知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結) 作:月光好き
【11】
この数字、なんだと思います?
正解はね……3度見直して確認した前話に届いた誤字報告の数でした。
本当にすみません、いつもマジで助かってます(土下座)。
「……これでもダメか」
何度目かの魔法の攻防。
攻撃する瞬間に生まれる隙を狙ってフェルンが不意打ちをする。その方針に変更はないが、こちらが余裕を持って攻撃する限りは相手も余裕を持って対処するだけのようだ。
(ただでさえ今のフェルンじゃ気づきにくいのに、向こうの攻め気が少ないせいで本当に隙が少なくなっている)
多少の無理でもダメだというのなら、多大な無理をしてでも大きな隙を作るしかない。
そう判断したフリーレンは手元に手提げ袋を取り出し、腰にぶら下げた状態で地上に降り立つ。
(どうにも向こうの攻め気が少ない。……つまり、このままだとあいつにとって都合が良くなるということかな)
敵の目的はおそらく時間稼ぎ。
それは詰まる所、向こう側の戦況を暗に示していた。
「……さて」
早急に決着をつける必要があるが、相手からそれを狙う気配はない。
だからこそ、こちらから動かす。
フリーレンは杖を両手に構え、大きく魔力を迸らせる。それに対して複製体も同じく大規模な魔法を準備し始めた。
必要なのは、威力。
精密性などいらず、ただ目の前の敵を屠る一撃。
複製体が使うのは恐らく、防御魔法では防ぎきれない魔法だ。
フリーレンもこの状態ならそれを使う。フェルンの奇襲を狙うためなら、防御に集中しつつわざと隙を晒すのもいいだろう。
だけど、それじゃダメだ。
現状だとフェルンが付け入る隙を作れないかもしれない。
他に気を回す暇など与えず、こちらの撃破に集中するしかないほどの一撃。
それによって、無理やりにでも隙をこじ開ける。
(……あんまりやりたくないんだけど)
ならば、それならば。
魔法がぶつかり合うことを前提として選択するのならば。
【
明瞭単純な構築であるが故に、他の魔法に比べて発動までの待機時間が短く。
専用対策ともいえる防御魔法か同系統の魔法でないと拮抗できないほどの術式強度をもつ。
彼女自身が主力魔法として改造するために研究した、
「
感じとったのは、大きな魔力のぶつかり合い。
今までの様子見ではなく、この一手で上回った方がそのまま勝敗を決定づけるであろう程、強大な奔流。
そしてそれこそが、彼らが待ち望んでいた瞬間だった。
「シャルフさん!」
「
絶対に見逃すまいと意識を張り詰めていたメトーデは即座に判断し、大声で合図を出す。
そしてそれを受けたシャルフもまたここですべてを使い切る勢いで魔力を込め、最大規模で魔法を発動させる。
大量の花弁が発生し、鋼鉄へと変化しながら部屋中に吹き荒れる。
密度は少なめだが範囲は部屋全体を覆うほど広く、その狙いをクヴァールの複製体は即座に感じ取った。
(……なるほど。確かに蝶自体の耐久性は著しく低い、花弁一つで何匹も破壊することができる)
(これで少なくとも彼が魔法を使っている間、僕たちは目の前のあいつだけに集中できる)
「シャルフの奴、大分無茶してやがるな。……おい、ありゃもって数分だ。さっさとケリつけんぞ!」
同じく状況を察したラント達三人は即座に反撃に移る。
一斉に一般攻撃魔法を発射し、クヴァールの複製体は防御魔法を展開して防ぐ。
そして他からの追撃が来る前に背後に巨大な魔法陣を展開。圧縮された
彼らが分散したのを確認し、クヴァールの複製体は明確にヴィアベルを見据える。
自身の周囲にのみ蝶を展開し、一気に接近を試みた。
「させないよ」
しかし、それを見たラントが併走しながら一般攻撃魔法を放って牽制する。
クヴァールの複製体は回避しつつ反撃を行おうとするが、反対側からも一般攻撃魔法が迫ってきたため中断し、防御魔法を展開する。
反撃のために蝶を媒介にした
(そうだ。周囲を飛んでいる蝶、奴はそれらをすべて迎撃に回すことはできない)
現状、クヴァールの複製体は三方向から囲まれている。
正面にはラントとヴィアベル。
背後にはデンケン。
そして地上からはメトーデとエーレ。
