行け。……このままじゃ、他の連中も死ぬぞ」
「ッ……わかった」
「……お願い、ラヴィーネを死なせないで!」
リヒターの迫真に迫る言葉を聞き、カンネとラオフェンはそれ以上反論することができずに承諾する。
そして走り出した二人を見送り、傍で倒れているラヴィーネの懐から瓶を取り出す。
血の付いたそれを眺めながら自分の瓶も取り出し、取り合えずの手段としてラヴィーネの手を取って瓶を握らせた。
(あそこで判断が遅れた時点で、俺に勝ち目はなかった。……ここで生き残っても、次で落ちるのが関の山だな)
「ぁ……ぅ……」
(だからしょうがない。……試験は三年後にもある、ただでは終わらないさ)
一瞬目覚めるかと思ったが、流石に待っているわけにもいかないだろう。
今回の結果をそうまとめつつ、リヒターは二つの瓶を同時に割った。
「間に合わなかったか……!」
部屋を出る二体のゴーレムを横目で捉え、デンケンは先程の結末を悟る。
あの一瞬。突如現れた蝶に周囲が気を取られたあの一瞬で戦況は乱され、立て直すまでのわずかな間に二人持っていかれた。
(先程の高速移動、まるでラオフェンの
先程、クヴァールの複製体が行った高速移動。瞬間移動の類かと感じたが、僅かながら奴の魔力が移動した痕跡があった。
ただしそれは直線ではなく、自分たちの合間を縫ってラヴィーネの背後を位置取る稲妻のような軌道。
そして考える内に魔法に特性を追加する魔法の存在を思い出し、結論は出る。
(信じ難いが、あれは
正体を見破ったとはいえ、信じられないことでもある。
あらかじめ軌道が決まっている代わりに、途中で制御を失うことはない。だがしかし、その速度はあくまで飛行魔法を使った際と同じになるはずだ。
(それはつまり、あ奴はやろうと思えば通常の飛行魔法であの速度を出せるという事。どういうイメージをすればあの速度を出せるのか……いや、それを今考える必要はないな)
一先ず正体は知れた。
そこでデンケンは考察する思考を打ち切り、改めて状況を整理する。
相手の手札は
ただしそれらの練度は非常に高く、蝶を媒介とした遠距離発動と付与魔法による派生が可能になっていると考えるべきだ。
こちらで動けるのは自分を含めて五人。
増えた人数を一瞬で削られてしまった。さらにラヴィーネが重傷を負う様子を見てしまったことで、カンネはまだ動揺から抜けきっていない。ラオフェンはそこに関しては問題なさそうだが、クヴァールの複製体に対し恐れの感情を滲ませていた。
恐らくだが、今のクヴァールの複製体とやりあえるのは自分とメトーデだけだ。
ドゥンストは冷静ではいられるだろうが道中での負傷が痛い。治療を受けたとは言え、消耗している現状では単純な物量で押しつぶされてしまう可能性がある。
【
「ッ、ここが正念場か……!」
周囲から同時に魔力を感じ、デンケンは思考を回避することに集中させる。
次々と解放される漆黒の光。
弾幕のように放たれるそれを飛び回りながら回避し、回り込むように正面から来るものは防御魔法で防ぐ。途中地形を利用することで消費を抑え、飛び回るクヴァールの複製体へ一般攻撃魔法を放つ。
デンケンが空中戦をしている中、メトーデ達四人は地上から一般攻撃魔法で援護射撃を行う。
しかしそれはクヴァールの複製体の周囲を飛ぶ蝶から放たれる
「ッ、全部防がれている」
「あの蝶……魔法を使う際の触媒兼目印になっているようですね。通常の
「そうは言ったものの、数が数ですな……!」
「……ならば、全部吹き飛ばすまで」
彼等の会話を聞き、一番厄介なのはクヴァールの複製体の周囲に飛ぶ蝶だとデンケンは判断する。
今までの攻防から察するに、蝶の耐久性はそこまで高くない。
そこで防御魔法を解除し、隠れていた柱から飛び出して狙いを定める。
奴が
「
――なんだ?
何故儂は奴から視線を逸らしている?
鈍い衝撃を肩付近に感じて視線を向ける。身体に欠損はなく、血も出ていない。
だがしかし、問題はそこではない。
体勢を崩され、魔法が中断されてしまったことだ。
視線を戻す。
クヴァールの複製体が指先をこちらに向けており、周囲の蝶から漆黒の光が煌めいているのが見える。
魔力探知により、ラオフェンが急いで
……だが、恐らく間に合わないだろう。
(フリーレンが本体を殺す可能性は考えない方がいい。……まさか、こんな形で終わるとは)
クヴァールの複製体が何をしたのかはわからない。
ダメージを与えずに体勢を崩すほどの衝撃を与える魔法など、到底予測がつかない。
空中にいるのも今では悪手となってしまった。
たとえ瓶に伸ばす手が間に合ったとしても、落として割れるまでには時間がかかる。その前に奴の手によって屠られるのが先だ。
光が解放され、こちらに向けて発射される。
瞬く間にそれはこちらに届き、その威力を十分に発揮することになるだろう。
(だからと言って、諦めるわけにはいかん……!)
最後の瞬間まで諦めず、意地汚く抗う。
魔力を回し、目の前に迫る
「あ……え……?」
荒く息を吐きながら、ラオフェンは着地して手元を見る。
周囲の音が遠い。背後で響く爆発音ですら、やけに小さく感じていた。
無我夢中で伸ばした手。その先で確かに掴んだそれを確認したいが、最悪の光景が脳内に浮かんでしまう。
「……こ、れは?」
だがしかし、確かに聞こえた声。
幻聴ではないと言い聞かせ、ラオフェンは目を向けた。
「じい、さん……」
「儂は……生きているのか?」
「間に合ったの……?」
デンケンの防御魔法が奇跡的に間に合ったのだろうか。
そう思い、ラオフェンは振り返る。
視線の先の煙が徐々に晴れ、その隙間から防御魔法の光が見えていた。
「……ねぇ、聞いていた状況よりだいぶ悪くない?」
防御魔法の内部。
クヴァールの複製体と相対した状態で、ラントは眼鏡を直しながらそう呟いた。
※後半のクヴァール……記憶の中にある戦い方をより精密に再現し、魔法をゾルトラークで代用している状態。イメージとしてはパルスアーマーを纏ったルビコニアンデスキュベレイ。つまりヤバい。
感想、評価共にありがとうございます。
誤字報告も感謝です。いつも非常に助かっております。
今回は文章量が多く、戦闘描写がぎっちり詰まることに。
頭の中のイメージがうまく伝わっていれば嬉しいのですが……。
そしてようやく終盤です。
主に仕事が忙しく投稿間隔が開きがちになってしまい申し訳ない。アニメも完結したことですし、今週末でまとめたいところですね。
ではまた、次話でお会いしましょう。