カンネとドゥンストは二人がかりで防御魔法を展開してシャルフを護衛しており、さらにはその中でいつでも魔法を使って退避できるようラオフェンが待機。
無理をして攻撃をしたところで無駄な状況を作り上げ、蝶を利用した広範囲の迎撃を封じ切った。
更にクヴァールの複製体にとって、目下の一番の脅威はヴィアベルだ。
彼はラントの少し後方で待機しており、一瞬でも全身を晒してしまえば即座に拘束される。
故にクヴァールの複製体は現在攻め手を失い、状況を維持することしかできなくなっていた。
「畳み掛けろ!」
とはいえ、制限がかけられているのは受験者陣営も同じこと。
シャルフの魔力が切れる前にクヴァールの複製体の防御を崩し、
この機を逃すまいと攻撃できる面子が一斉に攻撃魔法を放つ。
それらが迫り来る中、クヴァールの複製体は防御魔法を選択肢から外していた。
防御ではなく、回避。
ヴィアベルの視界に収まらない方法で回避し、一気に距離を詰める。
「回避だ!」
その兆候を察したデンケンが声を上げると同時に複製体が姿を消す。
目にもとまらぬ速度でラントの横を通り過ぎ、ヴィアベルに接近しようとしていた。
「させないって」
瞬間、クヴァールの複製体に衝撃が走る。
体が思うように動かず、体勢が崩れたことで飛行魔法も解除。床を転がりながら側面の壁に衝突し、騒音と土煙を上げた。
そして今の一瞬を、ヴィアベルだけが理解した。
ラントはクヴァールの複製体が魔法を発動させたのと同時に電気属性の魔法を発動。
それは彼の背後で円状の軌道を高速で描き、そこに当たったことで制御を失っていたのだ。
(性質は触れた相手を痺れさせる妨害系の魔法。あいつはそれをあの軌道で打つことで、一瞬だけ網として機能させやがった!)
「生憎だけど、その魔法のことは僕も知っているんだ」
その弱点もね。そう呟きながら崩れていく壁を見るラント。
予め軌道が定まっているということは、途中では変えられないということ。
クヴァールの複製体の移動ルートをいくつか予測し、全体をカバーできるように罠を張っておけば勝手に相手から当たってくれるという寸法だったのだ。
あの巨体に対して当たったのはほんの一瞬。
僅かな間しか麻痺させられないが、体勢を崩して制御を失わせるのには充分だった。
――そしてそのことを、土煙の中でクヴァールの複製体も察していた。
これで飛行魔法による急接近も使えなくなった。少しずつだが、確実に追い詰められているのを感じ取る。
あの不利な部屋にわざわざ戻るべきかと思考した直後、魔力探知の網を広げたことでそれに気づく。
そして即座に判断。
穴の中から
受験者たちが各々対処したのを確認しつつ、入ってきたのとは違う壁に向けて
「なにをして……?」
「ッ、いかん!」
一見意味不明にも見えるこの行動だが、デンケンが即座に気づく。
あの移動ルート。
この部屋を中心として側方から後方の広間に向かっているのは、そこに
ラントとヴィアベルが追いかけるようにクヴァールの複製体が入っていった空間に飛び込むが、そこにある複数の魔法陣を見てラントは即座に前に出て防御魔法を展開する。
しかし最初に放たれたのは圧縮された
「クソッ!」
防御魔法が解除され、中から重傷のラントが落ちていく。
しかしその体が崩れていくことから、ヴィアベルは分身であると判断。追撃を続けようとするが、爆発付与の
そしてデンケンたちのいる部屋にも
その状況を後方から聞こえてくる音で確認しつつ、クヴァールの複製体は突き進む。
そして
――見つけた。
そこにいた青年。先ほどまで戦っていた彼とは別だが同じ存在。
今思えば、自分の行動を先読みして対処してきたこと。そのすべては彼が発端だ。
彼がいる限り、こちらの攻め手が性能を発揮することは考えにくいだろう。
そして分身魔法によって本体は安全な場所に隠れつつ、積極的な妨害行動を行える。
しかしそれは逆に言うと奇襲を受けたときに孤立してしまっているということ。
「――――ッ」
だからこそクヴァールの複製体が、この場でラントを狙うのは必然だったと言えるだろう。
「シャルフ!」
「この……ッ、しまった!?」
ヴィアベルの指示を聞いてシャルフも即座に行動に移すが、明らかにその動きは鈍い。
それもそのはず、先ほどまで限界を超えた範囲で魔法を使用し続けていたのだ。
細かい狙いをつける必要こそないものの、味方を避けながら増え続けていく蝶を片端から潰していく作業。
魔力はもちろんだが集中力が先に限界を迎えそうであり、クヴァールの複製体がいるであろう方向へと飛ばす鋼鉄の花弁は直線状だった。
そしてそこを狙われた。
先ほど天井に
「出入り口が!?」
「
さらに厄介なことに、その大きな瓦礫は受験者たちがいる部屋とラントがいる部屋をつなげる通路を塞いでしまう。
それを見たデンケンが光の矢を撃ち、他の者たちも一般攻撃魔法を放つ。
その規模は瓦礫程度なら砕け散らせることが容易な程だったが、突如として防御魔法が現れてその大部分を防いでしまった。
「な、誰が!?」
「決まってんだろうが!エーレ、手貸せ!」
「え!?あ、うん!」
ラントは視界の端でシャルフの魔法が解け、ただの花弁へと戻っていくのを見つめる。
「…………」
ここの構造上、あの塞がれた箇所以外からこの部屋に入るには大きく遠回りする必要がある。
地形すらも利用し、確実に1対1の状況を作り出してきた。
改めて敵の厄介さを認識しつつ、対処を開始。
ラントは先ほどまでの動きから狙いが自分だとわかっていたので、入ってくると同時に一般攻撃魔法で迎撃する。
しかしクヴァールの複製体はすでに準備を終えていた。
先ほど防御魔法を使用したのと同時に触媒の蝶を生み出しており、そこから
そしてそのまま魔法陣が展開し、数多の光線が彼に降り注ぐ。
防御魔法を全体展開して防ぐが、彼はこれが悪手であることを察していた。
「くっ……!」
全方向から襲い来る
かといって正面に対して防御魔法を集中させたり移動先だけあけて直撃を避けようとすれば、複雑な軌道で潜り抜けてくる飽和攻撃に削り取られる。
わかっていてもどうしようもない、単純だからこそ強力な攻撃方法だ。
「ッ!」
限界を迎え、遂に防御魔法に大きな穴があく。
その隙を逃すはずもなく、圧縮付与の
体を捻ることでなんとか致命傷だけは避けているものの、負っている傷は決して軽いものではない。
これ以上のダメージを避けるため、彼は防御魔法を前方に集中させながら移動しようとする。しかしクヴァールの複製体は飛行魔法を使う暇を与えないよう飽和攻撃を続けつつ、体勢を崩すために攻撃の一部を足元に向けた。
「これは……!」
足元が砕け、ラントは体勢を崩す。
その隙をクヴァールの複製体は決して逃さない。
接近しながら
「――――」
手が開かれ、黒い光が視界を包み出す。
その様子を見ながら、彼は未来が決定づけられたことを察して呟いた。
「……流石に、直接見ていない構造は把握していないようで良かったよ」
掌の光が徐々に弱まっていくのを感じる。
腕……いや、体が動かない。
思考能力に問題はないが、魔力操作もできなくなっている。
視界を動かす。
自身を二輪の光の輪が縛っている。
いつの間に?
そう考え、答えを探すために周囲を見渡す。
「
そこに、
本来ならありえない光景。
違う階層にいるはずの彼女と視線が合うはずはない。
だが、変化した状況がそれを可能としていた。
状況を把握したところで、すでに詰み。
クヴァールの複製体は、その場で跪くことしかできなかった。
「お前……最初からこれが狙いだったな?」
「まぁね。嘘は言ってないだろ?」
瓦礫をどかし、入ってきたヴィアベルに返答しながら立ち上がる。
追加でヴィアベルも
(あとは向こう次第。……何もなければいいけど)
「――隙だらけです」
土煙の中、フリーレンはフェルンの声を聞きながら無防備な自身の複製体に対して一般攻撃魔法を放つ。
先程の攻防。
先手を取ったことで相手に防御を強要しつつ、こちらが防御を捨てて攻撃しているのを感じ取らせた。
そこに追加して行った、魔石の無差別同時使用による一人時間差攻撃。
これらのお陰で敵の行動を攻撃を回避させ、無理に反撃する方向で誘導できたのだ。
これによって生まれた大きな隙。それを弟子のフェルンが見逃すはずもなく、致命傷になるまで手傷を負わせることに成功した。
最後に反撃を受けてしまっていたが、あれを使ったのは80年ぶりだ。それを引き出すほどの成長を見せた弟子を少し誇らしく思いつつ、こうしてとどめを刺すことに成功していた。
「よくやったね、フェルン。それじゃあ、さっさと終わらせ――――」
――それは、突如として受験者全員の頭に響き渡った。
なんてことのない単語。
それだけでは何の意味もないものであり、その声を聞いた半数は疑問を浮かべるだけにとどまる。
「「「「「――――ッ!!」」」」」
しかし、それに当てはまらない者は即座に行動を開始した。
「フリーレン様!!」
「急いで!」
フリーレンとフェルンは宝物庫に向かって移動しつつ、そこにいるであろう
「この声は……!?」
「無理やり詠唱してやがる……!魔力操作できない以上、それでできるのは自爆同然の暴発だぞ!?」
メトーデは声の正体を突き止め、ヴィアベルは状況を説明しながら杖を向ける。
「駄目だ、今すぐやつを殺せ!!」
そんな中、普通ではありえないほどの声量でデンケンが叫ぶ。
彼は感じ取ったのだ。
頭の中に響く声。
そこに込められた、尋常ではない量の敵意を。
それによって他の者達も状況に気づき、一斉に一般攻撃魔法を放つ。
それは着実にクヴァールの複製体にダメージを与えていくが、その体が崩れる程の致命傷は与えられていない。
「
「
追撃と言わんばかりにデンケンが光の矢を大量に放ち、滅多刺しにする。また拘束をやめたユーベルも魔法を使い、全身を切り刻んだ。
今すぐにでも崩れてしまいそうだ。
何もしなくてもあと数秒で崩れる、そんなことを確信させるほどの重傷だった。
しかし、それでも未だクヴァールの複製体は顕在していた。
(このままでは……いや、必ず殺し切る!!)
デンケンは自身の直感が発する警報に従い、攻撃を続ける。
だがそれを嘲笑うかのようにクヴァールの複製体は口角を上げ、口を開く。
「させるわけないだろう」
だが一瞬の間にラントが目の前に現れ、その口を手で塞ぐ。
そして躊躇うことなく左腕を介し、魔法を発動。
大きな音と共に白い光線が迸り、頭部を吹き飛ばした。
「…………は?」
――しかし、それでもその肉体が崩れ去ることはなく。
眼前に立ってしまったことで拘束を逃れたクヴァールの複製体はラントを蹴り飛ばし、跳躍して距離を取った。
時間がゆっくりと流れるのを感じる。
直感だがわかるのだ、
既に彼女たちの魔法がこちらに飛んできている。
それはもう間もなく無防備なこの身を消し飛ばし、この戦いの勝敗を決める。
だからこそ、少しでも多くの道連れを。
発動できればそれでいい。どうなろうとこちらの知ったことではない。
このダンジョンを起点に人類を呪う。
今まさに読み終わった、この魔法なら――――!!
――しかして、その願いは叶わず。
誰かしらの予想を全て外れ。
それは残った右手を自身の身体に向け、全身を包む程巨大な
(……ふむ)
もしものために全員を保護できるよう準備していた髪を戻しつつ、決着がついたことを確認する。
最終局面に対して色々と不可解な事があったが、目の前の彼らを見てそれをわざわざ口に出す必要もないと判断した。
これ以上の障害はなく、道も既にひらけている。
偶然だが最後の
全員が宝物庫にたどり着き、フリーレン達と合流する。
そしてこのダンジョン攻略が終わったことを伝えるため、改めて彼女たちの正面に立って口を開いた。
「君達は零落の王墓を攻略した」
「一級魔法使いに十分……いや、今回の内容を考えれば十二分に匹敵するほどの偉業と言っていいだろう」
「約束通り最深部にたどり着いた十二名全員を、第二次試験合格とする」
※おまけ:最終戦直後の一コマ
???&???「「もう……動けない……」」
????「ヴィアベル……おんぶしてくれ……」
????「(足をガクガクさせながら杖を杖として扱うことで耐えている)」
????「眼鏡君、おんぶしてあげようか?」
???「いや、大丈夫だよ(全身ズタボロ+片腕が大火傷を負った状態で壁に寄りかかりながら)」
ヴィアベル「」
その後、動ける面子でおんぶ(ラントは分身におんぶさせた)することで対処したそうな。
感想・評価共にありがとうございます。
やっと一段落したー!
プロットは前からできていたものの、文章に起こすのがまぁ難しい。とりあえずここまで書けたのでホッとしました。
と言うわけで二次試験編はあと1話で終わる予定です。考えていた設定云々の話はそこでしようかなーと思っています。
ではまた、次話でお会いしましょう。